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「全ての始まりは、お前がザイガやカーシャに会ったという、俺の神殿で神同士の会合があった日だ。あの日の俺は数日前からずっと機嫌がよくて、あの日も上機嫌だったもんだから会合相手達からも揶揄われるくらいだった。自分で言うのもあれだが、普段不機嫌な事が殆どな俺がそれだけご機嫌なのも珍しい事だったから、驚かれもした。そこまで俺の機嫌が良かった理由は単純で……周囲が勝手に異世界から呼び出した自分の神子が、あんまりにも優しいやら可愛いやらですっかりお気に入りになり、そんな相手に毎日のように構われて有頂天になっていたからだ」
「へ? お、お気に入り……? 優……かわ……?」
んん? なんか今、クールな邪神から出てくるとは思えないような単語がいくつか飛び出したような……。しかも、俺に対して好意的な感じのやつ。別に、どうせ俺なんて……って変に卑屈に振る舞う気はないし、多少は邪神に好意的に見て貰えている自覚はあったが、まさかそこまでとは思わなかった。邪神、気持ち隠すの上手すぎやろ。いつになくストレートな肯定の言葉に、ほんのり頬が熱くなる。邪神の方もここまで率直に心情を吐露するのは恥ずかしいらしく、羞恥心が一周回ったのか少々不貞腐れたような表情になっていた。
「これまでの俺がしてきた言動の数々が、とてもじゃないがお前に対して好意的じゃなかったのは認める。どう見ても気に入りだという相手に向ける態度じゃなかったのも、百も承知だ。言い訳にしかならないが……他人からあんなに好意的に接して貰えたのが生まれて初めてで、どう反応したらいいか分からなかったんだ。素直に受け入れるのも気恥しいし、かと言って拒絶し切るのも勇気が足らず、俺にはできなかった。ましてや俺は最初からお前に対してつっけんどんな態度を取っていたし、途中から正反対の方向に対応を変えるのも何だか変な気がしてしまって……」
「好意的、って……。ああ、まあ確かに、ここの神官達ですらなんか対応に距離あるよな。神官達は根が悪い人じゃないし習慣みたいなもんだから仕方がないのは分かるんだけど、だからってあの態度はない。俺からすれば邪神はこんなにも可愛いのに、象徴になってる猫は恐ろしい生き物だとか、黒い色が不吉だとか、失礼な事散々言い腐りやがって。なにより、直接危害を加えたりしなけりゃ十分だろうと言わんばかりに、隠しもせずに距離を置きやがるあの傲慢さ! あんな失礼な態度、俺だったら日に最低100回はブチギレてるね。あれを許してあげてる邪神は、本当に優しいよ」
「優しいのはお前の方じゃないか。またそうやって俺の事を好意的に見て、真に俺の事を思って周囲に憤ってくれて。俺が意地を張ってお前に酷い態度を取ったって認めたのに、その話はどうでもいいとばかりに言及すらしない。お前は俺に甘過ぎる」
「えぇ……だってそんなの、どうでもいいとは言わんけど気にしてないし。俺に対する邪神の言動は乱暴だったかもしれないけど、酷い対応なんて取られたことねぇもん。俺の作った飯を完食してくれたし、付き纏っても相手してくれたし、執拗くしたのにいつも会話をちゃんとしてくれて……。むしろ優し過ぎねぇ? 邪神はもうちょっと俺を雑に扱ってても良かったと思うぞ」
「そんな事できる訳ない。言ったろ、意地を張ってたって。俺はお前に構われて、態度では反発してても内心ずっと嬉しかったんだから」
う、嬉しかったのか!? 俺に構われるのが!? 多少は嫌がられてない自覚はあったけど、嫌よ嫌よも好きの内なんて言葉を過信して相手の気持ちを配慮せず、嫌がってるのを勘違いしてウザ絡みするアホになりたくなかったからこれでも多少遠慮してたんだが……その必要なかったのか? あんな好き好きアピールしといて信じてもらえんかもしれんが、一応俺だって若い女の子の社交辞令を本気にする痛いオッサンみたくならないように、滅茶苦茶気を張ってたんだ。でも、それならもしかして……。
「て事は、これからは遠慮せずもっと邪神に構ってもいいって事か?」
「お前……好きなくせして意地張ってたなんて下らん理由で嫌な態度取られてたって知らされて、開口一番言う事がそれかよ」
「ゔ、だって……。あんまりウザ絡みし過ぎて嫌われたくねぇからちょっかいかけるのセーブしてたけど、その必要はないって公認貰えそうだったから、つい気になってさ」
