恋の締め切りには注意しましょう

石里 唯

文字の大きさ
49 / 74
第3章

セディとの登城

しおりを挟む
お城へ行くいつもの道がとても綺麗なものに感じます。
木々の緑も鮮やかな気がします。
今朝は、とうとうセディと一緒に登城しているのです。
馬車には、セディと私、シャーリーとセディの護衛のチャーリーが乗っています。
朝の清々しい空気に、セディの端然とした座り方はとてもよく映えます。
セディは私と違い窓の外を見ることもなく、伏し目がちにしています。
羨ましくなるほどの長いセディのまつ毛を久しぶりにゆっくりと見ることが出来ました。
でも、できればあの淡い緑の瞳を見たいのです。

「どうしたの」
私の視線を感じたのでしょうか。
セディが顔を上げ、淡い緑の瞳に私を映してくれました。

私は熱くなった頬を手で押さえました。やはり、この瞳が好きです。
「セディの顔を久しぶりに間近で見られたのが、嬉しくて」
いきなりシャーリーが咳き込み始めました。
大丈夫でしょうか。
私が背中をさすると、まだ咳き込みながらも「大丈夫です」と姿勢を正します。
セディは少し眉を下げています。

「もうすぐシルヴィの誕生日だね」
「そうなの!後、1週間で誕生日なの。覚えてくれていたなんて、うれしい」

セディが目を伏せて、口角を上げました。その動きは注意しなければ見逃してしまうほどわずかでしたが、もちろん私は見逃しません。
よく透る声が馬車にそっと響きました。
「シルヴィの誕生日を忘れるなんて、あり得ないよ」

なぜだかまた頬が熱くなってしまいました。封印石も光っています。
言葉も声も出ない私に、セディは話し続けます。
「お祝いのパーティーはなくなってしまったそうだね。知らせをもらったよ。残念だったね」
「やはり、来て下さる人への警護に不安があって…」
私が社交界にデビューする歳の誕生日です。
予知をする前には、色々な方に来ていただく予定でした。ですが、赤い光の敵に思念を向けられたことから、私自身が狙われる可能性もできてしまいました。
万が一にもお祝いをしてくれる人を危ない目には遭わせたくありません。
お父様と話し合って今年は家族だけでお祝いをすることにしたのです。

セディの表情がわずかに陰ってしまいました。私は慌てて嬉しいことを伝えます。
「アリスとジェニーからは、プレゼントをもう受け取ったの」
二人とも卒業に向けて勉強が忙しい時期なのに、しっかりと用意してくれていたのです。
アリスからは、結婚のお披露目パーティーの招待状も添えられていました。
『ぜひ、シルヴィの素敵な人と一緒に出席してね』
招待状にはアリスらしい跳ねるような字でそう書かれていました。
アリスのパーティーは、殿下のお披露目の会のすぐ後です。
そのとき、私はセディと出席できるでしょうか…
そういえば、その前にセディの誕生日が来ます。
私はセディの近くでお祝いできるのでしょうか…

思いに耽っていた私は、よく透る声に引き戻されました。
「シルヴィ、僕もプレゼントを用意しているんだ。
 もし、遅くなっても構わないなら、誕生日に渡しに行ってもいいかい?
…とても遅くなると思うけれど」

3度目の頬の熱さを覚えましたが、私には隠す余裕はありませんでした。
全身が生き返るような、沸き立つような気がしたのです。封印石は一段と光っています。
「ありがとう。徹夜してでも、待っているわ」
たとえプレゼントがなくても、セディに会えるなら喜んで待っています。
沸き立つ思いが収まらず、私からはまだ魔力が溢れ出ています。せっかくですので、セディの腕輪に少しずつ気づかれないように注ぎ込みました。

誕生日で思い出したことがありました。
「そう、ちょうど誕生日に、魔法使いの試合がある予定だけど、セディ、今回は参加できるの?」
セディは魔法使いではありませんが、魔法を使って戦うため、試合に参加するのです。
セディの相手は希望者が多く、試合はセディの相手を決めるトーナメントになっている感もあります。
「どうだろう、試合に出て自分を鍛えておきたいけれど、難しいと思う」
「ダニエル先輩が、悔しがるわ。セディと試合をしたがっていたの」
先輩が心底悔しがる様子が思い浮かび、思わず笑ってしまいました。
「…ダニエル先輩…」
…?
気のせいでなければ、セディの声がほんの僅かですが尖った気がしました。
学園での最後の試合を思い出してしまったのでしょうか。

「あの、とにかく魔力で戦うことが好きな人で…」
私は焦りのあまり、少し早口になっていました。話はさらに気まずい方向へ行ってしまった気がします。

「ハリーがシルヴィの護衛に選んだと殿下から聞いた」
やはり今度も尖った声に感じました。尖り具合が増したでしょうか…?

