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伝承時代:冒険者ギルド誕生譚
【冒険者ギルド誕生譚】第八話:「危機の中の団結」
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都市の広場には、早くも不安のざわめきが広がっていた。
夜の帳が降りるなか、専門区街から続々と人々が集まってくる。
市場街からは商人たちが慌ただしく品物を片付け、職人街からは分厚い手袋の男たちが戸締まりを急ぐ姿があった。
道のあちこちでは、松明を掲げた見張りの兵士たちが動き回り、住人や駆け足の子供たちの影が、次々とその光に重なっていく。
ひとつの都市に、ざわめきと緊張が同時に満ちていた。
その中を、私たちギルドの仲間も中央へ向かって歩いていく。
リュミナは帳面を胸に抱き、光の中にあぶり出される住人たちの表情を静かに追っていた。
バルドは斧を背負い、グリンはハンマーを肩に担いで、周囲の物音に耳を澄ませている。
私の呼吸は、広場へ近づくほどに重くなる空気を吸い込んだ。
――ここは都市の心臓部。
専門区街をつなぎ、日々の営みや想いが交差する場所。
恐れと希望、沈黙とざわめきが層になり、夜の色をさらに濃くしていく。
広場の一角で、見張りの兵士たちが松明を掲げていた。
セレナがそっと近づき、声を落として尋ねる。
「……何が来るの? 魔物、それとも盗賊?」
兵士は焦りを隠せないまま、首を振った。
「まだはっきりしないんだ。森の方で蹄の音がしたって話もあるし、盗賊だと言う者もいる。魔物かもしれないって騒ぐ者もいてな……とにかく、皆で警戒してるんだが、正体はまだ……」
リュミナが息をひとつのみ込み、帳面を抱えた腕に力を込めた。
私は夜風の中の気配の揺らぎに耳を澄ませる。
――誰も答えを持っていない。
その不確かさが広場全体を満たし、住人も見張りも私たちも、同じ緊張を共有している。
バルドは広場の外縁で大きな背中を揺らし、グリンは松明の光を背に荷車の影をじっと見つめる。
ハリィは住人たちの誘導に走り回っている。
サビーネは広場の片隅で、防具のほつれを器用に結び直していた。
その静かな手元の動きが、ざわつく空気の中で唯一の落ち着きをもたらしている。
私は仲間を見渡し、胸の奥に問いを沈める。
――団結とは、ただ剣を振るうことだけではない。
それぞれが今できることを、静かに積み重ねている。
その静けさが、この都市を包む盾になれば、と。
私たちはバルドの周りに集まり直した。
短い視線が交差する。
リュミナは帳面を開き、そっと指をページに置いた。
淡く光がにじむ。
彼女は小さくうなずき、夜空に囁く。
「……精霊よ。この都市を守って」
その祈りは静かで、優しい。
帳面の光がふわりと揺れ、夜気に小さな風が生まれた。
その風はさざ波のように専門区街の方へ流れていく。
セレナは指輪を握りしめ、周囲の警戒を続けていた。
そのとき――重い足音が、石畳に深い響きを刻む。
「道具には、心を込めろ!」
よく通る渋い声だった。
バルドが振り返り、わずかに目を見開く。
「……マルスの親方」
現れたのは、分厚い腕に大槌を提げた鍛冶師。
職人街の重鎮であり、バルドの師匠――マルスだった。
無骨な風貌と、寡黙な眼差しが広場の空気を一段と引き締める。
「わしも加わる。後ろは任せろ」
その短い言葉に、バルドが力強くうなずく。
師弟の間に交わる無言の呼吸を、私は静かに受け止めていた。
やがて専門区街の人々も広場に集まり、さまざまな視線が交差していく。
