恋の締め切りには注意しましょう

石里 唯

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第2章

覆面の騎士

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 最上級学年にすっかり馴染んで、早いものでもうすぐ2年になります。
 
 皆さんの攻撃の種類にも慣れたと言えるでしょう。
 叔父様が「経験を積める」と入学前におっしゃったことは本当でした。
 最上級学年グループでの初めての試合では、驚きのあまり声も出ませんでした。
 
 アレキサンドラ先輩は、地中から瞬時に大樹をそこら中に生やし、攻撃します。
 ダニエル先輩は目を輝かせて、尽きることなく生える木々に次々に火炎の攻撃を加えていらっしゃいました。
 
 エリク先輩は、空中から突如氷の柱が大量に降り注いでくる攻撃です。
 ダニエル先輩は、またもや目を輝かせて、全弾、火炎攻撃で溶かしていました。2度目の対戦の時は、雄たけびを上げながら、全弾、氷の攻撃を放ち、粉々にしていらっしゃいました。とても楽しそうに見えました。
 アリソン先輩が「バカがついにあそこまで行ってしまった…」と額に手を当てて呟いていらしたのが気にかかりました。バカという呼び方もひどいですが、どこに行ったとおっしゃるのでしょう。
 さて、私はどう対応したのかと言いますと…、
 実は、白状しますと…、大量の攻撃に驚いてしまって、劇場全体に広がる炎を作り出してしまい、試合は中止になってしまったのです。
 アレキサンドラ先輩とエリク先輩が結界の張れる方で本当に良かったです。そして本当に申し訳ございませんでした。危ない目に遭わせてしまいました。
 2度目の対戦の時は、ダニエル先輩を見習って個々に攻撃を加えることにしました。
 ですが、密かに思っているのですが、私の好みとしては一気に片をつける方が楽です…。

 順調に対戦技術は上がって、ダニエル先輩以外の方には2度目、もしくは3度目以降は必ず勝てるようになっていましたが、これまで一度も勝てていない先輩が一人いるのです。
 クリス先輩です。
 先輩は試合開始直後に、相手に球形結界を張り、全く攻撃をできなくさせるのです。
 これにはダニエル先輩も打つ手がなく、私とダニエル先輩はたまにクリス先輩対策を話し合っています。残念ながら、有効な手が見つからないです…。

 それでも、クリス先輩以外の方の攻撃に楽に対応できるようになり、生活に、そして気持ちに余裕をもてる状態になった私は、いよいよ封印石を自分で作ることに取り組み始めました。
 これが、想像以上に難しいのです。
 お手本となる叔父様の封印石で、魔法の組み立て方は分かるのですが、自分で自分を縛ることは、体が拒否するらしく、魔法がうまく組み立てられません。
 私はここ2か月ほど煮詰まっていました。
 このまま、叔父様の封印石に頼ることになるのでしょうか。

 そんな時のことでした。
 試合の日ではなかったのですが、急に円形劇場に集合するように先生から指示を受けました。
 最上級学年が勢ぞろいしたのを見計らって、先生方が現れました。
 その日は、いつもの先生方に見慣れない二人が加わったのです。
 二人とも髪まで覆う覆面をし、顔は分からないようにしています。それでも、一人はすぐに誰だか分かりました。馴染んだ銀の魔力がにじみ出ています。どうして叔父様は覆面をなさっているのでしょう。
 もう一人は分かりません。叔父様より頭一つ分ほど背の低い方で、体は細身です。ひょっとすると若い方かもしれません。魔力は外には出ていません。とても立ち姿の綺麗な方です。思わずセディを思い出すほどです。私の思いに呼応したのでしょうか、イヤリングがかすかに温かくなっています。

「今日は、模範演技を行う」
 試合担当のケネス先生がおっしゃいました。
「対戦は、私と」
 ざわめきが起こります。先生自らが試合をされるのは、学園に来てから初めてです。
「こちらの騎士殿だ」
 ざわめきはどよめきに変わりました。騎士ということは、魔法は使わない方でしょう。
 確かに腰に見事な剣を下げています。初めての試合形式です。
 驚く私に叔父様が少し目を向けた気がしました。何か意図があったのでしょうか。

「始め!」
 シャーリーが開始を告げました。
 騎士が地面を蹴って、先生に迫ります。先生は盾の結界を張り、難なく攻撃を受け止めます。騎士の方は素早く何度も攻撃を繰り出し、先生の結界はどんどん大きくなっています。それでも、先生に危機感は恐らくないでしょう。一歩も動いてらっしゃらないのです。
 先生はついに火炎で攻撃に出ました。騎士はしなやかな身のこなしで躱しました。
 ですが、先生の攻撃は大した威力を出していらっしゃいません。本気の攻撃なら騎士が攻撃を躱す空間がなかったのではないでしょうか。
 劇場には穏やかな空気が漂っていました。

 叔父様が突然手を上げました。
「一旦、戻れ」
深みのある声が、騎士とケネス先生の動きを止め、騎士は開始位置まで下がりました。
叔父様が騎士を見遣り、頷きます。
騎士が小さく頷き、深呼吸をしました。

「始め!」
騎士が、再度、先生に迫ります。
そして、瞬時に体から魔力を流し剣から火炎が発せられたのです。
剣の勢いも加わり、激しい火炎の矢となります。先生はいきなり大きな結界を張ろうとします。ですが、騎士はその隙を許さず、剣の素早い動きに火炎を乗せて、連続した鋭い攻撃を繰り出します。 先生の結界は不完全な状態となり、先生は瞬間移動で騎士から距離を取ろうとしました。
 騎士は氷の攻撃を加え、先生の術を阻みます。先生は距離をあまり取れず、また剣と火炎にさらされています。
 私は体が震えているのを感じました。
 この騎士は剣も「魔法も」使えるのです。
 もし、刺客がこの戦い方をしてきたら、結界を張る隙を与えてもらえず、剣の攻撃と魔法の攻撃の両方をよけなければなりません。
 刺客は試合ではなく不意を衝くでしょう。一撃で怪我を――命を奪われるかもしれません。
 私は立ちあがっていました。

「止め!」
 試合が終わりました。
 私は恐怖を抑えきれず、劇場から走り出していました。
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