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伝承時代:冒険者ギルド誕生譚
【冒険者ギルド誕生譚】 第七話:「灯る決意」
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夜の気配が都市全体を覆い、私たちは拠点を離れたまま、石畳の上で足を止めていた。
乾いた風が衣服の隙間を抜け、どこか遠くでは火の手のような赤い影が揺れている。細く響く鐘の音、揺れる影。誰の呼吸も、少し重く沈んでいた。
バルドは広場の方をじっと見つめ、低くつぶやく。
「……俺は行く。何が起きてるか確かめねぇと、落ち着かねぇ」
グリンは腕を組んだまましばらく黙り、ようやく不満げに眉を寄せた。
「無茶はするなよ。お前が突っ走ると、わしらの手間が増えるんじゃ」
セレナは胸元の小さな布袋をぎゅっと握りしめたまま、言葉を選ぶように息を吸う。
「私……怖いだけじゃなくて、自分の目でちゃんと見たい。でも、どうしたらいいか分からないの」
サビーネは不安げに皆を見回し、猫耳がぴんと立っている。
ハリィは袖をぎゅっと握ったまま、小さな声で告げた。
「……僕、誰かが泣くとこ見たくない。怖いけど……できることがあるなら、やってみたい」
空気が揺れたのは、そのときだった。
セレナがそっと視線を落とし――次の瞬間、駆け出した。
「……ごめん。私、師匠のところに行ってくる。……みんな、待っててくれたらうれしい」
言い終えると、彼女は夜の小道へすっと消えていった。引き止めることなど、誰にもできなかった。
残された私たちの間に、静かな沈黙が降りる。
グリンがぽつりと言う。
「無理せんでいいんじゃぞ、セレナ……」
バルドは拳を固く握ったまま、遠くの闇をにらむように立ち尽くす。
リュミナは周囲を見回し、静かだが芯のある声で言った。
「怖いよ。でも……街を見捨てたくない。ここで引いたら、きっと何も変わらない気がする」
ハリィは小さく震える声で続けた。
「……僕も逃げたくない。ちゃんと最後まで見届けたい」
沈黙と揺らぎの間で、皆の心が軋んでいるのが分かる。
――この『間』の中に、誰の心にも揺らぎが残っている。
選択のためらいと葛藤が、沈黙の空気に染み渡る。
私は、ただその震えを、観察者として静かに見届けていた。
バルドが短く宣言する。
「来られるやつだけでいい。無理はするな」
サビーネは肩をすくめ、不安を隠すように笑った。
「……み、みんなが行くなら、私も行くよ」
グリンも無言でうなずく。
◇◇◇
私たちが走り出した先、夜道の端からもう一つの足音が近づいてきた。
石畳の影から現れたのは、組合服を羽織った男――ゼス。
浅黒い肌に刻まれた傷、鋭い目つき。都市組合を率いる、バルドの因縁深い相手だ。
「バルド……お前らか。こんな時に、余計な騒ぎはごめんだぜ」
ゼスは周囲を見回しながら、低く吐き捨てる。
「街を守るつもりなら、勝手な真似すんな。ギルドだか何だか知らねぇが、ここの連中は簡単にお前らを信じねぇよ」
バルドはまっすぐゼスを見返し、静かに言う。
「俺たちは俺たちのやり方で守る。……古いやり方だけじゃ、もうもたねぇ」
ゼスは鼻で笑い、軽く肩をすくめる。
「夢みたいなこと言ってんじゃねぇよ。お前らは何も分かっちゃいねぇ」
その一言で、輪の空気が一気に張りつめる。
サビーネは視線を伏せ、ハリィは肩をすぼめる。
グリンは二人の間に立つように両手を広げ、制するように低く言った。
「やめんか。今は争っとる場合じゃなかろう」
