恋の締め切りには注意しましょう

石里 唯

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第3章

セディとの登城

お城へ行くいつもの道がとても綺麗なものに感じます。
木々の緑も鮮やかな気がします。
今朝は、とうとうセディと一緒に登城しているのです。
馬車には、セディと私、シャーリーとセディの護衛のチャーリーが乗っています。
朝の清々しい空気に、セディの端然とした座り方はとてもよく映えます。
セディは私と違い窓の外を見ることもなく、伏し目がちにしています。
羨ましくなるほどの長いセディのまつ毛を久しぶりにゆっくりと見ることが出来ました。
でも、できればあの淡い緑の瞳を見たいのです。

「どうしたの」
私の視線を感じたのでしょうか。
セディが顔を上げ、淡い緑の瞳に私を映してくれました。

私は熱くなった頬を手で押さえました。やはり、この瞳が好きです。
「セディの顔を久しぶりに間近で見られたのが、嬉しくて」
いきなりシャーリーが咳き込み始めました。
大丈夫でしょうか。
私が背中をさすると、まだ咳き込みながらも「大丈夫です」と姿勢を正します。
セディは少し眉を下げています。

「もうすぐシルヴィの誕生日だね」
「そうなの!後、1週間で誕生日なの。覚えてくれていたなんて、うれしい」

セディが目を伏せて、口角を上げました。その動きは注意しなければ見逃してしまうほどわずかでしたが、もちろん私は見逃しません。
よく透る声が馬車にそっと響きました。
「シルヴィの誕生日を忘れるなんて、あり得ないよ」

なぜだかまた頬が熱くなってしまいました。封印石も光っています。
言葉も声も出ない私に、セディは話し続けます。
「お祝いのパーティーはなくなってしまったそうだね。知らせをもらったよ。残念だったね」
「やはり、来て下さる人への警護に不安があって…」
私が社交界にデビューする歳の誕生日です。
予知をする前には、色々な方に来ていただく予定でした。ですが、赤い光の敵に思念を向けられたことから、私自身が狙われる可能性もできてしまいました。
万が一にもお祝いをしてくれる人を危ない目には遭わせたくありません。
お父様と話し合って今年は家族だけでお祝いをすることにしたのです。

セディの表情がわずかに陰ってしまいました。私は慌てて嬉しいことを伝えます。
「アリスとジェニーからは、プレゼントをもう受け取ったの」
二人とも卒業に向けて勉強が忙しい時期なのに、しっかりと用意してくれていたのです。
アリスからは、結婚のお披露目パーティーの招待状も添えられていました。
『ぜひ、シルヴィの素敵な人と一緒に出席してね』
招待状にはアリスらしい跳ねるような字でそう書かれていました。
アリスのパーティーは、殿下のお披露目の会のすぐ後です。
そのとき、私はセディと出席できるでしょうか…
そういえば、その前にセディの誕生日が来ます。
私はセディの近くでお祝いできるのでしょうか…

思いに耽っていた私は、よく透る声に引き戻されました。
「シルヴィ、僕もプレゼントを用意しているんだ。
 もし、遅くなっても構わないなら、誕生日に渡しに行ってもいいかい?
…とても遅くなると思うけれど」

3度目の頬の熱さを覚えましたが、私には隠す余裕はありませんでした。
全身が生き返るような、沸き立つような気がしたのです。封印石は一段と光っています。
「ありがとう。徹夜してでも、待っているわ」
たとえプレゼントがなくても、セディに会えるなら喜んで待っています。
沸き立つ思いが収まらず、私からはまだ魔力が溢れ出ています。せっかくですので、セディの腕輪に少しずつ気づかれないように注ぎ込みました。

誕生日で思い出したことがありました。
「そう、ちょうど誕生日に、魔法使いの試合がある予定だけど、セディ、今回は参加できるの?」
セディは魔法使いではありませんが、魔法を使って戦うため、試合に参加するのです。
セディの相手は希望者が多く、試合はセディの相手を決めるトーナメントになっている感もあります。
「どうだろう、試合に出て自分を鍛えておきたいけれど、難しいと思う」
「ダニエル先輩が、悔しがるわ。セディと試合をしたがっていたの」
先輩が心底悔しがる様子が思い浮かび、思わず笑ってしまいました。
「…ダニエル先輩…」
…?
気のせいでなければ、セディの声がほんの僅かですが尖った気がしました。
学園での最後の試合を思い出してしまったのでしょうか。

「あの、とにかく魔力で戦うことが好きな人で…」
私は焦りのあまり、少し早口になっていました。話はさらに気まずい方向へ行ってしまった気がします。

「ハリーがシルヴィの護衛に選んだと殿下から聞いた」
やはり今度も尖った声に感じました。尖り具合が増したでしょうか…?

「ええ、そうなの。魔力の強い人で、とても真っ直ぐな性格の人で、信頼が置ける人だから、とても安心でき――」
一段と早口で話題を終わらせようとしたところ、セディが話を遮ってくれました。

「やはり、試合になんとか顔を出すようにするよ。ダニエル先輩にぜひ相手をしてもらいたい」

ここ最近、珍しくなくなってしまった表情のないセディの顔が、不思議となぜだか強張ったようにも見えました。
先輩は喜ぶでしょう。ですが、何か不穏なものを感じる気がします。
気のせいだと唱えているうちに、私たちはとうとうお城に着いたのでした。



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