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第2章
女神がくれたもの
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もうすぐ彼女が訪れる時間だ。
そのことに気が付いた途端、書面に走らす自分の視線が乱れたものになるのを自覚し、エドワードは苦笑した。
その時、ドア越しに騒がしい気配が起こり、彼はさっと書面から目を離し、即座に様子を見るためドアへ向かった。
普段ならば、警備の関係から報告が来るまで待つべきところであるが、騒ぎはエドワードの部屋のすぐ近くで起こっている。
何より、もうすぐ部屋を訪れる彼女が騒ぎに巻き込まれるのは避けたかった。
しかし、そのようなエドワードの行動は、遅きに失していた。
ドアを開け、エドワードは声を失った。
彼の唯一の存在が――、リズが瞳を閉じ倒れていた。
すぐ傍で、ポールとヒューが腰を落とし、彼女を介抱している。
離れた場所から、顔色を変えたアンソニーが駆け寄ってくるのが視界の片隅に入る。
しかし、それらはエドワードには意味をなさなかった。彼の意識はすべて、ヒューに抱きかかえられた、血の気のないリズに向けられていた。
全く動かない彼女を目にした瞬間、彼の世界から音が消え去った。
彼の全身は恐怖にたたきつけられる。
――彼女が死…
『エドワード!リズを寝かせる場所を用意しろ!』
頭に叩き込まれた声で、エドワードは呼吸をすることを思い出した。ドアを開け、彼らを招き入れる。ヒューに抱き上げられたリズは全く意識を取り戻す気配がなかった。
彼女をヒューが長椅子に横たえるのを見届けてから、エドワードは強張った口を動かした。
「一体何が起こったのだ」
ポールに報告を求めると、アンソニーが硬い声で遮った。
「それについてはヒューと僕から話す。ポールはこのドアから誰も入れないようにしてくれ」
ポールはエドワードに視線を向け、許諾を伺う。エドワードが頷くのを見るや、ポールはドアを閉めた。
「それで、君が報告してくれるのかい?」
ポールを遠ざけた理由も知りたい事項ではあったが、何より全く意識を取り戻さないリズの容態が最優先だった。
エドワードはエメラルドの瞳を見据えた。しかし、エメラルドの瞳はそれ以上に強い眼差しを返してきた。
「僕の魔力は知られたくない。そして、リズの力も」
知りたい事からかけ離れた回答に、エドワードは苛立ちを覚えた。
「彼女は魔力が使えないと聞いている」
アンソニーは息を呑み、珍しく動揺を露わにした。
「すまない。僕は動揺しているようだ。ヒュー、君から頼むよ」
この場で、少なくとも見た目は穏やかな気配を崩さなかった魔法使いは微かに頷き、事の次第をエドワードに伝えた。
エドワードに想いを向ける侍女の存在と、リズに向けられた彼女の死を願う憎悪を。
リズにはどうやら彼女自身に向けられる悪意を察知する力があることを。
仔細を聞き、エドワードは浮かび上がった一つの事実に打ちのめされた。体を動かすことができなくなる程、その事実はエドワードには耐えがたいものだった。
私は彼女を護ることができない――。
これまでの自分の努力を嘲笑われているかのようだった。
リズと出会ってから、自分に好意を抱く女性たちを、リズに害を為さないよう徹底的に排除してきた。
そもそも、リズの事がなくとも、エドワードの容姿に惹かれたのか、王太子という立場に惹かれたのか、言葉をほとんど交わしたこともない相手から恋情を抱かれること自体が、エドワードには嫌悪を催すことだった。
彼に想いを向けていい人間は、想いを向けてほしい人は、リズ唯一人だけだ。リズから想いを向けられるなら、容姿でも立場でも惹かれてくれる理由はどのようなものでもよかったのだが。