リュミナは一歩前に出て、帳面を抱きしめた。
「分かってる。でも……誰かが動かなきゃ何も変わらないんだって。私は、街の人たちを見捨てたくない」
ゼスの視線が、ぴたりとリュミナに向く。
「偉そうに言うなよ。……なら見せてみろ。口だけじゃ、街は守れねぇ」
リュミナの指先がかすかに震えた。
けれど、彼女は深く息を吸い――
「お願い……どうか――」
その瞬間、彼女の胸元から淡い光がこぼれた。
夜気の色が変わり、帳面の紙片がふわりと舞う。
掌の上に、ひとすじの『光の揺らめき』が灯る。
私も含めて、誰もが息を呑んだ。
夜の闇と焚き火の明かりでもない、淡い光がリュミナの掌に揺れていた。
静けさの中、誰も動けなかった。
ハリィは息を呑み、サビーネは驚きで耳を震わせる。
グリンは目を丸くし、呟く。
「……精霊魔法、じゃと……?」
続けて静かに、けれどどこか感嘆のこもった声で言う。
「――おぬし、精霊に選ばれたんじゃな……」
バルドでさえ言葉を失い、ただその光を見つめている。
夜の空気がわずかに震え、光が彼女の周囲をそっと包む。
リュミナは唇に小さな祈りを刻むように呟いた。
「これが……私の精霊魔法。怖いけど、皆のために使いたい。……私、逃げない」
ゼスはしばらく黙ったまま光を睨み、深く息を吐くように肩を落とした。
「……勝手にしろ。ただし、責任は取れよ。俺は……組合のやり方で動く」
吐き捨てるようにそう言うと、ゼスは背を向け、闇の中へと姿を消す。
◇◇◇
ゼスの足音が遠のいたあとも、場には静かな衝撃だけが残っていた。
まだ胸の鼓動が落ち着かない。
バルドはすぐに方向を向き直り、短く言う。
「行くぞ。状況を見てくる」
私たちは駆け足で石畳を進み始めた。
遠くで火の手が揺れ、叫び声が混じる。皆の表情には、恐怖と覚悟が入り混じっている。
走りながら、グリンがぼやく。
「まったく……厄介な時に厄介事が重なるもんじゃ」
サビーネは肩を寄せながら、小さく言った。
「だ、大丈夫……きっと、なんとかなる……はず」
気休めにもならない言葉なのに、それでも誰も否定しなかった。
皆が皆、心のどこかでその希望に縋っていた。
そのとき――
後ろから、慌ただしい足音が近づいてくる。
「ま、待って――!」
振り返ると、息を切らしたセレナが追いついてきた。
手には何かをぎゅっと握りしめている。
「ごめん……師匠に会ってきたの。これ、魔法具なんだって。願いを込めれば……ほんの少しだけど、守りとか攻撃の『魔法』が使えるようになるって……」
彼女は握っていた指輪をそっと見せる。
月光を受けて、淡い銀色が揺れた。
「想いで使いなさいって言われたの。私……みんなのそばで、ちゃんと『選びたい』って思った」
セレナの声は震えていたが、その瞳には迷いのない光が灯っていた。
指輪は、彼女が願いを込めるたびにほのかに輝く。
サビーネが息をのむ。
「せ、セレナ……それって……!」
グリンも目を細め、感心したようにうなずく。
「おお……魔法具か。こりゃ頼もしいのう」
バルドは少しだけ走る速度を緩め、振り返って言った。
「……決めたなら、頼りにするぜ」
セレナは強くうなずく。その横で、リュミナも帳面を抱きしめながら静かに言った。
「私も……この街を、仲間を守りたい」
彼女の掌がふっと光り、精霊の気配が夜気を揺らす。
セレナの指輪の輝きと重なり、二つの光が私たちの足元を照らした。
◇◇◇
私たちは駆ける。
息が荒く、胸は痛いほどに脈打っている。
それでも――誰も歩みを止めなかった。
バルドが短く声を発する。
