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第2章
ハリーとお茶会
魔法学の講義の後、ゆったりとしたお茶の時間に、侍従長がさらりと告げた。
「セドリック様も20日後のお茶会にご出席ください」
殿下が出席するお茶会だ。
残念ながら、いや、もちろん当然、自分も参加することになるのだが、侍従長はいつも律義に伝えてくる。信用されていないらしい。
僕は溜息を紅茶と共に飲み込んだ。
向かいの席では、ハリーが紅茶を味わっている。
今日も人とは思えない美貌は健在だ。艶やかな銀の髪は後光を感じさせ、彼の手にする茶器がまるで神器のように見えてくる。
ふと疑問が湧いた。
「ハリーはお茶会に参加しないのですか」
その瞬間、部屋の空気が変わった。
?
そこまで問題な質問だったのだろうか。
魔法使いはお茶会に参加しない暗黙のしきたりがあるのだろうか。
「私はお茶会には出入り禁止となっている」
部屋の空気を切り裂いて、沁みとおる声が答えをくれた。
出入り禁止?
銀の睫毛は伏せられたままで、瞳を隠し表情が読めない。
ハリーは一体何をやらかしたのだ?
ますます疑問が深まった。
がしりと音が出そうな強さで侍従長が僕の腕をつかんだ。
礼儀作法を重んじ体現する彼とは思えない振る舞いだ。
彼は小刻みに首を横に振っていた。
僕はどうやら禁忌に触れたらしい。
「申し訳――」
僕の謝罪は遮られた。
「あれは、今の王妃陛下が初めて主催されるお茶会のことでした」
彼の目は遠くをさまよいながら、話始めた。
「いえ、もうそこまで大変な思いをなさってまで説明は――」
むしろ何としても話題に蓋をしたかったが、侍従長は僕の腕をさらに強い力でつかんで離さない。
「ご存じの通り、王妃陛下は国内にお味方が少ないお立場です。
我々侍従一同はお茶会で陛下の立場をより良いものとなるよう、綿密に計画を練り上げました。
招待客の皆様のお好みを調べつくし、茶葉とお菓子を調整し、会場の飾りつけ、陛下の服装、皆様のお席の配置、それは多くのことを検討し準備を整えていたのです」
現在ですら、王妃様の主催するお茶会は、城内が殺気立つほど皆が準備に邁進する。
当時はいかばかりだったろう。
益々、先を聞くのが恐ろしくなっていた。
何をやらかした、ハリー。
毒舌を隠せなかったのか?
僕の視線と思考が伝わったのか、ハリーはようやく紅茶から視線を僕へ移した。
器用に片眉を上げたものの、黙したままだ。
侍従長は続けた。
「当時、ハリー様は既に史上最強の魔力と絶世の美貌により国中で評判となっていました。
学園から許可を頂き、お茶会に招いたのです」
殿下の年から予測すると、ハリーが10歳にもなっていないぐらいのときだろうか。
今より腹黒さが薄かっただろう。シルヴィのように天使を思わせる純真さが残っていたかもしれない。
それなのに、出入り禁止?
一体、何を――
「私は何もしなかったぞ」
ようやくハリーは口を開いた。
侍従長は涙を浮かべた。
「ええ、ええ、ハリー様は何もなさいませんでした。
ただ、紹介されて微笑まれただけです!」
過去の記憶が蘇った。
――「お前の場合、困った時は、相手の目を見て微笑めば、何とでもなる。」――
僕が初めてお茶会に参加したときにもらった助言だ。あれは実体験に基づく助言だったのか。
実に効果的だったが――
僕は結末の予想が見えてきた。
恐らく、ハリーとは初対面の人々の前で、天使を思わせる純真さが残った、人間を超えた美貌の少年が微笑んだのだ。
侍従長は僕の身体を揺すった。
「全てが無駄になりました。
ご出席くださった皆様は、誰一人としてお茶に、お菓子に手を出されませんでした。
会場の飾りも、陛下の服装にも全く視線は行きませんでした。
皆様は、ただただハリー様に魂を奪われたように、ハリー様を見つめていたのです」
会場は静まり返っていたという。
王妃様が声を発しても、誰も反応を見せなかったそうだ。
お茶会の時間が終わっても、招待客は魂が戻らず、各家の使用人が主を運んで行く有様だったそうだ。使用人も魂を奪われた家も出て、侍従たちが運んだお客もいたらしい。
当時を思い出し、まだ咽び泣く侍従長の背を摩りながら、ハリーを見遣った。
また、優雅に紅茶を味わっている。
確かに作法に反することはしていない。が、しかし――
「確信犯だろう」
もう菓子まで味わっていた殿下が僕の思いを代弁してくれた。
また先を越されてしまったが、今日は焦る気持ちが湧かなかった。なにやら脱力してしまった。
はた迷惑な美貌だ。
心から当時の侍従長たちの空しい思いに同情していたが、密かに思っていた。
そんな美貌に恵まれたかった。
僕の思考を読んだハリーが、微かに口角を上げていた。
「セドリック様も20日後のお茶会にご出席ください」
殿下が出席するお茶会だ。
残念ながら、いや、もちろん当然、自分も参加することになるのだが、侍従長はいつも律義に伝えてくる。信用されていないらしい。
僕は溜息を紅茶と共に飲み込んだ。
向かいの席では、ハリーが紅茶を味わっている。
今日も人とは思えない美貌は健在だ。艶やかな銀の髪は後光を感じさせ、彼の手にする茶器がまるで神器のように見えてくる。
ふと疑問が湧いた。
「ハリーはお茶会に参加しないのですか」
その瞬間、部屋の空気が変わった。
?