とにかく、エドワードは躊躇うことなく、自分に惹かれる女性たちは排除していた。
――しかし、それでは彼女を護るには遅すぎる。
リズに対する悪意が生まれる前に排除することなど、手段が思いつかない。
けれども、何も手を打たなければ、今日のように彼女は倒れてしまう。
エドワードはピクリとも動かないリズを見た時の恐怖を思い出し、瞳を閉じてその記憶を追いやり、思考を戻した。
手段もない上に、対象が広すぎる。
エドワード自身が王太子という悪意を向けられることの多い立場だ。特に同盟のために奔走している今の状況では、暗殺すら想定の範囲内だ。
彼女が自分の傍らにいてくれることになれば、彼女にまで悪意も殺意も向けられることも考えられる。
物理的な彼女への危険には手を打っていた。一番の信頼を置くポールを護衛につけ、公爵家の使用人の中にも諜報部の者を潜り込ませている。
しかし、悪意に対しての対策など、想定すらしていなかった。
彼女は、容姿や立場に囚われず、自分を見てくれると言ってくれたのに――。
自分を壊したいほどの絶望感に襲われた中で、その言葉は飛び込んできた。
「僕が思念も魔力も弾く結界を――」
自分を燃やし尽くしそうな羨望がエドワードに走った。
彼は護れるのだ。完璧に。
彼が張る結界の中で笑顔を浮かべるリズを見て、エドワードは刺されたような痛みを感じ、視線を逸らした。
ドアがゆっくりと締まる音で、3人が退出したことを知る。
彼女を見送ることもできなかった…
ぼんやりと頭の片隅にそのようなことが浮かんでも、エドワードは凍り付いた自分をどうすることもできなかった。彼女を護る術が見つからないからだ。
彼の意識に、じわりと認めたくない考えが形作られていく。
彼女の想いを受けるに相応しい相手は――
拳を握り締めた時、突然ドアが開いた。
反射的にドアを見やり、エドワードは目を瞠った。
白金の髪をなびかせ、リズが駆け込んできたのだ。こんな時ですら、彼女を見た瞬間、自分の胸に明かりが灯るのを感じ――、現実を思い出し彼女から視線を逸らした。
彼女の視線を感じても、それを受け止めることはできなかった。
今、彼女を見てしまえば、自分が何をしてしまうか予想が付いていた。
けれども、愛らしい声が彼の迷いを遮った。
「お約束の香です」
ああ、やはり彼女は優しい。
倒れた後に、そして部屋を退出した後に、彼女が自ら渡してくれる理由はなかった。
その優しさが身に染み、エドワードの胸に苦しいものが込み上げる。
彼女の心遣いに、エドワードは彼女と向き合う覚悟を決め、何とか笑みを引き出した。
「ありがとう。――貴女の香は私の世界を包み込んでくれる」
笑みは作ったものだったが、感謝の気持ちは心から持っていた。
こんな日は特に、彼女の香で彼女の存在を感じることが必要だった。
彼女がくれたものはそれだけではなかった。
「殿下。今日は殿下が選んでくださったお茶を楽しめませんでしたが、次に誘って下さることを楽しみにしています」
まだ自分との時間を持つことを許してくれるのか――
6年の付き合いで、彼女のこの表情が社交のためのものでないことは分かる。彼女は心からエドワードに「次」の機会を与えてくれるのだ。
柔らかな笑みを残して、彼女はドアへと踵を返した。彼女の美しい後姿を見て、今度こそ見送るために足を踏み出したエドワードの身体は、感情に支配された。
彼女の身体を抱き込んでいた。温かく柔らかな彼女の身体に、彼女が生きていることを確かめ、この世の全てに感謝を捧げたとき、彼の感情は意識まで支配した。
想いを止めることはできなかった。
「貴女を愛している。この世の何よりも」
一度零れ出た感情は、次々と溢れ続ける。
「私の生は、貴女の幸せのためにあることは確かなことなのに。貴女を幸せにすること以外に意味はないのに」
――それなのに、私には貴女を護ることができない――、
