恋の締め切りには注意しましょう

石里 唯

文字の大きさ
28 / 74
第2章

覆面の騎士

しおりを挟む
 最上級学年にすっかり馴染んで、早いものでもうすぐ2年になります。
 
 皆さんの攻撃の種類にも慣れたと言えるでしょう。
 叔父様が「経験を積める」と入学前におっしゃったことは本当でした。
 最上級学年グループでの初めての試合では、驚きのあまり声も出ませんでした。
 
 アレキサンドラ先輩は、地中から瞬時に大樹をそこら中に生やし、攻撃します。
 ダニエル先輩は目を輝かせて、尽きることなく生える木々に次々に火炎の攻撃を加えていらっしゃいました。
 
 エリク先輩は、空中から突如氷の柱が大量に降り注いでくる攻撃です。
 ダニエル先輩は、またもや目を輝かせて、全弾、火炎攻撃で溶かしていました。2度目の対戦の時は、雄たけびを上げながら、全弾、氷の攻撃を放ち、粉々にしていらっしゃいました。とても楽しそうに見えました。
 アリソン先輩が「バカがついにあそこまで行ってしまった…」と額に手を当てて呟いていらしたのが気にかかりました。バカという呼び方もひどいですが、どこに行ったとおっしゃるのでしょう。
 さて、私はどう対応したのかと言いますと…、
 実は、白状しますと…、大量の攻撃に驚いてしまって、劇場全体に広がる炎を作り出してしまい、試合は中止になってしまったのです。
 アレキサンドラ先輩とエリク先輩が結界の張れる方で本当に良かったです。そして本当に申し訳ございませんでした。危ない目に遭わせてしまいました。
 2度目の対戦の時は、ダニエル先輩を見習って個々に攻撃を加えることにしました。
 ですが、密かに思っているのですが、私の好みとしては一気に片をつける方が楽です…。

 順調に対戦技術は上がって、ダニエル先輩以外の方には2度目、もしくは3度目以降は必ず勝てるようになっていましたが、これまで一度も勝てていない先輩が一人いるのです。
 クリス先輩です。
 先輩は試合開始直後に、相手に球形結界を張り、全く攻撃をできなくさせるのです。
 これにはダニエル先輩も打つ手がなく、私とダニエル先輩はたまにクリス先輩対策を話し合っています。残念ながら、有効な手が見つからないです…。

 それでも、クリス先輩以外の方の攻撃に楽に対応できるようになり、生活に、そして気持ちに余裕をもてる状態になった私は、いよいよ封印石を自分で作ることに取り組み始めました。
 これが、想像以上に難しいのです。
 お手本となる叔父様の封印石で、魔法の組み立て方は分かるのですが、自分で自分を縛ることは、体が拒否するらしく、魔法がうまく組み立てられません。
 私はここ2か月ほど煮詰まっていました。
 このまま、叔父様の封印石に頼ることになるのでしょうか。

 そんな時のことでした。
 試合の日ではなかったのですが、急に円形劇場に集合するように先生から指示を受けました。
 最上級学年が勢ぞろいしたのを見計らって、先生方が現れました。
 その日は、いつもの先生方に見慣れない二人が加わったのです。
 二人とも髪まで覆う覆面をし、顔は分からないようにしています。それでも、一人はすぐに誰だか分かりました。馴染んだ銀の魔力がにじみ出ています。どうして叔父様は覆面をなさっているのでしょう。
 もう一人は分かりません。叔父様より頭一つ分ほど背の低い方で、体は細身です。ひょっとすると若い方かもしれません。魔力は外には出ていません。とても立ち姿の綺麗な方です。思わずセディを思い出すほどです。私の思いに呼応したのでしょうか、イヤリングがかすかに温かくなっています。

「今日は、模範演技を行う」
 試合担当のケネス先生がおっしゃいました。
「対戦は、私と」
 ざわめきが起こります。先生自らが試合をされるのは、学園に来てから初めてです。
「こちらの騎士殿だ」
 ざわめきはどよめきに変わりました。騎士ということは、魔法は使わない方でしょう。
 確かに腰に見事な剣を下げています。初めての試合形式です。
 驚く私に叔父様が少し目を向けた気がしました。何か意図があったのでしょうか。

