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「この前、新聞の社説に投稿が採用されたよ。明日、ジム行かなきゃ。週一で通うってToDoリストに書いて決めてるから」
俊明が言った。僕は、返した。
「ガンバ! 全然話違うけど、カップ麺のアレンジメニューに入れるのってマヨネーズか玉子かチーズだよね」
「それかラー油か長ネギかおろしにんにく……」
俊明の家で、薔薇の一輪刺しが飾ってあるダイニングテーブルで彼が大学帰りにテイクアウトしてくれたハンバーガーセットとケーキ屋さんで買ってくれたショートケーキ(奮発したらしい)を食べ終わった。俊明はレモンイエローのセーターの袖をまくしあげて、
「これ、かたしとくから、ゲームでもしてて」
「うんわかった」
大きい画面のテレビの前でゲーム機本体にカセットをセットした。ふたつコントローラーを持ってグレーのソファに座って待機する。
ガラスのコップにコーラを入れて僕に渡してくれて俊明はホットコーヒー。
「はい。どうぞ」
「ありがとう」
俊明が隣に座る。改めて顔がいい。僕のどこが好き? なんてきけないけど。
ゲームに集中する。ゲームの種類はカートゲームだった。4ラウンドやって結果は2勝2敗の引き分けだった。
「やるな」
俊明が僕のおでこをこづいた。僕は
「俊明って勝ちにこだわるタイプでしょ」
「まあ負けず嫌いだな」
「永遠に勝ち続けるのは無理だと思うよ」
「うん」
「あのさ、昨日のLINEの件……」
「うん」
俊明はつぶらな瞳をこちらに向けてきた。僕はぎこちなくとうとうとしゃべった。
「聞き分けよくなくて、ごめんね。結局、男女関係をそのままトレースした男女関係を模倣した、男同士の関係に無理があるっていうか。言葉のアヤで言ってたお嫁さんって言葉の醸し出すイメージに引っ張られてお嫁さんぶって役割に没入し始めた自分が今更恥ずかしいというか。その気になってしまっていた。求められる役割にはまろうとした。役割の中でぬくぬく暖をとりたかった。あったまりたかった。俊明といれば一軍になって自分までランクアップしたと錯覚できた。自分を引き上げてくれる存在なんじゃないかと期待した。端的に言えば、居場所が欲しかったってことだね」
俊明は目を丸くして驚いた顔をした。それから真面目に答えた。
「きみとは男同士だから気楽に気兼ねなく話せて共感しあえるし、なおかつ異性に求めるみたいに性欲を満たせる。男の役割と女の役割どっちも求めてるのか、一人の人間に。それは混乱させてしまったね」
慰めの言葉を吐く俊明の顔面は整っている。エンディング妖精さながらのキラキラ具合。そんな彼に求められている。男性のスタンス女性のスタンス僕にそんなたくさんの引き出しはない。けれど求められてしまった。ふにゃふにゃで芯のない僕という人間。当たり役になればいいけど。
僕はすり減った心を持って声を震わせて俊明に問うた。
「俊明の隣は僕にとって特等席。僕の輪郭がはっきりする。俊明にとって僕は替えのきかない存在になりえる?」
俊明はひとつ息をついてゆっくり答えた。
「俺にとって都合良く友哉くんに男と女の役目両方求めるよ。求めてる。ある時は男友達。ある時は嫁さん。ある時は俺より見劣りがすることで俺の自尊心をくすぐる存在。ある時は性対象。一人の人間にいろいろな側面求めてる。一人の人間で満足したい。友哉くん、見捨てないで。ねんごろになろ」
俊明は無骨な男の筋張った指を僕の男にしては華奢な指に絡めて恋人つなぎをした。お互い食い入るように見つめ合った。僕は口を開いた。
「こんな不自然な関係、特別でしかない。そう思っていいんだよね?」
僕はどういう答えが返ってくるか根を詰めて待った。彼は至って冷静に言った。
「推奨されてない行為をあえてするところに自分の能動性を見出している。ゴールが決まってるわけじゃないし。結婚みたいな社会制度があるわけでもないし。他人から評価されるわけでもない。マジの自由恋愛。ただ友哉くん相手に君臨する。男の体を求めるよ。自分で意識してないけど体目当てなのかもしれない。友哉くんのこと大事だし宝物だと思ってるけど本心ヤリモクかも。あくまでヤリモクじゃないって言い張るけど。無意識的に体目的なのかも。やりたくてやりたくてたまらないから。ヤリモクじゃいや? 体目当てでも理解してくれるよね。なんたって男同士なんだから。だから、やりたい時にやらせてくれる?」
僕はごくりと喉をならしてただ俊明の口づけを受け入れた。俊明はうっとりした顔でさりげなく僕の股間に触れてきた。
「ちんちん早く見たい。頭の片隅にいっつもあるよ。友哉くんのチンコ。いろんな形態の」
俄然らんらんと輝く俊明のまなざしを見てられなくて、僕は一般論を語って話をそらそうとした。
「ガツガツやりたがる男って相手のこと性欲処理の道具として見てる感じするものね。相手を一人の人間じゃなくモノとして見てる感じがする。大人の余裕感がないというか。大事にしてる感がないというか。全部感覚の問題で、類型的な見方だけど。線引きが難しい。愛情由来の性行為と性行為のための性行為との区別はそう簡単につかないし、自覚するの無理」
「やりたいだけやらせろよ」
「僕だってかっこつけたいからイケメンと恋愛してる。恋愛という、体」
「やらせろ」
「全部忘れさせてくれ。僕に集中して」
