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第2章
退屈が消えた日(ダニエル)
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何だよ、この魔力…!
咄嗟に球形結界を張ったときには、あいつは倒れていた。
俺は自分で言うのもなんだが、魔力は強い方だった。
学園に入ったとき、もっと強い奴に出会えるかと楽しみにしていたものだ。
強い奴と存分に戦う、それが俺の学園に入ったときの夢だった。
確かに強い奴はいたがそれは俺よりも体も歳も大きいが故の強さで、俺の求める強さを持った奴はいなかった。
自分の技術が上がっていくと、俺の敵はいなくなってしまった。
最上級学年になれば、しばらくは楽しめるだろう。しばらくは。俺の身体と技術が追いつくまでは。
正直、学園での暮らしに楽しみは見出せなくなっていた。学園を辞めて傭兵にでもなろうかと考えることもあった。
あいつが教室に入ってきた日のことは、よく覚えている。
アリスほどの小柄なやつだと思っていたら、歳もやけに幼かったことに驚いたものだ。
この学年グループは、上から2番目だ。大体のやつは17歳ぐらいだ。
俺やアリスなどは歳よりも優秀ということで、このグループに入っていたのに、あいつは、9歳で――本人は、あと少ししたら10歳になるとよく言っていたが――このグループに入るって、どういうことなんだ。
隣のアリソンは「うぉぉぉ、美少女だ…、いや可愛いか…?」と不明なことを呟いていたが、俺はあいつの外見なんか目が行かなかった。どうでもよかったと言ってもいい。
ひたすら魔力が気になっていた。
微かな魔力が体から漏れ出ていたが、「何か」それだけではないものを感じた。
加えて、胸に下げている銀の魔法石のペンダントが、とてつもない存在感を放っている。
あれは、何だ?なぜ、あんなものを着けているんだ?
皆目わからず、あいつのことは気にするようになっていた。
アリソンは「あの可愛さが目に入らないお前って、いい加減、その戦闘バカもたいがいにしろよっ」と俺を揺さぶったのだが。
あいつは、どうも攻撃魔法が苦手らしかった。
的を燃やす課題も、炎を作るのは簡単にできても、的に向けることができない状態だった。普通では有り得ない事態だ。炎を作るのが難しいだろ??
性格の問題だろうか。それにしたって、何かおかしい。違和感が付きまとった。
あいつは、必死に練習場で練習していたようだ。よく練習場に向かうあいつの姿を見かけたものだ。まだ幼いのに随分な気合いだと驚いたものだ。
勝気そうには見えないのに、あの必死さは何だろう。
やはり何かおかしかった。
いつもの試合の授業でも、あいつの様子は気になった。
攻撃魔法の下手さから、試合への参加許可が得られなかったが、サポート役としてのあいつは凄かった。治癒の魔法は無意識にかけている感すらあった。教師のものより優れた治癒ではないかと目を瞠る鮮やかさだった。
男どもは、嬉々としてあいつに治癒されたがっていた。
アリソンは走って治癒を頼んでいた。しかし、あれだけ走れるなら、治癒は要らなかったんじゃないのか?
攻撃が観覧席に飛びそうになると、見学者の安全のためあいつは結界魔法を張ったが、攻撃の跳ね返り具合から判断すると、結界の強さは段違いのものだろう。
初め、あいつが張った結界は強すぎて、攻撃が速度を増して返ってきて慌ててこちらも結界を張る羽目になった。あいつの目を丸くして青ざめた顔が面白かった。
そして、とうとうあいつは試合に参加することになった。
なんと、いきなり俺の相手に名乗りを上げてきた。
いつか手合わせしたいとは思っていたが、まだ、こいつは俺の敵じゃない下手さだ。
俺はどんな試合にも手加減なんかしない。試合は拳での魂の語り合いだと思っている。
手加減は相手に礼を欠いたものだ。
だから、正直、あいつの申し込みには困ったが、まぁ、相手が決まらなかったし引き受けた。
試合の開始位置であいつと対峙したとき、俺の襟足が逆立った。
なぜだ?あいつの技量は分かっているのに。
俺は徐々に攻撃を強める戦い方をするが、初めて感じた恐怖に近い感覚に2度目の攻撃で最早全力での攻撃に移っていた。あいつは結界でしのいでいたし、試合の展開としてはほぼいつも通りだ。
なのに、この感覚はなんだ?
