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第2章
長と叔父様と
シャーリーの転移を断り保健室から帰る途中、私はこっそりと校舎の地下にある練習場に向かいました。
先輩の攻撃が目に焼き付いているうちに、少しでも策を練りたかったのです。
練習場には誰もいません。私は目を閉じて、今日の先輩の攻撃を思い返しました。
ふと、辺りを払うような魔力を感じました。
「叔父様!」
眩いほどの銀の光を放ち、叔父様は姿を現しました。
光が収まるや否や、叔父様は私に向かって歩き出し、その勢いのまま私を抱き込みました。
艶やかな銀の髪が乱れて私にかかります。
「あまり心配をかけるな」
頭の上から下りてきた深い声が今日は一段と染み込む気がします。叔父様の胸と回された腕から、微かに癒しの波動が染み込んできます。この微かな量は無意識での波動なのでしょう。
私は精一杯思いを込めて、謝りました。
叔父様はかすかに口角を上げ、謝罪を受け止めてくれます。
「シャーリーから、あらかたの説明を聞いた。皆から手紙を預かっている」
右手を宙にあげ、銀の玉を浮かび上がらせ、中へ手紙を転移してくれました。王都からここまで片手で転移させられるなんて、叔父様はどれだけの魔力を持っているのでしょう。
密かに羨みながら、手紙の名前を見ました。お母さま、セディ、そして初めて殿下からも手紙が来ています。申し訳ない気持ちと、心配してくれる皆の優しさが温かくて胸が熱くなる気持ちが駆け巡ります。
「さて、お前はどうしたい?」
私の頬を長い指で包み込み、叔父様はいつもの全てを見通すような視線を向けてきました。
神々しい濃い青の瞳に私の全てが見透かされ、疲れた心が洗われていくようです。
自分の心がとても疲れていたことに気づかされました。卒業までの長さを実感したからでしょうか。それでも、私の願いは変わりません。
「勝ちたいと思いました。まだ、方法は思いつかないのですが」
眼差しが少し柔らかいものに変わりました。叔父様は言葉を落とします。
「封印石を解除するか?」
「いいえ」
その質問には即座に答えることができました。私の魔力の抑制はまだまだ未熟です。今日も失敗したばかりです。皆の心を暴かないために解除は不可能です。
かといって、強い魔力の放出をしなければ、生き延びる機会はないということも分かりました。溜息をついたとき、深い緑の魔力が練習場を覆いました。
「強引に結界を破るものではないぞ、ハリー。危うく攻撃するところだった」
笑いを滲ませながら、長のパトリック先生が姿を見せたのです。
「されたところで、受け止めるのみです」
「相変わらずどこまでも強引なことよ」
笑い声が練習場いっぱいに響き渡ります。私の気持ちも楽しくなってきます。
目じりに笑いを残したまま、パトリック先生が濃い緑の瞳で私を見つめました。
「初めての試合で、実に多くのことを学んだようだね」
私は頷きました。先生のしわはさらに深くなりました。
「一試合で随分とお得だったのだな?」
つられて私も笑ってしまいました。
そうです、初めての試合でした。負けることは分かっていたはずです。どこか私には自分の魔力の大きさへの驕りと焦りがあったのかもしれません。
目を細めて私を見た先生は、ウインクを投げてきます。
「シルヴィア、そなたの倍よりもはるかに長く生きてきた人生の先輩の知恵を借りなさい」
導かれるように気が付けば頷いていた私に、先生はいつもの茶目っ気溢れる瞳で、声を潜めて囁いたのです。
「正面からが難しければ、抜け道を探すのだよ」
私の封印石を手に取り、さっと緑の魔力で薄い結界が張られました。
「試合が始まったとき、刺客に狙われたとき、攻撃しながらこの結界を張れるように練習してみなさい」
私は目を見開きました。
考え付きませんでした。確かにそうすれば封印石を封じた効果が得られます。そして身を護るため、最大限とまではいかなくとも、結界が破れるまでは今とは比較にならない強さの魔力が使えるでしょう。霧が晴れたようです。溢れるうれしさを抑えられなくて、思わず先生に抱き着いてしまいました。
「ふふふ、本当に叔父に似ず、素直で可愛いことだ」
