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第1章
セディの出会い2
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シルヴィの家へ行ってから三日ほどたったころ、父から急に部屋へ呼ばれた。
応接間に入るなり、痛くなるような空気を感じた。
父の正面にくつろいで腰かけている人物は、鋭く眩しいまでの強い魔力を滲み出させていた。
真っ直ぐな腰まで届く銀の髪に、同じ銀の長いまつ毛に縁どられた紫も入ったように見える濃い青い瞳。その瞳は、こちらに何も隠すことを許さない強さを持っている。絶妙な高さの鼻梁に、白皙を目立たせる薄桃色の唇は知性を感じさせる薄さ。欠点のない完璧な美しさの造作と強い魔力が相まって、神々しさを感じさせる。
紹介されずとも彼が誰かは知れた。
ハリー・チェンバレン
シルヴィアの母方の叔父、チェンバレン伯爵家の次男。だが、それよりもこの人物を語るときは、こちらが先だろう。
このウィンデリア王国史上、最強にして最大の魔力の持ち主。
エルフの生まれ変わりと称される力と美貌を備え、二十歳になる前の今年、次期魔法使いの長に内定した。
「ハリー」は通称であり、本名はその魔力の悪用を防ぐために秘密にされている。
とにかく貴族の子息の家庭教師に来てもらうには、格が高すぎる。
親ばかが高じて宰相の権力を振りかざしたのだろうか?
「父上、ここまで無理をしていただいたのですか…。」
呆然と呟くと、父は首を振り
「いや、私ではなく…」
「私から、こちらに来ることを申し入れた。」
魔力すら感じそうな深みのある声が割って入った。
ゆったりとしかし一切の無駄のない動作で立ち上がった魔法使いはそのまま僕に向かって歩き出す。
「時間が惜しい。早速、講義を始める。案内しろ。」
背後で諦めたようにうなずいた父を見て、僕は勉強部屋である書斎へ彼を案内した。
もっとも、魔法使いは僕より先を歩き、「案内」は全くしなかったのだが。
かくして、顔合わせから10.分も経たずして授業となった。
――には、ならなかった。
魔法使いは戸惑う執事と侍女を下がらせ、部屋に二人きりになった途端、彼の魔力は眩しさを増し、空気の痛さが肌に突き刺さるようだった。
授業にここまでの緊張が必要なのだろうか?
「もちろん、そんなものは必要ない。」
芸術的な顔を憎々しげにゆがませ、――ゆがみも美しさを醸し出すことを僕は初めて知った――、魔法使いが吐き出すように言った。
言葉に出さない問いへの返事に驚いた瞬間、 顎をつかまれ上向かされた。
魔力の光を直に浴びて、本当に肌がピリピリする。強い眼差しが体を貫き通しそうなほど、こちらに向けられた。
何かを探っているのだろうか?
「ふん、泣きださないところは褒めてやる。」
魔法使いは忌々し気にまた言葉を吐き出し、いきなり手を外した。そして、また、僕に視線をひたと向け、深く染み込むような声で告げた。
「言っておくが、身分の高いだけの何の能力もない男に、シルヴィを託すことはこの私が許さない。」
一瞬、言われたことが理解できなかった。畏怖さえ感じさせる美しい存在から、愚かな言葉が発せられるはずがないと僕の頭が理解を遅らせたようだった。
言われたことがようやく頭に入った瞬間、 プツンと何かが切れる気がした。
「4歳の子どもに向かって何を言っているんです。これからシルヴィが男の子と知り合う度に言って回るんですか。」
言い返しながら、何歳だろうがシルヴィを託されたいという思いが自分の中にあることに気が付き、自分の気持ちに密かに驚いた。何だろう?愚かさが移ったのだろうか。
「貴様に、『シルヴィ』と呼ばせるつもりはない。」
底冷えのする声で、的がずれた返事が返ってくる。
「僕は『シルヴィ』から『シルヴィ』と呼んでほしいと言われたんです。」
殊更、『シルヴィ』に力を込めて言い返してやった。
「ここにシルヴィがいない以上、そうは呼ばせない。」
煮えたぎりそうな思いが湧いてきた。今まで、こんなひどい呼び方で人を呼んだことはない。
