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「新たな未来への一歩」
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「山田さん、あのー……この刺繍布、店に置いてもらえませんか?」
朝、開店準備をしていると、近所のおばあちゃんが手提げ袋を抱えてやって来た。中には丁寧に縫われた、花や鳥の模様が並んだ布小物が入っている。
「ほぉ……手作りですか。すごい、色合いも優しくて……これは普通に売れるクオリティですね」
「うふふ、昔は町の市でよく出していたんだけどね、最近は場所も無いし、並べる棚も無いし……って思っていたの。でも、ここのお店なら、見てもらえるかもしれないって思って」
「そっか……いいですよ、むしろぜひ置かせてください。これは“町の技”ってやつですから」
「まぁまぁ、ありがとうねぇ」
そうして、棚の一角に「手作りのぬくもりコーナー」が誕生した。
ルファがその様子を見て、くすりと笑う。
「いいね、“町の文化発信所”って感じがしてきた」
「いや、うち一応まだ雑貨屋なんだけどな……」
「でも、雑貨って“人の暮らし”が詰まってるものでしょ?なら、これも立派な雑貨だよ」
「……なるほど。ルファに言われると説得力あるな」
最近、町の人たちが雑貨屋ヤマーダに「新しい風」を持ち込んでくれることが増えた。
先週はパン屋の兄妹が“蒸気クッキー”なる試作品を持ってきて、試食した子どもたちに大好評だった。
「うちじゃ売る場所がなくて……よかったら、ここで少し置いてもらえませんか?」
そんな風に始まった“みんなのちいさな棚”は、今ではちょっとした人気コーナーになっている。
「……なんかさ、俺の店、“町そのもの”になりつつない?」
「それ、理想じゃない?」
「理想だけど……想定より数倍速い気がする」
そんな中、広場で開かれた小さな座談会に誘われた。テーマは「町の文化をどう残し、広げていくか」。
参加者は、縫製屋のおばちゃん、パン屋の兄妹、鍛冶屋の若旦那、子どもたちの保護者──そして俺とルファ。
「この町の手仕事や技術、もっと外の人にも知ってもらいたいんですよね。観光案内所の話が出た時も、そういう思いがあって……」
「うちの店に、そういう紹介コーナーを作ってもいいかなって思ってるんです」
俺がそう言うと、みんなの顔がぱっと明るくなった。
「本当!?だったら、鍛冶の道具とか、古い型の模型とか持ってこようか?」
「昔のお祭りの絵、うちにまだあるよ!」
「私のとこは、昔から伝わってる“香草茶の調合レシピ”、あるわよ!」
「すごい……この町、実は宝の山なんじゃないか?」
思わずつぶやくと、ルファがぼそっと呟いた。
「町って、そういうもんだよ。普段気付かないけど、ちゃんと根っこがある」
「……“文化コーナー”作るか。ちゃんとしたやつを」
「やっとその気になった?」
「やっと、ってなんだよ!?」
笑いの中で、未来への第一歩が静かに踏み出された。
文化紹介コーナーの構想が本格的に動き出すと、町の人々の動きもどんどん活発になっていった。
「これが、うちの先代が使ってた金型なんですけど……」
「この染め布、昔は町祭りのときに使ってた柄なのよ~」
老若男女問わず、さまざまな品が持ち寄られ、その一つひとつに“物語”が宿っていた。
俺とルファは、商品棚の一角を改装し、文化紹介用の展示台を作ることにした。
「山田、棚はちょっと斜めにして、“手に取って読める説明カード”を立てられるようにしよっか」
「さすがルファ、見せ方に関してはプロだな」
「あと、“どこで誰が作ったか”をちゃんと書こう。“町の誰か”が伝わるのって、安心にもつながるから」
「……そうか、それが“町の顔”になるってことか」
展示コーナーの完成に合わせて、俺は新しいプレートを作った。
《この棚は、町の記憶を伝える“文化の架け橋”です》
少し照れくさかったが、それはこの町の想いそのものだった。
開設初日。
興味津々で訪れた子どもたちや旅人が、展示品に見入っていた。
「これって、何に使う道具だったの?」
「へぇー!昔の人って、こんな風に布を染めてたんだ!」
その質問に答えるのは、品を提供した住民たちだ。
「これはね、鍛冶屋の火加減を調整する“風送り器”って言ってね……」
「この模様は、“豊作”を祈る意味があるのよ」
“語り”が“紡がれる”。そこにはもう、ただの“物”ではない、人と人を結ぶ時間があった。
「……すごいな。俺、ただの雑貨屋だったはずなんだけど」
「“ただの”じゃないでしょ。町の人が集まる場で、“未来へのきっかけ”を作ってる」
ルファがそう言って微笑む。
「でもまあ、これからが本番だな。続けることが大事だから」
「そうね。あとは、“遊び心”も忘れずに」
「遊び心……たとえば?」
「たとえば、“昔のレシピで作った幻のクッキー試食会”とか?」
「絶対まずいやつじゃんそれ!」
「いや、改良すれば美味しくなるかもよ?」
冗談のようで、本気にも聞こえるのがルファのすごいところだ。それでも、ふと考える。
この町には、こんなにも語るべき過去があって、つながる未来がある。
それに気づけたのは、雑貨屋という“場所”を通して、人と関わり続けてきたからだ。
「山田、これからどうするの?もっと店、広げていくの?」
「うーん……まだ決めてないけど、方向性は見えた気がする」
「どんな?」
「“町と一緒に育つ店”。それがいいなって」
ルファは少し目を細めて言った。
「それ、すごく山田らしいね」
「そっか。……だったら、間違ってないな」
夕暮れ時。
文化コーナーの棚に並んだ一枚の手紙を読んだ。
《この町で過ごした日々が、今も心を温めてくれます。小さな品に詰まった、大きな思い出をありがとう。》
町を離れた元住民から届いた手紙だった。
「未来への一歩って、過去とつながってるんだな」
「……そうだね。だからこそ、今日の一歩はきっと、大事なんだよ」
ルファが静かに答える。
俺はその言葉を噛みしめながら、新しい展示札にペンを走らせた。
《この町の記憶を、次の誰かへ》
店の灯りが、今日も静かに灯る。
朝、開店準備をしていると、近所のおばあちゃんが手提げ袋を抱えてやって来た。中には丁寧に縫われた、花や鳥の模様が並んだ布小物が入っている。
「ほぉ……手作りですか。すごい、色合いも優しくて……これは普通に売れるクオリティですね」
「うふふ、昔は町の市でよく出していたんだけどね、最近は場所も無いし、並べる棚も無いし……って思っていたの。でも、ここのお店なら、見てもらえるかもしれないって思って」
「そっか……いいですよ、むしろぜひ置かせてください。これは“町の技”ってやつですから」
「まぁまぁ、ありがとうねぇ」
そうして、棚の一角に「手作りのぬくもりコーナー」が誕生した。
ルファがその様子を見て、くすりと笑う。
「いいね、“町の文化発信所”って感じがしてきた」
「いや、うち一応まだ雑貨屋なんだけどな……」
「でも、雑貨って“人の暮らし”が詰まってるものでしょ?なら、これも立派な雑貨だよ」
「……なるほど。ルファに言われると説得力あるな」
最近、町の人たちが雑貨屋ヤマーダに「新しい風」を持ち込んでくれることが増えた。
先週はパン屋の兄妹が“蒸気クッキー”なる試作品を持ってきて、試食した子どもたちに大好評だった。
「うちじゃ売る場所がなくて……よかったら、ここで少し置いてもらえませんか?」
そんな風に始まった“みんなのちいさな棚”は、今ではちょっとした人気コーナーになっている。
「……なんかさ、俺の店、“町そのもの”になりつつない?」
「それ、理想じゃない?」
「理想だけど……想定より数倍速い気がする」
そんな中、広場で開かれた小さな座談会に誘われた。テーマは「町の文化をどう残し、広げていくか」。
参加者は、縫製屋のおばちゃん、パン屋の兄妹、鍛冶屋の若旦那、子どもたちの保護者──そして俺とルファ。
「この町の手仕事や技術、もっと外の人にも知ってもらいたいんですよね。観光案内所の話が出た時も、そういう思いがあって……」
「うちの店に、そういう紹介コーナーを作ってもいいかなって思ってるんです」
俺がそう言うと、みんなの顔がぱっと明るくなった。
「本当!?だったら、鍛冶の道具とか、古い型の模型とか持ってこようか?」
「昔のお祭りの絵、うちにまだあるよ!」
「私のとこは、昔から伝わってる“香草茶の調合レシピ”、あるわよ!」
「すごい……この町、実は宝の山なんじゃないか?」
思わずつぶやくと、ルファがぼそっと呟いた。
「町って、そういうもんだよ。普段気付かないけど、ちゃんと根っこがある」
「……“文化コーナー”作るか。ちゃんとしたやつを」
「やっとその気になった?」
「やっと、ってなんだよ!?」
笑いの中で、未来への第一歩が静かに踏み出された。
文化紹介コーナーの構想が本格的に動き出すと、町の人々の動きもどんどん活発になっていった。
「これが、うちの先代が使ってた金型なんですけど……」
「この染め布、昔は町祭りのときに使ってた柄なのよ~」
老若男女問わず、さまざまな品が持ち寄られ、その一つひとつに“物語”が宿っていた。
俺とルファは、商品棚の一角を改装し、文化紹介用の展示台を作ることにした。
「山田、棚はちょっと斜めにして、“手に取って読める説明カード”を立てられるようにしよっか」
「さすがルファ、見せ方に関してはプロだな」
「あと、“どこで誰が作ったか”をちゃんと書こう。“町の誰か”が伝わるのって、安心にもつながるから」
「……そうか、それが“町の顔”になるってことか」
展示コーナーの完成に合わせて、俺は新しいプレートを作った。
《この棚は、町の記憶を伝える“文化の架け橋”です》
少し照れくさかったが、それはこの町の想いそのものだった。
開設初日。
興味津々で訪れた子どもたちや旅人が、展示品に見入っていた。
「これって、何に使う道具だったの?」
「へぇー!昔の人って、こんな風に布を染めてたんだ!」
その質問に答えるのは、品を提供した住民たちだ。
「これはね、鍛冶屋の火加減を調整する“風送り器”って言ってね……」
「この模様は、“豊作”を祈る意味があるのよ」
“語り”が“紡がれる”。そこにはもう、ただの“物”ではない、人と人を結ぶ時間があった。
「……すごいな。俺、ただの雑貨屋だったはずなんだけど」
「“ただの”じゃないでしょ。町の人が集まる場で、“未来へのきっかけ”を作ってる」
ルファがそう言って微笑む。
「でもまあ、これからが本番だな。続けることが大事だから」
「そうね。あとは、“遊び心”も忘れずに」
「遊び心……たとえば?」
「たとえば、“昔のレシピで作った幻のクッキー試食会”とか?」
「絶対まずいやつじゃんそれ!」
「いや、改良すれば美味しくなるかもよ?」
冗談のようで、本気にも聞こえるのがルファのすごいところだ。それでも、ふと考える。
この町には、こんなにも語るべき過去があって、つながる未来がある。
それに気づけたのは、雑貨屋という“場所”を通して、人と関わり続けてきたからだ。
「山田、これからどうするの?もっと店、広げていくの?」
「うーん……まだ決めてないけど、方向性は見えた気がする」
「どんな?」
「“町と一緒に育つ店”。それがいいなって」
ルファは少し目を細めて言った。
「それ、すごく山田らしいね」
「そっか。……だったら、間違ってないな」
夕暮れ時。
文化コーナーの棚に並んだ一枚の手紙を読んだ。
《この町で過ごした日々が、今も心を温めてくれます。小さな品に詰まった、大きな思い出をありがとう。》
町を離れた元住民から届いた手紙だった。
「未来への一歩って、過去とつながってるんだな」
「……そうだね。だからこそ、今日の一歩はきっと、大事なんだよ」
ルファが静かに答える。
俺はその言葉を噛みしめながら、新しい展示札にペンを走らせた。
《この町の記憶を、次の誰かへ》
店の灯りが、今日も静かに灯る。
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