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おまけ3 後編

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 目の前にある美味しい料理。室内に流れる落ち着いた音楽。洒落た内装の店内。ここは小高い丘の上にある店なので、窓の外に眼下に美しい夜景が。机の上ではヒッソリとキャンドルの灯りが揺れていた。グラスに入った酒を1口飲めば、途端に芳醇な香りが口内に広がる。
「ここ、いいお店だね。お酒も料理も美味しいし、雰囲気もいい。よく見つけられたね」
「ウルリヒに教えてもらったんだ。気に入ってもらえたみたいでよかったよ。今度あいつにも何かお礼しとかないとな」
 成程、それでか。この店は店員の教育が行き届いていてサービスはいいし、ハズレの店にありがちな雰囲気はいいけど場所代が加味されているだけで値段の割に料理はそれなり、ということもない。実家が地元に根ざした商売をやっていて顔の広いオーウェンの友達、ウルリヒ君の情報網あってこそ見つけられたのだろう。お陰で出会ってから10年目のお祝いに、とオーウェンが催してくれた食事の席がいいものになった。
「10年か……。長いような、短いような時間だったなぁ。呪いに駆け落ち、新天地での新しい生活。色々あったよね」
「本当にその通りだ。最初に会った時は、俺達がこんな関係になることも、ここまで長く付き合いが続くことも、露程にも思いもしなかったよ」
 10年前の昔。あの薄汚れて痩せこけた子供が、まさか俺にとってこんなにも魅力的な恋人になるなんて、想像もつかなかった。今年で23歳になったオーウェンは、本当に立派になったと思う。彼は毎日バリバリ難しい仕事をこなし、プライベートのどんな事もスマートにやってのけている。もう一端の大人の男なんだ。今日も10年目のお祝いだと言って、こんなにも素敵なディナーを用意してくれた。俺はそのことがとても嬉しい。こうして日々どんどんオーウェンの事を好きになっていくのだ。
「……サリー、実はね。プレゼント、まだあるんだ」
「ええっ!? そんな、この素晴らしいディナーの他にも!? 今日は俺ばっかり甘やかされてて、なんだか悪いな……」
「いいじゃないか。この10年間、サリーは俺の事を支え続けてれたんだから。むしろ、これくらいのお礼じゃ足りないくらいだ」
「そんな、俺がしたくてしてたことなんだから、いいのに」
「それでもいいの。愛情だけでできる程、他人の世話って簡単じゃないことくらい、俺にだって分かるよ。社会人になってからも勤め先に慣れるまではってなんだかんだずっと俺の分の負担が少なくて、この10年間俺はサリーに甘えっぱなしだったんだから、これを機にサリーももっと俺の事を頼ってよ」
 ああ、オーウェン。あなたってばどこまで俺を喜ばせてくれるんだろうか! オーウェンが俺にかけたその言葉も、こちらに向けてくる表情も、どこまでも甘い。こんな風に思いやりに溢れた恋人だからこそ、俺はどこまでも構って面倒をみたくなっちゃうんだよな。
「本当、今までサリーは俺にとてもよくしてくれたよね……。あなたは俺にとって、暗く絶望に満ちたものだった人生に差し込んだ尊い光だ。サリーが向けてくれた愛情に俺はどれだけ救われたことか。自分の都合で俺を死なせないようにしていた人間は沢山いたけれど、純粋に俺の為を思って飢えや寒さを遠ざけ、人間らしい生活を作り上げてくれたのは、他でもないあなただけだった。呪いで獣じみていた俺を相手にそうすることがどれだけ難しいことなのか、他でもない俺が1番よく知っているつもりだ」
