恋の締め切りには注意しましょう

石里 唯

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第3章

小話 護衛の決断

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夜の見回りに屋敷を歩いていた私は、思わずため息を吐いた。
お嬢様の寝室からお嬢様のものでない魔力が漏れている。
その魔力にどれだけ覚えがあっても、どんなに野暮なことと分かっていても、役目上、確かめなければいけない。
油断は禁物だ。

お嬢様の寝室には見事な結界が張られているが、
私が肌身離さず持っている、お嬢様の作ってくださった結界の魔法石のお陰で、結界は反応を示すものの部屋の中に入ることはできる。
私はお嬢様の部屋に入り込んだ。
ベッドから一歩離れた場所に、均整の取れた体を持った姿勢の美しい若者が立っている。
手首から放たれている淡い光が若者を包み込み、幽玄の美を作り出している。
夜に忍び込むという私の案は、セドリック殿に迷惑をかけないためにとお嬢様に却下されたが、当の本人はこうやって忍び込んできているのだ。
この若者はお嬢様が予知をしてから、週に2回はこうやってお嬢様の顔を見に来ている。

若者はゆっくりと私に振り返り、声を潜めて私に謝る。
「仕事を増やしてすまない、シャーリー」

憂いと疲れを浮かべたその容姿は、幼いころにはなかった恐ろしい程の色香があった。
お嬢様がこの顔をご覧になったら、どのような反応をなさるのだろう。
ほんのりと頬を染めるのだろうか、それとも憂いと疲れに胸を痛めるのだろうか。
恐らく後者なのだろうと、私は溜息をこぼしたくなった。
だから、このお二人は進展しないのだ。

「生きていることをこの目で確かめないと、耐えられないんだ」
お嬢様に視線を戻し、彼は呟いた。

「腕輪に異常がない限り、お嬢様は無事です」
何度も教えたことを今日も教える。彼は目を伏せて頷く。私の言葉は今日も彼に届かなかった。
やがて、彼は転移で去っていった。

私はお嬢様の結界に綻びがないか確認する。
やはり今日も全く綻びはない。お嬢様の結界は彼に効くことはないのだ。
彼はこの事実を、そしてその意味を、気が付いているのだろうか。
お嬢様にとって、彼は魂を預けるに等しい存在なのだ。

私は髪をかき上げた。
何ともじれったいことだ。
彼が忍び込んで来た当初は、彼がお嬢様に手を出して一気に問題解決としてくれるのかと期待したものだが――その場合、喜んで職務を一時放棄するつもりだったが――、彼は指一本もお嬢様に触れない。
ただ魂に刻み付けるかのようにお嬢様の寝顔を眺めるだけなのだ。

この状態では、何も進まない。
「今の」彼に動きを期待することは諦めた。
ここは、やはり、お嬢様に一歩踏み出していただこう。
お嬢様には何としてもセドリック殿の部屋に忍び込んでいただく。


明日にでも、いや、必ず明日に、チャーリーにお嬢様が忍び込んだ場合の警護の方法を相談しよう。
ついでに、念願の手合わせも頼むこととしようか。

私は明日に気持ちを切り替え、見回りを再開した。

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