恋の締め切りには注意しましょう

石里 唯

文字の大きさ
6 / 74
第1章

王太子殿下との出会い

 魔法使いの学園に入ることが決まってから、私の生活は忙しくなりました。
 学園は、すべての生徒が寮に入る仕組みです。週末に帰宅することが認められていますが、基本、学園で生活することになるため、それまでに侯爵令嬢として必要最低限の教養を身に着けるよう、お父様は家庭教師を選んでくれたのです。
 ダンス、ピアノ、一般的な学問を普通の令嬢よりも速いペースで学ばなければなりません。毎日が勉強と練習でした。
 
 セディも、6歳になったころから、7歳になられた王太子殿下の遊び相手を務めるようになり、殿下と一緒にお城で勉強するようになったそうです。
 セディと会える日は、月に2回ほどになってしまいました。
 
 そんな毎日でしたが、ある日なぜだかセディが我が家にお泊りすることになったのです。
 私はうれしくて、あやうく叔父様の封印石が発動しそうになるぐらいでしたが、やってきたセディは少し浮かない様子でした。
 何か考え事が頭から離れないようで、ふとした拍子に黙り込みます。食事もいつもより小食です。
 理由を聞いても困ったように微笑んで、「何でもないよ」と答えるばかりです。
 
 我が家に来るのが実は嫌だったのでしょうか…。
 
 ふとよぎったその疑問が私の中でどんどん膨らんで、セディの様子もどんどん黙り込むことが増えて、2日目のお茶の時間、思い切ってセディに尋ねてみました。
 「セディ、ここには来たくなかったの?」
 声が震えてしまいました。
 セディは目を見開いて、少しの間固まっていました。その後、勢いよく立ちあがって
 「どうしてそんなこと!シルヴィがいるのに!!」
 珍しく怒った声音で言った後、はっと息をのみ手で口を押えました。
 怒られたのには驚きましたが、嫌われていないことはしっかり分かりました。うれしくてたまらなくて、封印石がとうとう発動してしまいました。
 
 恥ずかしくてうつむいたとき、石とは別に叔父様の魔力を近くに感じました。
 叔父様は普段はお城で魔法使いとして勤めているはずです。どうしたことなのか疑問に思っていたことが顔に出ていたのでしょう。セディが心配そうにこちらを見ています。
 
 「叔父様が来たみたいなの。」
 それを聞いた途端、セディの顔色は変わり、部屋を飛び出していきました。
 普段、落ち着いた様子を崩さないセディではありえない行動に、私はあわててついていきました。
 
 廊下に出るとセディはもう応接室に向かっていました。ですが応接室には入らずドアの前で立ち止まったままだったので、私も追いつくことができました。
 セディが振り返り、指を口に当て静かにするように合図をします。私はうなずいてそっとセディの隣に立ちました。
 中から、かすかにお父様と叔父様の声がします。細かな内容までは聞こえてきません。
 セディは何とドアをゆっくり少しだけ開けたのです。
 ドキドキしてセディを見ましたが、セディは真剣な表情で食い入るようにドアを見つめています。
 
 「いいか、覚えておくがいい。私はいざとなったら殿下よりも娘の命を必ず優先する。必ずだ。」
 これまで聞いたことのない硬い声でお父様が話しています。私は思わず体が竦みました。
 「分かっている。それは当然だ。」
 叔父様の声は疲れ切っています。こんなことも初めてです。何かとんでもないことが起きていることを感じて、心臓が音を立て始めました。
 ぎゅっと手が握られました。セディは部屋を覗き見たまま、それでも手を握り続けてくれます。
 
 「それでは、今から登城しよう。」
 お父様の立ち上がる音がしたとき、セディはドアを押し開き
 「私も行く!」
 そう宣言したのです。響き渡る声でした。お父様は驚いた様子でセディを見つめていましたが、やがて表情を緩めセディの方へ歩いてきました。
 「セディ、私とシルヴィを守ってくれるかい?」
 膝をついてセディに目を合わせながらお父様はささやきました。セディは力強くうなずいていました。
 