 テーブルの向こうからオーウェンが手を伸ばし、ソッと俺の手を取る。俺が上に重ねて置いていた手、左手を大きな両手で優しく握りこまれた。指の付け根を端から順繰りに柔らかく親指で撫でられる。何かと思ってオーウェンの顔を見ると、彼は先程までの綻んだ表情とは打って変わってハッとするような真剣な顔をしていた。それを見て俺は思わず姿勢を正す。そんな俺をオーウェンは真っ直ぐ見つめ、握った手に少し力を込めてから再び口を開く。
「サリー。あなたは俺に、10年もの長い間変わらぬ愛情を注ぎ続けてくれた。いいや、それどころかあなたの愛情は日増しに深まるばかり。それはとても有難く、簡単には得がたいことだ。俺はそんな優しく思いやり深いあなたにとてつもなく惚れ込んでる。もうメロメロだよ。この10年、あなたが俺を愛してくれたように、俺もあなたを深く愛した。そのことは信じてくれるね? そして俺はこれから先もこの命尽きるまで、いいや、この命尽きても永遠にあなたを愛し続けるとここに誓う。……どうか、その証としてこれを受け取って欲しい」
 オーウェンの手がゴソゴソと俺の手の上で動いた。そして、薬指に違和感が。彼の手が動きを止め、静かに離れていく。それでも指の違和感はそのまま。オーウェンの視線が俺の指の上に落ちたので、恐る恐る俺もつられるように視線を落とす。すると、そこには……。
「あなたも俺の事、これからずっと愛してくれる?」
 ムーディな空間を作り出す為に抑えられた照明の下でも十分に分かる、その煌めき。左の薬指にピッタリ嵌って、確かな存在感を放っている。俺は自分の左手をゆっくり持ち上げて目の前に翳した。嘘。まさか。そんな。これって、そうだよな? 今日ディナーに誘われた時、実は少し期待してた。でも、本当に貰えるなんて。未だに現実が信じられない。そう、それは紛うことなきオーウェンから俺への愛の証の、指輪だった。
「オーウェン、これ……」
「一応、婚約指輪のつもり。いいできだろう? 結婚指輪は同じ店で2人で選ぼうよ。……勿論、サリーがさっきの問いに色いい返事をしてくれたらだけど」
「そんなの、勿論いい返事をするに決まってる! 返事は『はい』一択だ! 俺だって永遠にあなたの事を愛し続ける! ああ、オーウェン。これってなんというか……そう、凄い。すっごく……素敵で……感動的で……。ああ、もう。思考がグチャグチャで、相応しい言葉が出てこないな……」
 俺はもう感動で胸いっぱい。頬が勝手に緩む。口角が上がるのを止められない。なんだか顔が熱いし鼻もツンとしてきた。ヤバい、泣きそう。
「ああ、オーウェン、オーウェン……。今なら俺はこの幸せな気分だけで、例え死んだって生き返れそうだよ」
「フフフッ、サリーってば、大袈裟だよ。その前に、何があっても俺の大事な伴侶を死なせたりなんかしないけどね」
 伴侶。伴侶かぁ……。そうだ、婚約指輪を貰ったということは、俺はとうとうオーウェンと結婚式を挙げられるんだ。確かに俺達は書類上結婚はしているけれど、それとこれとは別。俺達、普段はただの恋人として通しているしね。
 でも、これからは違う。結婚式を挙げればそこからは正真正銘、俺達はどこに言っても誤魔化すことなく、自分達は愛し合う夫婦なんだと言えるんだ! ああ、それってなんて最高なんだろう。大手を振ってオーウェンを俺の伴侶だと人に紹介できるし、実は契約婚じゃないのかとかなんだなんだと影で心配されることもなくなる。夫婦でしか受けられないちょっとしたサービス……例えば、ランチタイムにキャンペーンで夫婦限定で特製のパイを1切れ余分に貰えるやつとかを受けて、ささやかなからも結婚の実感を持つのも最高だ。ああ、夢が広がるなぁ。
「あっ、サリー。泣かないで」
「うぅ……無茶言うなよ……。こんな最高の瞬間に泣かずして、いつ泣くっていうんだ……」
