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どういうことだ。オーウェン様が、普通に喋ってる。唸ることも、吃ることもなく、まるで世に溢れる普通の人々のように。どういう事だ? 何が起こっているのか分からなくて、黙り込むことしかできない。
「サリー、あの……。足がプラプラして心許ないから、下ろしてくれると嬉しいんだけど」
「し、失礼しました!」
ハッとして慌ててオーウェン様を地面に降ろす。焦り過ぎるあまりまだどこかにつかまらないと1人では立てない筈のオーウェン様から手を離してしまって一瞬慌てるが、予想を裏切ってオーウェン様は難なく1人でその場に立ってみせた。
そのことはオーウェン様自身も予想外だったようで、不思議そうな顔でしきりにその場で足踏みをしている。そしてふと、気がついたように手を持ち上げて目の前に翳し、開いたり閉じたりした。どうやら足だけでなく、手の方の具合も良くなったようだ。
「あの、オーウェン様。一体何が……?」
「いや、僕にも分からない。でも、なんだか知らないが、魔女の呪いが解けたみたいだ」
何だって? ということは、さっきの光は呪いが解除される時の魔法反応で光っていたのか? でも、いきなりどうして。オーウェン様の呪いをとくファクターは『真実の愛』だって聞いた。『真実の愛』? ……まさか、さっきのキスで?
で、でも、あれは単なるおふざけだ。そんなんで呪いが解けるのか? だって、必要なのは『真実の愛』だって……。え、まさか、あの時の俺の思いの丈がそんなに……?
目の前に突如突きつけられた想定外の事実にパニックになって視線をあっちこっちに飛ばしている俺の内心なんていざ知らず。オーウェン様は嬉しそうに体を動かして、自分の全身をあちこちくまなく見ている。
「わぁ……凄い! 手も、足も、全部思うがままに動くし、言葉だってスラスラ出てくる!」
オーウェン様はその場でピョンピョン飛んだりブンブン手を振ったりして、最後にクルッと回ってみせた。そうしてアハハハハ、と笑いながらその場で回っているのを俺はボーッと見ていたが、目を回したオーウェン様がよろけた事でハッと我に返る。
「危ない!」
「おっと……。少しはしゃぎ過ぎたかな」
「オーウェン様、お怪我はありませんか?」
「もう、そんなに心配しなくても大丈夫だよ。ちょっとよろけただけさ」
そう言われても、やはり心配だ。今はまだ良くてもこの後一時的に呪いがよくなった反動で後から呪いがぶり返し、今まで保っていた理性まで失う程獣性がでてきても困る。他にも悪影響がないとも言いきれない。なにより今は、色々と動揺しているので少しでも早く落ち着ける場所に移動したかった。
「オーウェン様のお体が心配です。兎に角、今日はもう戻りましょう」
「えぇー! ちょっとよろけただけじゃないか。折角体が自由に動くようになったんだから、もっと外にいようよ」
「いけません、オーウェン様。万が一にでもあなたにこれ以上何かあるようなら、私はもう心臓が持ちません。お願いですから、大人しく帰りましょう」
「……分かったよ。仕方がない、他でもないサリーのお願いだものね。でも、またいつか必ず連れてきてね」
約束だよ、と笑うオーウェン様。その嬉しそうな顔を見て、俺も少し落ち着きを取り戻す。なんにせよ、今は一刻も早く『嘆きの塔』に帰ろう。話は全部、それからだ。俺は1度大きく深呼吸をしてから、後始末に取り掛かるのだった。
オーウェン様の呪いが突然解けるという驚くべきことが起こってから、1日経ち、2日経ち……。結局、1週間経っても呪いがぶり返すことはなく、オーウェン様は元気で健康なままだった。最初は心配でオロオロ狼狽えていた俺も、大分落ち着きを取り戻せたと言えよう。もっとも、オーウェン様の方はいつまで経っても体が自由に動くことに興奮冷めやらぬようだったが。
今まで満足に動かない肉体に閉じ込められていた分、オーウェン様は自由が効くようになった体で元気いっぱい動き回っている。毎日色々なことをして、生来の利発さと明るさを惜しみなく発揮していた。
最初の数日はまた体が動かなくなる前に、と今までやりたかったという歩いたり歌ったりということを一通りしていたが、そのうち俺達の生活リズムはまた以前のような勉強と遊びの繰り返しに戻る。というのも、オーウェン様自身が折角身につけた学びを錆つかせたくないと言い出したからだ。『きっともう呪いは解けたよ。自分の体のことだから分かるんだ。もう以前のようななにか目に見えないものに纒わり付かれる感覚がしないからね』と、彼は言っていた。
半信半疑ながらもオーウェン様本人が望むことをしないわけにはいかない。大人しく、俺はオーウェン様に勉強を教えていく。あと、遊びの時間と言ったけれど前のような半分訓練のような遊びではない。体が自由になりもうそういったことは必要なくなったので、今では遊びの時間は名ばかりの俺とのおしゃべりの時間になっていた。