次の瞬間、答えが分かった。
とてつもない魔力、桁違いなんてものじゃない、もう人間とは思えない魔力があいつから立ち上った。
結界では防げない。
死、という言葉がよぎったその刹那、眩しい銀の光が放たれ、あいつの魔力は全てあいつに向かっていった。
あいつがゆっくりと倒れ、シャーリー先生やアリスたちが顔色を変えてあいつに駆け寄り、劇場が騒然とする中、俺はまだ呆然としていた。
何だよ、あの魔力は…、何だよ、あの封印は…。
保健室に向かう間、俺は徐々に不愉快な気分が溜まってくのが分かった。
隣を歩く立ち合いのシャーリー先生から、嫌に殺気に近い魔力が立ち上っていたが、そんなことはどうでもよかった。
あの封印は、要は手加減されていたってことじゃないのか?
全力を尽くすって話だったろう?
あいつのまだ少し青い顔を見ても、俺の気分は収まらず、結局、まだ10歳になったばかりの相手に気持ちをぶつけてしまった。
そして、
「刺客が封印を外す時間を与えてくれるとは思えないのです」
あいつの背負っているものを知った。幼くても小さくてもあいつの背負うものは重かった。
俺は自分が恥ずかしかった。
あいつは、本当に「全力」を尽くしていた。試合のためでなく、生きるために。
俺は打ちのめされた思いで、ドアに手をかけ、ふと気が付いた。
そうだ、俺にできることがある。それも、多分俺にしかできないことが。
「いくらでも相手になるから、鍛えて上達しろよ」
そうだ、俺も全力を尽くす。刺客役に徹してやろう。すべての攻撃を俺の全力で放ってやる。
――そして、できればいつか、封印を外せたあいつと全力で戦って見たい。
忘れていた俺の夢が蘇っていた。
廊下を歩きながら、俺は、学園に入ったばかりのころのように、気持ちが昂っているのを感じていた。
この時の俺は、あいつがあんなに早く上達するとは想像もしていなかった。
今の俺は、あいつに負けないように、あいつに全力を出させるように、学園の林で練習を重ねている。アリソンには「もういい、とことん、その戦闘バカを極めてくれ。俺は諦めた」と言われている。俺は、戦闘バカらしい。まぁ、別にいいが…。
咄嗟に球形結界を張ったときには、あいつは倒れていた。
俺は自分で言うのもなんだが、魔力は強い方だった。
学園に入ったとき、もっと強い奴に出会えるかと楽しみにしていたものだ。
強い奴と存分に戦う、それが俺の学園に入ったときの夢だった。
確かに強い奴はいたがそれは俺よりも体も歳も大きいが故の強さで、俺の求める強さを持った奴はいなかった。
自分の技術が上がっていくと、俺の敵はいなくなってしまった。
最上級学年になれば、しばらくは楽しめるだろう。しばらくは。俺の身体と技術が追いつくまでは。
正直、学園での暮らしに楽しみは見出せなくなっていた。学園を辞めて傭兵にでもなろうかと考えることもあった。
あいつが教室に入ってきた日のことは、よく覚えている。
アリスほどの小柄なやつだと思っていたら、歳もやけに幼かったことに驚いたものだ。
この学年グループは、上から2番目だ。大体のやつは17歳ぐらいだ。
俺やアリスなどは歳よりも優秀ということで、このグループに入っていたのに、あいつは、9歳で――本人は、あと少ししたら10歳になるとよく言っていたが――このグループに入るって、どういうことなんだ。
隣のアリソンは「うぉぉぉ、美少女だ…、いや可愛いか…?」と不明なことを呟いていたが、俺はあいつの外見なんか目が行かなかった。どうでもよかったと言ってもいい。
ひたすら魔力が気になっていた。
微かな魔力が体から漏れ出ていたが、「何か」それだけではないものを感じた。
加えて、胸に下げている銀の魔法石のペンダントが、とてつもない存在感を放っている。
あれは、何だ?なぜ、あんなものを着けているんだ?
皆目わからず、あいつのことは気にするようになっていた。
アリソンは「あの可愛さが目に入らないお前って、いい加減、その戦闘バカもたいがいにしろよっ」と俺を揺さぶったのだが。
あいつは、どうも攻撃魔法が苦手らしかった。
的を燃やす課題も、炎を作るのは簡単にできても、的に向けることができない状態だった。普通では有り得ない事態だ。炎を作るのが難しいだろ??