 ああ、やっぱり我慢できなかった。流石に声を上げて大泣きこそしなかったけれど、それでも喜びで視界が潤み、止める間もなくポロリと涙が零れる。オーウェンが慌てて席を立ち、素早い動作で俺の横に来て涙を拭う。恥ずかしいけれど、その暖かい手が何より嬉しかった。
「……サリー、食事も終わったし、そろそろ落ち着けるよう部屋に戻ろっか。あなたの涙を止めあげたいし、それになにより、今は2人きりになりたいな」
「うん、そうだね……。俺も、オーウェンと2人きりになりたい」
 言外にそういうを含ませた、その言葉。俺の方も期待する気持ちがムクムクと持ち上がる。優しく頬に添えられたオーウェンの手に自分の手を重ね、2人してウットリと見つめ合った。
 溢れる涙を何とか我慢して、手を引かれるまま席を立つ。そのまま俺達はとってある部屋へと向かって、浮つく足を踏み出した。





 部屋に帰った俺達は、乱暴に服を脱ぎ速攻で併設された風呂場へと赴く。順繰りに浴室に入って体を洗う時間すら惜しく、2人一緒になって入った。そうしていそいそと体を洗いっこしつつも気分は盛り上がるわけで……。
「ん、ぁ……」
「はぁ、サリー……」
 降り注ぐシャワーのお湯の下。体を密着させて夢中になって唇を合わせる。触れ合う肌が熱いのは、お湯で温まっているからか、それとも興奮で火照っているからか。なんにせよ、その熱はまったく不快ではない。熱は俺達にまざまざと相手の存在を知らしめる。むしろ、その事がとても心地よかった。
 体は粗方清め終えており、準備はとうにできている。心の準備は言わずもがな。それどころか待ち遠しくて、その時が待ち切れない。腰をくねらせて体の前面を擦り合わせれば、熱くて硬い感触が。オーウェンが反応しているのだ。それは俺だって同じである。
 腰を緩くカクカクと揺らし快感を追い求めると、オーウェンの唇が小さく笑みを結ぶのが自分の唇の上で感じられた。ウットリと夢中になってそれをペロペロと舐めていると、不意にキスが解けてオーウェンが俺の首筋に顔を埋める。そのまま薄い皮膚に柔らかく吸いつかれた。腰に回されていた腕がスルスルと下に降りていって、大きな手が俺の尻を揉む。
「っ、オーウェン……」
「サリー、感じているんだね。フフッ、可愛い」
「もう、またそんなこと言って」
 来年には30になるいい歳の男を捕まえて『可愛い』だなんて。俺に対してそんなこと言うのは、世界広しといえどもオーウェンだけだ。オーウェンといえばいつもいつもことある事に、俺に対して『可愛い』だの『綺麗』だの、賞賛の言葉を絶やさないのである。俺はそれが気恥ずかしくもあり、嬉しくもあった。オーウェンが俺に対してそう感じて言葉にしてくれるのは、愛されていることの証左だと思えるからな。
「ほら、後ろを解すから、もっとこっちに寄ってごらん」
 俺はオーウェンの手に引き寄せられるまま腰を寄せる。すっかりオーウェンにリードされるようになったな。俺が片手で抱き上げられる程小さかった筈のオーウェンは、今では僅かながらも俺の背を越し、全体的に逞しくなった。仕事は頭脳労働だが体がなまらないよう彼の仕事が休みの日には俺と一緒に鍛錬をしているので、筋肉もついてきている。それだけではない。外面だけでなく内面も成長してきて、最近では色々と俺が翻弄されることも増えてきた。本当に惚れ惚れする程いい男になったと思う。今だって決して華奢ではない筈の俺の事を優しく、且つ軽々と扱っていた。
 導かれるままオーウェンに擦り寄ると、彼は俺の足の間に自分の足を差し込んでくる。そうして俺に少し尻を上げさせ、そこで位置を固定した。オーウェンはそのまま俺の尻たぶを割り開き、少しアナルの周りを指で啄いて柔らかくしてから、やんわりと中に指を差し込んだ。指は優しく中に潜り込み、腸壁をジックリと解していった。俺はオーウェンの首をかき抱きながら、それを受け入れる。
「ぁ、ふぅ、う……」
