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第3章
侍女と護衛(シャーリー)
お嬢様の誕生日から一夜明けた、清々しい朝。
期待に満ち溢れていた私の耳には、一瞬、お嬢様の言葉が理解できなかった。
昨夜は、セドリック殿の魔力を長い時間感じた。
だから、私はお二人の進展を、期待どころか確信していたのに――
信じられない
お嬢様から昨夜の首尾を聞いて、愕然とした。
思わず口をついて言葉が出た。
「あの、ヘタレ…」
隣のブリジットも大きく頷いている。
お嬢様はご存じない言葉だったようで、首を傾げて聞き返す。
「へたれ?」
「お嬢様が知る必要はない言葉です。忘れて下さい」
ブリジットも再び大きく頷いている。
「でも…」
「「忘れて下さい」」
私とブリジットの息はピッタリだった。ブリジット、嬉しいぞ。
しかし、どこまでヘタレなのだ、あの若者は。
想い合っている若い男女が深夜に二人きり。
加えてお嬢様は体の線が分かる寝間着姿だった。
あの若者が未だに、お嬢様が生きていることを、死んでいないことを確かだと信じられないことは、百歩譲って、認めよう。譲りがたいが、何とか譲って認めるとしよう。
しかし――
ずっと離せなくなる…だと?
「そんなもの、限度を超えれば、このシャーリーが引き離すに決まっているでしょう…!」
地を這うような声になってしまったのは、ご容赦願いたい。
お嬢様は目を丸くしたものの、すぐに苦しそうなお顔をされた。
「シャーリー、ありがとう。でも、引き離したらセディがさらに壊れてしまうのでは―」
「お嬢様、セドリック様のためにとあっさり引き下がってはなりません」
聞いたこともない硬い声が遮った。
ブリジットはお嬢様に詰め寄り、お嬢様の右手を両手で握りしめた。
「セドリック様が後先のことなど思い浮かばない程、お嬢様の魅力を感じさせればよいのです」
おお、ブリジット!何て素晴らしい案なのだ!
私は自分の頬が緩むのを感じた。
しかし、お嬢様はまだ抵抗なさる。
「でも、ブリジット、離れるときに不安を思い出してしまうと思うの…」
それで引くようなブリジットではなかった。
お嬢様の目をしっかりと捉え、言い放った。
「お嬢様の魅力に満足なされば、忘れてしまいます。魅力しか思い出さなくなるでしょう」
「え…、あ…、み、魅力というのは、そういう…」
ようやくブリジットの言わんとすることを理解されたお嬢様は、顔を真っ赤に染め上げる。
貴族のご令嬢としては、思いも寄らぬ発想なのだろう。
しかし、今、お嬢様に正攻法で構える余裕はないのだ。
殿下のお披露目まで二ケ月を切ってしまっているのだ。セドリック殿の腕輪は光を放ったままだ。
ブリジット、お嬢様が狼狽えて思考が散漫になっている今がチャンスだ!
「お嬢様、もう少し、女性の魅力を感じさせなくてはなりません。
昨夜はもしやセドリック様が忍んでいらっしゃるのではと、このブリジット、格別に薄手の、最高に大胆なデザインの寝間着をお嬢様に用意したのですよ」
そうだったのか、さすがだ、ブリジット。
私はブリジットの手腕に唸らされた。ブリジットはここまで強く出たのは私よりも落胆が強かったためかもしれない。
お嬢様は今や胸元まで赤く染まっていた。
「用意を無駄にしてしまって、ごめんなさい」
途端にブリジットは爽やかな笑みを浮かべた。
「では、お嬢様、次は、結界を破ってセドリック様に抱き着いてくださいませ」
勢いに呑まれて、お嬢様は頷かれた。
目標が少し下がったことも頷きやすかったのだろう。鮮やかな手並みだ。
貴女と同僚であることを誇りに思うぞ、ブリジット。
しかし、抱き着いた後は――、
「お嬢様、セドリック殿のために、シャーリーが引き離すのは、一日経つまでは待って差し上げましょう」
「まぁ、シャーリー。長年の想いを考えれば、二日は必要でしょう?」
「しかし、それだと仕事への支障が大きすぎるのでは」
「お二人は優秀ですもの。何より、セドリック様が堪能なさる必要があるのですから」
私とブリジットは、もう赤くないところはなくなって涙目になっているお嬢様を横にして、セドリック殿への猶予を語り合っていた。
そして胸の内で祈りにも似た思いを、お嬢様に捧げていた。
お嬢様、見守るだけでなく、どうか一歩踏み出してみてください。
セドリック殿は、お嬢様が心を決めて動けば、必ず動かされるはずです。
それがいい方向か保証はできません。
ですが、後、二ケ月です。試せるものは試してから、泣いてください。
シャーリーは、どこまでもお付き合いさせていただきますから。
期待に満ち溢れていた私の耳には、一瞬、お嬢様の言葉が理解できなかった。
昨夜は、セドリック殿の魔力を長い時間感じた。
だから、私はお二人の進展を、期待どころか確信していたのに――
信じられない
お嬢様から昨夜の首尾を聞いて、愕然とした。
思わず口をついて言葉が出た。
「あの、ヘタレ…」
隣のブリジットも大きく頷いている。
お嬢様はご存じない言葉だったようで、首を傾げて聞き返す。
「へたれ?」
「お嬢様が知る必要はない言葉です。忘れて下さい」
ブリジットも再び大きく頷いている。
「でも…」
「「忘れて下さい」」
私とブリジットの息はピッタリだった。ブリジット、嬉しいぞ。
しかし、どこまでヘタレなのだ、あの若者は。
想い合っている若い男女が深夜に二人きり。
加えてお嬢様は体の線が分かる寝間着姿だった。
あの若者が未だに、お嬢様が生きていることを、死んでいないことを確かだと信じられないことは、百歩譲って、認めよう。譲りがたいが、何とか譲って認めるとしよう。
しかし――
ずっと離せなくなる…だと?