「始め!」
 シャーリーが開始を告げました。
 騎士が地面を蹴って、先生に迫ります。先生は盾の結界を張り、難なく攻撃を受け止めます。騎士の方は素早く何度も攻撃を繰り出し、先生の結界はどんどん大きくなっています。それでも、先生に危機感は恐らくないでしょう。一歩も動いてらっしゃらないのです。
 先生はついに火炎で攻撃に出ました。騎士はしなやかな身のこなしで躱しました。
 ですが、先生の攻撃は大した威力を出していらっしゃいません。本気の攻撃なら騎士が攻撃を躱す空間がなかったのではないでしょうか。
 劇場には穏やかな空気が漂っていました。

 叔父様が突然手を上げました。
「一旦、戻れ」
深みのある声が、騎士とケネス先生の動きを止め、騎士は開始位置まで下がりました。
叔父様が騎士を見遣り、頷きます。
騎士が小さく頷き、深呼吸をしました。

「始め!」
騎士が、再度、先生に迫ります。
そして、瞬時に体から魔力を流し剣から火炎が発せられたのです。
剣の勢いも加わり、激しい火炎の矢となります。先生はいきなり大きな結界を張ろうとします。ですが、騎士はその隙を許さず、剣の素早い動きに火炎を乗せて、連続した鋭い攻撃を繰り出します。 先生の結界は不完全な状態となり、先生は瞬間移動で騎士から距離を取ろうとしました。
 騎士は氷の攻撃を加え、先生の術を阻みます。先生は距離をあまり取れず、また剣と火炎にさらされています。
 私は体が震えているのを感じました。
 この騎士は剣も「魔法も」使えるのです。
 もし、刺客がこの戦い方をしてきたら、結界を張る隙を与えてもらえず、剣の攻撃と魔法の攻撃の両方をよけなければなりません。
 刺客は試合ではなく不意を衝くでしょう。一撃で怪我を――命を奪われるかもしれません。
 私は立ちあがっていました。

「止め!」
 試合が終わりました。
 私は恐怖を抑えきれず、劇場から走り出していました。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

これ以上私の心をかき乱さないで下さい

Karamimi
恋愛
伯爵令嬢のユーリは、幼馴染のアレックスの事が、子供の頃から大好きだった。アレックスに振り向いてもらえるよう、日々努力を重ねているが、中々うまく行かない。 そんな中、アレックスが伯爵令嬢のセレナと、楽しそうにお茶をしている姿を目撃したユーリ。既に5度も婚約の申し込みを断られているユーリは、もう一度真剣にアレックスに気持ちを伝え、断られたら諦めよう。 そう決意し、アレックスに気持ちを伝えるが、いつも通りはぐらかされてしまった。それでも諦めきれないユーリは、アレックスに詰め寄るが “君を令嬢として受け入れられない、この気持ちは一生変わらない” そうはっきりと言われてしまう。アレックスの本心を聞き、酷く傷ついたユーリは、半期休みを利用し、兄夫婦が暮らす領地に向かう事にしたのだが。 そこでユーリを待っていたのは…

【完結】優しいあなたに、さようなら。二人目の婚約者は、私を殺そうとしている冷血公爵様でした

ゆきのひ
恋愛
伯爵令嬢であるディアの婚約者は、整った容姿と優しい性格で評判だった。だが、いつからか彼は、婚約者であるディアを差し置き、最近知り合った男爵令嬢を優先するようになっていく。 彼と男爵令嬢の一線を越えた振る舞いに耐え切れなくなったディアは、婚約破棄を申し出る。 そして婚約破棄が成った後、新たな婚約者として紹介されたのは、魔物を残酷に狩ることで知られる冷血公爵。その名に恐れをなして何人もの令嬢が婚約を断ったと聞いたディアだが、ある理由からその婚約を承諾する。 しかし、公爵にもディアにも秘密があった。 その秘密のせいで、ディアは命の危機を感じることになったのだ……。 ※本作は「小説家になろう」さん、カクヨムさんにも投稿しています ※表紙画像はAIで作成したものです

寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。

にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。 父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。 恋に浮かれて、剣を捨た。 コールと結婚をして初夜を迎えた。 リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。 ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。 結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。 混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。 もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと…… お読みいただき、ありがとうございます。 エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。 それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。

