18 / 25
「森の奥に眠る秘密」
しおりを挟む
「また森かよ……異世界に来てから、森率高すぎない?」
朝、ルファが広げた地図と魔力探知玉を見ながら、俺はため息をついた。
「でも、今回は“あの遺跡の奥”を調べるチャンスだよ!覚えてる?幻獣に案内された場所の先、まだちゃんと見てないでしょ?」
「いやいや、そうなんだけどな……最近、俺の“雑貨屋”としてのアイデンティティが迷子になりかけてるんだけど……」
「大丈夫、大丈夫!今回はちゃんと“未来の商品開発に役立ちそうなヒント”ってことで出発!」
「無理やりこじつけてきたな……」
そうして俺たちは、例の遺跡──森の奥に眠る、幻獣が案内してくれた石碑の場所へ再び足を踏み入れた。
静まり返った森の中。木漏れ日と風の音だけが俺たちを包む。
「あのときの護符、まだちゃんと保管してるよな?」
「もちろん。カウンターの“わりと大事なもの入れ”に入れてある」
「わりと、って何だよ。もうちょっと敬意を払ってくれ!」
やがてたどり着いた遺跡は、前回と変わらずそこにあった。けれど、どこか様子が違う。
「石碑の周り……草が綺麗に刈られてる?いや、自然に……いや、誰かが手入れしてる?」
「もしかして、幻獣が?」
「まさか……って、まさか、いるのか?」
目を凝らすと、やっぱりいた。森の守護者みたいな顔をした例の幻獣が、遺跡の上でこっちをじっと見ていた。
「お前、案内人兼管理人みたいな立場なのか?」
幻獣はすっと立ち上がると、遺跡の裏手へと歩き出した。
「うわ、これ完全に“ついてこい”のやつだ……」
「行くしかないね!」
「俺、店主なんだけどな……」
遺跡の奥に入ると、薄暗い通路が続いていた。壁には苔と古びた文様。歩くたびに、足元の石がカツンカツンと音を立てる。
「うわぁ……これ、本格的に“遺跡探検”じゃん。装備整えてくるべきだった……」
「でも見て、この壁!これ、古代文字だよ!少なくとも数百年前……いや、千年単位かも」
「……まさか、そんなに歴史あるとこだったのか?」
さらに進むと、小さな部屋のような空間に出た。そこには、奇妙な道具がいくつも並んでいた。
「これ、なんだ……?道具?祭具?」
ルファが慎重に一つ手に取る。
「すごい、これ、魔力反応ある。しかも、今でもほんの少しだけど生きてる」
「ってことは、これ、動くのか……?」
俺は目の前の箱のようなものに触れてみた。すると、かすかに光が走り、中から“音”が流れ出した。
「――ようこそ、この森へ。我らは、森と町をつなぐ者」
「……しゃべった!?」
「記憶装置だ!これ“音声記録式の案内魔具”だよ!伝承を残すためのもの!」
俺は背筋がぞくっとした。まさか、この森と町が――そんな深い関係で結ばれていたなんて。
「……我らは、森と町をつなぐ者」
その言葉を最後に、箱の光はゆっくりと消えた。
「ルファ……今の、どういう意味だと思う?」
「この場所、ただの遺跡じゃない。“語るため”の空間だったんだよ。記録を残し、誰かに伝えるための」
「ってことは、この森と町は……」
「うん、かつてはきっと、もっと深く関わり合っていた。生活の中で自然と共に在ることが、当たり前の時代だったんだろうね」
遺跡の壁に描かれた文様にも、森と町を結ぶ“橋”のような線が見える。その中心に描かれていたのは──丸い光と、それを囲む輪。
「……これ、もしかして精霊の力?」
「かもしれない。“森の加護”を受けた町だったって記録、今までなかったけど……本当は、こういう形で残ってたんだね」
「こんな大事なこと、なんで町には伝わってなかったんだ……?」
「長い年月の中で、記憶が風化していったんだろうね。護符も壊れていたし、記録装置も埋もれていた。けど、それがこうして今、見つかった」
「まるで“伝えてくれ”って言われてるみたいだな……」
