ロシュフォール物語

正輝 知

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凍雪国編第4章

第48話 傭兵団への先制攻撃3

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 ネオクトンの傭兵団は、騎兵を先頭に手練れの傭兵が十数名続いている。
 そして、中程にはミネルやキュリティらの新米冒険者や傭兵がおり、最後尾に老兵とも呼べるほどの年月を重ねた傭兵が二名歩いている。
 一行は、凍土林の中の獣道を西へ進んでおり、間もなく街道へ出るところまで来ている。
 ダイザは、ネオクトンの傭兵団のすぐ側まで接近し、身を隠せるほど大きな木の後ろで1つ深呼吸をする。
 それから、身元が判明しないように顔を布で覆い、剣を鞘から抜き放ち、魔力を練り上げる。
 ダイザは、木陰から身を乗り出し、手のひらを傭兵たちに向け、土属性の魔法を発動させる。

dust stormダストストーム

 獣道の砂粒や土埃つちぼこりが勢いよく巻き上げられ、砂塵嵐さじんらんが傭兵たちを覆う。

「な、なんだぁ!?」

「うわっ!」

「ベベっ!」

「がはっ! がはっ!」

 あちこちで戸惑いの声が上がり、土埃を吸い込んだ者たちが激しく咳をする。
 辺りには、舞い上がった粉塵がもうもうと漂い、凍土林の中が一瞬にして薄暗くなる。
 ダイザは、素早く行動を開始し、木々の間を駆け抜け、馬に騎乗した騎兵に向かって飛び上がり、その頭を剣の腹で力一杯殴りつける。

バガンッ

「ぐはっ!」

 ネオクトンの騎兵は、あまりの衝撃で馬から吹き飛び、木に激突して伸びてしまう。
 ダイザは、騎兵の後ろを歩いていた傭兵たちに次々と襲い掛かり、土埃を吸い込み、砂粒が目に入って苦しんでいる者たちを剣の腹で殴り飛ばしていく。

バガンッ、バキッ、ドガッ

 ダイザは、傭兵たちを殴りつけるとともに、弓矢を装備している者を見つけては、弓の弦を切り飛ばしていく。

(おぉ~。派手にやってるな)

 一人、また一人と、ダイザが傭兵を打ち倒していく様を見て、テムは、暢気な感想を抱く。

(さて、俺もやるか。確か、ミネルとキュリティ……だったよな?)

 テムも、ダイザ同様、顔を布で覆う。
 そして、涙目でお互いを庇い、地に伏せている若者たちを見つけ、背後から近寄って、二人の延髄に抜き手を食らわせる。

「がっ!」

「ぎぃっ!」

 ミネルとキュリティは、あっさりと意識を失い、地面で伸びる。

(まずは、こいつらを避難させる)

 二人を抱えたテムは、舞い上がる土埃を利用して、その場を離れる。
 背後では、ダイザがテンポよく、傭兵たちを殴り続けている。

(やけに、手際がいいな? 教練師のときに、腕を磨いたのか?)

 テムは、ダイザの活躍を訝しむ。
 だが、すぐに前を向き、担ぎ上げていたミネルとキュリティを運よく見つけた窪地に横たえる。
 そして、ダイザの手助けをするべく、再び舞い戻り、土埃が漂う中に身を躍らせる。

ドガンッ、ドスッ

 テムは、傭兵たちの最後尾にいた二人を打ち倒し、残っている傭兵を両拳で叩きのめしていく。
 短命族の傭兵たちは、皆練度が低く、突然魔法を食らって狼狽うろたえるばかりで、誰も反撃をしてこない。
 ダイザとテムは、国都周辺の平和さにやや呆れながらも、一人残らず、打ち倒していく。

「これで、全員か?」

 テムは、木陰に逃げ込んでいた傭兵を殴り倒し、ダイザへ聞く。

「そうです。凍土林の中には、ほかに気配はありません」

「そうか……」

 テムは、最後に倒した傭兵を引きずり、獣道へ横たえる。
 そして、伸びている傭兵たちを数え上げていき、全部で21人がいることを確認する。
 ミネルとキュリティは、向こうの窪地で寝ており、総勢23名の中からは省いている。

「数は、合っている。途中でいなくなった奴は、いないようだな」

「そうですね」

 ダイザも数を数えつつ、まだ意識が残っている者がいれば、手近にあった蔓で縛り上げていく。

「な、何もんだ……、あ、あんたら?」

 ダイザに縛り上げられ、地面に転がされた手練れの傭兵が、苦しげな表情を浮かべつつ声を発する。

「おっ! 寝てない奴がいるのか?」

 テムは、意外そうにして、その男の前まで行き、しゃがみ込む。

「おい。質問に答えてもらう」

 テムは、いきなりその男の顔をぺちぺちと叩き、意識をはっきりとさせる。

「目を覚ませ。いいか?」

「あ、あぁ……」

 男は、目に恐怖を宿らせて、こくこくと頷く。
 長年の勘で、テムの強さを感じ取ったようである。

「まず、お前たちはネオクトンだな?」

「そ、そうだ」

「どこに向かい、何をしに行く?」

「北だ……。ロマキへ行く」

「何をしに?」

 テムは、矢継ぎ早に質問を繰り出す。

「……子どもを拐った犯人を追いかけ、取り戻す」

「ん? 誰の子だ?」

 テムは、頭の片隅に国主の子どもを思い描いていたが、男の口振りからは敬意ではなく、畏怖を感じ取り、違和感を覚える。

「バウリ様の子どもだ」

 男は、テムの知らない名前を口にする。
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