僕は男に押し倒された。
俊明が言った。僕は、返した。
「ガンバ! 全然話違うけど、カップ麺のアレンジメニューに入れるのってマヨネーズか玉子かチーズだよね」
「それかラー油か長ネギかおろしにんにく……」
俊明の家で、薔薇の一輪刺しが飾ってあるダイニングテーブルで彼が大学帰りにテイクアウトしてくれたハンバーガーセットとケーキ屋さんで買ってくれたショートケーキ(奮発したらしい)を食べ終わった。俊明はレモンイエローのセーターの袖をまくしあげて、
「これ、かたしとくから、ゲームでもしてて」
「うんわかった」
大きい画面のテレビの前でゲーム機本体にカセットをセットした。ふたつコントローラーを持ってグレーのソファに座って待機する。
ガラスのコップにコーラを入れて僕に渡してくれて俊明はホットコーヒー。
「はい。どうぞ」
「ありがとう」
俊明が隣に座る。改めて顔がいい。僕のどこが好き? なんてきけないけど。
ゲームに集中する。ゲームの種類はカートゲームだった。4ラウンドやって結果は2勝2敗の引き分けだった。
「やるな」
俊明が僕のおでこをこづいた。僕は
「俊明って勝ちにこだわるタイプでしょ」
「まあ負けず嫌いだな」
「永遠に勝ち続けるのは無理だと思うよ」
「うん」
「あのさ、昨日のLINEの件……」
「うん」
俊明はつぶらな瞳をこちらに向けてきた。僕はぎこちなくとうとうとしゃべった。
「聞き分けよくなくて、ごめんね。結局、男女関係をそのままトレースした男女関係を模倣した、男同士の関係に無理があるっていうか。言葉のアヤで言ってたお嫁さんって言葉の醸し出すイメージに引っ張られてお嫁さんぶって役割に没入し始めた自分が今更恥ずかしいというか。その気になってしまっていた。求められる役割にはまろうとした。役割の中でぬくぬく暖をとりたかった。あったまりたかった。俊明といれば一軍になって自分までランクアップしたと錯覚できた。自分を引き上げてくれる存在なんじゃないかと期待した。端的に言えば、居場所が欲しかったってことだね」
俊明は目を丸くして驚いた顔をした。それから真面目に答えた。
「きみとは男同士だから気楽に気兼ねなく話せて共感しあえるし、なおかつ異性に求めるみたいに性欲を満たせる。男の役割と女の役割どっちも求めてるのか、一人の人間に。それは混乱させてしまったね」
慰めの言葉を吐く俊明の顔面は整っている。エンディング妖精さながらのキラキラ具合。そんな彼に求められている。男性のスタンス女性のスタンス僕にそんなたくさんの引き出しはない。けれど求められてしまった。ふにゃふにゃで芯のない僕という人間。当たり役になればいいけど。
僕はすり減った心を持って声を震わせて俊明に問うた。
「俊明の隣は僕にとって特等席。僕の輪郭がはっきりする。俊明にとって僕は替えのきかない存在になりえる?」
俊明はひとつ息をついてゆっくり答えた。
「俺にとって都合良く友哉くんに男と女の役目両方求めるよ。求めてる。ある時は男友達。ある時は嫁さん。ある時は俺より見劣りがすることで俺の自尊心をくすぐる存在。ある時は性対象。一人の人間にいろいろな側面求めてる。一人の人間で満足したい。友哉くん、見捨てないで。ねんごろになろ」
俊明は無骨な男の筋張った指を僕の男にしては華奢な指に絡めて恋人つなぎをした。お互い食い入るように見つめ合った。僕は口を開いた。
「こんな不自然な関係、特別でしかない。そう思っていいんだよね?」
僕はどういう答えが返ってくるか根を詰めて待った。彼は至って冷静に言った。
「推奨されてない行為をあえてするところに自分の能動性を見出している。ゴールが決まってるわけじゃないし。結婚みたいな社会制度があるわけでもないし。他人から評価されるわけでもない。マジの自由恋愛。ただ友哉くん相手に君臨する。男の体を求めるよ。自分で意識してないけど体目当てなのかもしれない。友哉くんのこと大事だし宝物だと思ってるけど本心ヤリモクかも。あくまでヤリモクじゃないって言い張るけど。無意識的に体目的なのかも。やりたくてやりたくてたまらないから。ヤリモクじゃいや? 体目当てでも理解してくれるよね。なんたって男同士なんだから。だから、やりたい時にやらせてくれる?」
僕はごくりと喉をならしてただ俊明の口づけを受け入れた。俊明はうっとりした顔でさりげなく僕の股間に触れてきた。
「ちんちん早く見たい。頭の片隅にいっつもあるよ。友哉くんのチンコ。いろんな形態の」
俄然らんらんと輝く俊明のまなざしを見てられなくて、僕は一般論を語って話をそらそうとした。
「ガツガツやりたがる男って相手のこと性欲処理の道具として見てる感じするものね。相手を一人の人間じゃなくモノとして見てる感じがする。大人の余裕感がないというか。大事にしてる感がないというか。全部感覚の問題で、類型的な見方だけど。線引きが難しい。愛情由来の性行為と性行為のための性行為との区別はそう簡単につかないし、自覚するの無理」
「やりたいだけやらせろよ」
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「やらせろ」
「全部忘れさせてくれ。僕に集中して」
僕は男に押し倒された。
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