恋の締め切りには注意しましょう

石里 唯

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第3章

初めてのダンスと殿下

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今日の舞踏会は殿下主催のものです。

ですが、公的な行事ではなく「ごくごく少数のささやかなもの」とセディから話を聞いていました。
広間に着いた私にはそれでも「かなりの人数」の華やかなものに思えました。
色とりどりのドレスがあちらこちらで花を咲かせているようです。

セディが広間に足を踏み入れた途端、広間の視線がセディに集まり、水を打ったように静まり返っています。
視線も静けさも全く気に留めず、セディは私を連れて真っ先に殿下に挨拶に向かいました。
セディが歩くにつれ、あちらこちらから思わずといったようにため息が漏れているのが耳に入ります。
驚いたことに溜息は男女を問わず漏れているようです。

セディの歩く先に、自然と目が惹き付けられる存在感を放つ金の髪の男性が、幾人かの方から挨拶を受けています。
殿下です。
淡い青を基調とした上下に、白のベスト、飾りは金糸で鮮やかに縫い込まれ、殿下の華やかな外見を引き立てています。
殿下は、ふとセディに気づき、わざわざこちらに歩いてこられます。

ゆったりとした足取りで歩かれる殿下は、周りに自然と道を開けさせる、5年前にはなかった王太子としての風格を漂わせています。
艶やかな金の髪と濃い青の瞳は5年前と変わりません。
眩い笑顔を通り過ぎる全ての女性に振り向けています。
5年前よりも笑顔の振り向け方に、意図を感じる気がします…。
頬を染めたご令嬢たちに、会釈とともに一瞬ご令嬢に甘く視線を絡め、さらにご令嬢の頬を赤く染め上げてゆっくり通り過ぎていきます。

「会いたかったよ、私の天使」

気が付けば、艶めく甘さのある声が間近で聞こえます。
殿下はセディと私の前に立たれていました。
私は我に返り、慌てて作法に適った礼をしようと膝を折ろうとすると、殿下は艶やかな笑顔を見せながら、私の手を取られます。

「今日は行事ではないからね。その天使の顔を私にもっと見せておくれ」

私を引き上げて、一段と笑顔を深めています。ちらりと視線を動かされました。

「この可憐さのお陰だろうか、今日は顔の筋肉が動くようだな、セディ」

胸に痛みが走ります。私だけでなく、殿下に対しても、つまり誰に対しても、何に対しても心が凍りついているのでしょうか。殿下を見つめ返すセディの横顔は、ほんの少し強張ったように感じます。
殿下は私に視線を戻され、囁かれました。

「そんな顔をしないで、天使にそんな顔をされると私も辛い」

5年前と変わらず、可能な限り私のことを「天使」と呼ぶ殿下は、私の手の甲に口づけをなさろうとします。隣のセディからほんの一瞬、魔力が微かに立ち上りました。

「殿下、この明るい曲のうちにシルヴィをダンスに誘いたいのですが」

平淡な声で殿下を遮り、私の肩に手を添えてわずかに殿下から遠ざけました。
殿下は目を見開いて、その後、ふわりと笑顔を浮かべました。
初めて見る、柔らかな自然な笑顔です。

「さすが、天使のこととなると動くのだな」

笑いを含んだ艶やかな声で送り出されました。
「楽しんでおいで、シルヴィ」


二人でダンスの場所まで行くと、音楽が一段と近くなり心も少し沸き立ちます。
既に数組のペアが軽やかにダンスを楽しんでいます。

セディがスッと足を止め、私から一歩離れて姿勢を正しました。

「僕とダンスをお願いできますか、シルヴィア嬢」

胸に手を当て、正式に誘ってくれたのです。
広間はどよめきに包まれました。
一体、何があったのでしょう。
気にするべきことですが、今の私は目の前のセディのことが全てです。
頬が熱くなるのを感じながら、封印石を光らせながら、私はセディに手を差し出しました。
「喜んで」

二人で曲に合わせてステップを踏みだします。
私より背が高く、胸も広くなったセディは、私を包み込むように、守るようにリードしてくれます。
セディはほんのわずかに口角を上げて、私から視線を離さず、私に合わせた歩幅で滑らかにステップを踏み続けてくれます。
ターンするときは、腰に当てた手に少し力を籠め、私をしっかり支えてくれます。
セディの優しさを感じて、再び封印石が光りました。

「セディ、ありがとう」

精一杯の思いを込めて、囁きます。
セディの顔に疑問が浮かびます。
「初めての舞踏会にエスコートしてくれて、初めてのダンスの相手も務めてくれて」
口に出すとさらに思いがこみ上がり、私は頬が緩むのを感じました。
セディは眩しそうに目を細め、ほんの一瞬、手に力を込めた後、よく通る声が降ってきました。

「僕こそ、君の初めての相手を務められて、うれしいと感じている。
こんな状態だけど、確かに胸の中にうれしさがある。あるんだ、シルヴィ」

苦し気に目を細めながらも、懸命に心を取り出してくれるセディの誠実さが温かくて、切なくて私は瞳を閉じて頷いていました。
ダンスでセディと近い距離にいても、その胸にしがみついて距離を縮めたくなる気持ちを抑えて、私はセディのリードに身を任せていました。

気が付けば3曲を踊り続けたとき、艶やかな声が投げかけられました。

「そろそろ、私も天使と躍らせてくれないかい」



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