そんな呆れたような目を向けないでくれ。流石に今の発言が空気読めてなかったのは、自覚してるよ。でも、邪神を遠慮なく構い倒してもいいって許可が貰えたら、と思うと我慢ができなかったんだ。俺はそれだけ邪神の事が好きなんだよ。とは言えこのまま呆れた視線を向けられ続けるのは地味に心にくるので、それとなーく話題を変えて話を逸らす事にする。
「それで? 結局、会合があったあの日に、何があったんだ?」
「そ、それは……。正直お前にとって嬉しい内容の話ではないし、自分がした事を思うと嫌われる未来しか見えなくて気は進まないが……まあ、話すと約束したしな……」
「えぇー、何その前口上……。不穏過ぎて聞きたくねぇー……。うーん、でも、何があったかは気になるし邪神とこれ以上の擦れ違いも嫌だから、頑張って聞くわ」
「この期に及んでお前が俺に対して、これ以上擦れ違いたくないと思う程度には好意を残しているとは、驚きだな。だが、その気持ちもこれから俺が話す真実を知るまでだろう。……俺はそれが残念でならないよ」
なんか悲壮感を存分に醸し出して俺に見限られる未来を確信し、最後の名残とばかりに悲しそうな表情で眩しそうにこっちを見てくれちゃってるが、気ぃ早すぎない? 俺としてはさっきから邪神がポンポン大盤振る舞いしてくれる『気に入りの相手』だの『構われて嬉しかった』だのといった言葉に、勝手に一人で舞い上がってんだ。邪神が思う程、俺は俺に対する邪神からの扱いを気にしていない。邪神のこれまで育ち過ごしてきた環境を思えば大切に思う相手への接し方が分からないのは仕方がないと思うし、本人が気がついていないだけで邪神は邪神なりに十分俺に良くしてくれていた。俺はその事が分からない程の馬鹿でも、理解を示せない程の冷血漢でもないと、一応自負しているのだけれど。
まあ、今は邪神の話を聞いて、誤解は後からジックリ解くか。少なくとも、今の邪神は問答無用で俺を元の世界に即刻送り帰す! そっちの意向なんぞ知った事か! なんて事はやらなさそうな程度には落ち着いて見える。それなら多少は話し合うだけの時間もあるだろうし、落ち着いて邪神の言い分に耳を傾けてみる余裕もある筈だ。今は、そんな自分の読みを信じようと思う。この時の俺はまさか邪神の口からあんな話が飛び出すとは、夢にも思ってもいなかったのだ。まるで小難しい映画や小説の中によくあるような、権謀術数が現れるような、そんな話が。まあ、異世界転移してる時点で、漫画やアニメによくある展開なんだけどな。なんにせよ、俺は気を取り直して邪神の話に耳を傾けた。
「へ? お、お気に入り……? 優……かわ……?」
んん? なんか今、クールな邪神から出てくるとは思えないような単語がいくつか飛び出したような……。しかも、俺に対して好意的な感じのやつ。別に、どうせ俺なんて……って変に卑屈に振る舞う気はないし、多少は邪神に好意的に見て貰えている自覚はあったが、まさかそこまでとは思わなかった。邪神、気持ち隠すの上手すぎやろ。いつになくストレートな肯定の言葉に、ほんのり頬が熱くなる。邪神の方もここまで率直に心情を吐露するのは恥ずかしいらしく、羞恥心が一周回ったのか少々不貞腐れたような表情になっていた。
「これまでの俺がしてきた言動の数々が、とてもじゃないがお前に対して好意的じゃなかったのは認める。どう見ても気に入りだという相手に向ける態度じゃなかったのも、百も承知だ。言い訳にしかならないが……他人からあんなに好意的に接して貰えたのが生まれて初めてで、どう反応したらいいか分からなかったんだ。素直に受け入れるのも気恥しいし、かと言って拒絶し切るのも勇気が足らず、俺にはできなかった。ましてや俺は最初からお前に対してつっけんどんな態度を取っていたし、途中から正反対の方向に対応を変えるのも何だか変な気がしてしまって……」
「好意的、って……。ああ、まあ確かに、ここの神官達ですらなんか対応に距離あるよな。神官達は根が悪い人じゃないし習慣みたいなもんだから仕方がないのは分かるんだけど、だからってあの態度はない。俺からすれば邪神はこんなにも可愛いのに、象徴になってる猫は恐ろしい生き物だとか、黒い色が不吉だとか、失礼な事散々言い腐りやがって。なにより、直接危害を加えたりしなけりゃ十分だろうと言わんばかりに、隠しもせずに距離を置きやがるあの傲慢さ! あんな失礼な態度、俺だったら日に最低100回はブチギレてるね。あれを許してあげてる邪神は、本当に優しいよ」