そう呟いた俺の背後で、幻獣が小さく鳴いた。まるで「そうだ」と言っているかのように。
数日後。
俺たちは遺跡で発見した道具や記録を整理し、町の広場で小さな“報告展示会”を開くことになった。
「へぇ~、こんな深い歴史があったとはなぁ!」
「幻獣様が町の守り神だったってことなのかしら?」
「おじいちゃん、昔こんな模様の石を持ってたような……」
集まった町の人たちは、目を輝かせて展示品や資料に見入っていた。
子どもたちは“しゃべる箱”に夢中になり、何度も再生を繰り返しては「我らは~つなぐ者~♪」と歌い出す始末。
「覚え方が軽すぎないか!?」
ルファは笑いながら言う。
「でも、それでいいと思うよ。忘れてた記憶を、今の形で楽しく伝えられたら、それが“未来につなぐ”ってことじゃない?」
「……そうだな。たぶん俺たち、橋を見つけたんじゃなくて“かけ直した”んだな」
「かっこいいこと言った~!」
「おい、からかうな!」
展示の最後には、町の有志が描いた“森と町をつなぐ橋の絵”が飾られた。中央には、幻獣と俺たちの店が並んで描かれていた。
「……ちょっと照れるな、これ」
「店主として、誇っていいと思うよ?」
夕暮れ時、展示会の片付けを終えたあと、幻獣がまた、広場の外れに姿を見せていた。
俺は静かに近づいて、そっと声をかけた。
「お前が教えてくれた秘密、ちゃんとみんなに伝えたぞ」
幻獣は、一歩近づいてきて、俺の手の甲に鼻先を当てた。それはまるで「ありがとう」と言っているようで。
「……いやいや、今度こそ泣きそうになっちまうだろ」
ルファが笑いながら背中を叩く。
「じゃあ山田“森と町の記録雑貨シリーズ”って作ってみようよ!」
「いやいや、それもう完全にテーマパークグッズだろ!」
けれど、きっと作るんだろうな――そう思えるほど、心が満たされていた。
森の奥に眠っていた秘密は、過去だけじゃなく、俺たちの未来も照らしてくれていた。
朝、ルファが広げた地図と魔力探知玉を見ながら、俺はため息をついた。
「でも、今回は“あの遺跡の奥”を調べるチャンスだよ!覚えてる?幻獣に案内された場所の先、まだちゃんと見てないでしょ?」
「いやいや、そうなんだけどな……最近、俺の“雑貨屋”としてのアイデンティティが迷子になりかけてるんだけど……」
「大丈夫、大丈夫!今回はちゃんと“未来の商品開発に役立ちそうなヒント”ってことで出発!」
「無理やりこじつけてきたな……」
そうして俺たちは、例の遺跡──森の奥に眠る、幻獣が案内してくれた石碑の場所へ再び足を踏み入れた。
静まり返った森の中。木漏れ日と風の音だけが俺たちを包む。
「あのときの護符、まだちゃんと保管してるよな?」
「もちろん。カウンターの“わりと大事なもの入れ”に入れてある」
「わりと、って何だよ。もうちょっと敬意を払ってくれ!」
やがてたどり着いた遺跡は、前回と変わらずそこにあった。けれど、どこか様子が違う。
「石碑の周り……草が綺麗に刈られてる?いや、自然に……いや、誰かが手入れしてる?」
「もしかして、幻獣が?」
「まさか……って、まさか、いるのか?」
目を凝らすと、やっぱりいた。森の守護者みたいな顔をした例の幻獣が、遺跡の上でこっちをじっと見ていた。
「お前、案内人兼管理人みたいな立場なのか?」
幻獣はすっと立ち上がると、遺跡の裏手へと歩き出した。
「うわ、これ完全に“ついてこい”のやつだ……」
「行くしかないね!」
「俺、店主なんだけどな……」
遺跡の奥に入ると、薄暗い通路が続いていた。壁には苔と古びた文様。歩くたびに、足元の石がカツンカツンと音を立てる。
「うわぁ……これ、本格的に“遺跡探検”じゃん。装備整えてくるべきだった……」
「でも見て、この壁!これ、古代文字だよ!少なくとも数百年前……いや、千年単位かも」
