1 / 19
プロローグ
しおりを挟む
私の住む東国は隣国の西国と領地や資源を巡って現在もなお争っています。
それでも私が住む田舎町は前線からかなり離れていて戦争の影響は殆どない安全な地域でした。
一生忘れはしない。
当時私はまだ6歳にも満たない子供だった。
[1912年6月]
「ちょっと待ってよー!」
「アンジェ早く早く! 鳥に食べられちゃうよー!」
青空の下を私は親友の背中を追いかけて走っていた。
丘の上へザクロ狩りに行こうと誘われたのだ。
丘に着くと早速シユは両手に溢れるほどザクロを摘んできて、一気に頬張った。
「いっはい、ひゃくろあっふぁね!」
「シユってばリスみたいだよ!」
「へへ、ザクロってルビーみたいでシユ好きなんだー! 味はちょっと酸っぱ過ぎるけどね!」
――それから、私達はザクロを食べた後、花摘みやかけっこをした。
そんなかけっこの最中。
「わぁっ!」
「シユ! 大丈夫?!」
前を走っていたシユが石につまづいて転んでしまった。
「いっだぁー、……派手にコケたなぁ、」
「待って! 今絆創膏貼るから! ……えっと、水、は水筒のでいっか」
シユは足を怪我したようだったけど、血は殆ど出ていなかったし重症ではないみたいだった。
まず水筒の水で泥を落とす。
それから絆創膏をバックから取り出し、シユの足に丁寧に貼った。
「うー、ありがとうアンジェ~」
「シユってば毎日走り回って傷作るから、絆創膏何時も持ち歩くようになっちゃった」
「アンジェはきっといいお医者さんになるね!」
「えぇーお医者さんになんてなれないよ! ……あ、でも、そういうお仕事はしたいなぁ」
シユは?と聞くとシユは満面の笑みでこう言った。
「勿論! 正義の味方!」
度肝を抜かれたというか。
鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしていたと思う。
「正義の、味方? ……軍人さんとかって事?」
「んー、そう! ものすごーく修行した最強の私が戦場に立って、沢山の仲間を助けるの!」
「で、でも危ないよ、シユにそんな危険な目にあって欲しくない」
「大丈夫! 私にはアンジェっていうつよーい回復屋さんが居るんだから! ……なんだっけ、えっと確かそういう人の事を、衛生兵っていうんだよ!」
衛生兵、聞いた事無い仕事、などと考えているとシユがキラキラした目で続けた。
「衛生兵ってね! 『ひせんとうよういん』って言って、敵から攻撃されないんだって! 怪我した人を治療して助ける! すっごいお仕事だよね! 攻撃されないならアンジェが傷つく事もないし!」
「そうなんだ……うん分かった私衛生兵になる!! それでシユちゃんが怪我してもすぐに治してあげる!」
「やったー! その為にはまずは修行だね!」
「修行?」
「そう! 私の家まで競争! よーいどん!!」
「ちょっと、待ってよ! シユ!」
シユは荷物も忘れて走り出してしまった。
私は慌ててシユの分の荷物も持って追いかける。
シユは元々足が速いのもあってかなり前を走っている。
競争は私の負けだろう。
その時。
黒い影がシユを掴んだ。
それは、見知らぬ男達だった。
「シユ……?」
余りにも突然で。
早すぎて。
何が起こったのか分からなくて。
シユが誘拐された。
という事実を理解した時には。
空が赤く、肌寒い風が吹き始めた頃だった。
伝えなくちゃ。
私は無我夢中でシユの家まで走った。
私とシユの家は隣同士で、家にはシユのママが居ると思ったから。
「シユちゃんママ!」
シユの家の前で叫ぶ。
家の中からシユのお母さんが出てきてくれた。
「あら、アンジェちゃんどうしたの? そんなに慌てて……シユは一緒じゃないの?」
「……シユが、シユがね、誰か、知らない大人に連れていかれちゃったの、それで、それで……」
シユのママに話してる途中なのに涙が溢れてくる。
シユが連れ去られた不安と怖さと。
自分が何もできなかった罪悪感。
今ここに自分が居る事への安心感でぐちゃぐちゃになった。
それから、シユのママとパパ、私とママとお姉ちゃんの5人で、ルミエール国軍に遭難届を出しに行った。
軍のお姉さんがお菓子とホットミルクを出してくれて、今日の出来事を話してほしいって優しく聞いてくれた。
凄く暖かくて、シユの事を話す時何回泣いたか覚えていない。
全部話終わった後は、泣き疲れてだんだん眠くなった。
意識が飛ぶか飛ばないか格闘していた時、軍のお姉さんやシユのママ達、大人の会話が少しだけ耳に残った。
「残念ですが、……ちゃんは、ヘルツ……ナ…………連れ去さ…………可能性が……」
「……そんな、……はシユは!…………!」
お姉さんの言葉とシユちゃんママの泣く声を聞きながら、私は眠気の限界がきて意識を手放した。
それでも私が住む田舎町は前線からかなり離れていて戦争の影響は殆どない安全な地域でした。
一生忘れはしない。
当時私はまだ6歳にも満たない子供だった。
[1912年6月]
「ちょっと待ってよー!」
「アンジェ早く早く! 鳥に食べられちゃうよー!」
青空の下を私は親友の背中を追いかけて走っていた。
丘の上へザクロ狩りに行こうと誘われたのだ。
丘に着くと早速シユは両手に溢れるほどザクロを摘んできて、一気に頬張った。