その事実を声に出して認めることはできなかった。エドワードにはどうしてもできなかった。認めてしまえば、彼女を諦めなければならない。
――貴女は私の全てなのに――
身も心も斬られるような鋭い苦痛で声を上げそうになるのを、リズの肩に顔をうずめて堪えた。
「どうか、私を…」
選んでほしい――。
魂が叫ぶ願いを口にすることはできなかった。
彼女の温もりを離すこともできなかった。
彼女を離したくなくて、力を籠めすぎたのだろう。リズが苦しそうに体を動かしていることに気が付いても、エドワードは力を緩めることができなかった。
このまま、彼女と溶け合えたら――、そんな愚かで切なる願いから、彼女を抱きしめていた。
離れられないエドワードを彼女はどう感じていたのだろう。
彼女は初めて名前を呼んでくれた。
信じられない僥倖を確かめたくて、エドワードが腕を緩めて彼女の顔を見ると、辺りを照らすような笑顔が出迎えてくれた。
「エドワード。私、あなたの笑顔が好きです」
一瞬、エドワードは時を忘れた。
彼女のくれたその言葉は、懐かしく、愛しい思いを強く蘇らせる。
――そうだ。彼女と出会えたのだ。私と彼女の縁は、確かにあるはずだ。
絶望から忘れかけていた大切な事実は、エドワードの闇を払った。
彼女を想うだけで世界が輝く、いつもの自分が戻っていることに彼は気が付いた。
そして、いつもの彼を見て、目の前の美しい紫の瞳が輝く様に、エドワードは胸に温かく眩いものが広がるのを感じながら、今度こそ愛しい彼女を見送るためにドアへと誘った。
◇
苦笑を浮かべた魔法使いと、感情の読めない顔色のアンソニーと、安堵を隠せていないポールに彼女を託し、遠ざかる馬車を思うままに見送った後、エドワードは部屋に戻った。
早速、彼女の香を焚く。静かな部屋にゆったりと広がる彼女の香りに包まれ、エドワードは騒ぎの前に目を通していた書類に意識を戻した。
私は私の方法で彼女を護る。
エドワードは侍従を呼び、宰相に時間を調整するよう伝えさせた。
そのことに気が付いた途端、書面に走らす自分の視線が乱れたものになるのを自覚し、エドワードは苦笑した。
その時、ドア越しに騒がしい気配が起こり、彼はさっと書面から目を離し、即座に様子を見るためドアへ向かった。
普段ならば、警備の関係から報告が来るまで待つべきところであるが、騒ぎはエドワードの部屋のすぐ近くで起こっている。
何より、もうすぐ部屋を訪れる彼女が騒ぎに巻き込まれるのは避けたかった。
しかし、そのようなエドワードの行動は、遅きに失していた。
ドアを開け、エドワードは声を失った。
彼の唯一の存在が――、リズが瞳を閉じ倒れていた。
すぐ傍で、ポールとヒューが腰を落とし、彼女を介抱している。
離れた場所から、顔色を変えたアンソニーが駆け寄ってくるのが視界の片隅に入る。
しかし、それらはエドワードには意味をなさなかった。彼の意識はすべて、ヒューに抱きかかえられた、血の気のないリズに向けられていた。
全く動かない彼女を目にした瞬間、彼の世界から音が消え去った。
彼の全身は恐怖にたたきつけられる。
――彼女が死…
『エドワード!リズを寝かせる場所を用意しろ!』
頭に叩き込まれた声で、エドワードは呼吸をすることを思い出した。ドアを開け、彼らを招き入れる。ヒューに抱き上げられたリズは全く意識を取り戻す気配がなかった。
彼女をヒューが長椅子に横たえるのを見届けてから、エドワードは強張った口を動かした。
「一体何が起こったのだ」
ポールに報告を求めると、アンソニーが硬い声で遮った。
「それについてはヒューと僕から話す。ポールはこのドアから誰も入れないようにしてくれ」
ポールはエドワードに視線を向け、許諾を伺う。エドワードが頷くのを見るや、ポールはドアを閉めた。
「それで、君が報告してくれるのかい?」