「……まさか、そんなに歴史あるとこだったのか?」
さらに進むと、小さな部屋のような空間に出た。そこには、奇妙な道具がいくつも並んでいた。
「これ、なんだ……?道具?祭具?」
ルファが慎重に一つ手に取る。
「すごい、これ、魔力反応ある。しかも、今でもほんの少しだけど生きてる」
「ってことは、これ、動くのか……?」
俺は目の前の箱のようなものに触れてみた。すると、かすかに光が走り、中から“音”が流れ出した。
「――ようこそ、この森へ。我らは、森と町をつなぐ者」
「……しゃべった!?」
「記憶装置だ!これ“音声記録式の案内魔具”だよ!伝承を残すためのもの!」
俺は背筋がぞくっとした。まさか、この森と町が――そんな深い関係で結ばれていたなんて。
「……我らは、森と町をつなぐ者」
その言葉を最後に、箱の光はゆっくりと消えた。
「ルファ……今の、どういう意味だと思う?」
「この場所、ただの遺跡じゃない。“語るため”の空間だったんだよ。記録を残し、誰かに伝えるための」
「ってことは、この森と町は……」
「うん、かつてはきっと、もっと深く関わり合っていた。生活の中で自然と共に在ることが、当たり前の時代だったんだろうね」
遺跡の壁に描かれた文様にも、森と町を結ぶ“橋”のような線が見える。その中心に描かれていたのは──丸い光と、それを囲む輪。
「……これ、もしかして精霊の力?」
「かもしれない。“森の加護”を受けた町だったって記録、今までなかったけど……本当は、こういう形で残ってたんだね」
「こんな大事なこと、なんで町には伝わってなかったんだ……?」
「長い年月の中で、記憶が風化していったんだろうね。護符も壊れていたし、記録装置も埋もれていた。けど、それがこうして今、見つかった」
「まるで“伝えてくれ”って言われてるみたいだな……」
そう呟いた俺の背後で、幻獣が小さく鳴いた。まるで「そうだ」と言っているかのように。
数日後。
俺たちは遺跡で発見した道具や記録を整理し、町の広場で小さな“報告展示会”を開くことになった。
「へぇ~、こんな深い歴史があったとはなぁ!」
「幻獣様が町の守り神だったってことなのかしら?」
「おじいちゃん、昔こんな模様の石を持ってたような……」
集まった町の人たちは、目を輝かせて展示品や資料に見入っていた。
子どもたちは“しゃべる箱”に夢中になり、何度も再生を繰り返しては「我らは~つなぐ者~♪」と歌い出す始末。
「覚え方が軽すぎないか!?」
ルファは笑いながら言う。
「でも、それでいいと思うよ。忘れてた記憶を、今の形で楽しく伝えられたら、それが“未来につなぐ”ってことじゃない?」
「……そうだな。たぶん俺たち、橋を見つけたんじゃなくて“かけ直した”んだな」
「かっこいいこと言った~!」
「おい、からかうな!」
展示の最後には、町の有志が描いた“森と町をつなぐ橋の絵”が飾られた。中央には、幻獣と俺たちの店が並んで描かれていた。
「……ちょっと照れるな、これ」
「店主として、誇っていいと思うよ?」
夕暮れ時、展示会の片付けを終えたあと、幻獣がまた、広場の外れに姿を見せていた。
俺は静かに近づいて、そっと声をかけた。
「お前が教えてくれた秘密、ちゃんとみんなに伝えたぞ」
幻獣は、一歩近づいてきて、俺の手の甲に鼻先を当てた。それはまるで「ありがとう」と言っているようで。
「……いやいや、今度こそ泣きそうになっちまうだろ」
ルファが笑いながら背中を叩く。
「じゃあ山田“森と町の記録雑貨シリーズ”って作ってみようよ!」
「いやいや、それもう完全にテーマパークグッズだろ!」
けれど、きっと作るんだろうな――そう思えるほど、心が満たされていた。
森の奥に眠っていた秘密は、過去だけじゃなく、俺たちの未来も照らしてくれていた。
1
あなたにおすすめの小説
転生先はご近所さん?