「そんなもの、限度を超えれば、このシャーリーが引き離すに決まっているでしょう…!」
地を這うような声になってしまったのは、ご容赦願いたい。
お嬢様は目を丸くしたものの、すぐに苦しそうなお顔をされた。
「シャーリー、ありがとう。でも、引き離したらセディがさらに壊れてしまうのでは―」
「お嬢様、セドリック様のためにとあっさり引き下がってはなりません」
聞いたこともない硬い声が遮った。
ブリジットはお嬢様に詰め寄り、お嬢様の右手を両手で握りしめた。
「セドリック様が後先のことなど思い浮かばない程、お嬢様の魅力を感じさせればよいのです」
おお、ブリジット!何て素晴らしい案なのだ!
私は自分の頬が緩むのを感じた。
しかし、お嬢様はまだ抵抗なさる。
「でも、ブリジット、離れるときに不安を思い出してしまうと思うの…」
それで引くようなブリジットではなかった。
お嬢様の目をしっかりと捉え、言い放った。
「お嬢様の魅力に満足なされば、忘れてしまいます。魅力しか思い出さなくなるでしょう」
「え…、あ…、み、魅力というのは、そういう…」
ようやくブリジットの言わんとすることを理解されたお嬢様は、顔を真っ赤に染め上げる。
貴族のご令嬢としては、思いも寄らぬ発想なのだろう。
しかし、今、お嬢様に正攻法で構える余裕はないのだ。
殿下のお披露目まで二ケ月を切ってしまっているのだ。セドリック殿の腕輪は光を放ったままだ。
ブリジット、お嬢様が狼狽えて思考が散漫になっている今がチャンスだ!
「お嬢様、もう少し、女性の魅力を感じさせなくてはなりません。
昨夜はもしやセドリック様が忍んでいらっしゃるのではと、このブリジット、格別に薄手の、最高に大胆なデザインの寝間着をお嬢様に用意したのですよ」
そうだったのか、さすがだ、ブリジット。
私はブリジットの手腕に唸らされた。ブリジットはここまで強く出たのは私よりも落胆が強かったためかもしれない。
お嬢様は今や胸元まで赤く染まっていた。
「用意を無駄にしてしまって、ごめんなさい」
途端にブリジットは爽やかな笑みを浮かべた。
「では、お嬢様、次は、結界を破ってセドリック様に抱き着いてくださいませ」
勢いに呑まれて、お嬢様は頷かれた。
目標が少し下がったことも頷きやすかったのだろう。鮮やかな手並みだ。
貴女と同僚であることを誇りに思うぞ、ブリジット。
しかし、抱き着いた後は――、
「お嬢様、セドリック殿のために、シャーリーが引き離すのは、一日経つまでは待って差し上げましょう」
「まぁ、シャーリー。長年の想いを考えれば、二日は必要でしょう?」
「しかし、それだと仕事への支障が大きすぎるのでは」
「お二人は優秀ですもの。何より、セドリック様が堪能なさる必要があるのですから」
私とブリジットは、もう赤くないところはなくなって涙目になっているお嬢様を横にして、セドリック殿への猶予を語り合っていた。
そして胸の内で祈りにも似た思いを、お嬢様に捧げていた。
お嬢様、見守るだけでなく、どうか一歩踏み出してみてください。
セドリック殿は、お嬢様が心を決めて動けば、必ず動かされるはずです。
それがいい方向か保証はできません。
ですが、後、二ケ月です。試せるものは試してから、泣いてください。
シャーリーは、どこまでもお付き合いさせていただきますから。
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