「優しいのはお前の方じゃないか。またそうやって俺の事を好意的に見て、真に俺の事を思って周囲に憤ってくれて。俺が意地を張ってお前に酷い態度を取ったって認めたのに、その話はどうでもいいとばかりに言及すらしない。お前は俺に甘過ぎる」
「えぇ……だってそんなの、どうでもいいとは言わんけど気にしてないし。俺に対する邪神の言動は乱暴だったかもしれないけど、酷い対応なんて取られたことねぇもん。俺の作った飯を完食してくれたし、付き纏っても相手してくれたし、執拗くしたのにいつも会話をちゃんとしてくれて……。むしろ優し過ぎねぇ? 邪神はもうちょっと俺を雑に扱ってても良かったと思うぞ」
「そんな事できる訳ない。言ったろ、意地を張ってたって。俺はお前に構われて、態度では反発してても内心ずっと嬉しかったんだから」
う、嬉しかったのか!? 俺に構われるのが!? 多少は嫌がられてない自覚はあったけど、嫌よ嫌よも好きの内なんて言葉を過信して相手の気持ちを配慮せず、嫌がってるのを勘違いしてウザ絡みするアホになりたくなかったからこれでも多少遠慮してたんだが……その必要なかったのか? あんな好き好きアピールしといて信じてもらえんかもしれんが、一応俺だって若い女の子の社交辞令を本気にする痛いオッサンみたくならないように、滅茶苦茶気を張ってたんだ。でも、それならもしかして……。
「て事は、これからは遠慮せずもっと邪神に構ってもいいって事か?」
「お前……好きなくせして意地張ってたなんて下らん理由で嫌な態度取られてたって知らされて、開口一番言う事がそれかよ」
「ゔ、だって……。あんまりウザ絡みし過ぎて嫌われたくねぇからちょっかいかけるのセーブしてたけど、その必要はないって公認貰えそうだったから、つい気になってさ」
そんな呆れたような目を向けないでくれ。流石に今の発言が空気読めてなかったのは、自覚してるよ。でも、邪神を遠慮なく構い倒してもいいって許可が貰えたら、と思うと我慢ができなかったんだ。俺はそれだけ邪神の事が好きなんだよ。とは言えこのまま呆れた視線を向けられ続けるのは地味に心にくるので、それとなーく話題を変えて話を逸らす事にする。
「それで? 結局、会合があったあの日に、何があったんだ?」
「そ、それは……。正直お前にとって嬉しい内容の話ではないし、自分がした事を思うと嫌われる未来しか見えなくて気は進まないが……まあ、話すと約束したしな……」
「えぇー、何その前口上……。不穏過ぎて聞きたくねぇー……。うーん、でも、何があったかは気になるし邪神とこれ以上の擦れ違いも嫌だから、頑張って聞くわ」
「この期に及んでお前が俺に対して、これ以上擦れ違いたくないと思う程度には好意を残しているとは、驚きだな。だが、その気持ちもこれから俺が話す真実を知るまでだろう。……俺はそれが残念でならないよ」
なんか悲壮感を存分に醸し出して俺に見限られる未来を確信し、最後の名残とばかりに悲しそうな表情で眩しそうにこっちを見てくれちゃってるが、気ぃ早すぎない? 俺としてはさっきから邪神がポンポン大盤振る舞いしてくれる『気に入りの相手』だの『構われて嬉しかった』だのといった言葉に、勝手に一人で舞い上がってんだ。邪神が思う程、俺は俺に対する邪神からの扱いを気にしていない。邪神のこれまで育ち過ごしてきた環境を思えば大切に思う相手への接し方が分からないのは仕方がないと思うし、本人が気がついていないだけで邪神は邪神なりに十分俺に良くしてくれていた。俺はその事が分からない程の馬鹿でも、理解を示せない程の冷血漢でもないと、一応自負しているのだけれど。
まあ、今は邪神の話を聞いて、誤解は後からジックリ解くか。少なくとも、今の邪神は問答無用で俺を元の世界に即刻送り帰す! そっちの意向なんぞ知った事か! なんて事はやらなさそうな程度には落ち着いて見える。それなら多少は話し合うだけの時間もあるだろうし、落ち着いて邪神の言い分に耳を傾けてみる余裕もある筈だ。今は、そんな自分の読みを信じようと思う。この時の俺はまさか邪神の口からあんな話が飛び出すとは、夢にも思ってもいなかったのだ。まるで小難しい映画や小説の中によくあるような、権謀術数が現れるような、そんな話が。まあ、異世界転移してる時点で、漫画やアニメによくある展開なんだけどな。なんにせよ、俺は気を取り直して邪神の話に耳を傾けた。
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