都市が一つに集まろうとしていた。
そのとき――
遠い森の方角で、蹄の音が濃くなった。
次の瞬間、夜空を揺らすような地響きが広場を震わせた。
黒褐色の巨体。
鋭い牙。
怒りをたたえた瞳。
黒褐色の巨体――ワイルドボアの群れが、夜の闇を裂くように広場へ突入した。
蹄が石畳を叩き、鋭い牙が松明の火を反射する。
怒号のような咆哮が、夜空の底を震わせた。
広場に悲鳴が走る。
土煙が舞い上がり、人々の影が乱れて揺れた。
バルドが斧を引き抜き、咆哮のように叫ぶ。
「構えろ! ここは通させねぇ!」
バルドが前に出ると同時に、マルスが大槌を肩に担ぎ、その巨体で仲間と住人を守る壁となる。
先頭のワイルドボアが突進してくる。
風圧が肌を刺した瞬間――
リュミナは帳面に指を添え、短く息を吐いた。
「……風の精霊よ。ここに、壁を」
帳面からふわりと淡い光が広がり、彼女の足元から風が巻き上がる。
見えない壁が生まれ、突進してきたワイルドボアの鼻先を叩いた。
巨体が弾かれるように横に滑り、砂煙を巻き上げてよろめく。
さらに二頭、三頭と群れが押し寄せる。
セレナは指輪を嵌めた手を握りしめ、かすかに震える息を抑えて願いを込めた。
「……皆を守って」
指輪が淡く光を放ち、青白い膜のような結界が仲間の前に立ち上がる。
透明な壁は夜気そのものを凝縮したように光り、ワイルドボアの突進を正面から受け止めた。
ドン、と重い衝撃。
結界に波紋が広がるたび、光が淡く揺れる。
それでも結界はびくともしない。
バルドが斧を振り下ろし、マルスの大槌が魔物の横腹を叩く。
鈍い音と金属音、そしてワイルドボアの咆哮が広場に響き渡る。
リュミナは再び帳面へ集中し、精霊に願いを送る。
風が唸り、渦巻く突風がワイルドボアの足元をすくい、数頭がまとめて転がった。
砂埃や小石が巻き上がり、闇の中で光が乱反射する。
セレナの指輪が輝きを増し、ワイルドボアの牙や蹄の一撃を透明な結界が完全に防ぐ。
岩片や蹄の破片が結界に弾かれ、住人たちには一つも届かない。
グリンは荷車を盾に通路を塞ぎ、ハリィは子どもたちを導いて退避させる。
サビーネは逃げ遅れた住人を見つけては退避させている。
ワイルドボアがひときわ大きな咆哮をあげ、結界へ突っ込む。
だが、淡い光の壁は揺るがない。
まるで夜の静けさそのものが支えているようだった。
バルドとマルスが息を合わせ、ワイルドボアの頭部へ斧と大槌を連続して叩き込む。
重い音が響き、ワイルドボアがよろめいた。
群れの勢いが、目に見えて弱まっていく。
リュミナの帳面の光がさらに強くなり、風が一層荒ぶる。
突風が最後の一頭を横に弾き飛ばし、砂煙の中へ沈ませた。
――しかし。
一頭だけ、まだ牙を剥いて跳ね上がってきた。
私の足が、自然と前に出た。
ワイルドボアが一直線に突進してくる。
耳元で風が悲鳴をあげ、地面の砂が舞い上がった。
私は剣を大きく振りかぶった。
突進を横へ躱し、その脇腹へ刃を叩き込む。
鉄のような毛並みから衝撃が走る。
腕が痺れても、剣を緩めない。
ワイルドボアの足元へ切っ先を滑り込ませると、牙が耳元をかすめた。
その瞬間――
グリンのハンマーが魔物の側面から叩きつけられ、バルドの斧が続いた。
息がぴたりと重なる。
リュミナの精霊魔法の風が私の身体をくぐり抜け、前方で空気を裂く。
私はさらにもう一歩踏み込み、剣を振り抜いた。
ワイルドボアの巨体が揺れ、そして――倒れた。
衝撃が地面に吸い込まれ、静寂が戻る。
仲間たちの影がすぐそばで動いていた。
私はそのすべてを見つめ、同時に観察者としての声が胸の奥で響く。
――なぜ、人は危機の中で隣に立とうとするのか。
ワイルドボアの巨体が倒れる音が、夜空に吸い込まれた。
私の呼吸が荒く、手のひらに残る剣の感触が、今も確かに熱い。
夜の帳が降りるなか、専門区街から続々と人々が集まってくる。
市場街からは商人たちが慌ただしく品物を片付け、職人街からは分厚い手袋の男たちが戸締まりを急ぐ姿があった。
道のあちこちでは、松明を掲げた見張りの兵士たちが動き回り、住人や駆け足の子供たちの影が、次々とその光に重なっていく。
ひとつの都市に、ざわめきと緊張が同時に満ちていた。
その中を、私たちギルドの仲間も中央へ向かって歩いていく。
リュミナは帳面を胸に抱き、光の中にあぶり出される住人たちの表情を静かに追っていた。
バルドは斧を背負い、グリンはハンマーを肩に担いで、周囲の物音に耳を澄ませている。
私の呼吸は、広場へ近づくほどに重くなる空気を吸い込んだ。
――ここは都市の心臓部。
専門区街をつなぎ、日々の営みや想いが交差する場所。
恐れと希望、沈黙とざわめきが層になり、夜の色をさらに濃くしていく。
広場の一角で、見張りの兵士たちが松明を掲げていた。
セレナがそっと近づき、声を落として尋ねる。
「……何が来るの? 魔物、それとも盗賊?」
兵士は焦りを隠せないまま、首を振った。
「まだはっきりしないんだ。森の方で蹄の音がしたって話もあるし、盗賊だと言う者もいる。魔物かもしれないって騒ぐ者もいてな……とにかく、皆で警戒してるんだが、正体はまだ……」
リュミナが息をひとつのみ込み、帳面を抱えた腕に力を込めた。
私は夜風の中の気配の揺らぎに耳を澄ませる。
――誰も答えを持っていない。
その不確かさが広場全体を満たし、住人も見張りも私たちも、同じ緊張を共有している。
バルドは広場の外縁で大きな背中を揺らし、グリンは松明の光を背に荷車の影をじっと見つめる。
ハリィは住人たちの誘導に走り回っている。
サビーネは広場の片隅で、防具のほつれを器用に結び直していた。
その静かな手元の動きが、ざわつく空気の中で唯一の落ち着きをもたらしている。
私は仲間を見渡し、胸の奥に問いを沈める。
――団結とは、ただ剣を振るうことだけではない。
それぞれが今できることを、静かに積み重ねている。
その静けさが、この都市を包む盾になれば、と。
私たちはバルドの周りに集まり直した。
短い視線が交差する。
リュミナは帳面を開き、そっと指をページに置いた。
淡く光がにじむ。
彼女は小さくうなずき、夜空に囁く。
「……精霊よ。この都市を守って」
その祈りは静かで、優しい。
帳面の光がふわりと揺れ、夜気に小さな風が生まれた。
その風はさざ波のように専門区街の方へ流れていく。
セレナは指輪を握りしめ、周囲の警戒を続けていた。
そのとき――重い足音が、石畳に深い響きを刻む。
「道具には、心を込めろ!」
よく通る渋い声だった。
バルドが振り返り、わずかに目を見開く。
「……マルスの親方」
現れたのは、分厚い腕に大槌を提げた鍛冶師。
職人街の重鎮であり、バルドの師匠――マルスだった。
無骨な風貌と、寡黙な眼差しが広場の空気を一段と引き締める。
「わしも加わる。後ろは任せろ」
その短い言葉に、バルドが力強くうなずく。
師弟の間に交わる無言の呼吸を、私は静かに受け止めていた。
やがて専門区街の人々も広場に集まり、さまざまな視線が交差していく。
都市が一つに集まろうとしていた。
そのとき――
遠い森の方角で、蹄の音が濃くなった。
次の瞬間、夜空を揺らすような地響きが広場を震わせた。
黒褐色の巨体。
鋭い牙。
怒りをたたえた瞳。
黒褐色の巨体――ワイルドボアの群れが、夜の闇を裂くように広場へ突入した。
蹄が石畳を叩き、鋭い牙が松明の火を反射する。
怒号のような咆哮が、夜空の底を震わせた。
広場に悲鳴が走る。
土煙が舞い上がり、人々の影が乱れて揺れた。
バルドが斧を引き抜き、咆哮のように叫ぶ。
「構えろ! ここは通させねぇ!」
バルドが前に出ると同時に、マルスが大槌を肩に担ぎ、その巨体で仲間と住人を守る壁となる。
先頭のワイルドボアが突進してくる。
風圧が肌を刺した瞬間――
リュミナは帳面に指を添え、短く息を吐いた。
「……風の精霊よ。ここに、壁を」
帳面からふわりと淡い光が広がり、彼女の足元から風が巻き上がる。
見えない壁が生まれ、突進してきたワイルドボアの鼻先を叩いた。
巨体が弾かれるように横に滑り、砂煙を巻き上げてよろめく。
さらに二頭、三頭と群れが押し寄せる。
セレナは指輪を嵌めた手を握りしめ、かすかに震える息を抑えて願いを込めた。
「……皆を守って」
指輪が淡く光を放ち、青白い膜のような結界が仲間の前に立ち上がる。
透明な壁は夜気そのものを凝縮したように光り、ワイルドボアの突進を正面から受け止めた。
ドン、と重い衝撃。
結界に波紋が広がるたび、光が淡く揺れる。
それでも結界はびくともしない。
バルドが斧を振り下ろし、マルスの大槌が魔物の横腹を叩く。
鈍い音と金属音、そしてワイルドボアの咆哮が広場に響き渡る。
リュミナは再び帳面へ集中し、精霊に願いを送る。
風が唸り、渦巻く突風がワイルドボアの足元をすくい、数頭がまとめて転がった。
砂埃や小石が巻き上がり、闇の中で光が乱反射する。
セレナの指輪が輝きを増し、ワイルドボアの牙や蹄の一撃を透明な結界が完全に防ぐ。
岩片や蹄の破片が結界に弾かれ、住人たちには一つも届かない。
グリンは荷車を盾に通路を塞ぎ、ハリィは子どもたちを導いて退避させる。
サビーネは逃げ遅れた住人を見つけては退避させている。
ワイルドボアがひときわ大きな咆哮をあげ、結界へ突っ込む。
だが、淡い光の壁は揺るがない。
まるで夜の静けさそのものが支えているようだった。
バルドとマルスが息を合わせ、ワイルドボアの頭部へ斧と大槌を連続して叩き込む。
重い音が響き、ワイルドボアがよろめいた。
群れの勢いが、目に見えて弱まっていく。
リュミナの帳面の光がさらに強くなり、風が一層荒ぶる。
突風が最後の一頭を横に弾き飛ばし、砂煙の中へ沈ませた。
――しかし。
一頭だけ、まだ牙を剥いて跳ね上がってきた。
私の足が、自然と前に出た。
ワイルドボアが一直線に突進してくる。
耳元で風が悲鳴をあげ、地面の砂が舞い上がった。
私は剣を大きく振りかぶった。
突進を横へ躱し、その脇腹へ刃を叩き込む。
鉄のような毛並みから衝撃が走る。
腕が痺れても、剣を緩めない。
ワイルドボアの足元へ切っ先を滑り込ませると、牙が耳元をかすめた。
その瞬間――
グリンのハンマーが魔物の側面から叩きつけられ、バルドの斧が続いた。
息がぴたりと重なる。
リュミナの精霊魔法の風が私の身体をくぐり抜け、前方で空気を裂く。
私はさらにもう一歩踏み込み、剣を振り抜いた。
ワイルドボアの巨体が揺れ、そして――倒れた。
衝撃が地面に吸い込まれ、静寂が戻る。
仲間たちの影がすぐそばで動いていた。
私はそのすべてを見つめ、同時に観察者としての声が胸の奥で響く。
――なぜ、人は危機の中で隣に立とうとするのか。
ワイルドボアの巨体が倒れる音が、夜空に吸い込まれた。
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