 もう随分と慣れたその先の予感をさせる軽い違和感に、苦しくない程度にオーウェンの首に絡みつかせた腕をキュッと締めた。目を瞑って耐えていると、オーウェンが顔を動かしてリップ音を立ててキスをしてくれる。俺はそれに応えるように指先でオーウェンの肌を撫で回した。
 暫しそうしてオーウェンの前戯に集中する。明らかにシャワーのものとは違うグチュグチュという水音が、浴室内に反響した。
 オーウェンの指は中を解すだけでなく、明らかに俺の官能を引き出そうとするような動きをしてくる。弄り過ぎてもう覚えてしまっているであろう俺のいいところを態と外して指で引っ掻いたり、中を広げる為に指を増やしたり。それらの動作に体の中の熱がユルユルと高まっていく。
「ん、よし。もうだいぶ解れた。続きはベッドでしようか」
 オーウェンの手管に陶酔していた俺は、その言葉に声を出す余裕もないままコクコクと頷いた。シャワーを止め、2人共ザッと体中の水分を拭って、何かを体に纏うこともなくベッドルームへと足を向けた。
 ベッドに腰かけると、流石一流所。マットレスは少し沈み込む感覚がしただけで、嫌な軋み方も、変なひしゃげ方もしなかった。その安心感に促されるまま、深いキスをしながらユックリと後ろに倒れ込む。シーツの上から見上げるオーウェンの視線は静かにこちらに向けられていて、いつもはキッチリ整えられている髪が、今はしどけなく乱れていた。
 オーウェンの手がスルスルと俺の肌の上を滑り、それはあちこち彷徨って最終的に胸の中心からやや左に寄った心臓の上あたりに落ち着く。掌がベタッと引っ付いてきて、筋肉越しに心臓の鼓動を確かめているようだ。オーウェンは確かな拍動を味わうように、軽く指先を動かした。
「サリーの心臓、ドクドクいってる」
「揶揄うなよ。そう言うオーウェンはどうなんだ? こっちに来て、感じさせて」
 大人しく体を寄せてきたオーウェンの胸に手を当てれば、手にシッカリと伝わる生きている証が。彼の心臓は体の中で跳ね回り、確かな律動を刻んでいる。その事にオーウェンも自分と同じ気持ちでいてくれるんだという事を知り、喜びを感じた。
「ほら、やっぱり。オーウェンも緊張してるじゃんか」
「当たり前だろ? こんな魅力的な恋人を前にしたら、誰だってそうなるさ」
「フフッ、嬉しいこと言ってくれるなぁ。よし、お礼になにか、あなたにイイコトを」
「あ、駄目駄目! 気持ちは嬉しいけど、今日は俺に任せて。これまでの恩返しの意味も含めて、今日はとことん俺がサリーに奉仕したいんだ」
 オーウェンはこっちが何か反論する間もなく、俺の鼠径部に手を伸ばす。足の付け根を少し擽ってから、そのまま緩く開いていた太腿の間に指先を滑り込ませた。オーウェンの指が薄く柔らかい肌を揉みこみながら場所を移動し、俺のペニスに到達する。そうしてオーウェンはやんわりとした強さで俺のペニスを抜きながら、ひっそりと俺に微笑みかけた。
「オーウェン……」
「ね、サリー。お願い。前も、その前も、大事な時はいつもサリーに任せっきりになっちゃったろ? あなたが積極的なのは嬉しい限りだけど、イニシアチブを譲ってばっかりじゃ、俺は男としてあまりにも情けないじゃんか。偶にはこっちに甘えると思って、今日は俺に譲ってくれないかい?」
 その問いかけに否やと言われるとは、夢にも思っていないのだろう。オーウェンは話しながらもヤワヤワと手の中でペニスを弄ぶ。その事で全身に甘い痺れが広がるようだ。これはきっと、うん、と言うまで決定的な刺激は与えられず、苛まれ続けるんだろうな。まあ、嫌だなんて言う気は最初っからないので、それは余計な心配なのだが。
「うん、分かった。思えばいっつも俺が暴走して、最後にはオーウェンの事を泣かせたりしちゃってたもんね」