「行くぞ。……今夜だけは、俺たちで立ち向かう」
その言葉に、誰もが強くうなずいた。
遠くで炎が揺れ、都市の奥底から新たな気配が立ち上る。
恐怖も、迷いも――仲間としての『選択』も、すべてこの歩みに込めて。
乾いた風が衣服の隙間を抜け、どこか遠くでは火の手のような赤い影が揺れている。細く響く鐘の音、揺れる影。誰の呼吸も、少し重く沈んでいた。
バルドは広場の方をじっと見つめ、低くつぶやく。
「……俺は行く。何が起きてるか確かめねぇと、落ち着かねぇ」
グリンは腕を組んだまましばらく黙り、ようやく不満げに眉を寄せた。
「無茶はするなよ。お前が突っ走ると、わしらの手間が増えるんじゃ」
セレナは胸元の小さな布袋をぎゅっと握りしめたまま、言葉を選ぶように息を吸う。
「私……怖いだけじゃなくて、自分の目でちゃんと見たい。でも、どうしたらいいか分からないの」
サビーネは不安げに皆を見回し、猫耳がぴんと立っている。
ハリィは袖をぎゅっと握ったまま、小さな声で告げた。
「……僕、誰かが泣くとこ見たくない。怖いけど……できることがあるなら、やってみたい」
空気が揺れたのは、そのときだった。
セレナがそっと視線を落とし――次の瞬間、駆け出した。
「……ごめん。私、師匠のところに行ってくる。……みんな、待っててくれたらうれしい」
言い終えると、彼女は夜の小道へすっと消えていった。引き止めることなど、誰にもできなかった。
残された私たちの間に、静かな沈黙が降りる。
グリンがぽつりと言う。
「無理せんでいいんじゃぞ、セレナ……」
バルドは拳を固く握ったまま、遠くの闇をにらむように立ち尽くす。
リュミナは周囲を見回し、静かだが芯のある声で言った。
「怖いよ。でも……街を見捨てたくない。ここで引いたら、きっと何も変わらない気がする」
ハリィは小さく震える声で続けた。
「……僕も逃げたくない。ちゃんと最後まで見届けたい」
沈黙と揺らぎの間で、皆の心が軋んでいるのが分かる。
――この『間』の中に、誰の心にも揺らぎが残っている。
選択のためらいと葛藤が、沈黙の空気に染み渡る。
私は、ただその震えを、観察者として静かに見届けていた。
バルドが短く宣言する。
「来られるやつだけでいい。無理はするな」
サビーネは肩をすくめ、不安を隠すように笑った。
「……み、みんなが行くなら、私も行くよ」
グリンも無言でうなずく。
◇◇◇
私たちが走り出した先、夜道の端からもう一つの足音が近づいてきた。
石畳の影から現れたのは、組合服を羽織った男――ゼス。
浅黒い肌に刻まれた傷、鋭い目つき。都市組合を率いる、バルドの因縁深い相手だ。
「バルド……お前らか。こんな時に、余計な騒ぎはごめんだぜ」
ゼスは周囲を見回しながら、低く吐き捨てる。
「街を守るつもりなら、勝手な真似すんな。ギルドだか何だか知らねぇが、ここの連中は簡単にお前らを信じねぇよ」
バルドはまっすぐゼスを見返し、静かに言う。
「俺たちは俺たちのやり方で守る。……古いやり方だけじゃ、もうもたねぇ」
ゼスは鼻で笑い、軽く肩をすくめる。
「夢みたいなこと言ってんじゃねぇよ。お前らは何も分かっちゃいねぇ」
その一言で、輪の空気が一気に張りつめる。
サビーネは視線を伏せ、ハリィは肩をすぼめる。
グリンは二人の間に立つように両手を広げ、制するように低く言った。
「やめんか。今は争っとる場合じゃなかろう」
リュミナは一歩前に出て、帳面を抱きしめた。
「分かってる。でも……誰かが動かなきゃ何も変わらないんだって。私は、街の人たちを見捨てたくない」
ゼスの視線が、ぴたりとリュミナに向く。