「ええ、そうなの。魔力の強い人で、とても真っ直ぐな性格の人で、信頼が置ける人だから、とても安心でき――」
一段と早口で話題を終わらせようとしたところ、セディが話を遮ってくれました。

「やはり、試合になんとか顔を出すようにするよ。ダニエル先輩にぜひ相手をしてもらいたい」

ここ最近、珍しくなくなってしまった表情のないセディの顔が、不思議となぜだか強張ったようにも見えました。
先輩は喜ぶでしょう。ですが、何か不穏なものを感じる気がします。
気のせいだと唱えているうちに、私たちはとうとうお城に着いたのでした。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

悪役令嬢と氷の騎士兄弟

飴爽かに
恋愛
この国には国民の人気を2分する騎士兄弟がいる。 彼らはその美しい容姿から氷の騎士兄弟と呼ばれていた。 クォーツ帝国。水晶の名にちなんだ綺麗な国で織り成される物語。 悪役令嬢ココ・レイルウェイズとして転生したが美しい物語を守るために彼らと助け合って導いていく。

ストーカー婚約者でしたが、転生者だったので経歴を身綺麗にしておく

犬野きらり
恋愛
リディア・ガルドニ(14)、本日誕生日で転生者として気付きました。私がつい先程までやっていた行動…それは、自分の婚約者に対して重い愛ではなく、ストーカー行為。 「絶対駄目ーー」 と前世の私が気づかせてくれ、そもそも何故こんな男にこだわっていたのかと目が覚めました。 何の物語かも乙女ゲームの中の人になったのかもわかりませんが、私の黒歴史は証拠隠滅、慰謝料ガッポリ、新たな出会い新たな人生に進みます。 募集 婿入り希望者 対象外は、嫡男、後継者、王族 目指せハッピーエンド(?)!! 全23話で完結です。 この作品を気に留めて下さりありがとうございます。感謝を込めて、その後(直後)2話追加しました。25話になりました。

【完結】身勝手な旦那様と離縁したら、異国で我が子と幸せになれました

綾雅(りょうが)今年は7冊!
恋愛
腹を痛めて産んだ子を蔑ろにする身勝手な旦那様、離縁してくださいませ! 完璧な人生だと思っていた。優しい夫、大切にしてくれる義父母……待望の跡取り息子を産んだ私は、彼らの仕打ちに打ちのめされた。腹を痛めて産んだ我が子を取り戻すため、バレンティナは離縁を選ぶ。復讐する気のなかった彼女だが、新しく出会った隣国貴族に一目惚れで口説かれる。身勝手な元婚家は、嘘がバレて自業自得で没落していった。 崩壊する幸せ⇒異国での出会い⇒ハッピーエンド 元婚家の自業自得ざまぁ有りです。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2022/10/07……アルファポリス、女性向けHOT4位 2022/10/05……カクヨム、恋愛週間13位 2022/10/04……小説家になろう、恋愛日間63位 2022/09/30……エブリスタ、トレンド恋愛19位 2022/09/28……連載開始

婚約破棄された令嬢は“図書館勤務”を満喫中

かしおり
恋愛
「君は退屈だ」と婚約を破棄された令嬢クラリス。社交界にも、実家にも居場所を失った彼女がたどり着いたのは、静かな田舎町アシュベリーの図書館でした。 本の声が聞こえるような不思議な感覚と、真面目で控えめな彼女の魅力は、少しずつ周囲の人々の心を癒していきます。 そんな中、図書館に通う謎めいた青年・リュカとの出会いが、クラリスの世界を大きく変えていく―― 身分も立場も異なるふたりの静かで知的な恋は、やがて王都をも巻き込む運命へ。 癒しと知性が紡ぐ、身分差ロマンス。図書館の窓辺から始まる、幸せな未来の物語。

十八歳で必ず死ぬ令嬢ですが、今日もまた目を覚ましました【完結】

藤原遊
恋愛
十八歳で、私はいつも死ぬ。 そしてなぜか、また目を覚ましてしまう。 記憶を抱えたまま、幼い頃に――。 どれほど愛されても、どれほど誰かを愛しても、 結末は変わらない。 何度生きても、十八歳のその日が、私の最後になる。 それでも私は今日も微笑む。 過去を知るのは、私だけ。 もう一度、大切な人たちと過ごすために。 もう一度、恋をするために。 「どうせ死ぬのなら、あなたにまた、恋をしたいの」 十一度目の人生。 これは、記憶を繰り返す令嬢が紡ぐ、優しくて、少しだけ残酷な物語。

白詰草は一途に恋を秘め、朝露に濡れる

瀬月 ゆな
恋愛
ロゼリエッタは三歳年上の婚約者クロードに恋をしている。 だけど、その恋は決して叶わないものだと知っていた。 異性に対する愛情じゃないのだとしても、妹のような存在に対する感情なのだとしても、いつかは結婚して幸せな家庭を築ける。それだけを心の支えにしていたある日、クロードから一方的に婚約の解消を告げられてしまう。 失意に沈むロゼリエッタに、クロードが隣国で行方知れずになったと兄が告げる。 けれど賓客として訪れた隣国の王太子に付き従う仮面の騎士は過去も姿形も捨てて、別人として振る舞うクロードだった。 愛していると言えなかった騎士と、愛してくれているのか聞けなかった令嬢の、すれ違う初恋の物語。 他サイト様でも公開しております。 イラスト  灰梅 由雪(https://twitter.com/haiumeyoshiyuki)様

混血の私が純血主義の竜人王子の番なわけない

三国つかさ
恋愛
竜人たちが通う学園で、竜人の王子であるレクスをひと目見た瞬間から恋に落ちてしまった混血の少女エステル。好き過ぎて狂ってしまいそうだけど、分不相応なので必死に隠すことにした。一方のレクスは涼しい顔をしているが、純血なので実は番に対する感情は混血のエステルより何倍も深いのだった。

処理中です...