恋の締め切りには注意しましょう

石里 唯

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第1章

プロローグ

青白い月が美しい静かな夜。心が洗われるような静けさだった。

けれど侯爵令嬢シルヴィアの頭のうちは、まったくその静かさとは逆になっていた。

一体、どうしてこんなことになっているの????

 シルヴィアの部屋に張っていた結界があっさりと破られたのを感じて目を覚ませば、バルコニーの窓は開け放たれ、月を逆光にしていてもなおはっきりと分かるほどの不機嫌が漏れ出ているシルヴィアの叔父と、同じく月を逆光にしていてもなぜだか美しさがあふれ出ている王太子が立っていた。

ここは、私の部屋なのですが??

こんな時間に王太子が王宮を出ること自体、加えて一貴族の屋敷に現れること、それもバルコニーから現れることなどありえない。

こんな幻覚を見るなんて、私、疲れていたのね。早く寝なくては。

シルヴィアは頭を振りながら、ベッドに戻ろうと踵を返した。

「おや、ここまで来た私を無視するなんて、相変わらずつれないね、シルヴィア。」

 腕を取られて振り向かされていた。
 残念ながら幻覚ではなかったらしい。
 夜会で年頃の令嬢の視線をくぎ付けにする華やかな美貌がすぐ近くにあった。
 しかしシルヴィアにその美貌は功をなすことはなかった。
 幼いころから王太子リチャードと接することが多かったシルヴィアは、彼が自分の美貌を十分に熟知し意図的に効果的にその美貌を令嬢たちに見せているのを知りすぎていたのだ。

「殿下、今度はどういうおふざけなのです。」

ため息をつきそうになるのを抑えながら、尋ねてみた。
 魔法使いとしての直感は、やや、尋ねたくない思いがしたのだが。

リチャードは、極上の笑みを浮かべその美貌を増した。
この顔の時はいいことがない。
シルヴィアは思わずリチャードから離れようとしたけれど、
彼は逆にシルヴィアを引き寄せた。
バルコニーの叔父から険悪な波動を感じ、シルヴィアは焦った。

叔父様、私の部屋を壊さないでね?

次代の魔法使いの長と目されるシルヴィアの叔父なら、機嫌次第で十分にありうることだった。
かたやリチャードはその波動を全く無視して、にこやかにさわやかに言葉を落とした。

「シルヴィア、あと半年でセドリックを落とせなかったら、」

セドリックの名を出されてシルヴィアは思わずリチャードを見つめた。

「そのときは、君は僕の婚約者になってもらう。」

リチャードは目を細めて言い切った。
「もう、きみを甘やかしてはあげないよ。」


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