「素晴らしい。オーウェン様は本当に賢くあらせられる。私も一応士官学校に在籍していた頃は優秀だなんだと持て囃されたものですが、オーウェン様の怜悧さの前では遠く足元にも及びません」
オーウェン様が完璧に解いた数学の問題の前で、そう感嘆の声を漏らす。実際、オーウェン様は呪いが解けてから、前にも増してメキメキと学力をつけていっていた。以前から賢い子供だと思っていたが、ここまでとは。本人曰く体に不具合がない分気が散らず、以前よりも思考にリソースを割けるようになったから前にも増して良く頭が回るらしい。
「サリーにそう言って貰えると嬉しいな」
「この分だと、もうそろそろ私が教えられることもなくなりそうですね」
「えー! そんな事ないよ! 僕が知らないことなんて、この世の中にまだまだ沢山ある!」
そりゃあそうだろうさ。なんと言ってもオーウェン様は生まれてこの方殆どこの塔から出たことがないんだ。しかも、その間まともな教育も受けられなかった。知識面では言わば生まれたての赤ん坊の状態。多少の無知は、仕方がない。
……やはり、オーウェン様が外に出られるようにした方がいいよな。呪いが解けたというのに、いつまでも親である王様に隠しておくのは良くない。俺が教えられることにも限界がある。オーウェン様が普通の人間らしく過ごせるようにする為にも、この『嘆きの塔』を出るのは必須条件だ。呪いは一向にぶり返す様子もないし、ここらが潮時だろう。
「サリー?」
「ああ、すみません。なんでもないですよ。……オーウェン様。オーウェン様は、呪いが解けて嬉しいですか?」
「勿論! 四肢が自由に動くのも、好きなことを話せるのも、全部夢にまで見たことだ。嬉しくないわけがないじゃないか! なによりも、大好きなサリーに自分から抱きついたり、好きなだけお喋りしたりできる。それだけで僕は今までの苦労が全て報われるようだよ」
そう言って席を立ち、近くに寄ってきて俺に抱きつくオーウェン様。ギュッとくっついた温もりに、喜びや愛しさ、親しみなど、様々な感情が胸の内を駆け巡った。
ああ、俺はこの人を、必ずや外の世界に送り出してやらなくては。勿論外の世界にあるのはいいものばかりではないけれど、この狭い塔の中よりは余っ程いい。ここに居たままではその善し悪しを見極めて何かを選びとるという当たり前のことすらできないのだから。オーウェン様には、幸せになってもらいたい。これは、その為に必要な1歩なんだ。
オーウェン様との会話で、俺はある1つの事を決意する。そうして同時に、胸中にポツンと湧いた少しの寂しさは見ないふりをして誤魔化した。
そして、それから更に数日後。俺達が並んで座り、お茶を飲んでいた時のこと。
オーウェン様の呪いが解けてから、オーウェン様は前からの夢だったと言ってなんでも俺と同じことをしたがった。掃除や洗濯、料理まで、やらせてやらせてと言ってせがんでくるのだ。
俺はその度に『あなたは雇用主側なんですから、使用人の私に全て任せておいてください』と断っていたのだが、最後には大きな目を潤ませ泣き落としまでされてしまっては折れるしかなかった。オーウェン様曰く、昔から俺の手伝いがしたくて仕方がなかったんだとか。まったく、これは物凄く懐かれたものだ。
この一緒にお茶を飲むというのも、オーウェン様から言い出したことだった。前から食べているおやつの一部を俺に分けてくれることはよくあったが、それだけでは嫌だと駄々を捏ねられたのだ。『サリーとはできるだけ対等でいたい』というのがオーウェン様の弁である。そんなこと言われても、生まれついての立場や流れる血の貴賎まではどうにもならないのに。俺とオーウェン様の間には無視するにはあまりにも大き過ぎる隔たりがある。世間ズレしておらずまだそこら辺への理解が浅いオーウェン様にはなんだか気が引けて言えていないが、まあいい。そのうち理解するだろう。
兎に角。お茶を飲みながら茶菓子のクッキーを食べる俺達の間には、穏やかな時間が流れていた。
「んん、美味しい! このクッキー香りがすごくいいね」
「それは良かった。冷えたバターを使って作るのがコツなんですよ」
「え、でもそれじゃぁ固くて混ぜにくいんじゃないの?」
「ほんのちょっぴりの魔法と、強い力は全てを解決してくれますから」
「うわぁ、凄い……。前々から思ってたけど、サリーって結構力で押し通すタイプだよね」
そりゃぁ元々俺は、脳筋の代名詞の軍人だったからな。士官だったので一通りの教育は受けているが、それでもやっぱり物事の解決策における選択肢では、常に腕力が上位に入ってくる。ここに来てからもトレーニングは続けていて今でも力は衰えていないから、余計にそうだ。
「体を鍛えておくと、いいこと尽くめですよ。心身共に健康になりますし、余裕もできます」
「むぅ、僕もサリーに手解きしてもらって鍛えようかなぁ」
そう言ってムンッ、と力瘤を作ろうとするオーウェン様。そんなことしても、細っこい腕が力瘤で盛り上がることはない。オーウェン様が恨めしそうに自分の腕を眺めるのを微笑ましく見ていた、その時。俺の耳は、ある不審な音を捉えた。
