恋の締め切りには注意しましょう

石里 唯

文字の大きさ
52 / 74
第3章

皆さんとの誕生日

しおりを挟む
叔父様と見回りから戻ると、とても嬉しい驚きがありました。
先輩に連れられて会議室に行くと、なんと、皆さんが私の誕生日をお祝いしてくれたのです。
次々と皆さんがお祝いの言葉をかけてくれます。
部屋の中央に置かれた、棟の魔法使い全員で食べてもまだ余る大きなケーキは、殿下が差し入れて下さったそうです。
甘いものが苦手な方も楽しめるように、サンドイッチなどの軽い食べ物も添えてあります。
部屋はお花ではなく皆さんの小さな魔法石で飾られ、色々な光が浮かんでいます。
試合後の興奮もあるのでしょうか、皆さん、とても楽しそうです。
あちこちで薄っすら魔力が立ち上っています。
私ももちろん気持ちが弾んでいます。

「楽しそうだな。いい顔だ」

先輩が目を細めて私の隣にやって来ました。
封印石が光っているのを見て、先輩は鷲の目を優しいものに和らげました。
あまり見ることのできないその優しい鷲の目に見惚れながら、気になっていたことを訊いてみます。

「今日、セディは来ましたか」

頭をがしがし掻きながら、先輩は頷きました。
「ああ、試合が終わった後だったが、律義にやってきた」

セディらしくて頬が緩んでしまいます。昔からセディは約束を大事にしてくれる人です。
先輩は目を閉じ、ぽつりと囁きました。

「あいつは、とてつもない努力を積み重ねたやつだな」

私は頷きながらも、先輩から少し沈んだ雰囲気を感じて、治癒の魔力をわずかに送りました。試合で疲れたのでしょうか。
僅かな量でも先輩は気づいて、「これぐらいで魔力を使うな」と私の頭をこつんと叩いて苦笑いを浮かべていました。
なぜだかその顔は見ている私の方が少し辛いものを感じるものでした。

屋敷に戻ってからも、家族にお祝いをしてもらいました。
ライアンは私に歌を歌ってくれました。嬉しくて柔らかい頬にぐりぐりと頬ずりするとライアンは声を上げて喜んでくれます。
ブリジットとシャーリーは、屋敷でのパーティーがなくなり、勝負の赤いドレスを私が着られなくなったことを残念がっていましたが、今日の誕生日のことは、きっと私は忘れないと思います。

それは心からの確かな気持ちなのに、
これだけ素敵な誕生日にしてもらったのに、贅沢な望みが私の胸の中にどうしても留まっています。
セディの傍で時間を過ごしたかったのです。
たくさんの人にお祝いしてもらったのに、セディにお祝いを、いえ、言葉を交わせるだけでもいいのです、どうしてもセディに会いたくて、私は時計に目をやりそうになる自分を必死に抑えていました。
セディは本当に今日、来てくれるでしょうか。
セディからのプレゼントは、屋敷には届けられていませんでした。
約束通り、セディ自身が届けてくれるつもりなのでしょう。
ですが、今日の試合も時間に間に合わず、終わってから顔を出すことになったのなら、難しいのかもしれません。
私は期待しすぎないよう、必死にセディの忙しさを思い出していました。


やはり、セディは来られないようです。
どんどんと時間は過ぎ、いつもの寝る時間もとうに過ぎて、ブリジットとシャーリーの悲しそうな顔がつらくなり、私はとうとう寝支度をしました。
今日、たくさんの人からもらった嬉しい気持ちを思い出して、笑顔を浮かべて二人を見送りました。

そうです。贅沢です。
今、私の頬を濡らしているものは涙であってはいけません。
どれだけたくさんの人からお祝してもらったのか、思い出さなくてはいけません。
もう誕生日から日付は変わっていました。
私は棟の会議室の綺麗だった様々な魔法石の光を思い出しながら、眠りについたのでした。




不意に体にシャーリーの魔力がわずかに入り込み、私は目を覚ましました。
シャーリーに何かあったのでしょうか。
咄嗟に体を起こしました。
すぐ隣で、はっと息を呑む音が聞こえました。そして小さいけれどよく透る声が響きました。

「シルヴィ」

私の白金の魔力に包まれたセディが微かに目を見開いて立っていたのです。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

悪役令嬢と氷の騎士兄弟

飴爽かに
恋愛
この国には国民の人気を2分する騎士兄弟がいる。 彼らはその美しい容姿から氷の騎士兄弟と呼ばれていた。 クォーツ帝国。水晶の名にちなんだ綺麗な国で織り成される物語。 悪役令嬢ココ・レイルウェイズとして転生したが美しい物語を守るために彼らと助け合って導いていく。