「いっはい、ひゃくろあっふぁね!」
「シユってばリスみたいだよ!」
「へへ、ザクロってルビーみたいでシユ好きなんだー! 味はちょっと酸っぱ過ぎるけどね!」
――それから、私達はザクロを食べた後、花摘みやかけっこをした。
そんなかけっこの最中。
「わぁっ!」
「シユ! 大丈夫?!」
前を走っていたシユが石につまづいて転んでしまった。
「いっだぁー、……派手にコケたなぁ、」
「待って! 今絆創膏貼るから! ……えっと、水、は水筒のでいっか」
シユは足を怪我したようだったけど、血は殆ど出ていなかったし重症ではないみたいだった。
まず水筒の水で泥を落とす。
それから絆創膏をバックから取り出し、シユの足に丁寧に貼った。
「うー、ありがとうアンジェ~」
「シユってば毎日走り回って傷作るから、絆創膏何時も持ち歩くようになっちゃった」
「アンジェはきっといいお医者さんになるね!」
「えぇーお医者さんになんてなれないよ! ……あ、でも、そういうお仕事はしたいなぁ」
シユは?と聞くとシユは満面の笑みでこう言った。
「勿論! 正義の味方!」
度肝を抜かれたというか。
鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしていたと思う。
「正義の、味方? ……軍人さんとかって事?」
「んー、そう! ものすごーく修行した最強の私が戦場に立って、沢山の仲間を助けるの!」
「で、でも危ないよ、シユにそんな危険な目にあって欲しくない」
「大丈夫! 私にはアンジェっていうつよーい回復屋さんが居るんだから! ……なんだっけ、えっと確かそういう人の事を、衛生兵っていうんだよ!」
衛生兵、聞いた事無い仕事、などと考えているとシユがキラキラした目で続けた。
「衛生兵ってね! 『ひせんとうよういん』って言って、敵から攻撃されないんだって! 怪我した人を治療して助ける! すっごいお仕事だよね! 攻撃されないならアンジェが傷つく事もないし!」
「そうなんだ……うん分かった私衛生兵になる!! それでシユちゃんが怪我してもすぐに治してあげる!」
「やったー! その為にはまずは修行だね!」
「修行?」
「そう! 私の家まで競争! よーいどん!!」
「ちょっと、待ってよ! シユ!」
シユは荷物も忘れて走り出してしまった。
私は慌ててシユの分の荷物も持って追いかける。
シユは元々足が速いのもあってかなり前を走っている。
競争は私の負けだろう。
その時。
黒い影がシユを掴んだ。
それは、見知らぬ男達だった。
「シユ……?」
余りにも突然で。
早すぎて。
何が起こったのか分からなくて。
シユが誘拐された。
という事実を理解した時には。
空が赤く、肌寒い風が吹き始めた頃だった。
伝えなくちゃ。
私は無我夢中でシユの家まで走った。
私とシユの家は隣同士で、家にはシユのママが居ると思ったから。
「シユちゃんママ!」
シユの家の前で叫ぶ。
家の中からシユのお母さんが出てきてくれた。
「あら、アンジェちゃんどうしたの? そんなに慌てて……シユは一緒じゃないの?」
「……シユが、シユがね、誰か、知らない大人に連れていかれちゃったの、それで、それで……」
シユのママに話してる途中なのに涙が溢れてくる。
シユが連れ去られた不安と怖さと。
自分が何もできなかった罪悪感。
今ここに自分が居る事への安心感でぐちゃぐちゃになった。
それから、シユのママとパパ、私とママとお姉ちゃんの5人で、ルミエール国軍に遭難届を出しに行った。
軍のお姉さんがお菓子とホットミルクを出してくれて、今日の出来事を話してほしいって優しく聞いてくれた。
凄く暖かくて、シユの事を話す時何回泣いたか覚えていない。
全部話終わった後は、泣き疲れてだんだん眠くなった。
意識が飛ぶか飛ばないか格闘していた時、軍のお姉さんやシユのママ達、大人の会話が少しだけ耳に残った。
「残念ですが、……ちゃんは、ヘルツ……ナ…………連れ去さ…………可能性が……」
「……そんな、……はシユは!…………!」
お姉さんの言葉とシユちゃんママの泣く声を聞きながら、私は眠気の限界がきて意識を手放した。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ
朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】
戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。
永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。
信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。
この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。
*ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。
愛しているなら拘束してほしい
守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる