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伝承時代:海上交易路・大商隊の青年
【海上交易路・大商隊の青年】 第四話:「異国港町の洗礼」
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船が港へ近づくにつれ、潮の香りが胸の奥を刺激した。
見上げれば、湾に沿って色鮮やかな町並みが広がっている。赤や青の陶板屋根が並び、岸には無数の帆船が影を落としていた。
波止場には石造りの大きな塔。入り組んだ水路が町の奥まで続き、異国の息吹をそのまま運んでくる。
――異国の港。
地図の上だけで知っていた場所に、今まさに足を踏み入れようとしている。
甲板には緊張とざわめきが満ちていた。
ガンザスは積み荷の最終確認、フィリカは書類を抱え、テルナはしっぽを揺らして周囲の気配を探る。
バシュラは証票を、モルガとロルドは船の整備を。
異国の土地に降り立つ前の、ぎりぎりの準備だった。
「さあ、いよいよだな」
ガンザスの低い声に、僕は息を飲む。
港町の作業員や役人たちは、見慣れない服と体格をしていた。
浅黒い男、背の高い女、複雑な模様の衣をまとう者――そのすべてが異国の空気をまとっている。
水牛の引く荷車、香草と果実の匂い、染料の香りまで混じって、息を吸うごとに新しい文化が押し寄せてくるようだった。
やがて船が岸へ寄せられると、港の監督官が鋭い声を張り上げる。
フィリカがすぐ反応し、現地語で返した。
――心強い。
言葉の壁は、この旅の最大の難所でもある。
検査はこれまでの港と比べ物にならないほど厳格だった。
バシュラは渋い顔で証票を渡し、ガンザスは積み荷を一つずつ開けて見せる。
テルナは荷物を守るように立ち、耳だけをぴくりと動かして周囲の声を拾っていた。
役人たちは短い言葉で合図を交わし、ときどき冷たい目でこちらを眺める。
挨拶すら通じない場面があり、異文化の壁がひしひしと迫ってくる。
◇◇◇
手続きが終わると、宗教儀礼の場へ案内された。
白い石の門。
そこで待っていた祭司は長い杖を持ち、異国の文様をまとっていた。
――浄めの儀式。
現地で航海者と商人が最初に通る祈りだという。
神官の歌う祈りは、言葉ではなく旋律で流れ込んでくるようだった。
白い花びらが降り、香の煙がゆらりと漂う。
僕はむせ込み、テルナは鼻をひくつかせる。
「なんか、落ち着かない……」
テルナの小声に僕も同意した。
ガンザスは腕を組み、祭司の動きをまじまじと観察している。
ドワーフの郷では宗教儀式が少ないため、この光景自体が『異世界』なのだろう。
フィリカは祈りの旋律に耳を澄ませ、バシュラは祭司の呪文に、数字や理屈が感じられず、面白くなさそうに眉をしかめている。
それぞれが文化の違いに戸惑いながらも、同時に少しだけ興味を抱いていた。
私の中で問いが生まれる。
――異なる信じ方は、壁になるのか。それとも扉になるのか。
◇◇◇
大通りは、儀式以上に異国そのものだった。
鮮やかな衣服、陶器、香辛料、果実。
太鼓や笛の音、人々の笑い声が溶け合い、まるで世界中から音と文化が押し寄せているようだった。
テルナは目を輝かせ、フィリカは現地語の微妙な言い回しを耳で追い、バシュラは珍しい鉱石を凝視し、ロルドは水路の仕組みに見入る。
ガンザスは警戒心を隠さず、ゆっくりと周囲を見渡していた。
この町の人々は僕たち商隊に興味と警戒の入り混じった視線を向けてきた。
遠巻きの視線。小声の囁き。
この町にも『壁』はある。
そのなか、一人の男が歩み寄ってくる。
浅黒い肌、灰色の目――穏やかな笑みをたたえた案内人、セイヤンだった。
「ようこそ、中立港へ。皆さん、旅の疲れは出ていませんか」
声は落ち着いていて、何より『聞く耳を持つ人』の響きがあった。
ガンザスが軽く頭を下げる。
「案内を頼みたい。この町の決まりと、必要な場所を教えてほしい」
「もちろんです。中立港は少し独特ですが……慣れれば心地よい場所ですよ」
セイヤンは町の歴史、言語、商人たちの区画、信仰の違い、しきたり――
必要な情報を簡潔に、丁寧に教えてくれる。
「ここは交易と中立が守られる場所です。争いや差別は禁じられていますが、宗教や言葉の違いから小さな衝突は絶えません。もし困ったことがあれば、私か港の職員を頼ってください」
テルナが首を傾げる。
「なんで、あんなに祈り方が違うの?」
「祈り方は、その民族の生き方ですからね。違いを認め合うことこそ、この町の強さなのです」
バシュラは納得しないように眉を寄せた。
「そんな曖昧なことで町が保てるのか?」
「ええ。だからこそ、ここは『中立港』なのです」
セイヤンの目は真っすぐで、その静かな強さに僕の胸が少し揺れた。
町の中央広場を抜けると、民族ごとに区画が分かれ、さまざまな祈りと言葉が交差していた。
セイヤンが足を止める。
「この町で暮らすには、自分の『違い』を大切にしつつ、他者の『違い』も認めることが大切です。それさえできれば、どこでも歓迎されますよ」
その言葉は、胸の奥でゆっくり沈み込んだ。