だけど、この魔法使いには、これで十分上等だ。
『こいつ』、大人になったら、いや、そこまで待てない、力が付き次第、即刻叩きのめしてやる。
「ふっ、やれるものならやってみろ。この私が全力で相手をしてやる。」
桁外れの魔力でこちらの思考は筒抜けのようだ。嘲りを含みながら、それでいて楽しそうに『こいつ』は、魔力を収め、ようやく授業が始まった。
悔しいことに、こいつの授業は分かりやすいものだった。
魔力がないものには見ることができないが、命あるものには「命の光」なるものがある。
そして、永く生きているものには命の光に沿って魔力の基となる「魔素」が多く流れている。
通常、魔力があるといわれる状態は、魔素を体内に意識せず取り込み、蓄えた魔素を自分が使える状態、「魔力」に変えて使う仕組みを訓練せずに持っていることをいう。
魔素はただ取り込めばいいのではなく、人ごとに取り込める限界があるらしい。
自分の限界を超えて取り込むと「暴走」という状態に陥り、魔力の抑制が全く効かない形で溢れだし、魔法使い自身の身体―、多くの場合は精神も壊すことになる。
こんな魔法の基礎を、こいつの桁外れの魔力で実際に見せてもらいながら説明された。
自分の目で実際に命の光や魔素の流れを見ることは、今まで縁のなかった魔法の世界を身近に感じることができ得難い体験だった。本当に悔しかったのだが。
「お前は、体内に魔素を蓄えているところで止まっているな。一部は魔力に変わりつつある」
驚いて、紫の混じった青い瞳を見つめた。そんなことは気が付かなかったし、誰からも言われたことがなかった。
「それだけ蓄えているのだから、上手く訓練すれば、いや、何かきっかけがあれば訓練せずとも使えるようになるだろう。」
自分に無縁と思われた魔法の世界が扉を開けてくれるのだろうか?
期待に体が軽くなる気がした。
シルヴィの世界に近づける。
途端に、部屋の空気が棘を増した。
「お前に、『シルヴィ』とは呼ばせない。」
やっぱり、こいつは、『こいつ』だ。
応接間に入るなり、痛くなるような空気を感じた。
父の正面にくつろいで腰かけている人物は、鋭く眩しいまでの強い魔力を滲み出させていた。
真っ直ぐな腰まで届く銀の髪に、同じ銀の長いまつ毛に縁どられた紫も入ったように見える濃い青い瞳。その瞳は、こちらに何も隠すことを許さない強さを持っている。絶妙な高さの鼻梁に、白皙を目立たせる薄桃色の唇は知性を感じさせる薄さ。欠点のない完璧な美しさの造作と強い魔力が相まって、神々しさを感じさせる。
紹介されずとも彼が誰かは知れた。
ハリー・チェンバレン
シルヴィアの母方の叔父、チェンバレン伯爵家の次男。だが、それよりもこの人物を語るときは、こちらが先だろう。
このウィンデリア王国史上、最強にして最大の魔力の持ち主。
エルフの生まれ変わりと称される力と美貌を備え、二十歳になる前の今年、次期魔法使いの長に内定した。
「ハリー」は通称であり、本名はその魔力の悪用を防ぐために秘密にされている。
とにかく貴族の子息の家庭教師に来てもらうには、格が高すぎる。
親ばかが高じて宰相の権力を振りかざしたのだろうか?
「父上、ここまで無理をしていただいたのですか…。」
呆然と呟くと、父は首を振り
「いや、私ではなく…」
「私から、こちらに来ることを申し入れた。」
魔力すら感じそうな深みのある声が割って入った。
ゆったりとしかし一切の無駄のない動作で立ち上がった魔法使いはそのまま僕に向かって歩き出す。
「時間が惜しい。早速、講義を始める。案内しろ。」
背後で諦めたようにうなずいた父を見て、僕は勉強部屋である書斎へ彼を案内した。
もっとも、魔法使いは僕より先を歩き、「案内」は全くしなかったのだが。
かくして、顔合わせから10.分も経たずして授業となった。
――には、ならなかった。
魔法使いは戸惑う執事と侍女を下がらせ、部屋に二人きりになった途端、彼の魔力は眩しさを増し、空気の痛さが肌に突き刺さるようだった。
授業にここまでの緊張が必要なのだろうか?