「あー、それはかっこ悪いからできれば忘れて欲しいんだけど」
「え? でも、結構可愛かったよ?」
「……」
 あ、まずい。今の俺の一言で、オーウェンの瞳に怪しい光を灯らせてしまった。これは変に焚き付けてしまったかもしれないぞ。慌ててなにか口にしようとするが、そこで俺は言葉に窮してしまう。口にするって、何をだ? オーウェンを止める言葉? いやでも、俺はオーウェンとの行為が嫌なわけではない。
 むしろ、是非とも彼の好きなように手を出してもらいたいくらいで……。えっとぉ……それなら、別に何も言わなくてはいいのでは? オーウェンのやる気に火がついたこの状況は、逆に喜ばしいものなのかもしれなかった。
「サリー、あなたが分かっていないみたいだから先に言っておくけどね。あなたからの『可愛い』は俺にとって、嬉しいと同時にやる気を出させる言葉なんだよ。『可愛い』と言われるのはサリーにまだ庇護対象の小さな子供として見られてるみたいで、それはもう違うんだぞってあなたに思い知らせたい気分にさせられるからね」
 突然、ペニスに絡んだオーウェンの指に力が篭もる。とは言ってもそれは痛みを伴うものではない。むしろ、もたらされるのは快感ばかり。絶妙な力加減でユルユルと抜きあげられた。
「ひっ」
 驚きで思わず喉が引き攣り、変な声が出る。だが、そこに拒絶や嫌悪の意味が込められているわけではないのだ。その事は当然オーウェンも承知していた。ブルリと1度、体を震わせた俺に、オーウェンは笑みを深くする。
 彼の愛撫はそれだけではない。空いている方の手は俺の胸の先、乳首に伸ばされた。そのままそこを指先でクニクニと捏ねられる。乳首はとっくの昔に他ならぬオーウェンの手によって開発済みだ。というか、乳首と言わず、どこと言わず、今や俺は体中が彼の手に触られれば感じてしまう性感帯になっていた。
「ふぅ、んんっ」
 その手管に俺が明確に反応した事で気を良くしたオーウェンは、俺を苛む手付きを益々熱っぽくする。ペニスを扱く手は早くなり、乳首を弄る指の力も強くなった。溜まっていく甘ったるい快感に背筋を震わせ、腰を浮かせば、すかさずオーウェンは緩急をつけてネットリと手淫を施してくる。俺はウットリとその妙技に酔いしれた。
「オーウェン、も、後ろ、欲しい……」
「ん、分かった」
 俺のお強請りに応えて、オーウェンがペニスや乳首から手を離し、俺の腰を抱え上げる。そのままグイッ、と俺が苦しくない程度の低い高さに固定された。俺は仰向けの体制なので、オーウェンのことがよく見える。こちらを見つめる熱っぽく潤んだ目も、上気した肌も、そして、腰を掴む手の指に嵌められた真新しい婚約指輪だって、全部。それらの光景全てに喜びで背筋が震える思いである。
 オーウェンは俺のアナルに指を1本入れて柔らかさを確かめたが、先程風呂場で解した甲斐あってか、それはどうやら満足のいくものだったようだ。大きく1度、中を掻き回してから、指は引き抜かれた。
「サリー、入れるよ」
 そう言って俺の足を掴んで入れやすいように軽く広げさせられたので、その間からオーウェンのペニスがよく見える。それは何もしていないのに、もうガッチガチに昂って天を向いていた。俺を相手に前戯をして、その際の期待感だけでここまでなったようだ。ああ、先走りまで垂らしているじゃないか。自分がオーウェンに心底求められているのか分かって嬉しい。
 思わずオーウェンのペニスに見蕩れていたが、そんなのお構いなしにオーウェンのそれは俺のアナルに押し当てられた。ツンツン、と軽く確かめるように入口を啄いてから、丸みを帯びた硬い切っ先はグプリ、と入口に飲み込まれる。ヌプヌプとユックリ押しいられる事で痛みがないのは勿論、ペニスの熱さや固さ、その存在感がありありと伝わってきた。
「くぅ、ふ……」
「ふぅー……。どう? 苦しくない?」