性格の問題だろうか。それにしたって、何かおかしい。違和感が付きまとった。
あいつは、必死に練習場で練習していたようだ。よく練習場に向かうあいつの姿を見かけたものだ。まだ幼いのに随分な気合いだと驚いたものだ。
勝気そうには見えないのに、あの必死さは何だろう。
やはり何かおかしかった。
いつもの試合の授業でも、あいつの様子は気になった。
攻撃魔法の下手さから、試合への参加許可が得られなかったが、サポート役としてのあいつは凄かった。治癒の魔法は無意識にかけている感すらあった。教師のものより優れた治癒ではないかと目を瞠る鮮やかさだった。
男どもは、嬉々としてあいつに治癒されたがっていた。
アリソンは走って治癒を頼んでいた。しかし、あれだけ走れるなら、治癒は要らなかったんじゃないのか?
攻撃が観覧席に飛びそうになると、見学者の安全のためあいつは結界魔法を張ったが、攻撃の跳ね返り具合から判断すると、結界の強さは段違いのものだろう。
初め、あいつが張った結界は強すぎて、攻撃が速度を増して返ってきて慌ててこちらも結界を張る羽目になった。あいつの目を丸くして青ざめた顔が面白かった。
そして、とうとうあいつは試合に参加することになった。
なんと、いきなり俺の相手に名乗りを上げてきた。
いつか手合わせしたいとは思っていたが、まだ、こいつは俺の敵じゃない下手さだ。
俺はどんな試合にも手加減なんかしない。試合は拳での魂の語り合いだと思っている。
手加減は相手に礼を欠いたものだ。
だから、正直、あいつの申し込みには困ったが、まぁ、相手が決まらなかったし引き受けた。
試合の開始位置であいつと対峙したとき、俺の襟足が逆立った。
なぜだ?あいつの技量は分かっているのに。
俺は徐々に攻撃を強める戦い方をするが、初めて感じた恐怖に近い感覚に2度目の攻撃で最早全力での攻撃に移っていた。あいつは結界でしのいでいたし、試合の展開としてはほぼいつも通りだ。
なのに、この感覚はなんだ?
次の瞬間、答えが分かった。
とてつもない魔力、桁違いなんてものじゃない、もう人間とは思えない魔力があいつから立ち上った。
結界では防げない。
死、という言葉がよぎったその刹那、眩しい銀の光が放たれ、あいつの魔力は全てあいつに向かっていった。
あいつがゆっくりと倒れ、シャーリー先生やアリスたちが顔色を変えてあいつに駆け寄り、劇場が騒然とする中、俺はまだ呆然としていた。
何だよ、あの魔力は…、何だよ、あの封印は…。
保健室に向かう間、俺は徐々に不愉快な気分が溜まってくのが分かった。
隣を歩く立ち合いのシャーリー先生から、嫌に殺気に近い魔力が立ち上っていたが、そんなことはどうでもよかった。
あの封印は、要は手加減されていたってことじゃないのか?
全力を尽くすって話だったろう?
あいつのまだ少し青い顔を見ても、俺の気分は収まらず、結局、まだ10歳になったばかりの相手に気持ちをぶつけてしまった。
そして、
「刺客が封印を外す時間を与えてくれるとは思えないのです」
あいつの背負っているものを知った。幼くても小さくてもあいつの背負うものは重かった。
俺は自分が恥ずかしかった。
あいつは、本当に「全力」を尽くしていた。試合のためでなく、生きるために。
俺は打ちのめされた思いで、ドアに手をかけ、ふと気が付いた。
そうだ、俺にできることがある。それも、多分俺にしかできないことが。
「いくらでも相手になるから、鍛えて上達しろよ」
そうだ、俺も全力を尽くす。刺客役に徹してやろう。すべての攻撃を俺の全力で放ってやる。
――そして、できればいつか、封印を外せたあいつと全力で戦って見たい。
忘れていた俺の夢が蘇っていた。
廊下を歩きながら、俺は、学園に入ったばかりのころのように、気持ちが昂っているのを感じていた。
この時の俺は、あいつがあんなに早く上達するとは想像もしていなかった。
今の俺は、あいつに負けないように、あいつに全力を出させるように、学園の林で練習を重ねている。アリソンには「もういい、とことん、その戦闘バカを極めてくれ。俺は諦めた」と言われている。俺は、戦闘バカらしい。まぁ、別にいいが…。
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