叔父様が横を向いて「要らない一言をつける貴方もいい性格ですよ」と呟いていました。
いつも泰然とした雰囲気の漂う叔父様とは別人のようです。
やはり先生は歴然とした長なのでしょう。
次の日から、私の上達は自分で言うのもおこがましいのですが、なかなかのものでした。
次の試合には、制限時間一杯まで先輩の攻撃を防ぐことができました。
先輩の右の眉が上がりました。アリスは立ちあがってこぶしを突き上げて応援してくれました。
私の上達は試合だけではありませんでした。
セディの屋敷まで手紙を1通だけですが転移させることに成功したのです。
けれど、失敗した手紙はどこへ行ったのでしょう…
どこかでどなたかに読まれていることを考えると恥ずかしいです。
その次の試合では、始めて先輩に攻撃を向けることができました。
先輩は息を呑みました。アリスは飛び跳ねて応援してくれました。
セディの屋敷まで手紙を完璧に全て転移させられるようになりました。
今度は失敗に備えて、何も書いていない手紙を転移させてみたのですが、そちらも届いていたようです。
セディは週に必ず2回、手紙をくれるようになりました。
そして、先輩のこのグループでの最後の試合では、引き分けと判定されたのです。
先輩は頭を掻きながら「嘘だろ」と呟きました。アリスは舞台に駆け下りて抱き着いてお祝いしてくれました。
結局、私も先輩と同時に最終学年のグループに移ることになったのでした。
その日、嬉しいことはそれだけではありませんでした。
セディからも手紙が転移で届いたのです!
何でも叔父様に単に魔力を集めた石を作ってもらい、同じ魔力の結びつきを利用して、学園の叔父様の魔力の名残を目印に転移させたのだそうです。
叔父様の魔力を利用するなんて、私には考えつかなかった方法です。
さすがセディです!さすが叔父様です!
嬉しくて、その日は二人で一つの紙を2度転移で往復させました。
2度がセディの限界だったようで、セディが寝込んだと知らされ、慌てて治癒石を転移させたのでした。セディ、ごめんなさい。無理してくれたんですね。
気が付けば学園に来てから1年が過ぎていました。
私は10歳を過ぎ、11歳を迎えようとしていました。
先輩の攻撃が目に焼き付いているうちに、少しでも策を練りたかったのです。
練習場には誰もいません。私は目を閉じて、今日の先輩の攻撃を思い返しました。
ふと、辺りを払うような魔力を感じました。
「叔父様!」
眩いほどの銀の光を放ち、叔父様は姿を現しました。
光が収まるや否や、叔父様は私に向かって歩き出し、その勢いのまま私を抱き込みました。
艶やかな銀の髪が乱れて私にかかります。
「あまり心配をかけるな」
頭の上から下りてきた深い声が今日は一段と染み込む気がします。叔父様の胸と回された腕から、微かに癒しの波動が染み込んできます。この微かな量は無意識での波動なのでしょう。
私は精一杯思いを込めて、謝りました。
叔父様はかすかに口角を上げ、謝罪を受け止めてくれます。
「シャーリーから、あらかたの説明を聞いた。皆から手紙を預かっている」
右手を宙にあげ、銀の玉を浮かび上がらせ、中へ手紙を転移してくれました。王都からここまで片手で転移させられるなんて、叔父様はどれだけの魔力を持っているのでしょう。
密かに羨みながら、手紙の名前を見ました。お母さま、セディ、そして初めて殿下からも手紙が来ています。申し訳ない気持ちと、心配してくれる皆の優しさが温かくて胸が熱くなる気持ちが駆け巡ります。
「さて、お前はどうしたい?」
私の頬を長い指で包み込み、叔父様はいつもの全てを見通すような視線を向けてきました。
神々しい濃い青の瞳に私の全てが見透かされ、疲れた心が洗われていくようです。
自分の心がとても疲れていたことに気づかされました。卒業までの長さを実感したからでしょうか。それでも、私の願いは変わりません。
「勝ちたいと思いました。まだ、方法は思いつかないのですが」
眼差しが少し柔らかいものに変わりました。叔父様は言葉を落とします。
「封印石を解除するか?」
「いいえ」
その質問には即座に答えることができました。私の魔力の抑制はまだまだ未熟です。今日も失敗したばかりです。皆の心を暴かないために解除は不可能です。