「……?」
「どうしたの、サリー。急に立ち上がったりして」
オーウェン様の方を見もせずにシッと短く息を吐き出して、静かにするように手でジェスチャーをする。なんだ、この音。下から聞こえてくる。固いものと固いものが、ぶつかり合うような音。それと、扉を開ける音も。だんだん近づいてきている。
「オーウェン様、こちらにおいでください」
オーウェン様を椅子から立たせ、部屋の隅に連れて行って背中に庇う。角を背にできるここが1番守りやすい。念の為何が起こっても対処できるように、いつでも魔法を発動できるよう魔力を練り上げておく。扉を開ける音の合間に聞こえる謎の音は同じようなのが複数していて、群れになっているようだ。その正体は何かと考えて、ハッと1つの答えに辿り着いた。これ……石の床と硬いブーツの底がぶつかり合う、靴音か? 間違いない。絶対にそうだ。この塔の中に誰かがやってくることは今までなかったから、直ぐには気がつけなかった。
と、そこでとうとうその靴音達はようやく俺達が居る最上階の、部屋の扉の前までやって来た。先程までの扉の開閉音からするに、俺達がどの部屋にいるか分からなくて一部屋一部屋確かめながら来たのだろう。俺達が最後の一部屋のこの場所に居るこおはとっくにバレている。扉に鍵はついていない。固唾を飲んで見守っていると、目の前でユックリと扉が開いていく。そこに居たのは。
ギイッと耳につく嫌な音を立てながら開いた扉のその向こうには、数人の近衛兵と、あの日見て以来の侍従頭。そして豪奢な衣装に身を包んだ、1人の男が立っていた。その男の姿を見た途端、俺は全てを理解しその場に膝を着いて頭を垂れる。
「え、どうしたの、サリー!?」
後ろで慌てるオーウェン様の声がするが、俺は頭を垂れたまま、動かない。だってそうだ。今勝手にここで何かをする権利は俺にはない。なんと言ってもこの国の最高権力者の、王様が目の前に立っているのだから。
「ほう、中々分を弁えた教育係だな。流石規律の厳しい国軍出身者なだけのことはある」
「陛下にお褒めに預かり、恐悦至極にございます」
コツコツと音を立てて、美しく磨かれたブーツの爪先が視界の端に入ってくる。王様が近くに寄ってきたのだ。俺の後ろで、オーウェン様が身動ぎする気配がした。
「父上……なのですか……?」
オーウェン様の問いかけが疑問形なのも無理もない。オーウェン様は生れて直ぐに両親から遠ざけられて今まで生きてきたのだから、父親の顔を知らないのだ。王様の身なりや態度から自分の父かと推測したのだろう。
「おお、我が息子、オーウェンよ。久しいな。息災で何よりだ。その様子だと、呪いが解けたというのは本当のようだな」
「……なんの御用ですか?」
「何って、決まっているだろう? 私自ら直々に、お前を迎えに来てやったんだ!」
背後から息を詰める音がした。俺の背中に添えられたオーウェン様の手が、ギシリと強ばる。
「結構です。お帰りください」
「……はぁ? 何を言っているんだ? 親であり国王でもあるこの私が態々迎えに来てやっているんだぞ? それとも、この事の意味が分かっていないのか? 1度は魔女の呪いで落魄したお前を、復権させてやろうと言っているんだぞ?」
「ですから、結構ですと申し上げているのです。僕は復権など望んでおりませんので。だいたい、今まで1度も尋ねてこなかったのに、今更になって何ですか。どこで聞き付けたのか知りませんが、呪いが解けたと知ったとしても、僕は今更惜しくなるような息子でもないでしょうに」
俺は顔を伏せたまま眉を寄せた。刺々しい敵意を隠しもせず、つらつらと一息に拒絶の言葉を言ってのけたオーウェン様に、ヒヤッとさせられたからだ。だが、当の王様は幸いなことにそれを気にした風もなく、言葉を重ねる。
「オーウェン、お前に顔を見せられなかった私に不信感を持っているのか? 無理もないな。私がお前に会うのはお前が生まれた時以来なのだから。だが、分かっておくれ。待望の第1子を、それも世継ぎとなる筈の王子を呪われて、私とてお前と顔を合わせる事もできないくらいに辛かったのだ。それでも、私は本心ではいつでもお前に会いたいと思っていたよ」
「それなら、こうして顔を合わせたわけですから、もう用はお済みでしょう。お帰りください」
「おやおや、拗ねているのか? 止めなさい、その歳でみっともない。1度は呪われたお前を、再び家族に迎え入れてやろうと言っているんだぞ? 素直に喜んで戻ってきたらどうだ?」
「結構です! 僕はここで、このサリーと過ごしているだけで十分なんだ。今更王家の一員として返り咲くことに興味はありませんし、それに伴う様々な特権への未練もありません。どうぞ1度捨てた息子のことなど、そのままお忘れになってください」
オーウェン様の頑なな態度に、目の前の王様のブーツの先が、苛立たしげにピクッと震えた。まずい。話が拗れてるぞ。良くない流れだ。思わず顔を上げて後ろを振り向き、口を挟む。