「大、丈夫。むしろ、これだけでかなり気持ちいいくらいだ」
 それは本当の事だ。オーウェンのペニスはとても大きい。入れただけで、腹がいっぱいになって少し膨らむくらいには。挿入されただけで俺の中をあちこち圧迫し、擦ってきて緩い快感と大きな満足感を与えてれる。だが、まだ足りない。俺は知っている。オーウェンとのセックスには、この先があるって。それを求めて、俺は中を締め付けるように力を込めた。
「っ、サリー」
「オーウェン、動いて」
「……仰せのままに、愛しい人」
 最初はユックリ。次第に激しく、抽挿が始まる。それはただ抜き差しするだけの単調な動きではない。熱い楔は突き入れられる度、俺の感じる箇所を尽く刺激し、悩ましい快感が甘苦しく俺のことを責め立てる。オーウェンに激しく揺さぶられ、視界がブレる程突き上げられ、そのことに激しく感じてしまった俺はキュンッと中を締め付けた。
 すると、視界の端でオーウェンの顔が快感で歪む。彼が俺の事を犯しやすいように自分で足を抱えれば、更に深くペニスを差し込まれた。角度も変わってさっきよりも強くゴツゴツと結腸を突かれる。
「あっ、んぅ、オー、ウェ……いい、いいよぉ、ひ、ぅ……」
「ん、俺も。すっごくいい」
 あ、奥に。オーウェンのペニスが、奥に潜り込もうとしてる。気分が盛り上がっていつもより一生懸命だからだろうか? 未だ侵入を許したことのない未踏のそこを、彼は凶悪な分身でとうとう犯そうとしているのだ。オーウェンも遂に自分が一線を越えられそうな事に気がついたらしく、狙いを定め、先程までのと打って変わって優しい腰使いでグリグリと先端を押し付けてきた。これは堪らない。その刺激に体の奥で考えたこともない場所が緩んだ感覚がした。
「くぅ、んんっ、そこっ、そこは、ぁっ」
 ヌポヌポと小刻みに中を抉られる。先端が最奥にめり込んだ。それだけでビリリッと雷に打たれたような快感が体の中を走った。
「ひぁっ、ああぁっ!」
 嘘だろ。ヤバいぞこれ。少し刺激しただけでこれだけ気持ちがいいなんて、結腸を突破されてしまったら、いったい俺はどうなってしまうんだろうか? 想像がつかない。だが、未知への恐ろしさはなく、あるのは胸が疼くような甘い期待だけ。それが俺にオーウェンへ制止の言葉をかけることを躊躇わせた。そしてその一瞬の間が、決定的な結果を産むことになる。
 一瞬、オーウェンの動きが止まった。オーウェンが腰を抱え直し、肉に軽く指が沈み込む。そして、動きを止めた一瞬のうちに狙いを定めたらしいオーウェンのペニスが、グッと結腸を開く。張り出したカリが結腸の1番狭いところをツプッ、と突破してしまえば、後はあっという間だった。
「んんぅ──っ!」
 瞬間、体の中で衝撃が生まれてビクビクッ、と全身が大きく跳ね上がる。瞼が勝手にかっ開かれ、視界がチカチカ瞬いた。あまりの快感に涙が目じりから零れる。全身に力が入り、背中が弓なりにしなって喉からは悲鳴じみた嬌声が上がった。
 同時にキュウッと中を締め付けてしまい、オーウェンのペニスの形が体の中でクッキリと浮かび上がる。今までで1番大きく感じられたそれは、中でドクンと脈打ったかと思うと、次の瞬間には大量の熱を放った。勢いよく放たれたそれは、奥の奥まで染み込んでいく。
 手も、足も、胴体も、体は全部バラバラになってしまったみたいだ。腹の上が暖かいと思ったら、そこは自分の出した精液でしとどに濡れていた。今の衝撃でイッてしまったみたいだ。
 然もありなん。さっきのはそれだけ凄い快感だった。今も余韻で全身が痺れ、どこにもしっかり力が入らない。体の中で生まれた性感が反響して、今も甘くイき続けているようだ。ヒクヒクと小さく痙攣をしながらその快感に浸っていると、徐にオーウェンが身動ぎした。彼のペニスは俺の結腸をブチ抜いて嵌ったままなので、その動きがダイレクトに伝わってきて、また快感が生まれる。