「偉そうに言うなよ。……なら見せてみろ。口だけじゃ、街は守れねぇ」
リュミナの指先がかすかに震えた。
けれど、彼女は深く息を吸い――
「お願い……どうか――」
その瞬間、彼女の胸元から淡い光がこぼれた。
夜気の色が変わり、帳面の紙片がふわりと舞う。
掌の上に、ひとすじの『光の揺らめき』が灯る。
私も含めて、誰もが息を呑んだ。
夜の闇と焚き火の明かりでもない、淡い光がリュミナの掌に揺れていた。
静けさの中、誰も動けなかった。
ハリィは息を呑み、サビーネは驚きで耳を震わせる。
グリンは目を丸くし、呟く。
「……精霊魔法、じゃと……?」
続けて静かに、けれどどこか感嘆のこもった声で言う。
「――おぬし、精霊に選ばれたんじゃな……」
バルドでさえ言葉を失い、ただその光を見つめている。
夜の空気がわずかに震え、光が彼女の周囲をそっと包む。
リュミナは唇に小さな祈りを刻むように呟いた。
「これが……私の精霊魔法。怖いけど、皆のために使いたい。……私、逃げない」
ゼスはしばらく黙ったまま光を睨み、深く息を吐くように肩を落とした。
「……勝手にしろ。ただし、責任は取れよ。俺は……組合のやり方で動く」
吐き捨てるようにそう言うと、ゼスは背を向け、闇の中へと姿を消す。
◇◇◇
ゼスの足音が遠のいたあとも、場には静かな衝撃だけが残っていた。
まだ胸の鼓動が落ち着かない。
バルドはすぐに方向を向き直り、短く言う。
「行くぞ。状況を見てくる」
私たちは駆け足で石畳を進み始めた。
遠くで火の手が揺れ、叫び声が混じる。皆の表情には、恐怖と覚悟が入り混じっている。
走りながら、グリンがぼやく。
「まったく……厄介な時に厄介事が重なるもんじゃ」
サビーネは肩を寄せながら、小さく言った。
「だ、大丈夫……きっと、なんとかなる……はず」
気休めにもならない言葉なのに、それでも誰も否定しなかった。
皆が皆、心のどこかでその希望に縋っていた。
そのとき――
後ろから、慌ただしい足音が近づいてくる。
「ま、待って――!」
振り返ると、息を切らしたセレナが追いついてきた。
手には何かをぎゅっと握りしめている。
「ごめん……師匠に会ってきたの。これ、魔法具なんだって。願いを込めれば……ほんの少しだけど、守りとか攻撃の『魔法』が使えるようになるって……」
彼女は握っていた指輪をそっと見せる。
月光を受けて、淡い銀色が揺れた。
「想いで使いなさいって言われたの。私……みんなのそばで、ちゃんと『選びたい』って思った」
セレナの声は震えていたが、その瞳には迷いのない光が灯っていた。
指輪は、彼女が願いを込めるたびにほのかに輝く。
サビーネが息をのむ。
「せ、セレナ……それって……!」
グリンも目を細め、感心したようにうなずく。
「おお……魔法具か。こりゃ頼もしいのう」
バルドは少しだけ走る速度を緩め、振り返って言った。
「……決めたなら、頼りにするぜ」
セレナは強くうなずく。その横で、リュミナも帳面を抱きしめながら静かに言った。
「私も……この街を、仲間を守りたい」
彼女の掌がふっと光り、精霊の気配が夜気を揺らす。
セレナの指輪の輝きと重なり、二つの光が私たちの足元を照らした。
◇◇◇
私たちは駆ける。
息が荒く、胸は痛いほどに脈打っている。
それでも――誰も歩みを止めなかった。
バルドが短く声を発する。
「行くぞ。……今夜だけは、俺たちで立ち向かう」
その言葉に、誰もが強くうなずいた。
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