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第2章
進路が決められた日(ダニエル)
あいつは、どこか俺の行動を予感して、青ざめている。
すまない、そんな顔をさせたかったんじゃない。
俺は、ただお前に生きていて欲しいんだ。
だから…
あらゆるものが清められるような強い魔力がすっと体に入り込み、目を開いた。
見慣れた寮の部屋だ。
俺は生きているのか…?全て夢だったのか…?
「お前の『全て』が何を指しているか分からないが、竜巻を起こそうとしたのは夢ではない」
深く染みとおる声が響いた。
俺は跳ね起きた。
「あいつは、無事なのか!?」
「『あいつ』ではない。シルヴィアと呼べ」
瞬時に銀の魔力を立ち上らせ、守護師が的のずれた返事を返す。
それはそこまで大事なことかと疑問が湧いたが、ひとまず守護師に従った。
恐らく、俺はとてつもない借りを作ってしまっただろうから。
「シルヴィアは無事なのですか」
「私とあの馬鹿が目の前にいて、シルヴィが無事でないはずがない」
あの馬鹿とは覆面をした騎士のことだろうか。馬鹿には思えないが、一体、守護師とはどういう関係なんだ。
「幼いころの思い出したくない記憶をまざまざと再現させられ、動揺するまでは仕方ないとしてやろう。 しかし、あらゆることで余裕がないこの状況で、あそこまで心を閉ざすなど、あの馬鹿は何のために今まであれだけの努力を…」
俺にはよく分からないことを守護師は呟いている。
騎士とはどうやら長い付き合いがあるらしい。
「お前はまだ進路を決められていないと聞いた」
呟きをやめた守護師が覆面を外しながら、唐突に話し出した。
俺は戸惑いを隠せないまま、守護師に顔を向けた。そして、戸惑いどころか何もかもが頭から吹き飛んだ。
真っ直ぐな銀の髪に、同じ銀の長いまつ毛に縁どられた濃い青い瞳。その瞳は、魔力を微かに醸し出し、こちらに何も隠すことを許さない強い眼差しになっている。隠しようもない強い魔力と美貌で、存在に神々しさを感じさせる。
だが、最初の衝撃が通り過ぎた後、俺は親しみを感じた。
あいつに似ている。
あいつはいつも笑顔を浮かべて、それがとても可愛いのだが、試合の時など表情が消えることがある。まるで別人のようにとんでもない美しさが表に出てくる。
アリソンはあいつと初めて対戦した時、制限時間の半分ほど呆然としていた。
「あいつではない、シルヴィアだ」
銀の魔力がゆらりと立ち上った。思念を読む力もあるようだ。
頭の中ぐらい自由に呼ばせろ、濃い青の瞳を睨みながら思った。
ふっと守護師は笑った。
「思念を読まれて恐れなかったのは、シルヴィの他はお前で二人目だ。やはりシルヴィが目標とするだけのことはあるな」
俺は思わず目を逸らした。
笑った顔も少しあいつに似ている。
手を口に当てながら、俺は頼んだ。
「紛らわしいから、覆面をしてください」
ふんと鼻を鳴らして俺の頼みは無視し、守護師はまた唐突に話を戻した。
「めでたく生き延びたのだ。王城で勤めないか」
息が止まる気がした。あいつの傍で働くことになる。浮かばなかった訳じゃない。
ただ、自分は恐らく試合で死ぬだろうと思っていたから、先のことなど考えられなかった。
銀の魔力が棘を増した。
「あれは全力を出させるのではない。限界に挑ませる無謀な策だ」
俺は目を閉じた。その通りだ。暴走と隣り合わせで、実際、俺は暴走した。今生きているのすら、信じられないぐらいだ。だが…
「あいつに確実に全力を出させる方法が、俺にはあれしか浮かばなかった」
守護師は小さく息を吐いた。
「お前が考え抜いて決断したのは分かっている」
そして濃い青の瞳が俺を貫いた。
「訊き方を変えよう。王城でシルヴィを守るために、勤めないか」
再び息が止まる思いだったが、守護師はさらに追い打ちをかけた。
「シルヴィが学園にいる間に、刺客が2度学園を襲った」
俺は一瞬、息が止まった。そして次の瞬間、猛烈な怒りが湧いた。
あいつは死にかけた人間を助けただけだ。なのに、なぜこんな重荷を負わなければいけないんだ。
気が付けば、ほとんど唸るように守護師に答えていた。
「是非、働かせてください」
魔力を緩めて守護師がかすかに微笑んだ。
頼むからあいつに似たその笑顔はやめてくれ!
俺は頬が熱くなるのを感じながら、目を逸らした。
声を出さずに笑う気配がした後、守護師は言った。
「言い忘れたが、王城の魔法使いは、腕が鈍らないよう毎月試合をする」
思わず振り向いた俺に、守護師はかすかに口角を上げた。
「たとえ刺客が現れなくても、お前にいい職場だと思うぞ」
腹立たしいが、まさに俺の理想の職場だ。この食えない守護師がトップでなければ。
まぁ、何事にも欠点はある。
俺の進路はこうして定まった。
第2章 完
すまない、そんな顔をさせたかったんじゃない。
俺は、ただお前に生きていて欲しいんだ。
だから…
あらゆるものが清められるような強い魔力がすっと体に入り込み、目を開いた。
見慣れた寮の部屋だ。
俺は生きているのか…?全て夢だったのか…?