ポールを遠ざけた理由も知りたい事項ではあったが、何より全く意識を取り戻さないリズの容態が最優先だった。
エドワードはエメラルドの瞳を見据えた。しかし、エメラルドの瞳はそれ以上に強い眼差しを返してきた。
「僕の魔力は知られたくない。そして、リズの力も」
知りたい事からかけ離れた回答に、エドワードは苛立ちを覚えた。
「彼女は魔力が使えないと聞いている」
アンソニーは息を呑み、珍しく動揺を露わにした。
「すまない。僕は動揺しているようだ。ヒュー、君から頼むよ」
この場で、少なくとも見た目は穏やかな気配を崩さなかった魔法使いは微かに頷き、事の次第をエドワードに伝えた。
エドワードに想いを向ける侍女の存在と、リズに向けられた彼女の死を願う憎悪を。
リズにはどうやら彼女自身に向けられる悪意を察知する力があることを。
仔細を聞き、エドワードは浮かび上がった一つの事実に打ちのめされた。体を動かすことができなくなる程、その事実はエドワードには耐えがたいものだった。
私は彼女を護ることができない――。
これまでの自分の努力を嘲笑われているかのようだった。
リズと出会ってから、自分に好意を抱く女性たちを、リズに害を為さないよう徹底的に排除してきた。
そもそも、リズの事がなくとも、エドワードの容姿に惹かれたのか、王太子という立場に惹かれたのか、言葉をほとんど交わしたこともない相手から恋情を抱かれること自体が、エドワードには嫌悪を催すことだった。
彼に想いを向けていい人間は、想いを向けてほしい人は、リズ唯一人だけだ。リズから想いを向けられるなら、容姿でも立場でも惹かれてくれる理由はどのようなものでもよかったのだが。
とにかく、エドワードは躊躇うことなく、自分に惹かれる女性たちは排除していた。
――しかし、それでは彼女を護るには遅すぎる。
リズに対する悪意が生まれる前に排除することなど、手段が思いつかない。
けれども、何も手を打たなければ、今日のように彼女は倒れてしまう。
エドワードはピクリとも動かないリズを見た時の恐怖を思い出し、瞳を閉じてその記憶を追いやり、思考を戻した。
手段もない上に、対象が広すぎる。
エドワード自身が王太子という悪意を向けられることの多い立場だ。特に同盟のために奔走している今の状況では、暗殺すら想定の範囲内だ。
彼女が自分の傍らにいてくれることになれば、彼女にまで悪意も殺意も向けられることも考えられる。
物理的な彼女への危険には手を打っていた。一番の信頼を置くポールを護衛につけ、公爵家の使用人の中にも諜報部の者を潜り込ませている。
しかし、悪意に対しての対策など、想定すらしていなかった。
彼女は、容姿や立場に囚われず、自分を見てくれると言ってくれたのに――。
自分を壊したいほどの絶望感に襲われた中で、その言葉は飛び込んできた。
「僕が思念も魔力も弾く結界を――」
自分を燃やし尽くしそうな羨望がエドワードに走った。
彼は護れるのだ。完璧に。
彼が張る結界の中で笑顔を浮かべるリズを見て、エドワードは刺されたような痛みを感じ、視線を逸らした。
ドアがゆっくりと締まる音で、3人が退出したことを知る。
彼女を見送ることもできなかった…
ぼんやりと頭の片隅にそのようなことが浮かんでも、エドワードは凍り付いた自分をどうすることもできなかった。彼女を護る術が見つからないからだ。
彼の意識に、じわりと認めたくない考えが形作られていく。
彼女の想いを受けるに相応しい相手は――
拳を握り締めた時、突然ドアが開いた。
反射的にドアを見やり、エドワードは目を瞠った。
白金の髪をなびかせ、リズが駆け込んできたのだ。こんな時ですら、彼女を見た瞬間、自分の胸に明かりが灯るのを感じ――、現実を思い出し彼女から視線を逸らした。
彼女の視線を感じても、それを受け止めることはできなかった。
