雑貨屋ヤマーダの日々

ぼん

文字の大きさ
10 / 25

「町の祭りと山田の挑戦」

しおりを挟む
「なんで俺がこんなことまでやらなきゃいけないんだ……」

朝から店の倉庫で汗だくになりながら、俺は祭り用の屋台の準備をしていた。町の祭りに参加することになったのは、完全にルファの提案だった。

「山田、祭りに出店すれば店の宣伝になるよ!しかも新商品も発表できるし!」

「いやいや、そんな簡単に言うなよ……準備がどれだけ大変か分かっているのか?」

「もちろん!だから私は屋台の装飾担当ね!」

そう言って、ルファはキラキラした布や謎の飾りを大量に持ち込んできた。いや、それどこで仕入れたんだよ。

祭り当日。町の広場はすでに人で溢れていた。屋台の数もすごいし、太鼓の音が鳴り響いていて、まるで別世界だ。

俺たちの屋台は「雑貨屋ヤマーダ特製!幻獣も喜ぶ新商品!」という、なんとも怪しい看板が掲げられていた。

「これじゃ怪しい薬売りみたいだろ!」

「インパクトが大事なの!ほら、もうお客さん来ているよ!」

ルファの言葉通り、子ども連れの家族や若いカップルが興味津々で屋台を覗いていた。

「これは……幻獣クッキー?」「食べても大丈夫なの?」

「もちろん!人間にも優しい素材で作っています!」

俺は必死に説明しながら、試食用のクッキーを配った。意外にも反応は良く、「おいしい!」「なんか不思議な味!」と好評だった。

「これ本当に売れるのか……?」

昼過ぎになると、町の祭りはさらに盛り上がりを見せていた。踊りの披露や、子ども向けのゲームコーナー、そして地元の食材を使った屋台が並び、町の文化がぎゅっと詰まっていた。

「山田さん、これ、うちの畑で採れた野菜なんですけど、よかったら使ってください!」

近所の農家のおばちゃんが、袋いっぱいの野菜を持ってきてくれた。

「ありがたいけど、うち雑貨屋なんだけど……」

「でも、ルファちゃんが『幻獣スープ』作るって言っていたわよ?」

「いやいや、いつの間にそんなメニューが……!」

ルファはすでに屋台の奥で鍋をぐつぐつ煮ていた。しかも、子どもたちに「幻獣の力が宿るスープだよ!」と説明している。いや、完全にファンタジーじゃねえか。

夕方、祭りのメインステージで「町の新名物紹介コーナー」が始まった。

なぜか俺たちもそこに呼ばれていて、壇上に立つことになった。

「俺、人前で話すの苦手なんだけど……」

「大丈夫!私が全部しゃべるから!」

ルファはマイクを握ると、堂々と話し始めた。

「皆さん、こんにちは!雑貨屋ヤマーダから来ました、ルファです!今日は幻獣も喜ぶ新商品、『幻獣クッキー』と『幻獣スープ』をご紹介します!」

会場からは「幻獣?」「あの森の?」とざわめきが起こった。

「そうです!実際に幻獣が食べた実績もあります!」

「いやいや、証拠ないだろ……」

でも、ルファの勢いに押されて、会場の空気はどんどん盛り上がっていった。試食コーナーでは長蛇の列ができ、町の住民たちが笑顔で商品を手に取っていた。

夜になり、祭りはクライマックスを迎えていた。

花火が打ち上がり、空に大輪の光が広がる。俺は屋台の片付けをしながら、ふと空を見上げた。

「……なんだかんだで、楽しかったな」

町の人たちと話し、笑い、商品を手に取ってもらう。こんなに直接的に店の魅力を伝えられる機会はなかった。

「山田、今日の売上、すごいよ!しかも、幻獣クッキーの予約まで入ってる!」

「えっ!?そんな需要あるのか……?」

でも、心の中では少し嬉しかった。町の人たちが俺たちの店に興味を持ってくれたこと。

そして、ルファが意外と頼りになること。

「……まあ、たまにはこういうのも悪くないな」

そう呟きながら、俺は屋台の看板を片付けた。そこには「雑貨屋ヤマーダ」の文字が、少し誇らしげに輝いていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転生先はご近所さん?

フロイライン
ファンタジー
大学受験に失敗し、カノジョにフラれた俺は、ある事故に巻き込まれて死んでしまうが… そんな俺に同情した神様が俺を転生させ、やり直すチャンスをくれた。 でも、並行世界で人々を救うつもりだった俺が転生した先は、近所に住む新婚の伊藤さんだった。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

酒好きおじさんの異世界酒造スローライフ

天野 恵
ファンタジー
酒井健一(51歳)は大の酒好きで、酒類マスターの称号を持ち世界各国を飛び回っていたほどの実力だった。 ある日、深酒して帰宅途中に事故に遭い、気がついたら異世界に転生していた。転移した際に一つの“スキル”を授かった。 そのスキルというのは【酒聖(しゅせい)】という名のスキル。 よくわからないスキルのせいで見捨てられてしまう。 そんな時、修道院シスターのアリアと出会う。 こうして、2人は異世界で仲間と出会い、お酒作りや飲み歩きスローライフが始まる。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

インターネットで異世界無双!?

kryuaga
ファンタジー
世界アムパトリに転生した青年、南宮虹夜(ミナミヤコウヤ)は女神様にいくつものチート能力を授かった。  その中で彼の目を一番引いたのは〈電脳網接続〉というギフトだ。これを駆使し彼は、ネット通販で日本の製品を仕入れそれを売って大儲けしたり、日本の企業に建物の設計依頼を出して異世界で技術無双をしたりと、やりたい放題の異世界ライフを送るのだった。  これは剣と魔法の異世界アムパトリが、コウヤがもたらした日本文化によって徐々に浸食を受けていく変革の物語です。

おばさんは、ひっそり暮らしたい

波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

【一時完結】スキル調味料は最強⁉︎ 外れスキルと笑われた少年は、スキル調味料で無双します‼︎

アノマロカリス
ファンタジー
調味料…それは、料理の味付けに使う為のスパイスである。 この世界では、10歳の子供達には神殿に行き…神託の儀を受ける義務がある。 ただし、特別な理由があれば、断る事も出来る。 少年テッドが神託の儀を受けると、神から与えられたスキルは【調味料】だった。 更にどんなに料理の練習をしても上達しないという追加の神託も授かったのだ。 そんな話を聞いた周りの子供達からは大爆笑され…一緒に付き添っていた大人達も一緒に笑っていた。 少年テッドには、両親を亡くしていて妹達の面倒を見なければならない。 どんな仕事に着きたくて、頭を下げて頼んでいるのに「調味料には必要ない!」と言って断られる始末。 少年テッドの最後に取った行動は、冒険者になる事だった。 冒険者になってから、薬草採取の仕事をこなしていってったある時、魔物に襲われて咄嗟に調味料を魔物に放った。 すると、意外な効果があり…その後テッドはスキル調味料の可能性に気付く… 果たして、その可能性とは⁉ HOTランキングは、最高は2位でした。 皆様、ありがとうございます.°(ಗдಗ。)°. でも、欲を言えば、1位になりたかった(⌒-⌒; )

処理中です...