雑貨屋ヤマーダの日々

ぼん

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「店の危機と絆の力」

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朝の光が差し込む中、俺はカウンターに肘をついてため息をついた。

「……なんでこう、一気にいろんなことが重なるかな……」

まず、仕入れ先の一つから届いた手紙には、「輸送中に荷馬車が壊れ、納品は来月以降に延期」と書かれていた。しかも、その荷に限って、今週の目玉商品だった“ふんわり蒸気ポット”の材料が含まれていた。

「いやいや、あれ無いと“湯気で癒やすセット”が組めないじゃん……!」

さらに追い打ちをかけるように、倉庫の冷却装置が異音を立てて動かなくなった。

「うおっ、魔力回路がショートしてる!?なんで今!?」

バタバタと修理を試みるも、部品の予備が切れていて手詰まり状態。ルファも状況を聞いて、朝から慌ただしく魔道具棚をひっくり返していた。

「こっちの旧式の霧冷却装置なら……いや、これも魔力漏れが……山田!パーツのストック、マジでゼロ!?」

「マジだ……昨日の在庫整理で“全部使い切ってる”ことに気付いたばっかだ……」

「えっ、なんでその時点で補充してないの!?未来の自分に全部押し付けたの!?」

「完全に油断してた…… “なんとかなる”って思ってた……!」

ルファがジト目で睨んでくる中、俺は自分の頭を抱えた。こんなときに限って、店の常連さんたちが立て続けに来店する。

「山田さん、例の“癒し湯気セット”もうできている?」

「……申し訳ない、今ちょっとトラブルが重なってて」

「そっかぁ……でも、山田さんのとこなら、またすぐ復活するでしょ!」

そう言って笑顔で帰っていく姿が、逆に申し訳なさを加速させた。

「……あーもう、自分の不備で信頼裏切るのが一番キツい……」

そんなとき、外からドタバタと駆けてくる足音が聞こえた。

「山田さーん!聞いたわよ、大変なんですって?」

駆け込んできたのは、町の縫製屋のおばちゃん。続いて、鍛冶屋の若旦那、パン屋の兄妹、果ては幻獣観察隊の少年まで。

「うちの店の冷却パイプ、予備あったから持ってきたよ!」

「余った金属板なら加工できるし、ちょっと修理くらい手伝わせてよ!」

「ほら、“ふんわりポット”の代わりに、うちの蒸気パンでも使って!」

「いやいや、みんな、なんでそんなに自然に集まってくるんだよ……!」

戸惑いながらも、胸の奥がじんと熱くなる。町のみんなが、当たり前のように助けに来てくれた。

これは、俺が今までの“日々”で積み上げてきた何かが、ちゃんと残っている証拠なのかもしれない。

「……くそ、泣きそう……いや、泣かんけど!」

ルファが笑う。

「山田、いい顔してるじゃん。ちょっとは“町の雑貨屋”っぽくなってきたね」

「いやいや、最初から雑貨屋だわ!」

鍛冶屋の若旦那が魔力管を修復し、パン屋の兄妹が湯気用の食材を届けてくれたことで、倉庫の冷却装置はひとまず再稼働を始めた。

「魔力の流れ、安定してる!やったね!」

「……助かった、マジで。みんなのおかげだよ……」

俺が深々と頭を下げると、町のみんなは笑いながら言った。

「礼なんていいって!いつも助けてもらってるのはこっちなんだからさ」

「町の“困った”にすぐ対応してくれる雑貨屋なんて、そうそう無いわよ?」

「山田さんが困ってると聞いたら、そりゃ駆けつけるでしょ!」

……なんて言葉だ。普通にしてたら、絶対もらえない言葉だ。

「……いや、マジで泣きそう……」


ルファが肩をポンと叩く。

「いいじゃん。泣いちゃえば?」

「うっさい!」

落ち着きを取り戻した店内を見渡すと、なんとも言えない安心感が広がっていた。

乱雑だった棚も、子どもたちが一緒に並べ直してくれたおかげでむしろ前よりスッキリしているし、ルファが作ってくれた“応急魔法ラベル”も、妙に人気が出そうだ。

《※この商品は修理中につき、たまに笑います》

「いや、笑うなよ!?どういう状態だそれ!」

「でも、“笑う茶碗”って商品にしたら、子ども向けにいけそうじゃない?」

「……売れる気がしてきた自分が怖い」

夕方、騒動の終わった店内で、俺は棚に新しく貼った紙を眺めていた。

《雑貨屋ヤマーダ:非常時対応手引き(仮)》

「これさえあれば、次に何か起きてもパニックにならない!」

「いや、それを仮で終わらせるのやめよう?完成版作ろう?」

「(仮)ってつけておいたほうが自由度高いでしょ?」

「どんな理論だよ!」

そう笑いながら、ふと考える。トラブルは、できれば避けたい。面倒くさいし、精神的にも消耗する。

でも──

「それを乗り越えたあとに残る“誰かとつながった記憶”って、案外悪くないな」

独りで頑張らなくてもいい。困ったときに、誰かが手を貸してくれる。そして、俺自身もまた、誰かの“困った”に応えられる存在でありたい。

「山田、次の仕入れどうする?別ルートあたってみようか?」

「ああ、そうだな…… “町と一緒に動く仕入れルート”ってのも、考えてみるか」

「共同購入型とか?“住民と一緒に選ぶ新商品企画”とか!」

「いやいや、それもう雑貨屋じゃなくて町プロデューサーじゃん!」

けれど、まんざらでもない気持ちが胸にあった。町と生きていくって、きっとこういうことなんだろう。

その夜、ひと段落した俺たちは、店の奥でささやかな打ち上げをした。

「おつかれ、山田」

「おつかれ、ルファ。……ありがとうな」

「いいって。“雑貨屋ヤマーダ”って、私の居場所でもあるし」

その言葉が、心に静かに響いた。

“絆”って、こうやって形になるんだな。照れくさいけれど、ちゃんと伝えておきたくなった。

「……これからも、一緒にやってくれるか?」

「もちろん!」

ルファは力強く笑った。そして――俺たちの雑貨屋は、今日もまた、日常の中にある小さな奇跡を並べていく。
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