「殿下、これはまたとない僥倖ですよ。変に渋らずに陛下の提案をお受けしてはどうでしょうか?」
いつものように『オーウェン様』と呼ばなかったのは態とだ。俺とオーウェン様……いや、第1王子との身分差と、第1王子がここでどう振る舞うべきかを、分からせる為に。胸がズキリといたんだ気がしたが、構っていられない。第1王子のことを思うのなら、ここが踏ん張りどころなんだ。
「前に、外の世界を見たい、もっと色んなことを知りたい、と仰ってたじゃありませんか。このままここにいてはその願いは叶いません。見ての通りここは石壁に囲まれた狭い場所ですし、私があなたにお教えできることは限られています。今は良くても、いつか限界が来る筈です。いいですか、その時に後悔しても遅いんですよ? 折角の機会なんですから、それを生かさなくてどうするんですか。ましてやこれは、本来あなたに与えられるべきだった権利なんですから。あなたは賢く優秀なお方だ。こんな所で終わるべきではない」
「でも、サリー! だからって……」
「殿下。折角呪いが解けたんですから、こんな所に縛り付けられず、自分の人生を自由に楽しんで生きてください。あなたは報われるべき人だ。そう思えばこそ私は、殿下の呪いが解けたことを陛下にお知らせしたんですよ」
言い聞かせるように、重々しい口調で言ってのける。肩越しに第1王子に視線を合わせ、願いを込めてその目を見つめた。第1王子は信じられない、といった様子の表情を浮かべている。その目が少し潤んでいることには、気が付かないふりをした。
暫し重苦しい沈黙が続いたが、第1王子は一瞬顔をクシャリと歪めた後、直ぐに覚悟を決めたような表情を浮かべる。俺の体に添えられた手がほんの瞬きの間だけ強く服を掴み、そして離れていった。
「……分かった。サリーがそう言うなら。それが、他でもないサリーの望みなら」
グッと唇を噛み、殿下は立ち上がる。傷になるといけないから、強ばったその唇に触れて解いてやりたい。そう思えども、今の俺にはそれはできなかった。先に手を振り払ったのは、俺の方だ。心を殺し、再び前を向いて頭を垂れた。
「短い間でしたが、殿下のように素晴らしいお方と共に過ごせて、とても光栄でございました。これから先、殿下の行く末のご多幸をお祈り申し上げております」
「話は纏まったか? やれやれ、待ちくたびれたぞ。できればこういったことはこれっきりにしてもらいたいね」
「……はい、申し訳ありません。父上」
「まあいい。ご苦労だったな、教育係。お前はいい働きをした。それに免じて、また後で何か褒美をつかわそう」
「有り難き幸せに存じます」
その場で益々深々と頭を下げる。そんな俯けた俺の視界の端に、踵を返す王様のブーツとその後ろをフラフラとついていって遠ざかる、第1王子の少し草臥れた靴が映る。外に出た日に貸してやったら気に入った様子なのでそのままになっていた、彼には少し大きいブーツ。最近では自分の足で歩くようになったオーウェン様の足を、冷たい石組の床から守ってもいた。それは頼りない足取りだったが、1度も立ち止まることなく視界の外に出ていく。
これでいい。俺は正しいことをしたんだ。第1王子だって今はこうして俺の事を慕っていてくれるけれど、広い外の世界に出ればそのあまりの美しさ、素晴らしさにつまらない俺の事なんて直ぐに忘れる。辛いのは今だけさ。いつか第1王子も、今日この選択をして良かったんだと思う日が、きっと来る。
だから、こうして俺が泣くのも今だけだ。第1王子と離れるのが寂しいなんて、思っちゃいけない。第1王子の行く先には、幸せに溢れた輝かしい未来が待っているんだ。そこにはこんな俺の居場所はない。それを悲しく思うことすら、俺には許されていないんだ。
そうして俺は、もう慰めてくれる人もいないのに涙を零し、せめて嗚咽は漏れないようにとギリッと歯噛みをするのだった。
「サリー、あの……。足がプラプラして心許ないから、下ろしてくれると嬉しいんだけど」
「し、失礼しました!」
ハッとして慌ててオーウェン様を地面に降ろす。焦り過ぎるあまりまだどこかにつかまらないと1人では立てない筈のオーウェン様から手を離してしまって一瞬慌てるが、予想を裏切ってオーウェン様は難なく1人でその場に立ってみせた。
そのことはオーウェン様自身も予想外だったようで、不思議そうな顔でしきりにその場で足踏みをしている。そしてふと、気がついたように手を持ち上げて目の前に翳し、開いたり閉じたりした。どうやら足だけでなく、手の方の具合も良くなったようだ。
「あの、オーウェン様。一体何が……?」
「いや、僕にも分からない。でも、なんだか知らないが、魔女の呪いが解けたみたいだ」
何だって? ということは、さっきの光は呪いが解除される時の魔法反応で光っていたのか? でも、いきなりどうして。オーウェン様の呪いをとくファクターは『真実の愛』だって聞いた。『真実の愛』? ……まさか、さっきのキスで?
