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第1章
その日1
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「セディも、王宮通いには慣れてきたようだね。」
殿下と学ぶようになって半年も過ぎたころのお茶の時間、殿下がにやりと笑いながらおっしゃった。
相変わらず、殿下は並々ならぬ集中をしてまず自分からお茶を飲む。
「うん、今日も美味しい。」
「そうですか、よいことです。」
僕は上の空で相槌を打った。視線がお茶の横のお皿から外せられない。
なぜ、あるんだ?あれから一度も出ていなかったのに!
お皿にはフルーツケーキが乗せられていた。フルーツが前回よりもたっぷり入っていて、見ているだけで甘さが伝わってくる。「これ」にも慣れろという意図なのだろうか。
思わず殿下を見ると、やはり既にケーキを味わっている。
この後、いつも通り、僕にもようやく勧めてくるのだろう。それまでに覚悟を決めなくては。
ライザ殿は僕を見て笑っていないか、さりげなく彼女へ視線をやった。
彼女は笑ってはいなかった。
彼女の顔は普通ではなかった。いつもの温かい笑顔があるような、泣きそうな叫びそうな強張ったものだった。
瞬間、僕は立ちあがりながら殿下を振り返った
ガシャン!
何もかもが一瞬で起こり、そしてとてもゆっくりに感じた。
殿下は飲んでいたカップを落とし、血を吐き出した。
ライザ殿は握りしめた手を口に当て、何かを飲み、その途端、目からも口からも血を流し倒れこんだ。
殿下の衣服の下から、銀色の光があふれ、何かが割れる音がし光は止んだ。
あの色はハリーの魔力だ。
あの波動はシルヴィがけがを治してくれる時に出るものだ。
ハリーの治癒魔法が発動したんだ…!
それでも、殿下はまだ血を吐いて、床に倒れこんだ。
僕は震えながらドアに飛びつき、護衛に医師を呼ぶように叫んだ。
ようやく殿下に駆け寄ると、
「触るな…、毒が、つく…」
新たな血を吐きながら、殿下が言う。
「バカっ!」
思わず怒鳴った。
頭の中に浮かんだ応急処置は二つ。毒を吐き出させること、水を飲ませて薄めること。
殿下は吐けるものは既に吐き出している。水は、毒が含まれているかもしれない。
背中をさするぐらいしか、思いつかなかった。さする手が震えていた。
殿下の喘鳴が部屋に響く。
医師はいつ来るんだ!
あまりにも自分のできることがなく、歯噛みしたい思いだった。
部屋の空気が急に重くなり、銀色の光の玉が浮かんだと思ったら、ハリーが現れた。
「殿下が!」
「分かっている。」
ハリーは殿下に触れ、眉を顰め両手をかざし、殿下に光をまとわらせた。
殿下の喘鳴が少し和らいだ。
治ったのか?
「一時的に感覚を遮断しただけだ。苦痛を感じていないだけだ。」
ハリーは殿下を抱きかかえ、誰の目にも絶命が明らかなライザ殿に近寄り、彼女の手から小さな瓶を浮かび上がらせた。中に少し液体が残っている。
ようやく到着した医師の前まで瓶を移動させ、医師はあわてて受け取った。
「その薬が使われた。調べよ。」
医師はうなずき、また部屋から飛び出していった。
ハリーは殿下を寝室へと運んで行った。
僕は根が生えたようにそこから動けず、ハリーの背中を見送っていた。
やがて戻ってきたハリーが、驚くほど優しい手つきで僕の涙をぬぐい、すべてを貫き通す澄んだ瞳で僕をのぞき込んだ。
「お前にとてもつらいことがあったのは、わかっている。」
身体に染み込むような深い声に、また涙があふれる。
ハリーは、再び涙をぬぐってくれながら続けた。
「だが、詳しいことを知ることが必要だ。話してくれ。」
頷いた途端、部屋の空気がまた重くなり、陛下と、宰相、―父上、が現れた。
二人は青ざめ硬い表情だったが、驚きは見せていなかった。
僕は、3人にお茶の話をした。
そして、話しながらようやく気が付いたのだ。
どうして、殿下はいつも並々ならぬ集中をして味わってから、僕に勧めたのか。
殿下はあろうことか毒見をしていたのだ。
悔しくて泣きそうだ。
昔、毒見役が死んだことがあったらしい。そのことを殿下は思い詰め、断固として毒見役を拒否していたと、今更、聞かされた。
どうして、今日はフルーツケーキが出たのか。
殿下がケーキを食べた直後は反応が出なかったことから、恐らく、毒は水分を含むと作用するものだった。
ライザ殿は殿下が先にケーキを食べることを知っていた。
僕がフルーツケーキを食べるまでには時間がかかるのも予想していた。先に食べた殿下が反応を示し、僕が食べない可能性が高いことも分かっていた。
ライザ殿は僕を巻き込まないために、フルーツケーキを出させたのだ。
あまりの不甲斐なさに吐きそうだった。
結局、3人に伝えられたことは、ライザ殿が実行犯だという分かり切ったことだけだった。
殿下と学ぶようになって半年も過ぎたころのお茶の時間、殿下がにやりと笑いながらおっしゃった。
相変わらず、殿下は並々ならぬ集中をしてまず自分からお茶を飲む。
「うん、今日も美味しい。」
「そうですか、よいことです。」
僕は上の空で相槌を打った。視線がお茶の横のお皿から外せられない。
なぜ、あるんだ?あれから一度も出ていなかったのに!
