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ぼんの宇宙日記(56日目)
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56日目。今日は、ミナの髪に風が通った日。
朝、ぼくは居住区の窓辺で目を覚ました。外の星は静かで、船内も変わらず穏やかだった。空気の流れはいつも通り、静かで平坦。でも今日は、何かが違うような気がした。耳の奥に、かすかなざわめきが残っている。
昼、ミナが植物室で作業をしていた。ぼくはその入り口でじっと彼女を眺めていた。ミナは髪をひとつにまとめていたけれど、額の横に落ちる細い毛先が、いつもより少しだけ揺れている気がした。船内では風が吹くはずがないのに、その髪がふわりと宙に浮いた瞬間、ぼくは目を見開いた。
ミナは何も気づかずに、葉っぱにやさしく触れている。ぼくは静かに近づいて、彼女の足元に座った。ふいに空気が少しだけ動いた。ミナの髪がふたたび揺れた。その動きはとてもやわらかくて、地球で感じた春の風を思い出すような優しさがあった。
「ねぇ、ぼん」とミナが微笑んで振り返った。「どうしたの?」と小さく声をかける。ぼくはしっぽをふりふりして、何も言わずに彼女を見つめた。ミナの髪はまた、ふわりと浮かんだ。まるで誰かがそっと撫でているみたいに。
午後、マヤが植物室に顔を出した。「ミナ、なんだか今日きれいだね」と冗談まじりに言うと、ミナは「そうかな?」と首をかしげて笑った。その拍子に、髪がまた軽く揺れた。ぼくは不思議そうにその動きを追いかけた。たぶん、ミナ自身も気づいていない。けれど、空気の中に透明な風が流れているような、そんな一日だった。
夕方、ミナは居住区に戻り、窓辺で静かに星を眺めていた。ぼくはそばに座って、彼女の髪がもう一度だけふわりと揺れるのを見届けた。何もないはずの空間に、たしかに風がいた。
夜になって、ぼくはその光景を胸にしまった。船内にも、目に見えない風がある。
おやすみ、ミナの髪。おやすみ、通り過ぎた風。また、やさしい風を感じる日を。
朝、ぼくは居住区の窓辺で目を覚ました。外の星は静かで、船内も変わらず穏やかだった。空気の流れはいつも通り、静かで平坦。でも今日は、何かが違うような気がした。耳の奥に、かすかなざわめきが残っている。
昼、ミナが植物室で作業をしていた。ぼくはその入り口でじっと彼女を眺めていた。ミナは髪をひとつにまとめていたけれど、額の横に落ちる細い毛先が、いつもより少しだけ揺れている気がした。船内では風が吹くはずがないのに、その髪がふわりと宙に浮いた瞬間、ぼくは目を見開いた。
ミナは何も気づかずに、葉っぱにやさしく触れている。ぼくは静かに近づいて、彼女の足元に座った。ふいに空気が少しだけ動いた。ミナの髪がふたたび揺れた。その動きはとてもやわらかくて、地球で感じた春の風を思い出すような優しさがあった。
「ねぇ、ぼん」とミナが微笑んで振り返った。「どうしたの?」と小さく声をかける。ぼくはしっぽをふりふりして、何も言わずに彼女を見つめた。ミナの髪はまた、ふわりと浮かんだ。まるで誰かがそっと撫でているみたいに。
午後、マヤが植物室に顔を出した。「ミナ、なんだか今日きれいだね」と冗談まじりに言うと、ミナは「そうかな?」と首をかしげて笑った。その拍子に、髪がまた軽く揺れた。ぼくは不思議そうにその動きを追いかけた。たぶん、ミナ自身も気づいていない。けれど、空気の中に透明な風が流れているような、そんな一日だった。
夕方、ミナは居住区に戻り、窓辺で静かに星を眺めていた。ぼくはそばに座って、彼女の髪がもう一度だけふわりと揺れるのを見届けた。何もないはずの空間に、たしかに風がいた。
夜になって、ぼくはその光景を胸にしまった。船内にも、目に見えない風がある。
おやすみ、ミナの髪。おやすみ、通り過ぎた風。また、やさしい風を感じる日を。
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