私の中で、静かな問いが再び広がる。
――違いを壁にするか、橋にするか。
異国の空気は、確かに僕の心を揺らしていた。
見上げれば、湾に沿って色鮮やかな町並みが広がっている。赤や青の陶板屋根が並び、岸には無数の帆船が影を落としていた。
波止場には石造りの大きな塔。入り組んだ水路が町の奥まで続き、異国の息吹をそのまま運んでくる。
――異国の港。
地図の上だけで知っていた場所に、今まさに足を踏み入れようとしている。
甲板には緊張とざわめきが満ちていた。
ガンザスは積み荷の最終確認、フィリカは書類を抱え、テルナはしっぽを揺らして周囲の気配を探る。
バシュラは証票を、モルガとロルドは船の整備を。
異国の土地に降り立つ前の、ぎりぎりの準備だった。
「さあ、いよいよだな」
ガンザスの低い声に、僕は息を飲む。
港町の作業員や役人たちは、見慣れない服と体格をしていた。
浅黒い男、背の高い女、複雑な模様の衣をまとう者――そのすべてが異国の空気をまとっている。
水牛の引く荷車、香草と果実の匂い、染料の香りまで混じって、息を吸うごとに新しい文化が押し寄せてくるようだった。
やがて船が岸へ寄せられると、港の監督官が鋭い声を張り上げる。
フィリカがすぐ反応し、現地語で返した。
――心強い。
言葉の壁は、この旅の最大の難所でもある。
検査はこれまでの港と比べ物にならないほど厳格だった。
バシュラは渋い顔で証票を渡し、ガンザスは積み荷を一つずつ開けて見せる。
テルナは荷物を守るように立ち、耳だけをぴくりと動かして周囲の声を拾っていた。
役人たちは短い言葉で合図を交わし、ときどき冷たい目でこちらを眺める。
挨拶すら通じない場面があり、異文化の壁がひしひしと迫ってくる。
◇◇◇
手続きが終わると、宗教儀礼の場へ案内された。
白い石の門。
そこで待っていた祭司は長い杖を持ち、異国の文様をまとっていた。
――浄めの儀式。
現地で航海者と商人が最初に通る祈りだという。
神官の歌う祈りは、言葉ではなく旋律で流れ込んでくるようだった。
白い花びらが降り、香の煙がゆらりと漂う。
僕はむせ込み、テルナは鼻をひくつかせる。
「なんか、落ち着かない……」
テルナの小声に僕も同意した。
ガンザスは腕を組み、祭司の動きをまじまじと観察している。
ドワーフの郷では宗教儀式が少ないため、この光景自体が『異世界』なのだろう。
フィリカは祈りの旋律に耳を澄ませ、バシュラは祭司の呪文に、数字や理屈が感じられず、面白くなさそうに眉をしかめている。
それぞれが文化の違いに戸惑いながらも、同時に少しだけ興味を抱いていた。
私の中で問いが生まれる。
――異なる信じ方は、壁になるのか。それとも扉になるのか。
◇◇◇
大通りは、儀式以上に異国そのものだった。
鮮やかな衣服、陶器、香辛料、果実。
太鼓や笛の音、人々の笑い声が溶け合い、まるで世界中から音と文化が押し寄せているようだった。
テルナは目を輝かせ、フィリカは現地語の微妙な言い回しを耳で追い、バシュラは珍しい鉱石を凝視し、ロルドは水路の仕組みに見入る。
ガンザスは警戒心を隠さず、ゆっくりと周囲を見渡していた。
この町の人々は僕たち商隊に興味と警戒の入り混じった視線を向けてきた。
遠巻きの視線。小声の囁き。
この町にも『壁』はある。
そのなか、一人の男が歩み寄ってくる。
浅黒い肌、灰色の目――穏やかな笑みをたたえた案内人、セイヤンだった。
「ようこそ、中立港へ。皆さん、旅の疲れは出ていませんか」
声は落ち着いていて、何より『聞く耳を持つ人』の響きがあった。
ガンザスが軽く頭を下げる。
「案内を頼みたい。この町の決まりと、必要な場所を教えてほしい」
「もちろんです。中立港は少し独特ですが……慣れれば心地よい場所ですよ」
セイヤンは町の歴史、言語、商人たちの区画、信仰の違い、しきたり――
必要な情報を簡潔に、丁寧に教えてくれる。
「ここは交易と中立が守られる場所です。争いや差別は禁じられていますが、宗教や言葉の違いから小さな衝突は絶えません。もし困ったことがあれば、私か港の職員を頼ってください」
テルナが首を傾げる。
「なんで、あんなに祈り方が違うの?」
「祈り方は、その民族の生き方ですからね。違いを認め合うことこそ、この町の強さなのです」
バシュラは納得しないように眉を寄せた。
「そんな曖昧なことで町が保てるのか?」
「ええ。だからこそ、ここは『中立港』なのです」
セイヤンの目は真っすぐで、その静かな強さに僕の胸が少し揺れた。
町の中央広場を抜けると、民族ごとに区画が分かれ、さまざまな祈りと言葉が交差していた。
セイヤンが足を止める。
「この町で暮らすには、自分の『違い』を大切にしつつ、他者の『違い』も認めることが大切です。それさえできれば、どこでも歓迎されますよ」
その言葉は、胸の奥でゆっくり沈み込んだ。
私の中で、静かな問いが再び広がる。
――違いを壁にするか、橋にするか。
異国の空気は、確かに僕の心を揺らしていた。
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