召喚失敗から始まる異世界生活

思惟岳

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第54話 召喚できます

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 ドラゴンの熱心なセールスによって、ダンジョンの魔物たちは、派遣社員として、ミルフィーユで働けることになった。
   
 「それでは、いったん、ダンジョンに戻って、みなさんにお知らせしてこようと思います。
  その前に、コレを、ジュンさまに、お渡ししておきますね」

 そういって、ポケットをさぐり始めた。

 ドラゴンのくせに、お腹にポケットがあった。
 メカ系キャラなら、『当然の仕様』かもしれないが…
 
 「あれえ?…おかしいですね」

 ポケットから出てきたのは、得体の知れないガラクタばかり。
 いくら探しても、見つからなかった。

 まあ、これも、メカ系キャラの仕様なんだろう。

  
 「いったい、オレに、何を渡そうとしたんだ?」

 念のため、聞いてみた。

 ドラゴンは、胸を張って答えた。

 「じつは、わたくし。『召喚機能』を搭載しているのですよ。
  ジュンさまが、『召喚サモン』と、ひとことお喚びくださるだけで、たちどころに、『空間転移』して駆けつけることができるのです!」


 __ふうん


 ふつうに飛んでくれば、それで済むような気もするが…、たしかに便利な気はする。


 「その『召喚用端末』を、ジュンさまに、お渡ししておこうと思ったのですが…」


 __見つからなかったんだ


 「とても小さくて、持ち運びにも便利な『端末』なのですよ。…ちょうど、このくらいなのですがね」

 まるでハートマークでも作るように、ドラゴンは、両手で、輪っかを作った。


 __いやいや


 ソレ。かなり、デカいぞ。
 ドラゴン基準だと、小さいかも知れないけど…。
 
  
 「もしかして、落としたんじゃねえのか?」

 エミールさんに言われて、何か、思い当たることがあったらしい。

 「ああっ!そういえば!」

 ドラゴンが、あたふたしはじめた。

 「落としたんなら、しかたがない。まあ、気にするな」

 ないと困るものでも、なさそうだし。

 
 ところが、ドラゴンは、自信満々に言った。

 「いえいえ。ご心配には及びません。
  なにしろ、召還できる『召還用端末』なのですから!」


 __なるほど

 
 最初から、落とすのが前提だったんだ。

 「では、さっそく、よびよせてみましょう」

 ドラゴンは、短い前足で、高々と天を衝き、そして、叫んだ。


 「召喚っ!」

 
 突如として、上空に、光の渦が出現。
 バチバチっと音を立てながら、稲光を発した。

 稲光は、次第に大きくなり、激しい閃光となった。

 次の瞬間。


 ガツンッ!


 ドラゴンの頭に、『巨大な円盤』が直撃。
 そのまま、跳ねて、地面を転がった。

 
 __コレが


 『小さくて、便利』…なのか?
 『でっかくて、危険』の間違いだろう。

 
 円盤は、しばらく転がると、パタリと倒れた。
 魔法陣が、書き込まれた石版で、四畳半ほどの大きさだった。


 「「「えええええええーーーーーっ!」」」

 
 聖女&元聖女の三人が、盛大に叫んだ。


 「まあまあ。これって、もしかして…」
 「ええ。間違いないと思います」
 「でも、そんなことありえる?」


 真偽を確かめるために、大司教のばあさんが呼ばれた。

 
 話を聞いて駆けつけた大司教も、石版を見るなり、叫んだ。

 「なんだって、コレが、ここにあるのさ!」と。

 「じゃあ、やっぱり、コレは…」

 聖女セシリアの震える声に続いて、大司教が、きっぱりと言った。

 「間違いないさね。コレは、王宮の『召喚魔法陣』だよ!」

 
 アンナさんが、ケンイチさんを二度も召喚し、セシリアが、オレの召喚に失敗した、あの『魔法陣』だった。


  
 「それじゃあ、なにかい。
  アンタの落とし物で、王国は、延々と『勇者召還』を続けてきたってことかい?」

 草むらに転がっている、石版を見下ろしながら、大司教がたずねた。

 「はあ…。どうやら、そのようですね。
  思えば、開発チームの主任さんが、おっしゃっていた気がします。
  『魔力の波長で、気の合う相手も召還できるから、婚活にも使えるかもな!』って」

 「婚活ねえ…」

 ばあちゃんは、じろりと、ケンイチさんカップルを見た。
 

 「いずれにしても…」

 さばさばした顔で、大司教のばあさんは、空を見上げた。
 空は、青く。どこまでも、晴れ渡っている。

 「コレが、持ち主の手元に、戻ってきちまったんだ。
  もう、王国は、『勇者』を召喚できないさね。
  勇者召喚の長い歴史も、これで、しまいになったんだよ」


 *
  



 その頃。

 王城では、蜂の巣をつついたような騒ぎになっていた。
 こつぜんとして、『召還魔方陣』が消えたからだ。

 大きさからいって、窓や扉から、運び出すことは不可能。
 消えてなくなったことは、疑いようもなかった。


 この不可思議な出来事は、のちに、『召還魔法陣消失事件』と呼ばれた。
 『王国七不思議』のひとつに加わり、長く語り継がれていったのは、後の話だ。
 

 当時。人々の間には、こんな噂が流れた。

 第二皇女が、あんなバカ勇者を召還したから、神が、お怒りになって『魔方陣』を取り上げたのだ…と云う噂が。
 

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