「お前の『全て』が何を指しているか分からないが、竜巻を起こそうとしたのは夢ではない」
深く染みとおる声が響いた。
俺は跳ね起きた。
「あいつは、無事なのか!?」
「『あいつ』ではない。シルヴィアと呼べ」
瞬時に銀の魔力を立ち上らせ、守護師が的のずれた返事を返す。
それはそこまで大事なことかと疑問が湧いたが、ひとまず守護師に従った。
恐らく、俺はとてつもない借りを作ってしまっただろうから。
「シルヴィアは無事なのですか」
「私とあの馬鹿が目の前にいて、シルヴィが無事でないはずがない」
あの馬鹿とは覆面をした騎士のことだろうか。馬鹿には思えないが、一体、守護師とはどういう関係なんだ。
「幼いころの思い出したくない記憶をまざまざと再現させられ、動揺するまでは仕方ないとしてやろう。 しかし、あらゆることで余裕がないこの状況で、あそこまで心を閉ざすなど、あの馬鹿は何のために今まであれだけの努力を…」
俺にはよく分からないことを守護師は呟いている。
騎士とはどうやら長い付き合いがあるらしい。
「お前はまだ進路を決められていないと聞いた」
呟きをやめた守護師が覆面を外しながら、唐突に話し出した。
俺は戸惑いを隠せないまま、守護師に顔を向けた。そして、戸惑いどころか何もかもが頭から吹き飛んだ。
真っ直ぐな銀の髪に、同じ銀の長いまつ毛に縁どられた濃い青い瞳。その瞳は、魔力を微かに醸し出し、こちらに何も隠すことを許さない強い眼差しになっている。隠しようもない強い魔力と美貌で、存在に神々しさを感じさせる。
だが、最初の衝撃が通り過ぎた後、俺は親しみを感じた。
あいつに似ている。
あいつはいつも笑顔を浮かべて、それがとても可愛いのだが、試合の時など表情が消えることがある。まるで別人のようにとんでもない美しさが表に出てくる。
アリソンはあいつと初めて対戦した時、制限時間の半分ほど呆然としていた。
「あいつではない、シルヴィアだ」
銀の魔力がゆらりと立ち上った。思念を読む力もあるようだ。
頭の中ぐらい自由に呼ばせろ、濃い青の瞳を睨みながら思った。
ふっと守護師は笑った。
「思念を読まれて恐れなかったのは、シルヴィの他はお前で二人目だ。やはりシルヴィが目標とするだけのことはあるな」
俺は思わず目を逸らした。
笑った顔も少しあいつに似ている。
手を口に当てながら、俺は頼んだ。
「紛らわしいから、覆面をしてください」
ふんと鼻を鳴らして俺の頼みは無視し、守護師はまた唐突に話を戻した。
「めでたく生き延びたのだ。王城で勤めないか」
息が止まる気がした。あいつの傍で働くことになる。浮かばなかった訳じゃない。
ただ、自分は恐らく試合で死ぬだろうと思っていたから、先のことなど考えられなかった。
銀の魔力が棘を増した。
「あれは全力を出させるのではない。限界に挑ませる無謀な策だ」
俺は目を閉じた。その通りだ。暴走と隣り合わせで、実際、俺は暴走した。今生きているのすら、信じられないぐらいだ。だが…
「あいつに確実に全力を出させる方法が、俺にはあれしか浮かばなかった」
守護師は小さく息を吐いた。
「お前が考え抜いて決断したのは分かっている」
そして濃い青の瞳が俺を貫いた。
「訊き方を変えよう。王城でシルヴィを守るために、勤めないか」
再び息が止まる思いだったが、守護師はさらに追い打ちをかけた。
「シルヴィが学園にいる間に、刺客が2度学園を襲った」
俺は一瞬、息が止まった。そして次の瞬間、猛烈な怒りが湧いた。
あいつは死にかけた人間を助けただけだ。なのに、なぜこんな重荷を負わなければいけないんだ。
気が付けば、ほとんど唸るように守護師に答えていた。
「是非、働かせてください」
魔力を緩めて守護師がかすかに微笑んだ。
頼むからあいつに似たその笑顔はやめてくれ!
俺は頬が熱くなるのを感じながら、目を逸らした。
声を出さずに笑う気配がした後、守護師は言った。
「言い忘れたが、王城の魔法使いは、腕が鈍らないよう毎月試合をする」
思わず振り向いた俺に、守護師はかすかに口角を上げた。
「たとえ刺客が現れなくても、お前にいい職場だと思うぞ」
腹立たしいが、まさに俺の理想の職場だ。この食えない守護師がトップでなければ。
まぁ、何事にも欠点はある。
俺の進路はこうして定まった。
第2章 完
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