お皿にはフルーツケーキが乗せられていた。フルーツが前回よりもたっぷり入っていて、見ているだけで甘さが伝わってくる。「これ」にも慣れろという意図なのだろうか。
思わず殿下を見ると、やはり既にケーキを味わっている。
この後、いつも通り、僕にもようやく勧めてくるのだろう。それまでに覚悟を決めなくては。
ライザ殿は僕を見て笑っていないか、さりげなく彼女へ視線をやった。
彼女は笑ってはいなかった。
彼女の顔は普通ではなかった。いつもの温かい笑顔があるような、泣きそうな叫びそうな強張ったものだった。
瞬間、僕は立ちあがりながら殿下を振り返った
ガシャン!
何もかもが一瞬で起こり、そしてとてもゆっくりに感じた。
殿下は飲んでいたカップを落とし、血を吐き出した。
ライザ殿は握りしめた手を口に当て、何かを飲み、その途端、目からも口からも血を流し倒れこんだ。
殿下の衣服の下から、銀色の光があふれ、何かが割れる音がし光は止んだ。
あの色はハリーの魔力だ。
あの波動はシルヴィがけがを治してくれる時に出るものだ。
ハリーの治癒魔法が発動したんだ…!
それでも、殿下はまだ血を吐いて、床に倒れこんだ。
僕は震えながらドアに飛びつき、護衛に医師を呼ぶように叫んだ。
ようやく殿下に駆け寄ると、
「触るな…、毒が、つく…」
新たな血を吐きながら、殿下が言う。
「バカっ!」
思わず怒鳴った。
頭の中に浮かんだ応急処置は二つ。毒を吐き出させること、水を飲ませて薄めること。
殿下は吐けるものは既に吐き出している。水は、毒が含まれているかもしれない。
背中をさするぐらいしか、思いつかなかった。さする手が震えていた。
殿下の喘鳴が部屋に響く。
医師はいつ来るんだ!
あまりにも自分のできることがなく、歯噛みしたい思いだった。
部屋の空気が急に重くなり、銀色の光の玉が浮かんだと思ったら、ハリーが現れた。
「殿下が!」
「分かっている。」
ハリーは殿下に触れ、眉を顰め両手をかざし、殿下に光をまとわらせた。
殿下の喘鳴が少し和らいだ。
治ったのか?
「一時的に感覚を遮断しただけだ。苦痛を感じていないだけだ。」
ハリーは殿下を抱きかかえ、誰の目にも絶命が明らかなライザ殿に近寄り、彼女の手から小さな瓶を浮かび上がらせた。中に少し液体が残っている。
ようやく到着した医師の前まで瓶を移動させ、医師はあわてて受け取った。
「その薬が使われた。調べよ。」
医師はうなずき、また部屋から飛び出していった。
ハリーは殿下を寝室へと運んで行った。
僕は根が生えたようにそこから動けず、ハリーの背中を見送っていた。
やがて戻ってきたハリーが、驚くほど優しい手つきで僕の涙をぬぐい、すべてを貫き通す澄んだ瞳で僕をのぞき込んだ。
「お前にとてもつらいことがあったのは、わかっている。」
身体に染み込むような深い声に、また涙があふれる。
ハリーは、再び涙をぬぐってくれながら続けた。
「だが、詳しいことを知ることが必要だ。話してくれ。」
頷いた途端、部屋の空気がまた重くなり、陛下と、宰相、―父上、が現れた。
二人は青ざめ硬い表情だったが、驚きは見せていなかった。
僕は、3人にお茶の話をした。
そして、話しながらようやく気が付いたのだ。
どうして、殿下はいつも並々ならぬ集中をして味わってから、僕に勧めたのか。
殿下はあろうことか毒見をしていたのだ。
悔しくて泣きそうだ。
昔、毒見役が死んだことがあったらしい。そのことを殿下は思い詰め、断固として毒見役を拒否していたと、今更、聞かされた。
どうして、今日はフルーツケーキが出たのか。
殿下がケーキを食べた直後は反応が出なかったことから、恐らく、毒は水分を含むと作用するものだった。
ライザ殿は殿下が先にケーキを食べることを知っていた。
僕がフルーツケーキを食べるまでには時間がかかるのも予想していた。先に食べた殿下が反応を示し、僕が食べない可能性が高いことも分かっていた。
ライザ殿は僕を巻き込まないために、フルーツケーキを出させたのだ。
あまりの不甲斐なさに吐きそうだった。
結局、3人に伝えられたことは、ライザ殿が実行犯だという分かり切ったことだけだった。
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