で、でも、あれは単なるおふざけだ。そんなんで呪いが解けるのか? だって、必要なのは『真実の愛』だって……。え、まさか、あの時の俺の思いの丈がそんなに……?
目の前に突如突きつけられた想定外の事実にパニックになって視線をあっちこっちに飛ばしている俺の内心なんていざ知らず。オーウェン様は嬉しそうに体を動かして、自分の全身をあちこちくまなく見ている。
「わぁ……凄い! 手も、足も、全部思うがままに動くし、言葉だってスラスラ出てくる!」
オーウェン様はその場でピョンピョン飛んだりブンブン手を振ったりして、最後にクルッと回ってみせた。そうしてアハハハハ、と笑いながらその場で回っているのを俺はボーッと見ていたが、目を回したオーウェン様がよろけた事でハッと我に返る。
「危ない!」
「おっと……。少しはしゃぎ過ぎたかな」
「オーウェン様、お怪我はありませんか?」
「もう、そんなに心配しなくても大丈夫だよ。ちょっとよろけただけさ」
そう言われても、やはり心配だ。今はまだ良くてもこの後一時的に呪いがよくなった反動で後から呪いがぶり返し、今まで保っていた理性まで失う程獣性がでてきても困る。他にも悪影響がないとも言いきれない。なにより今は、色々と動揺しているので少しでも早く落ち着ける場所に移動したかった。
「オーウェン様のお体が心配です。兎に角、今日はもう戻りましょう」
「えぇー! ちょっとよろけただけじゃないか。折角体が自由に動くようになったんだから、もっと外にいようよ」
「いけません、オーウェン様。万が一にでもあなたにこれ以上何かあるようなら、私はもう心臓が持ちません。お願いですから、大人しく帰りましょう」
「……分かったよ。仕方がない、他でもないサリーのお願いだものね。でも、またいつか必ず連れてきてね」
約束だよ、と笑うオーウェン様。その嬉しそうな顔を見て、俺も少し落ち着きを取り戻す。なんにせよ、今は一刻も早く『嘆きの塔』に帰ろう。話は全部、それからだ。俺は1度大きく深呼吸をしてから、後始末に取り掛かるのだった。
オーウェン様の呪いが突然解けるという驚くべきことが起こってから、1日経ち、2日経ち……。結局、1週間経っても呪いがぶり返すことはなく、オーウェン様は元気で健康なままだった。最初は心配でオロオロ狼狽えていた俺も、大分落ち着きを取り戻せたと言えよう。もっとも、オーウェン様の方はいつまで経っても体が自由に動くことに興奮冷めやらぬようだったが。
今まで満足に動かない肉体に閉じ込められていた分、オーウェン様は自由が効くようになった体で元気いっぱい動き回っている。毎日色々なことをして、生来の利発さと明るさを惜しみなく発揮していた。
最初の数日はまた体が動かなくなる前に、と今までやりたかったという歩いたり歌ったりということを一通りしていたが、そのうち俺達の生活リズムはまた以前のような勉強と遊びの繰り返しに戻る。というのも、オーウェン様自身が折角身につけた学びを錆つかせたくないと言い出したからだ。『きっともう呪いは解けたよ。自分の体のことだから分かるんだ。もう以前のようななにか目に見えないものに纒わり付かれる感覚がしないからね』と、彼は言っていた。
半信半疑ながらもオーウェン様本人が望むことをしないわけにはいかない。大人しく、俺はオーウェン様に勉強を教えていく。あと、遊びの時間と言ったけれど前のような半分訓練のような遊びではない。体が自由になりもうそういったことは必要なくなったので、今では遊びの時間は名ばかりの俺とのおしゃべりの時間になっていた。
「素晴らしい。オーウェン様は本当に賢くあらせられる。私も一応士官学校に在籍していた頃は優秀だなんだと持て囃されたものですが、オーウェン様の怜悧さの前では遠く足元にも及びません」
オーウェン様が完璧に解いた数学の問題の前で、そう感嘆の声を漏らす。実際、オーウェン様は呪いが解けてから、前にも増してメキメキと学力をつけていっていた。以前から賢い子供だと思っていたが、ここまでとは。本人曰く体に不具合がない分気が散らず、以前よりも思考にリソースを割けるようになったから前にも増して良く頭が回るらしい。
「サリーにそう言って貰えると嬉しいな」
「この分だと、もうそろそろ私が教えられることもなくなりそうですね」
「えー! そんな事ないよ! 僕が知らないことなんて、この世の中にまだまだ沢山ある!」