「ひんっ! な、にを……!?」
「サリー、これで終わりだと思ったの? 違う。まだまだだ。俺はもっともっと、あなたの事を気持ちよくできる」
 そう言ってうっそりと笑うオーウェン。えっと、これって若しかして、オーウェンは続きをしようとしてる? お互いつい今しがたイッたばっかりなのに? あっ、うぅっ、待って待って。そこは駄目。ただでさえ敏感な場所なのに、イッたばっかりで更に過敏になってるんだ。そんな風に刺激されちゃぁ……。
「オーウェン、く、ゥ……っ!」
「はぁ、気持ちいいの、サリー? 表情が蕩けてる。本当に可愛いなぁ……。あなただけを永遠に眺めていたいよ。1回や2回なんかじゃ終わらせない。朝まで夜通し愛し合おう?」
「あ、ん、はぅ、うぅ──っ!」
 いつの間にかオーウェンのペニスはすっかり硬度を取り戻していた。それはヌコヌコと俺の中で結腸を出たり入ったり。その動きが齎す快感の強さと言ったら! 神経を直接犯されているようで、それだけで文字通り腰が砕けそう。またイッてしまったし、俺はもう気が狂わんばかりだ。
「駄目、駄目駄目駄目っ! 入っちゃ駄目なとこ入ってるうぅ! っあぁっ!」
「大丈夫。ゆっくり、優しく犯してあげるからね。徹頭徹尾、サリーはさ」
 宣言の通り優しく、しかし抗えない強さで犯される。精神的にも、肉体的にも、その事が堪らなく気持ちがいい。俺は悲鳴をあげながら身も世もなくよがり狂った。過ぎた快感に足がガクガクと面白い程大きく暴れ、オーウェンはそれを楽しそうに撫で回す。
 俺は鍛錬で怪我をしないよう普段からストレッチを沢山しているので、かなり体が柔らかい。それこそ、ある程度足を開いて前屈すると、地面に体を着けることができるくらいには。この柔軟性はセックスの時に重宝する。今も膝が胸につきそうなくらいオーウェンに足を抱えあげられて上からズクズクと突かれているが、苦しくもなんともなかった。抜き差ししやすい姿勢になって、オーウェンの腰使いは激しさを増す。
 けれど、それは決して優しさを欠いたものではなく、むしろその逆。感じる箇所を強く刺激され、俺のペニスからまたもや液体が迸った。
「あぅっ……! オ、ウェン……」
「サリー、またイッたの? すっかりグズグズだね。俺のペニス、そんなに気持ちがいい?」
「ん……気持ちぃ……」
「アハッ。素直でいぃ子。ご褒美に奥を突いてあげようね」
「あっ、そんな……あぁっ!」
 昂らされて敏感になった体に与えられる刺激を、俺は上手く受け流せない。必然的に真正面から快感を全て受け止めることになる。でも、それでいいんだ。オーウェンが俺に与えてくれるものならば、なんだって受け止めたいと思う程、俺は彼のことを愛しているんだから。
 大きく節くれだったオーウェンの手が、力強く俺の腰を掴んでいる。その熱くて少し硬い手の感触に、オーウェンの成長を感じて昔に思いを馳せた。
 出会った当初はまだ幼く世界の全てを敵視していたオーウェン。共に過し、心を通い合わせるうちに縮まっていった2人の距離。目の前に立ち塞がった困難も、協力して乗り越えた。今や俺達はどんな事があっても引き離せない仲だ。兄だけが全てだった俺の人生に突如として現れた彼は、今や唯一無二のかけがえのない存在なのである。俺にはここまでの長い道程、それすら愛しく思えた。
「オー、ウェン、っ、好き、大、好きぃ、んぅっ、ふっ、愛して、る……!」
「俺も。サリーの事、世界一愛してるよ」
 その一言にキュンッと中が締まる。頭上から息を詰めた気配がして、オーウェンの腰遣いが更に激しくなった。揺れる視界の中で、それでも彼の射抜くような熱視線を感じる。きっと今の俺は感じ過ぎてだらしなく緩んだ酷い顔をしているだろうに、その事を意に介した様子もない。俺も必死にオーウェンを見返す。快感に眉を顰め目付きを鋭くしたオーウェンの顔は、男前でなかなか見応えが有るものだ。