今、彼女を見てしまえば、自分が何をしてしまうか予想が付いていた。
けれども、愛らしい声が彼の迷いを遮った。
「お約束の香です」
ああ、やはり彼女は優しい。
倒れた後に、そして部屋を退出した後に、彼女が自ら渡してくれる理由はなかった。
その優しさが身に染み、エドワードの胸に苦しいものが込み上げる。
彼女の心遣いに、エドワードは彼女と向き合う覚悟を決め、何とか笑みを引き出した。
「ありがとう。――貴女の香は私の世界を包み込んでくれる」
笑みは作ったものだったが、感謝の気持ちは心から持っていた。
こんな日は特に、彼女の香で彼女の存在を感じることが必要だった。
彼女がくれたものはそれだけではなかった。
「殿下。今日は殿下が選んでくださったお茶を楽しめませんでしたが、次に誘って下さることを楽しみにしています」
まだ自分との時間を持つことを許してくれるのか――
6年の付き合いで、彼女のこの表情が社交のためのものでないことは分かる。彼女は心からエドワードに「次」の機会を与えてくれるのだ。
柔らかな笑みを残して、彼女はドアへと踵を返した。彼女の美しい後姿を見て、今度こそ見送るために足を踏み出したエドワードの身体は、感情に支配された。
彼女の身体を抱き込んでいた。温かく柔らかな彼女の身体に、彼女が生きていることを確かめ、この世の全てに感謝を捧げたとき、彼の感情は意識まで支配した。
想いを止めることはできなかった。
「貴女を愛している。この世の何よりも」
一度零れ出た感情は、次々と溢れ続ける。
「私の生は、貴女の幸せのためにあることは確かなことなのに。貴女を幸せにすること以外に意味はないのに」
――それなのに、私には貴女を護ることができない――、
その事実を声に出して認めることはできなかった。エドワードにはどうしてもできなかった。認めてしまえば、彼女を諦めなければならない。
――貴女は私の全てなのに――
身も心も斬られるような鋭い苦痛で声を上げそうになるのを、リズの肩に顔をうずめて堪えた。
「どうか、私を…」
選んでほしい――。
魂が叫ぶ願いを口にすることはできなかった。
彼女の温もりを離すこともできなかった。
彼女を離したくなくて、力を籠めすぎたのだろう。リズが苦しそうに体を動かしていることに気が付いても、エドワードは力を緩めることができなかった。
このまま、彼女と溶け合えたら――、そんな愚かで切なる願いから、彼女を抱きしめていた。
離れられないエドワードを彼女はどう感じていたのだろう。
彼女は初めて名前を呼んでくれた。
信じられない僥倖を確かめたくて、エドワードが腕を緩めて彼女の顔を見ると、辺りを照らすような笑顔が出迎えてくれた。
「エドワード。私、あなたの笑顔が好きです」
一瞬、エドワードは時を忘れた。
彼女のくれたその言葉は、懐かしく、愛しい思いを強く蘇らせる。
――そうだ。彼女と出会えたのだ。私と彼女の縁は、確かにあるはずだ。
絶望から忘れかけていた大切な事実は、エドワードの闇を払った。
彼女を想うだけで世界が輝く、いつもの自分が戻っていることに彼は気が付いた。
そして、いつもの彼を見て、目の前の美しい紫の瞳が輝く様に、エドワードは胸に温かく眩いものが広がるのを感じながら、今度こそ愛しい彼女を見送るためにドアへと誘った。
◇
苦笑を浮かべた魔法使いと、感情の読めない顔色のアンソニーと、安堵を隠せていないポールに彼女を託し、遠ざかる馬車を思うままに見送った後、エドワードは部屋に戻った。
早速、彼女の香を焚く。静かな部屋にゆったりと広がる彼女の香りに包まれ、エドワードは騒ぎの前に目を通していた書類に意識を戻した。
私は私の方法で彼女を護る。
エドワードは侍従を呼び、宰相に時間を調整するよう伝えさせた。
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