そりゃあそうだろうさ。なんと言ってもオーウェン様は生まれてこの方殆どこの塔から出たことがないんだ。しかも、その間まともな教育も受けられなかった。知識面では言わば生まれたての赤ん坊の状態。多少の無知は、仕方がない。
……やはり、オーウェン様が外に出られるようにした方がいいよな。呪いが解けたというのに、いつまでも親である王様に隠しておくのは良くない。俺が教えられることにも限界がある。オーウェン様が普通の人間らしく過ごせるようにする為にも、この『嘆きの塔』を出るのは必須条件だ。呪いは一向にぶり返す様子もないし、ここらが潮時だろう。
「サリー?」
「ああ、すみません。なんでもないですよ。……オーウェン様。オーウェン様は、呪いが解けて嬉しいですか?」
「勿論! 四肢が自由に動くのも、好きなことを話せるのも、全部夢にまで見たことだ。嬉しくないわけがないじゃないか! なによりも、大好きなサリーに自分から抱きついたり、好きなだけお喋りしたりできる。それだけで僕は今までの苦労が全て報われるようだよ」
そう言って席を立ち、近くに寄ってきて俺に抱きつくオーウェン様。ギュッとくっついた温もりに、喜びや愛しさ、親しみなど、様々な感情が胸の内を駆け巡った。
ああ、俺はこの人を、必ずや外の世界に送り出してやらなくては。勿論外の世界にあるのはいいものばかりではないけれど、この狭い塔の中よりは余っ程いい。ここに居たままではその善し悪しを見極めて何かを選びとるという当たり前のことすらできないのだから。オーウェン様には、幸せになってもらいたい。これは、その為に必要な1歩なんだ。
オーウェン様との会話で、俺はある1つの事を決意する。そうして同時に、胸中にポツンと湧いた少しの寂しさは見ないふりをして誤魔化した。
そして、それから更に数日後。俺達が並んで座り、お茶を飲んでいた時のこと。
オーウェン様の呪いが解けてから、オーウェン様は前からの夢だったと言ってなんでも俺と同じことをしたがった。掃除や洗濯、料理まで、やらせてやらせてと言ってせがんでくるのだ。
俺はその度に『あなたは雇用主側なんですから、使用人の私に全て任せておいてください』と断っていたのだが、最後には大きな目を潤ませ泣き落としまでされてしまっては折れるしかなかった。オーウェン様曰く、昔から俺の手伝いがしたくて仕方がなかったんだとか。まったく、これは物凄く懐かれたものだ。
この一緒にお茶を飲むというのも、オーウェン様から言い出したことだった。前から食べているおやつの一部を俺に分けてくれることはよくあったが、それだけでは嫌だと駄々を捏ねられたのだ。『サリーとはできるだけ対等でいたい』というのがオーウェン様の弁である。そんなこと言われても、生まれついての立場や流れる血の貴賎まではどうにもならないのに。俺とオーウェン様の間には無視するにはあまりにも大き過ぎる隔たりがある。世間ズレしておらずまだそこら辺への理解が浅いオーウェン様にはなんだか気が引けて言えていないが、まあいい。そのうち理解するだろう。
兎に角。お茶を飲みながら茶菓子のクッキーを食べる俺達の間には、穏やかな時間が流れていた。
「んん、美味しい! このクッキー香りがすごくいいね」
「それは良かった。冷えたバターを使って作るのがコツなんですよ」
「え、でもそれじゃぁ固くて混ぜにくいんじゃないの?」
「ほんのちょっぴりの魔法と、強い力は全てを解決してくれますから」
「うわぁ、凄い……。前々から思ってたけど、サリーって結構力で押し通すタイプだよね」
そりゃぁ元々俺は、脳筋の代名詞の軍人だったからな。士官だったので一通りの教育は受けているが、それでもやっぱり物事の解決策における選択肢では、常に腕力が上位に入ってくる。ここに来てからもトレーニングは続けていて今でも力は衰えていないから、余計にそうだ。
「体を鍛えておくと、いいこと尽くめですよ。心身共に健康になりますし、余裕もできます」
「むぅ、僕もサリーに手解きしてもらって鍛えようかなぁ」
そう言ってムンッ、と力瘤を作ろうとするオーウェン様。そんなことしても、細っこい腕が力瘤で盛り上がることはない。オーウェン様が恨めしそうに自分の腕を眺めるのを微笑ましく見ていた、その時。俺の耳は、ある不審な音を捉えた。
「……?」
「どうしたの、サリー。急に立ち上がったりして」
