英雄は根に咲く

ぼん

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第四部:根の奥へ

第17章:囁きは心を照らす 第4話:響く心の声

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 根の魔獣との戦いが終わったあとも、静樹の回廊には微かな震えが残っていた。

 消え去った蔦の残骸が土に還る音、空気を伝う風のささやき――それら全てが、静かな余韻となって僕たちを包み込んでいた。

 サンディさんが優しく光の玉を撫でている。クレアさんも、掌に乗せた光の玉をそっと見つめていた。リリィは最後尾で矢を手入れしながら、仲間の気配を遠巻きに感じ取っている。

 カイさんは「派手な戦いだったな」と冗談めかしてみせるけれど、どこか照れ隠しの色が強かった。ガルドさんは、まだ根の動きを警戒している。

 僕の手元――光の玉が、微かに震えていた。

 それは戦闘中、蔦の魔獣が根の奥で苦しんでいたその瞬間からずっと続いている。

 今もまだ、胸元で小さな鼓動を刻んでいた。

「……どうしたんだろう」

 僕はそっと手を添え、光の玉を包み込む。体温と同じくらいの優しい熱が、じんわりと手のひらに広がっていく。

 サンディさんが気づいて、微笑む。

「緊張がほどけてきたのかもしれませんね。精霊も安心してるのかも」

「……安心?」

「ええ。精霊は力強さじゃなくて、“想い”に共鳴するんです。だからニコ君が本当の気持ちを抱いたとき――精霊はそれに応えるんです」

 僕は少しだけ考え込む。

 戦っているとき、確かに“守りたい”という気持ちだけが胸にあった。怖いとか、痛いとか、迷いとか、全部消えていた。ただ、皆のことを――誰ひとり傷つけたくないそれだけを願っていた。

 その時だった。僕の胸元に、淡い光がふわりと広がった。

「……え?」

 土の上に柔らかな光が広がっていく。クレアが驚いた顔でこちらを見る。カイさんもリリィも、ガルドさんでさえ、しばし動きを止めていた。

 光の玉は攻撃でも防御でもない。ただ、仲間の胸元をやさしく包むだけ。

 僕は気づいた――これは“守る”ための力じゃない。“守りたい”という想いそのものだ。

「……これが、力じゃない、心の在り方……」

 静かにそう呟いた時、胸の奥がぽっと温かくなった。

「ニコ君、大丈夫?」

 クレアさんがそっと声をかけてくれる。僕は手のひらに光の玉を包みながら、少しだけうなずいた。

「はい……でも、ちょっと不思議な感じがして」

 カイさんが横から覗き込む。

「おっ、何だ? 光の玉がまた変なことでも起こしてんのか?」

 僕は苦笑いしながら、胸元の器に納まった光の玉を見せた。

「……震えてるんです。今、何も危ないことはないはずなのに……」

 ガルドさんも、無言でこちらを見やる。その鋭い視線もどこかやわらかかった。

 その時、不意にリリィが近づいてきた。無言で、僕の胸元の光をじっと見つめる。

 リリィは何も言わない。でもそのまなざしだけで十分に伝わってくるものがあった。

「……変わったよな」

 カイさんがぽつりと呟く。

「精霊術って、力の見せ合いだと思ってたけど、今日の光は……何か、あったかい感じがしたぜ」

 クレアさんも小さくうなずいた。

「私も……守るために戦ってきたけれど、本当に大切なのは“心の在り方”なのかもしれない、ってそう思えた気がする」

 ガルドさんは何も言わず、しかし大きく息を吐いた。それが、どこか安堵のようにも聞こえた。

 僕は、胸の奥がじんわりと熱くなるのを感じていた。

 守るための力じゃない。

 ――心で寄り添い、共鳴するための光。

 そのことに気づいた時、光の玉がもう一度、小さく明滅した。仲間たちの胸元に、優しい光が広がる。

「これが……僕の、心の声……」

 小さく呟いたその言葉に、誰かが静かに頷いてくれた気がした。

 静樹の回廊に、再び風が吹く。その風が、僕たちの“想い”をそっと運んでいくようだった。
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