 
 三日前に王太子殿下のお菓子に毒が仕込まれ、殿下は倒れてしまわれたそうです。セディはその場にいて、精神的に不安定になり我が家に来ることになったのでした。
 お城には癒しの力を強くもった魔法使いが集められ、力を注いでいるものの殿下は非常に危ない状態であること、魔法使いの疲れが激しく新たな魔法使いが必要な状況であることを教えられました。
 叔父様は静かな声でこう続けました。
 「お前の癒しの力の強さは、その歳にして私を除けば当代一となるものだ。殿下のために力を貸してほしい。」
 私がうなずこうとすると、叔父様は両手で私の顔を包み込みました。
 濃い青い瞳が、真っ直ぐに私を見つめています。
 「だが、お前は全く訓練を受けていない。過度に治癒を試し力が暴走してしまう可能性もある。お前は体も心もまだ幼いため、暴走した場合、体も心も傷を負う可能性がある。」
 セディが息をのみ、お父様は目を伏せました。
 叔父様は私の目をしっかりとらえたまま、続けます。
「最悪の場合、死ぬ可能性もある。」
 深みのある声が染みとおるように響き、体が冷えるのを感じました。手足がどこにあるのか分からなくなっていくようでした。
 
「そんなこと、させない!」
 
 セディが私を抱きかかえていました。セディの温もりと力強さを受けて一気に私の感覚は引き戻されました。セディの腕に額を押し付けてもっと温もりを感じとり、私は落ち着いてものを考え始めました。
 我が家に急にお泊りに来たほどセディはつらい思いをしているのです。セディがつらいのは私にとってもとてもつらいことです。力が暴走することは「可能性」で、確実ではないのです。なにより、殿下の状態を聞いて何もしなかったら、私だって何も手が付かないでしょう。試すしかないのです。
 叔父様に尋ねました。
「暴走して大丈夫だった人はどうしたの?」
叔父様がかすかに笑った気配がしました。
「それでは、それを教えてから城に行こう」
笑みを浮かべた叔父様はいつもに増して美しく、不安も恐さも薄まる気がしました。
つられて笑みを浮かべながら、私は大きく頷いて叔父様に教えを乞いました。

あなたにおすすめの小説

これ以上私の心をかき乱さないで下さい

Karamimi
恋愛
伯爵令嬢のユーリは、幼馴染のアレックスの事が、子供の頃から大好きだった。アレックスに振り向いてもらえるよう、日々努力を重ねているが、中々うまく行かない。 そんな中、アレックスが伯爵令嬢のセレナと、楽しそうにお茶をしている姿を目撃したユーリ。既に5度も婚約の申し込みを断られているユーリは、もう一度真剣にアレックスに気持ちを伝え、断られたら諦めよう。 そう決意し、アレックスに気持ちを伝えるが、いつも通りはぐらかされてしまった。それでも諦めきれないユーリは、アレックスに詰め寄るが “君を令嬢として受け入れられない、この気持ちは一生変わらない” そうはっきりと言われてしまう。アレックスの本心を聞き、酷く傷ついたユーリは、半期休みを利用し、兄夫婦が暮らす領地に向かう事にしたのだが。 そこでユーリを待っていたのは…

【完結】王子妃候補をクビになった公爵令嬢は、拗らせた初恋の思い出だけで生きていく

たまこ
恋愛
 10年の間、王子妃教育を受けてきた公爵令嬢シャーロットは、政治的な背景から王子妃候補をクビになってしまう。  多額の慰謝料を貰ったものの、婚約者を見つけることは絶望的な状況であり、シャーロットは結婚は諦めて公爵家の仕事に打ち込む。  もう会えないであろう初恋の相手のことだけを想って、生涯を終えるのだと覚悟していたのだが…。