「もちろん、そんなものは必要ない。」
芸術的な顔を憎々しげにゆがませ、――ゆがみも美しさを醸し出すことを僕は初めて知った――、魔法使いが吐き出すように言った。
言葉に出さない問いへの返事に驚いた瞬間、 顎をつかまれ上向かされた。
魔力の光を直に浴びて、本当に肌がピリピリする。強い眼差しが体を貫き通しそうなほど、こちらに向けられた。
何かを探っているのだろうか?
「ふん、泣きださないところは褒めてやる。」
魔法使いは忌々し気にまた言葉を吐き出し、いきなり手を外した。そして、また、僕に視線をひたと向け、深く染み込むような声で告げた。
「言っておくが、身分の高いだけの何の能力もない男に、シルヴィを託すことはこの私が許さない。」
一瞬、言われたことが理解できなかった。畏怖さえ感じさせる美しい存在から、愚かな言葉が発せられるはずがないと僕の頭が理解を遅らせたようだった。
言われたことがようやく頭に入った瞬間、 プツンと何かが切れる気がした。
「4歳の子どもに向かって何を言っているんです。これからシルヴィが男の子と知り合う度に言って回るんですか。」
言い返しながら、何歳だろうがシルヴィを託されたいという思いが自分の中にあることに気が付き、自分の気持ちに密かに驚いた。何だろう?愚かさが移ったのだろうか。
「貴様に、『シルヴィ』と呼ばせるつもりはない。」
底冷えのする声で、的がずれた返事が返ってくる。
「僕は『シルヴィ』から『シルヴィ』と呼んでほしいと言われたんです。」
殊更、『シルヴィ』に力を込めて言い返してやった。
「ここにシルヴィがいない以上、そうは呼ばせない。」
煮えたぎりそうな思いが湧いてきた。今まで、こんなひどい呼び方で人を呼んだことはない。
だけど、この魔法使いには、これで十分上等だ。
『こいつ』、大人になったら、いや、そこまで待てない、力が付き次第、即刻叩きのめしてやる。
「ふっ、やれるものならやってみろ。この私が全力で相手をしてやる。」
桁外れの魔力でこちらの思考は筒抜けのようだ。嘲りを含みながら、それでいて楽しそうに『こいつ』は、魔力を収め、ようやく授業が始まった。
悔しいことに、こいつの授業は分かりやすいものだった。
魔力がないものには見ることができないが、命あるものには「命の光」なるものがある。
そして、永く生きているものには命の光に沿って魔力の基となる「魔素」が多く流れている。
通常、魔力があるといわれる状態は、魔素を体内に意識せず取り込み、蓄えた魔素を自分が使える状態、「魔力」に変えて使う仕組みを訓練せずに持っていることをいう。
魔素はただ取り込めばいいのではなく、人ごとに取り込める限界があるらしい。
自分の限界を超えて取り込むと「暴走」という状態に陥り、魔力の抑制が全く効かない形で溢れだし、魔法使い自身の身体―、多くの場合は精神も壊すことになる。
こんな魔法の基礎を、こいつの桁外れの魔力で実際に見せてもらいながら説明された。
自分の目で実際に命の光や魔素の流れを見ることは、今まで縁のなかった魔法の世界を身近に感じることができ得難い体験だった。本当に悔しかったのだが。
「お前は、体内に魔素を蓄えているところで止まっているな。一部は魔力に変わりつつある」
驚いて、紫の混じった青い瞳を見つめた。そんなことは気が付かなかったし、誰からも言われたことがなかった。
「それだけ蓄えているのだから、上手く訓練すれば、いや、何かきっかけがあれば訓練せずとも使えるようになるだろう。」
自分に無縁と思われた魔法の世界が扉を開けてくれるのだろうか?
期待に体が軽くなる気がした。
シルヴィの世界に近づける。
途端に、部屋の空気が棘を増した。
「お前に、『シルヴィ』とは呼ばせない。」
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