召喚失敗から始まる異世界生活

思惟岳

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第48話 ダンジョン最下層

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 最下層は、柱も壁も、白で統一されている。まるで、古代の神殿のようだった。

 天井を見上げながら、ケンイチさんが言った。

 「すげえ高さだな。駅前のデパートでも、すっぽり入っちまうんじゃねえか?」
 「ほんとね」

 毎晩、わが家で、TVドラマ(ビデオ)を見ているせいだろう。
 中世風異世界の元聖女が、『駅前のデパート』に相槌あいづちを打っていた。
 

 「ボクは、世界遺産を思い出したよ!」

 いつの間にか、目を覚ましたセーラが、得意げに言った。
 
 __いや

 異世界って、ぜんぶ、世界遺産みたいなもんじゃないのか?
 まだ、『現役』だけど。



 最下層は、『ダンジョンボスの部屋』しかないらしい。
 はるか向こうに、巨大で豪華な扉が見えた。
 
 大木のような柱が、等間隔で整然と並び、通路は、片側二車線の幹線道路ほどの幅があった。
 オレたちは、小人にでもなったような気分で、扉へと向かった。

 
 
 「コレって、人間の力で開くんっすかねえ…」
 
 ガン◯ムでも、余裕で通れそうな扉を、ケントさんが見上げた。

 「ジュンのちからなら、大丈夫じゃねえか?」
 「うんうん、ジュンくんならイケるよ!」

 __え?

 たしかに、オレの魔力が、異常なのは認める。
 でも、体力っていうか、物理的なちからは、ふつう…より、ちょっと強いくらいじゃないのか?

 「まさかとは思うが、お前、じぶんのちからは、ふつうとか思ってねえだろうな?
  あのバカ勇者は、少なくとも、お前よりはデカかったんだぞ。
  それを、サッカーボールみてえに、蹴って転がしてたじゃねえか」
 「それは、そうだが…」
 「もしかして、ジュンくんってば、わかってなかったの?
  天界で、剣神さんと打ち合ってたくせに」

 __たしかに

 『こっちの剣は、使い慣れてねえだろう』とか言って、レクチャーしてくれたけど…。
 でも、結局、鍛冶錬金の神さまが面白がって、『日本刀』っぽいのを打ってくれたんだよな。

 「天界に来て、全身が魔力で満たされた時点で、ジュンしゃまは、ニンゲンをやめてますニャ」
 
 平然とライムが言った。

 __いやいや

 「それはないだろう。だって、ドアだってふつうに開けられるんだぞ」
 「映画じゃねえんだからよ。
  パワーアップしたくれえで、ドアノブぶっ壊したりはしねえよ。
  オレだって、勇者になってから、かなり『ちから』がついたけどよ、日常生活では、何の支障もねえ。
  だいいち、あったら、困るだろう?」

 「当然ですニャ。要するに、『上限が上がる』ってことですニャ」
 「だから、剣神さんと手合わせできたんだよ!
  そもそも、ニンゲンと神なんて、蟻とドラゴンくらい違うんだから」

 「とくに、剣神さまは、手加減とかできない性格ですからニャ。
  ジュンしゃまが、長い時間、打ち合ってたのを見て、大神さまたちも、びっくりしてましたニャ。
  『あの少年、なんでまだ、生きてるんだ?』って」
 
 __ええっ

 やっぱり、そうだったのか。

 たしかに、何度も、殺されそうになったんだよな。

 でも、そういうの、あの狂った爺さんとの稽古で、慣れっこだったから…。
 やっぱり、慣れって怖いな。

 __だけど

 いちおう、神様だろう?

 なんで、オレを殺しそうしてんだよ。あの剣神は。
 手加減できないにも、ほどがあるだろう。



 「さて、いい具合に休憩もできたからな。そろそろ、『最終決戦』といくか!」

 ケンイチさんが、みんなに、声をかけた。
 『最終』も何も、まだ、一度も戦ってないが…。

 「でも、また、『土下座』かもしれないっすね」
 「いちおう、ダンジョンボスだよ。戦闘にはなるんじゃない?」
 
 __それじゃあ

 オレが、人外パワーで、扉を開けようと、手を伸ばしたら。


 ギギギギギギギギギギギギギギィーーーーーーーー! 

 
 「コレ、魔力を込めれば、片手でも開きますよ」
 
 聖女セシリアが、片手で、軽々と扉を押しあけていた。

 

 __今思えば



 オレたちは、完全に、油断しきっていたんだ。

 
 
 __しかし



 たった一度の戦闘もなく、さらには、途中の階層をスキップして、最下層まで来てしまった。
 油断してしまうのも、無理はなかった。

 
 
 ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオーーーーーーーーーーッ!



 少しずつ開いてゆく扉の向こうから、オレたちの背丈をはるかに超える炎の渦が、すでに目前に迫ってきていた。


 __くっ!

 
 してやられた!

 ダンジョンボスは、扉が開くのを待ち構えていたんだ。
 まさか、いきなり、撃ってくるなんて。想定外だった。



 ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオーーーーン!


 
 すさまじい爆発音が、あたりいちめんに轟(とどろ)いた。


 
 「みんな、無事かっ!」

 ケンイチさんが、叫んだ。…と同時に


 「ご、ごめんなさいっ!」

 聖女セシリアが、扉の前で、何度も頭を下げていた。
 
 どうやら、とっさに、扉を閉じてくれたらしい。
 『片手でらくらく』の扉で助かった…。

 「不意打ちとは、やってくれるじゃねえか…」

 みんなの無事を確かめると、ケンイチさんが悔しそうに言った。

 「ちょっと、油断しすぎたのよ。セシリアのせいじゃないわ」

 そう言って、アンナさんは、妹を慰めている。

 「扉を開けるなり、不意打ち食らわされるなんて、初めてっすよ!」
 「そうだよ。ダンジョンボスのくせに、セコすぎだよ!」

 ケント姉弟は、怒りを露わにしていた。

 

 「とにかく、仕切り直しですニャ」
 「そうだな。みんな、今度という今度は、油断せずに行くぜ!」

 ケンイチさんが、みんなに気合をいれた。
 
 「じゃあ、開けるっすよ!」
 
 ケントさんが、慎重に扉を押した。

 オレたちは、扉の左右に分かれて、ブレス攻撃に備えた。
 また、撃たれても、ケントさんさえ飛び退けば、問題ない。



 ギギギギギギギギギギギギギギィーーーーーーーー! 


 
 扉が開くに連れて、ボス部屋のようすが伺えた。

 天井は、通路が比較にならないほど、高い。
 そして、ドーム球場がいくつも入るほど、広大な空間だった。



 扉が開ききると、フレンドリーな声が聞こえてきた。



 「ようこそ、いらっしゃいました」
 
 

 広大な部屋の中央で、翼を広げたドラゴンが、その巨体を宙に浮かべていた。
 
 大きさは、10階建のビルほどもあるだろうか。
 その巨体が、ゆったりと、翼をはためかせるたびに、あたりに強風が渦巻いた。

 銀色に輝く、『メカ・ドラゴン』。
 これが、このダンジョンのボスだった。
 

 「さあ…」

 
 ドラゴンは、巨大なレンズのような眼を、ギラリと光らせながら、静かに言った。


 「…正々堂々。戦いましょう…」と。


 「「「「「「お前が言うな(ニャ)!」」」」」」


 とうぜん。みんな、マジギレした。
 

 
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