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ぼんの宇宙日記(96日目)
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96日目。今日は、鼻で選ぶ日。
朝、居住区の窓辺で目を覚ました。まず最初に感じたのは、船内の空気の匂い。ほんのり機械油、遠くで温まるパン、ミナの使うハンドクリーム。どれも“ここ”のにおいだけど、日によって感じ方が違う。今日はなぜか、すべての匂いを丁寧に嗅ぎ分けてみたい気分だった。
廊下を歩く。船長のコーヒーの香りが、ドアの隙間から漏れてくる。少し苦くて、でも安心する匂い。ぼくの鼻はこの匂いが好きだ。残しておきたいにおい。近くに来ると、しっぽが自然に動いた。
居住区に戻ると、マヤの服からは柑橘系の柔軟剤。ジンの手からは微かな金属とグリース。ルカの部屋の前は、植物と湿った土の匂いが強い。そのひとつひとつを、ぼくはゆっくり鼻先で味わう。全部が“サニー号”の記憶。でも、全部が大切なわけじゃない。
昼、給水ユニットの前で立ち止まる。水の匂いはほとんどしないけど、時々ふっと漂う地球の芝生の記憶が混じる。その瞬間だけ、胸がきゅっとなる。これは残しておきたい。窓の外から流れる宇宙の冷たいにおい。これは…よくわからない。でも、たぶん今日の気分では忘れてもいい匂い。
午後、ぼくは自分の毛並みを嗅いでみる。少しだけミナのハンドクリームと毛布のにおいが混じっている。自分のにおいも、今日だけのもの。残したい匂いは、心が勝手に選んでいる気がする。何かを忘れても、また新しい匂いで満たされる。そう思ったら、鼻の奥がすっと軽くなった。
夕方、みんなが集まる居住区に戻った。誰かの匂いに包まれていると、どこにいても居場所になる気がした。大事なものだけ、そっと鼻に残して、ほかは宇宙の風に流してしまえばいい。
おやすみ、今日の匂い。おやすみ、鼻が選んだ記憶。また、新しいにおいを見つける日を。
朝、居住区の窓辺で目を覚ました。まず最初に感じたのは、船内の空気の匂い。ほんのり機械油、遠くで温まるパン、ミナの使うハンドクリーム。どれも“ここ”のにおいだけど、日によって感じ方が違う。今日はなぜか、すべての匂いを丁寧に嗅ぎ分けてみたい気分だった。
廊下を歩く。船長のコーヒーの香りが、ドアの隙間から漏れてくる。少し苦くて、でも安心する匂い。ぼくの鼻はこの匂いが好きだ。残しておきたいにおい。近くに来ると、しっぽが自然に動いた。
居住区に戻ると、マヤの服からは柑橘系の柔軟剤。ジンの手からは微かな金属とグリース。ルカの部屋の前は、植物と湿った土の匂いが強い。そのひとつひとつを、ぼくはゆっくり鼻先で味わう。全部が“サニー号”の記憶。でも、全部が大切なわけじゃない。
昼、給水ユニットの前で立ち止まる。水の匂いはほとんどしないけど、時々ふっと漂う地球の芝生の記憶が混じる。その瞬間だけ、胸がきゅっとなる。これは残しておきたい。窓の外から流れる宇宙の冷たいにおい。これは…よくわからない。でも、たぶん今日の気分では忘れてもいい匂い。
午後、ぼくは自分の毛並みを嗅いでみる。少しだけミナのハンドクリームと毛布のにおいが混じっている。自分のにおいも、今日だけのもの。残したい匂いは、心が勝手に選んでいる気がする。何かを忘れても、また新しい匂いで満たされる。そう思ったら、鼻の奥がすっと軽くなった。
夕方、みんなが集まる居住区に戻った。誰かの匂いに包まれていると、どこにいても居場所になる気がした。大事なものだけ、そっと鼻に残して、ほかは宇宙の風に流してしまえばいい。
おやすみ、今日の匂い。おやすみ、鼻が選んだ記憶。また、新しいにおいを見つける日を。
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