オーウェン様の方を見もせずにシッと短く息を吐き出して、静かにするように手でジェスチャーをする。なんだ、この音。下から聞こえてくる。固いものと固いものが、ぶつかり合うような音。それと、扉を開ける音も。だんだん近づいてきている。
「オーウェン様、こちらにおいでください」
オーウェン様を椅子から立たせ、部屋の隅に連れて行って背中に庇う。角を背にできるここが1番守りやすい。念の為何が起こっても対処できるように、いつでも魔法を発動できるよう魔力を練り上げておく。扉を開ける音の合間に聞こえる謎の音は同じようなのが複数していて、群れになっているようだ。その正体は何かと考えて、ハッと1つの答えに辿り着いた。これ……石の床と硬いブーツの底がぶつかり合う、靴音か? 間違いない。絶対にそうだ。この塔の中に誰かがやってくることは今までなかったから、直ぐには気がつけなかった。
と、そこでとうとうその靴音達はようやく俺達が居る最上階の、部屋の扉の前までやって来た。先程までの扉の開閉音からするに、俺達がどの部屋にいるか分からなくて一部屋一部屋確かめながら来たのだろう。俺達が最後の一部屋のこの場所に居るこおはとっくにバレている。扉に鍵はついていない。固唾を飲んで見守っていると、目の前でユックリと扉が開いていく。そこに居たのは。
ギイッと耳につく嫌な音を立てながら開いた扉のその向こうには、数人の近衛兵と、あの日見て以来の侍従頭。そして豪奢な衣装に身を包んだ、1人の男が立っていた。その男の姿を見た途端、俺は全てを理解しその場に膝を着いて頭を垂れる。
「え、どうしたの、サリー!?」
後ろで慌てるオーウェン様の声がするが、俺は頭を垂れたまま、動かない。だってそうだ。今勝手にここで何かをする権利は俺にはない。なんと言ってもこの国の最高権力者の、王様が目の前に立っているのだから。
「ほう、中々分を弁えた教育係だな。流石規律の厳しい国軍出身者なだけのことはある」
「陛下にお褒めに預かり、恐悦至極にございます」
コツコツと音を立てて、美しく磨かれたブーツの爪先が視界の端に入ってくる。王様が近くに寄ってきたのだ。俺の後ろで、オーウェン様が身動ぎする気配がした。
「父上……なのですか……?」
オーウェン様の問いかけが疑問形なのも無理もない。オーウェン様は生れて直ぐに両親から遠ざけられて今まで生きてきたのだから、父親の顔を知らないのだ。王様の身なりや態度から自分の父かと推測したのだろう。
「おお、我が息子、オーウェンよ。久しいな。息災で何よりだ。その様子だと、呪いが解けたというのは本当のようだな」
「……なんの御用ですか?」
「何って、決まっているだろう? 私自ら直々に、お前を迎えに来てやったんだ!」
背後から息を詰める音がした。俺の背中に添えられたオーウェン様の手が、ギシリと強ばる。
「結構です。お帰りください」
「……はぁ? 何を言っているんだ? 親であり国王でもあるこの私が態々迎えに来てやっているんだぞ? それとも、この事の意味が分かっていないのか? 1度は魔女の呪いで落魄したお前を、復権させてやろうと言っているんだぞ?」
「ですから、結構ですと申し上げているのです。僕は復権など望んでおりませんので。だいたい、今まで1度も尋ねてこなかったのに、今更になって何ですか。どこで聞き付けたのか知りませんが、呪いが解けたと知ったとしても、僕は今更惜しくなるような息子でもないでしょうに」
俺は顔を伏せたまま眉を寄せた。刺々しい敵意を隠しもせず、つらつらと一息に拒絶の言葉を言ってのけたオーウェン様に、ヒヤッとさせられたからだ。だが、当の王様は幸いなことにそれを気にした風もなく、言葉を重ねる。
「オーウェン、お前に顔を見せられなかった私に不信感を持っているのか? 無理もないな。私がお前に会うのはお前が生まれた時以来なのだから。だが、分かっておくれ。待望の第1子を、それも世継ぎとなる筈の王子を呪われて、私とてお前と顔を合わせる事もできないくらいに辛かったのだ。それでも、私は本心ではいつでもお前に会いたいと思っていたよ」
「それなら、こうして顔を合わせたわけですから、もう用はお済みでしょう。お帰りください」
「おやおや、拗ねているのか? 止めなさい、その歳でみっともない。1度は呪われたお前を、再び家族に迎え入れてやろうと言っているんだぞ? 素直に喜んで戻ってきたらどうだ?」