ストーカー婚約者でしたが、転生者だったので経歴を身綺麗にしておく

犬野きらり
恋愛
リディア・ガルドニ(14)、本日誕生日で転生者として気付きました。私がつい先程までやっていた行動…それは、自分の婚約者に対して重い愛ではなく、ストーカー行為。 「絶対駄目ーー」 と前世の私が気づかせてくれ、そもそも何故こんな男にこだわっていたのかと目が覚めました。 何の物語かも乙女ゲームの中の人になったのかもわかりませんが、私の黒歴史は証拠隠滅、慰謝料ガッポリ、新たな出会い新たな人生に進みます。 募集 婿入り希望者 対象外は、嫡男、後継者、王族 目指せハッピーエンド(?)!! 全23話で完結です。 この作品を気に留めて下さりありがとうございます。感謝を込めて、その後(直後)2話追加しました。25話になりました。

【完結】身勝手な旦那様と離縁したら、異国で我が子と幸せになれました

綾雅(りょうが)今年は7冊!
恋愛
腹を痛めて産んだ子を蔑ろにする身勝手な旦那様、離縁してくださいませ! 完璧な人生だと思っていた。優しい夫、大切にしてくれる義父母……待望の跡取り息子を産んだ私は、彼らの仕打ちに打ちのめされた。腹を痛めて産んだ我が子を取り戻すため、バレンティナは離縁を選ぶ。復讐する気のなかった彼女だが、新しく出会った隣国貴族に一目惚れで口説かれる。身勝手な元婚家は、嘘がバレて自業自得で没落していった。 崩壊する幸せ⇒異国での出会い⇒ハッピーエンド 元婚家の自業自得ざまぁ有りです。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2022/10/07……アルファポリス、女性向けHOT4位 2022/10/05……カクヨム、恋愛週間13位 2022/10/04……小説家になろう、恋愛日間63位 2022/09/30……エブリスタ、トレンド恋愛19位 2022/09/28……連載開始

婚約破棄された令嬢は“図書館勤務”を満喫中

かしおり
恋愛
「君は退屈だ」と婚約を破棄された令嬢クラリス。社交界にも、実家にも居場所を失った彼女がたどり着いたのは、静かな田舎町アシュベリーの図書館でした。 本の声が聞こえるような不思議な感覚と、真面目で控えめな彼女の魅力は、少しずつ周囲の人々の心を癒していきます。 そんな中、図書館に通う謎めいた青年・リュカとの出会いが、クラリスの世界を大きく変えていく―― 身分も立場も異なるふたりの静かで知的な恋は、やがて王都をも巻き込む運命へ。 癒しと知性が紡ぐ、身分差ロマンス。図書館の窓辺から始まる、幸せな未来の物語。

十八歳で必ず死ぬ令嬢ですが、今日もまた目を覚ましました【完結】

藤原遊
恋愛
十八歳で、私はいつも死ぬ。 そしてなぜか、また目を覚ましてしまう。 記憶を抱えたまま、幼い頃に――。 どれほど愛されても、どれほど誰かを愛しても、 結末は変わらない。 何度生きても、十八歳のその日が、私の最後になる。 それでも私は今日も微笑む。 過去を知るのは、私だけ。 もう一度、大切な人たちと過ごすために。 もう一度、恋をするために。 「どうせ死ぬのなら、あなたにまた、恋をしたいの」 十一度目の人生。 これは、記憶を繰り返す令嬢が紡ぐ、優しくて、少しだけ残酷な物語。

白詰草は一途に恋を秘め、朝露に濡れる

瀬月 ゆな
恋愛
ロゼリエッタは三歳年上の婚約者クロードに恋をしている。 だけど、その恋は決して叶わないものだと知っていた。 異性に対する愛情じゃないのだとしても、妹のような存在に対する感情なのだとしても、いつかは結婚して幸せな家庭を築ける。それだけを心の支えにしていたある日、クロードから一方的に婚約の解消を告げられてしまう。 失意に沈むロゼリエッタに、クロードが隣国で行方知れずになったと兄が告げる。 けれど賓客として訪れた隣国の王太子に付き従う仮面の騎士は過去も姿形も捨てて、別人として振る舞うクロードだった。 愛していると言えなかった騎士と、愛してくれているのか聞けなかった令嬢の、すれ違う初恋の物語。 他サイト様でも公開しております。 イラスト  灰梅 由雪(https://twitter.com/haiumeyoshiyuki)様

混血の私が純血主義の竜人王子の番なわけない

三国つかさ
恋愛
竜人たちが通う学園で、竜人の王子であるレクスをひと目見た瞬間から恋に落ちてしまった混血の少女エステル。好き過ぎて狂ってしまいそうだけど、分不相応なので必死に隠すことにした。一方のレクスは涼しい顔をしているが、純血なので実は番に対する感情は混血のエステルより何倍も深いのだった。

処理中です...