殿下、毒殺はお断りいたします

石里 唯
恋愛
公爵令嬢エリザベスは、王太子エドワードから幼いころから熱烈に求婚され続けているが、頑なに断り続けている。 彼女には、前世、心から愛した相手と結ばれ、毒殺された記憶があり、今生の目標は、ただ穏やかな結婚と人生を全うすることなのだ。 容姿端麗、文武両道、加えて王太子という立場で国中の令嬢たちの憧れであるエドワードと結婚するなどとんでもない選択なのだ。 彼女の拒絶を全く意に介しない王太子、彼女を溺愛し生涯手元に置くと公言する兄を振り切って彼女は人生の目標を達成できるのだろうか。 「小説家になろう」サイトで完結済みです。大まかな流れに変更はありません。 「小説家になろう」サイトで番外編を投稿しています。

婚約破棄から始まる物語【完】

mako
恋愛
メープル王国王太子であるアレクセイの婚約者である公爵令嬢のステファニーは生まれた時から王太子妃になるべく育てられた淑女の中の淑女。 公爵家の一人娘であるステファニーが生まれた後は子どもができぬまま母親は亡くなってしまう。バーナディン公爵はすぐさま再婚をし新たな母親はルシャードという息子を連れて公爵家に入った。 このルシャードは非常に優秀であり文武両道で背の高い美男子でもあったが妹になったステファニーと関わる事はなかった。 バーナディン公爵家は、今ではメープル王国のエリート一家である。 そんな中王太子より、ステファニーへの婚約破棄が言い渡される事になった。

笑顔の花は孤高の断崖にこそ咲き誇る

はんぺん千代丸
恋愛
 私は侯爵家の令嬢リリエッタ。  皆様からは笑顔が素敵な『花の令嬢』リリエッタと呼ばれています。  私の笑顔は、婚約者である王太子サミュエル様に捧げるためのものです。 『貴族の娘はすべからく笑って男に付き従う『花』であるべし』  お父様のその教えのもと、私は『花の令嬢』として笑顔を磨き続けてきました。  でも、殿下が選んだ婚約者は、私ではなく妹のシルティアでした。  しかも、私を厳しく躾けてきたお父様も手のひらを返して、私を見捨てたのです。  全てを失った私は、第二王子のもとに嫁ぐよう命じられました。  第二王子ラングリフ様は、生来一度も笑ったことがないといわれる孤高の御方。  決して人を寄せ付けない雰囲気から、彼は『断崖の君』と呼ばれていました。  実は、彼には笑うことができない、とある理由があったのです。  作られた『笑顔』しか知らない令嬢が、笑顔なき王子と出会い、本当の愛を知る。

白詰草は一途に恋を秘め、朝露に濡れる

瀬月 ゆな
恋愛
ロゼリエッタは三歳年上の婚約者クロードに恋をしている。 だけど、その恋は決して叶わないものだと知っていた。 異性に対する愛情じゃないのだとしても、妹のような存在に対する感情なのだとしても、いつかは結婚して幸せな家庭を築ける。それだけを心の支えにしていたある日、クロードから一方的に婚約の解消を告げられてしまう。 失意に沈むロゼリエッタに、クロードが隣国で行方知れずになったと兄が告げる。 けれど賓客として訪れた隣国の王太子に付き従う仮面の騎士は過去も姿形も捨てて、別人として振る舞うクロードだった。 愛していると言えなかった騎士と、愛してくれているのか聞けなかった令嬢の、すれ違う初恋の物語。 他サイト様でも公開しております。 イラスト  灰梅 由雪(https://twitter.com/haiumeyoshiyuki)様

【完結】あなたのいない世界、うふふ。

やまぐちこはる
恋愛
17歳のヨヌク子爵家令嬢アニエラは栗毛に栗色の瞳の穏やかな令嬢だった。近衛騎士で伯爵家三男、かつ騎士爵を賜るトーソルド・ロイリーと幼少から婚約しており、成人とともに政略的な結婚をした。 しかしトーソルドには恋人がおり、結婚式のあと、初夜を迎える前に出たまま戻ることもなく、一人ロイリー騎士爵家を切り盛りするはめになる。 とはいえ、アニエラにはさほどの不満はない。結婚前だって殆ど会うこともなかったのだから。 =========== 感想は一件づつ個別のお返事ができなくなっておりますが、有り難く拝読しております。 4万文字ほどの作品で、最終話まで予約投稿済です。お楽しみいただけましたら幸いでございます。

処理中です...