かといって、強い魔力の放出をしなければ、生き延びる機会はないということも分かりました。溜息をついたとき、深い緑の魔力が練習場を覆いました。
「強引に結界を破るものではないぞ、ハリー。危うく攻撃するところだった」
笑いを滲ませながら、長のパトリック先生が姿を見せたのです。
「されたところで、受け止めるのみです」
「相変わらずどこまでも強引なことよ」
笑い声が練習場いっぱいに響き渡ります。私の気持ちも楽しくなってきます。
目じりに笑いを残したまま、パトリック先生が濃い緑の瞳で私を見つめました。
「初めての試合で、実に多くのことを学んだようだね」
私は頷きました。先生のしわはさらに深くなりました。
「一試合で随分とお得だったのだな?」
つられて私も笑ってしまいました。
そうです、初めての試合でした。負けることは分かっていたはずです。どこか私には自分の魔力の大きさへの驕りと焦りがあったのかもしれません。
目を細めて私を見た先生は、ウインクを投げてきます。
「シルヴィア、そなたの倍よりもはるかに長く生きてきた人生の先輩の知恵を借りなさい」
導かれるように気が付けば頷いていた私に、先生はいつもの茶目っ気溢れる瞳で、声を潜めて囁いたのです。
「正面からが難しければ、抜け道を探すのだよ」
私の封印石を手に取り、さっと緑の魔力で薄い結界が張られました。
「試合が始まったとき、刺客に狙われたとき、攻撃しながらこの結界を張れるように練習してみなさい」
私は目を見開きました。
考え付きませんでした。確かにそうすれば封印石を封じた効果が得られます。そして身を護るため、最大限とまではいかなくとも、結界が破れるまでは今とは比較にならない強さの魔力が使えるでしょう。霧が晴れたようです。溢れるうれしさを抑えられなくて、思わず先生に抱き着いてしまいました。
「ふふふ、本当に叔父に似ず、素直で可愛いことだ」
叔父様が横を向いて「要らない一言をつける貴方もいい性格ですよ」と呟いていました。
いつも泰然とした雰囲気の漂う叔父様とは別人のようです。
やはり先生は歴然とした長なのでしょう。
次の日から、私の上達は自分で言うのもおこがましいのですが、なかなかのものでした。
次の試合には、制限時間一杯まで先輩の攻撃を防ぐことができました。
先輩の右の眉が上がりました。アリスは立ちあがってこぶしを突き上げて応援してくれました。
私の上達は試合だけではありませんでした。
セディの屋敷まで手紙を1通だけですが転移させることに成功したのです。
けれど、失敗した手紙はどこへ行ったのでしょう…
どこかでどなたかに読まれていることを考えると恥ずかしいです。
その次の試合では、始めて先輩に攻撃を向けることができました。
先輩は息を呑みました。アリスは飛び跳ねて応援してくれました。
セディの屋敷まで手紙を完璧に全て転移させられるようになりました。
今度は失敗に備えて、何も書いていない手紙を転移させてみたのですが、そちらも届いていたようです。
セディは週に必ず2回、手紙をくれるようになりました。
そして、先輩のこのグループでの最後の試合では、引き分けと判定されたのです。
先輩は頭を掻きながら「嘘だろ」と呟きました。アリスは舞台に駆け下りて抱き着いてお祝いしてくれました。
結局、私も先輩と同時に最終学年のグループに移ることになったのでした。
その日、嬉しいことはそれだけではありませんでした。
セディからも手紙が転移で届いたのです!
何でも叔父様に単に魔力を集めた石を作ってもらい、同じ魔力の結びつきを利用して、学園の叔父様の魔力の名残を目印に転移させたのだそうです。
叔父様の魔力を利用するなんて、私には考えつかなかった方法です。
さすがセディです!さすが叔父様です!
嬉しくて、その日は二人で一つの紙を2度転移で往復させました。
2度がセディの限界だったようで、セディが寝込んだと知らされ、慌てて治癒石を転移させたのでした。セディ、ごめんなさい。無理してくれたんですね。
気が付けば学園に来てから1年が過ぎていました。
私は10歳を過ぎ、11歳を迎えようとしていました。
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