「結構です! 僕はここで、このサリーと過ごしているだけで十分なんだ。今更王家の一員として返り咲くことに興味はありませんし、それに伴う様々な特権への未練もありません。どうぞ1度捨てた息子のことなど、そのままお忘れになってください」
オーウェン様の頑なな態度に、目の前の王様のブーツの先が、苛立たしげにピクッと震えた。まずい。話が拗れてるぞ。良くない流れだ。思わず顔を上げて後ろを振り向き、口を挟む。
「殿下、これはまたとない僥倖ですよ。変に渋らずに陛下の提案をお受けしてはどうでしょうか?」
いつものように『オーウェン様』と呼ばなかったのは態とだ。俺とオーウェン様……いや、第1王子との身分差と、第1王子がここでどう振る舞うべきかを、分からせる為に。胸がズキリといたんだ気がしたが、構っていられない。第1王子のことを思うのなら、ここが踏ん張りどころなんだ。
「前に、外の世界を見たい、もっと色んなことを知りたい、と仰ってたじゃありませんか。このままここにいてはその願いは叶いません。見ての通りここは石壁に囲まれた狭い場所ですし、私があなたにお教えできることは限られています。今は良くても、いつか限界が来る筈です。いいですか、その時に後悔しても遅いんですよ? 折角の機会なんですから、それを生かさなくてどうするんですか。ましてやこれは、本来あなたに与えられるべきだった権利なんですから。あなたは賢く優秀なお方だ。こんな所で終わるべきではない」
「でも、サリー! だからって……」
「殿下。折角呪いが解けたんですから、こんな所に縛り付けられず、自分の人生を自由に楽しんで生きてください。あなたは報われるべき人だ。そう思えばこそ私は、殿下の呪いが解けたことを陛下にお知らせしたんですよ」
言い聞かせるように、重々しい口調で言ってのける。肩越しに第1王子に視線を合わせ、願いを込めてその目を見つめた。第1王子は信じられない、といった様子の表情を浮かべている。その目が少し潤んでいることには、気が付かないふりをした。
暫し重苦しい沈黙が続いたが、第1王子は一瞬顔をクシャリと歪めた後、直ぐに覚悟を決めたような表情を浮かべる。俺の体に添えられた手がほんの瞬きの間だけ強く服を掴み、そして離れていった。
「……分かった。サリーがそう言うなら。それが、他でもないサリーの望みなら」
グッと唇を噛み、殿下は立ち上がる。傷になるといけないから、強ばったその唇に触れて解いてやりたい。そう思えども、今の俺にはそれはできなかった。先に手を振り払ったのは、俺の方だ。心を殺し、再び前を向いて頭を垂れた。
「短い間でしたが、殿下のように素晴らしいお方と共に過ごせて、とても光栄でございました。これから先、殿下の行く末のご多幸をお祈り申し上げております」
「話は纏まったか? やれやれ、待ちくたびれたぞ。できればこういったことはこれっきりにしてもらいたいね」
「……はい、申し訳ありません。父上」
「まあいい。ご苦労だったな、教育係。お前はいい働きをした。それに免じて、また後で何か褒美をつかわそう」
「有り難き幸せに存じます」
その場で益々深々と頭を下げる。そんな俯けた俺の視界の端に、踵を返す王様のブーツとその後ろをフラフラとついていって遠ざかる、第1王子の少し草臥れた靴が映る。外に出た日に貸してやったら気に入った様子なのでそのままになっていた、彼には少し大きいブーツ。最近では自分の足で歩くようになったオーウェン様の足を、冷たい石組の床から守ってもいた。それは頼りない足取りだったが、1度も立ち止まることなく視界の外に出ていく。
これでいい。俺は正しいことをしたんだ。第1王子だって今はこうして俺の事を慕っていてくれるけれど、広い外の世界に出ればそのあまりの美しさ、素晴らしさにつまらない俺の事なんて直ぐに忘れる。辛いのは今だけさ。いつか第1王子も、今日この選択をして良かったんだと思う日が、きっと来る。
だから、こうして俺が泣くのも今だけだ。第1王子と離れるのが寂しいなんて、思っちゃいけない。第1王子の行く先には、幸せに溢れた輝かしい未来が待っているんだ。そこにはこんな俺の居場所はない。それを悲しく思うことすら、俺には許されていないんだ。
そうして俺は、もう慰めてくれる人もいないのに涙を零し、せめて嗚咽は漏れないようにとギリッと歯噛みをするのだった。
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