フロイライン
ファンタジー
大学受験に失敗し、カノジョにフラれた俺は、ある事故に巻き込まれて死んでしまうが…
そんな俺に同情した神様が俺を転生させ、やり直すチャンスをくれた。
でも、並行世界で人々を救うつもりだった俺が転生した先は、近所に住む新婚の伊藤さんだった。
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
酒好きおじさんの異世界酒造スローライフ
天野 恵
ファンタジー
酒井健一(51歳)は大の酒好きで、酒類マスターの称号を持ち世界各国を飛び回っていたほどの実力だった。
ある日、深酒して帰宅途中に事故に遭い、気がついたら異世界に転生していた。転移した際に一つの“スキル”を授かった。
そのスキルというのは【酒聖(しゅせい)】という名のスキル。
よくわからないスキルのせいで見捨てられてしまう。
そんな時、修道院シスターのアリアと出会う。
こうして、2人は異世界で仲間と出会い、お酒作りや飲み歩きスローライフが始まる。
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
インターネットで異世界無双!?
kryuaga
ファンタジー
世界アムパトリに転生した青年、南宮虹夜(ミナミヤコウヤ)は女神様にいくつものチート能力を授かった。
その中で彼の目を一番引いたのは〈電脳網接続〉というギフトだ。これを駆使し彼は、ネット通販で日本の製品を仕入れそれを売って大儲けしたり、日本の企業に建物の設計依頼を出して異世界で技術無双をしたりと、やりたい放題の異世界ライフを送るのだった。
これは剣と魔法の異世界アムパトリが、コウヤがもたらした日本文化によって徐々に浸食を受けていく変革の物語です。
おばさんは、ひっそり暮らしたい
波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。
たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。
さて、生きるには働かなければならない。
「仕方がない、ご飯屋にするか」
栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。
「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」
意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。
騎士サイド追加しました。2023/05/23
番外編を不定期ですが始めました。
【一時完結】スキル調味料は最強⁉︎ 外れスキルと笑われた少年は、スキル調味料で無双します‼︎
アノマロカリス
ファンタジー
調味料…それは、料理の味付けに使う為のスパイスである。
この世界では、10歳の子供達には神殿に行き…神託の儀を受ける義務がある。
ただし、特別な理由があれば、断る事も出来る。
少年テッドが神託の儀を受けると、神から与えられたスキルは【調味料】だった。
更にどんなに料理の練習をしても上達しないという追加の神託も授かったのだ。
そんな話を聞いた周りの子供達からは大爆笑され…一緒に付き添っていた大人達も一緒に笑っていた。
少年テッドには、両親を亡くしていて妹達の面倒を見なければならない。
どんな仕事に着きたくて、頭を下げて頼んでいるのに「調味料には必要ない!」と言って断られる始末。
少年テッドの最後に取った行動は、冒険者になる事だった。
冒険者になってから、薬草採取の仕事をこなしていってったある時、魔物に襲われて咄嗟に調味料を魔物に放った。
すると、意外な効果があり…その後テッドはスキル調味料の可能性に気付く…
果たして、その可能性とは⁉
HOTランキングは、最高は2位でした。
皆様、ありがとうございます.°(ಗдಗ。)°.
でも、欲を言えば、1位になりたかった(⌒-⌒; )
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる