英雄は根に咲く

ぼん

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第五部:決断の種を咲かせる

第24章:英雄は根に咲く 第2話:最後の対話

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 根源核の静けさは、まるで世界が止まったみたいだった。
 
 僕は、根の中心に立ったまま、胸元の光の玉を両手で包み込んでいた。

 周囲には、安寧の根も、支配の根も、ひとつに絡まり合っている。けれど、そのどちらでもない“温度”を、光の玉の奥に感じていた。
 
 何も聞こえない。

 リリィも、クレアさんも、カイさんも、ガルドさんも――みんな、僕を見守ってくれている。

 この瞬間だけは、世界に僕と精霊だけしかいないような気がした。
 
 光の玉が、ゆっくりと震える。
 
 言葉はなかった。

 だけど、その揺れは、今までよりもずっと近く、深く、まるで心の奥で誰かが静かに息をしているみたいだった。
 
 この感覚を、僕はずっと覚えていたいと思った。
 
(……君は、ここにいる)
 
 誰にも見えない、誰にも触れられない。でも、確かに“ここ”にいる。そのぬくもりが、ゆっくりと僕の胸に広がっていく。
 
 目を閉じると、光の玉の震えが、僕の鼓動と重なる。

 そのリズムに、呼吸までゆっくりと溶け込んでいく。
 
 不思議と、恐怖や不安はなかった。ただ、心の奥底から“守りたい”という感情だけが、強く、まっすぐに溢れてきた。
 
(僕は、君と共にいたい)
 
 その気持ちが、何よりも確かな答えになっていた。
 
 言葉がなくても、思いは届く。
 
 光の玉が、さらに強く脈動する。

 まるで「うん」とうなずいてくれたみたいに、微かな明るさを返してくれた。
 
 僕は、小さく息を吸った。
 
「僕が君を選ぶ。……そして、君も僕を選んでくれるなら――」
 
 その瞬間、光の玉がふわりと浮かび上がり、僕の手の中で微かな輝きを放った。
 
 その輝きは、これまでに感じたどんな共鳴よりも、ずっと温かく、優しいものだった。
 
 気がつけば、僕の肩にも、背中にも、周囲にも、光の玉の“気配”が寄り添っていた。
 
 仲間たちの光も、淡く揺れている。
 
 胸の奥から“ありがとう”が自然と溢れ出す。
 
 その思いが、光の玉の奥深くまで伝わっていくのを、僕は確かに感じていた。
 
 やがて、光の玉は、さらに強く脈動し、僕の中へ、静かに“溶け込んで”きた。

 その感触は、ぬくもりに満ちていて、どこか懐かしささえあった。

 まるで遠い昔、ずっと一緒に過ごしてきた存在と、もう一度出会えたみたいな、不思議な安心感。
 
 僕は静かに目を閉じた。
 
 何も語らなくても、伝わる想いがあった。

 “守りたい”“手を離したくない”“一緒にいたい”――そんな言葉にならない感情が、心の奥底からじんわりとあふれてくる。
 
 そのすべてが、ひとつの光にまとまっていく。
 
 気がつけば、僕の中で、世界のざわめきが消えていた。
 
 怖さも、不安も、寂しさも、全部、やわらかな光の中に溶けていった。
 
 ふと、僕の耳に、かすかな“音”のようなものが届いた。
 
 それは、風の流れる音にも、水のせせらぎにも似ていたけれど――

 どこかで「ただいま」と言っているような響きだった。
 
 僕は静かに呼吸する。手を胸に当てて、今この瞬間のすべてを感じようとした。
 
 光の玉が、鼓動とひとつになり、僕の中で静かに広がっていく。
 
 まるで、僕自身が「光」になっていくみたいだった。
 
(……君も、僕を選んでくれたんだね)
 
 言葉は要らなかった。ただその確信だけが、胸の奥に温かく宿る。
 
 精霊と僕――

 ふたつだったものが、いま、確かにひとつに重なった。
 
 その共鳴は、やがて僕の内側から外へ、波紋のように広がっていく。
 
 気づけば、周囲の空間にも、淡い光が満ちていた。
 
 リリィの光の玉も、クレアさん、カイさん、ガルドさんの光も、それぞれがやさしく揺れて、僕の光と静かに響き合っている。
 
 世界の中心で、たった一人きりになった気がしていたのに、本当は誰もひとりじゃなかった。
 
 この場所で――

 僕は精霊と共に“咲く”ことを、あらためて心に決めた。
 
 言葉にならない約束を、そっと胸に刻む。
 
 その瞬間、僕の内側にいた光の玉が、すべての壁を越えて“世界”とつながった気がした。
 
 根源核の闇が、わずかに薄れていく。
 
 静かな共鳴のぬくもりが、ゆっくりと根の奥まで広がっていく。
 
 僕は、目を開いた。
 
 手のひらの中に、もう光の玉はなかった。けれど、そのぬくもりは、ずっと僕の胸の中に残っていた。
 
 小さく、息を吐く。
 
(……ありがとう)
 
 世界に、誰にも聞こえない小さな声が静かに染み込んでいく中、新しい“朝”の気配が、闇の奥底からゆっくりと昇り始めている。
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