辺境伯夫人は領地を紡ぐ

やまだごんた
恋愛
王命によりヴァルデン辺境伯に嫁ぐことになった、前ベルンシュタイン公爵令嬢のマルグリット。 しかし、彼女を待っていたのは60年にも及ぶ戦争で荒廃し、冬を越す薪すら足りない現実だった。 物資も人手も足りない中、マルグリットは領地の立て直しに乗り出す。 戦しか知らなかったと自省する夫と向き合いながら、少しずつ築かれていく夫婦の距離。 これは、1人の女性が領地を紡ぎ、夫と共に未来を作る「内政×溺愛」の物語です。 全50話の予定です ※表紙はイメージです ※アルファポリス先行公開(なろうにも転載予定です)

【完結】愛してるなんて言うから

空原海
恋愛
「メアリー、俺はこの婚約を破棄したい」  婚約が決まって、三年が経とうかという頃に切り出された婚約破棄。  婚約の理由は、アラン様のお父様とわたしのお母様が、昔恋人同士だったから。 ――なんだそれ。ふざけてんのか。  わたし達は婚約解消を前提とした婚約を、互いに了承し合った。 第1部が恋物語。 第2部は裏事情の暴露大会。親世代の愛憎確執バトル、スタートッ! ※ 一話のみ挿絵があります。サブタイトルに(※挿絵あり)と表記しております。  苦手な方、ごめんなさい。挿絵の箇所は、するーっと流してくださると幸いです。

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

悪女役らしく離婚を迫ろうとしたのに、夫の反応がおかしい

廻り
恋愛
第18回恋愛小説大賞にて奨励賞をいただきました。応援してくださりありがとうございました! レジーナブックス様から書籍が4月下旬に発売されます!  王太子妃シャルロット20歳は、前世の記憶が蘇る。  ここは小説の世界で、シャルロットは王太子とヒロインの恋路を邪魔する『悪女役』。 『断罪される運命』から逃れたいが、夫は離婚に応じる気がない。  ならばと、シャルロットは別居を始める。 『夫が離婚に応じたくなる計画』を思いついたシャルロットは、それを実行することに。  夫がヒロインと出会うまで、タイムリミットは一年。  それまでに離婚に応じさせたいシャルロットと、なぜか様子がおかしい夫の話。

酔っぱらい令嬢の英雄譚 ~チョコレートを食べていたら、いつの間にか第三王子を救っていたようです!~

ゆずこしょう
恋愛
婚約者と共に参加するはずだった、 夜会当日── 婚約者は「馬車の予約ができなかった」という理由で、 迎えに来ることはなかった。 そして王宮で彼女が目にしたのは、 婚約者と、見知らぬ女性が寄り添う姿。 領地存続のために婿が必要だったエヴァンジェリンは、 感情に流されることもなく、 淡々と婚約破棄の算段を立て始める。 目の前にあった美味しいチョコレートをつまみながら、 頭の中で、今後の算段を考えていると 別の修羅場が始まって──!? その夜、ほんの少しお酒を口にしたことで、 エヴァンジェリンの評価と人生は、 思いもよらぬ方向へ転がり始める── 2月11日 第一章完結 2月15日 第二章スタート予定

一途な皇帝は心を閉ざした令嬢を望む

浅海 景
恋愛
幼い頃からの婚約者であった王太子より婚約解消を告げられたシャーロット。傷心の最中に心無い言葉を聞き、信じていたものが全て偽りだったと思い込み、絶望のあまり心を閉ざしてしまう。そんな中、帝国から皇帝との縁談がもたらされ、侯爵令嬢としての責任を果たすべく承諾する。 「もう誰も信じない。私はただ責務を果たすだけ」 一方、皇帝はシャーロットを愛していると告げると、言葉通りに溺愛してきてシャーロットの心を揺らす。 傷つくことに怯えて心を閉ざす令嬢と一途に想い続ける青年皇帝の物語