そこまで問題な質問だったのだろうか。
魔法使いはお茶会に参加しない暗黙のしきたりがあるのだろうか。
「私はお茶会には出入り禁止となっている」
部屋の空気を切り裂いて、沁みとおる声が答えをくれた。
出入り禁止?
銀の睫毛は伏せられたままで、瞳を隠し表情が読めない。
ハリーは一体何をやらかしたのだ?
ますます疑問が深まった。
がしりと音が出そうな強さで侍従長が僕の腕をつかんだ。
礼儀作法を重んじ体現する彼とは思えない振る舞いだ。
彼は小刻みに首を横に振っていた。
僕はどうやら禁忌に触れたらしい。
「申し訳――」
僕の謝罪は遮られた。
「あれは、今の王妃陛下が初めて主催されるお茶会のことでした」
彼の目は遠くをさまよいながら、話始めた。
「いえ、もうそこまで大変な思いをなさってまで説明は――」
むしろ何としても話題に蓋をしたかったが、侍従長は僕の腕をさらに強い力でつかんで離さない。
「ご存じの通り、王妃陛下は国内にお味方が少ないお立場です。
我々侍従一同はお茶会で陛下の立場をより良いものとなるよう、綿密に計画を練り上げました。
招待客の皆様のお好みを調べつくし、茶葉とお菓子を調整し、会場の飾りつけ、陛下の服装、皆様のお席の配置、それは多くのことを検討し準備を整えていたのです」
現在ですら、王妃様の主催するお茶会は、城内が殺気立つほど皆が準備に邁進する。
当時はいかばかりだったろう。
益々、先を聞くのが恐ろしくなっていた。
何をやらかした、ハリー。
毒舌を隠せなかったのか?
僕の視線と思考が伝わったのか、ハリーはようやく紅茶から視線を僕へ移した。
器用に片眉を上げたものの、黙したままだ。
侍従長は続けた。
「当時、ハリー様は既に史上最強の魔力と絶世の美貌により国中で評判となっていました。
学園から許可を頂き、お茶会に招いたのです」
殿下の年から予測すると、ハリーが10歳にもなっていないぐらいのときだろうか。
今より腹黒さが薄かっただろう。シルヴィのように天使を思わせる純真さが残っていたかもしれない。
それなのに、出入り禁止?
一体、何を――
「私は何もしなかったぞ」
ようやくハリーは口を開いた。
侍従長は涙を浮かべた。
「ええ、ええ、ハリー様は何もなさいませんでした。
ただ、紹介されて微笑まれただけです!」
過去の記憶が蘇った。
――「お前の場合、困った時は、相手の目を見て微笑めば、何とでもなる。」――
僕が初めてお茶会に参加したときにもらった助言だ。あれは実体験に基づく助言だったのか。
実に効果的だったが――
僕は結末の予想が見えてきた。
恐らく、ハリーとは初対面の人々の前で、天使を思わせる純真さが残った、人間を超えた美貌の少年が微笑んだのだ。
侍従長は僕の身体を揺すった。
「全てが無駄になりました。
ご出席くださった皆様は、誰一人としてお茶に、お菓子に手を出されませんでした。
会場の飾りも、陛下の服装にも全く視線は行きませんでした。
皆様は、ただただハリー様に魂を奪われたように、ハリー様を見つめていたのです」
会場は静まり返っていたという。
王妃様が声を発しても、誰も反応を見せなかったそうだ。
お茶会の時間が終わっても、招待客は魂が戻らず、各家の使用人が主を運んで行く有様だったそうだ。使用人も魂を奪われた家も出て、侍従たちが運んだお客もいたらしい。
当時を思い出し、まだ咽び泣く侍従長の背を摩りながら、ハリーを見遣った。
また、優雅に紅茶を味わっている。
確かに作法に反することはしていない。が、しかし――
「確信犯だろう」
もう菓子まで味わっていた殿下が僕の思いを代弁してくれた。
また先を越されてしまったが、今日は焦る気持ちが湧かなかった。なにやら脱力してしまった。
はた迷惑な美貌だ。
心から当時の侍従長たちの空しい思いに同情していたが、密かに思っていた。
そんな美貌に恵まれたかった。
僕の思考を読んだハリーが、微かに口角を上げていた。
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