「オーウェ……、も、駄目……! あっ、うぅ、ふっ、んんぅ──っ!」
「く、うぅっ!」
 ドチュン、と強く結腸をブチ抜かれ、俺は俎上の新鮮な魚もかくやという程シーツの上で跳ね上がった。オーウェンは前屈して体ごと覆い被さるようにして上から俺を押さえ込み、性感の波に耐える為か、ギュッと俺の事を抱き締める。身動きが取れなくなった俺は身じろいで快感をやり過ごす事ができなくなり、真正面からそれに向き合って耐えるしかない。
 過ぎた快感は苦痛だと言う人がいるが、俺にとっては違った。自分より年下のガタイのいい最愛の恋人に上から抑え込まれ、とめどない快感と共にいささか強引に最奥を割開かれる。それも、カクカクと腰を揺らして直前に放った精液を刷り込まれるおまけ付きで。その多幸感といったら! 俺は彼のものだと全身全霊で示されてるみたいじゃないか! これは正しく雌を孕ます種付けだ。ある筈も無い子宮が、キュンッと疼いた気がした。
「はぁ、はぁ、はぁ……ふぅー……。サリー、体は平気?」
「ん……あぅ……」
「ありゃ、ちょっと気持ちよ過ぎたかな? 飛んでる。それなら、今日はここら辺にして、体を清めてもう休もう」
「……それは、嫌」
「へ?」
「もっと……もっと、オーウェンと愛し合いたい。こんなんじゃ、足りないよ。折角色々用意してくれたんだ。もう正式に夫婦を名のれるようになるんだし、あなたの事をもっと味あわせて、ね?」
「サリー……!」
 体内でオーウェンの分身が元気になる。どうやら俺の誘いが効いたみたいだ。気だるくほくそ笑んだ唇に、深いキスを施された。
 そこから先は、分かるよね? あとはもうノンストップ。朝までどころかチェックアウトギリギリまで。盛り上がりまくった俺達は、際限なく愛し合ったのだった。





 そして、翌日。
「オーウェン、昨日は本当にありがとう。最高の思い出になったよ。お返しになるかどうか分からないけど、俺からもあなたに渡したいものがあるんだ。受け取ってくれると嬉しいな」
「えっ、本当? 開けるね? ……うわぁ、凄い! ネクタイだ! チーフに、タイピンも! カフスまで! これ、全部オーダーメイドだよね? 態々用意してれたの?」
「うん。オーウェンは仕事柄、結構身形に気を使う必要があるだろ? こういうので上等なのが1つあるといいかなって思って。あなたが俺に送ってくれたものと比べたら見劣りしちゃうけど、使って貰えると嬉しいな」
「うわぁ、有難う、サリー! 見劣りなんて、とんでもない! 最高の贈り物だ! 大切にするね!」
 早速いそいそと俺からの贈り物を身につけるオーウェン。壁にかかった姿見に全身を映し、あれこれ角度を変えて眺めていたくご満悦だ。実に微笑ましい光景である。俺は彼のこういう無邪気なところも好きなんだ。
「凄く素敵だ……。うん、滅茶苦茶気に入った! ねえ、サリー。来年からも結婚記念日は同じような4点セットを贈ってよ! 沢山あって困るものでもないし、いいでしょ?」
「それは構わないけど……。フフッ、オーウェンってば、気が早いなぁ」
「いいだろ、別に。俺達はこれから先もズーッと一緒なんだから、どれだけ未来の話をしたって構わないさ!」
 それもそうか。確かに俺とオーウェンが離れ離れになる未来なんて、有り得ないもんな。我ながらなかなか浮ついたその考えに、俺は笑みを深くする。
 そして、それから毎年、結婚記念日にはこの4点セットを色柄を変えて、新しいのを贈るのが俺達の習慣になるのだった。
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