女性執事は公爵に一夜の思い出を希う

石里 唯

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結婚式編

結婚式編1.5

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 フォンド公爵家の応接室は、由緒正しい家柄には珍しく、華美な装飾を一切排除している。屋敷に訪れる客人を委縮させないための心遣いであり、代々の当主はこれを継承してきた。
 しかし、この客人には、たとえどれほど絢爛豪華な装飾であったとしても、委縮など無縁だったろう。

ドンッ――

 鈍い音と共にリチャードはたたらを踏んだ。
 殴られることを予期していなければ、床に倒れていただろう。
 
 青筋を立て、目を怒らせた客人、モートン伯爵ハーベイは、痛みからまだ姿勢を戻せないリチャードを睨み据えた。

「半年が待てなかったかっ!」

 これ以上は1日だって待てない――。

 そのような本心を口にするほどリチャードは愚かではなかった。
 彼は自身のみぞおちの悲鳴は黙殺して姿勢を正すと、悠然と微笑んで見せた。

「式を早めていただきたい。もし、彼女が身ごもってくれた場合に備えて」

 ハーベイが奥歯を噛みしめる音が、はっきりと部屋に響いた。
 老いてもなお鋭い眼光が、リチャードを突き刺す。
 リチャードは微笑みを浮かべたまま、泰然と視線を受け止めた。殴られようが睨まれようが、この件で妥協は許さないからだ。
 怒りが収まらないハーベイも、アマリーの体面を考えれば、それしかないということは分かっていた。
 再び奥歯を噛みしめる音を響かせ、ハーベイは目を閉じた。
 
「式までアマリーには会わせない。絶対に」

 厳めしい顔に似合う太い声で宣言した後、即座に踵を返し、姿を消した。
 見送りを断られ、部屋に残されたリチャードは呟いた。

「会わせない、か」
 
 客人に出すことのできなかったお茶を淹れ始めた家令のジェイムスに、リチャードはさらりと問いかけた。

「彼は、僕がまだ求婚できていないことを知っていると思うかい?」

 ジェイムスは眉をピクリと動かし、カップにお茶を注ぐ手を止めた。
 昨夜から職務で許される範囲を超えて主人に手厳しい優秀な家令は、とうとう職務をしばし放棄することにしたらしい。
 冷たく鋭い視線を主人に向け、一言を放った。

「教会で振られておしまいなさい」
 
 リチャードは家令の態度に怒ることもなく、ただ不敵に微笑んだ。

「振られても、逃さないけれどね」
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