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第3章
入国
その知らせは城の空気を一変させました。
東の国境近くの結界に反応があったという知らせでした。
とうとうこの知らせが届いたという思いです。
幸い地域の人々に被害はなかったそうですが、どこまで被害を出さないまま敵が進んでくるか油断はできません。
殿下のお披露目まで後二月を切っています。
もう二週間たてば、招かれた外国の要人が入国し始めるのです。
要人の方々が入国なさる際、国境から警護を付ける手はずにしているため、早くから入国が始まることになったのです。
セディはこの入国の準備でかなり時間を割かれていました。
入国の順序、護衛の手配、ルートの決定、殿下の出迎えの方法などを各所と詰め合わせていました。
誕生日を過ぎたころから、一緒に登城できる状態ではなくなってしまい、セディの過労が心配です。
シャーリーには「夜に忍んで会ってきては」と熱く勧められているのですが、一時でもセディの休息の時間を減らしたくはありません。
たまに、城で出会う度に腕輪に魔力を注いでいますが、治癒では追いつかないのでしょうか、セディの顔には疲労がはっきりと浮かんでいました。
実際に敵が侵入したことで、新たな調整が必要となるでしょう。ますます心配です。
もちろん、セディだけでなく魔法使いも新たな対応をすることになりました。
敵の侵入に合わせて、見回りも二人一組から三人一組へ変更し、警戒を強めつつ、頻度を上げています。
私は、ダニエル先輩とエレンさんとの組です。
今日のところは、王都には侵入がないようです。
私たちはお店で買った飲み物を飲んで、休憩をすることにしました。
広場の噴水に三人で腰かけます。
ふと、カップを握るエレンさんの手首に視線が行きました。
「エレンさん、教えていただきたいことがあるのです」
エレンさんは、くるりと私に振り向いて、美しい紫水晶の瞳に私を映してくれます。今日も格好いい美しさです。疲れた心身が癒される気がします。
続きを視線で促されました。恥ずかしくて続きがなかなか出てきません。
「あの、好きな人に…、」
エレンさんだけでなくダニエル先輩もジュースを飲みながらこちらを向いて続きを待っています。
「私に手を出してもらう方法を教えてください!」
恥ずかしさのあまり遠回しな言い方ができませんでした。
エレンさんの目がこぼれんばかりに見開き、ダニエル先輩はゴフリとむせています。
私はエレンのさんにしがみついて、訴えました。
「後先を考えられない程、み、魅力を感じてもらわないとだめなのです」
そうでなければセディを苦しめてしまいます。思い切るなら、毒を食わば皿まで、です。
とことん、何もかも忘れるほど魅力を感じてもらわなければいけません。
エレンさんは額に手を当て、目を閉じて、「疲労のあまりシルヴィアちゃんが壊れた?」としばらく呟いていましたが、再び私に向き直ってくれました。
先輩はむせ続けています。
「私に訊こうと思ったのは、これのせいかな?」
エレンさんは手首の「誓いの印」を指さしました。
その通りです。エレンさんは、滅多にないことですが、ご主人の方以外からも印を受けているのです。いつもその身に2種類の魔力が微かに流れています。
二人もの方から深く思われているエレンさんなら、と思ってしまったのですが、
「ごめん、シルヴィアちゃん。私は自分から迫ったことがないんだよ」
あ…
もてる方は違います。そうですね、確かに必要がないのでしょう。
私は納得しながらも、落胆を隠せませんでした。
申し訳なさそうに眉を下げたエレンさんを見て、私は慌てて別のことを訊いてみました。
「あの、どうして手首の方からの誓いを受け取ったのですか?」
苦笑いしながらもエレンさんは答えてくれます。
「まぁ、彼が誓いたいと言ってきたことも理由になるけれど…」
手首に視線を落としました。
「これは一時の気の迷いで相手につけられるものではないじゃない?
魔力を分け与える、――魔法使いにとっては命の一部を分け与えるものだ。
そこまで思ってくれるなら、
――答えることはできなくても、受け止めることはするべきだと思ったんだ」
ああ、やはり素敵な方です。「惚れてしまいそうです!」とエレンさんに抱き着きました。
エレンさんは笑って抱き留め、私の髪を撫でてくれます。
そして、ウインクしながら私の顔をのぞき込んで付け加えました。
「まぁ、他にも理由としては、彼は、ダニエル君ぐらい魔力の強い人でね、印を返してくれる相手に出会ったとしても、大丈夫だろうって気持ちもあったんだ」
なるほど、確かにそう思えば安心です。
ですが、可能性は限りなく低いでしょう。
叔父様ぐらいの魔力の持ち主なら、二つ、三つ、いえ四つぐらいでも余裕なことでしょうが、普通の魔法使いでは、長以外で二つの印をつけた人は聞いたことがありません。
それだけ印は負担のかかるものです。
長も、想いを交わした相手以外は、忠誠を誓う陛下へ職務上のいわば義務として付けるのです。
ですから、エレンさんの手首の方も、一生の想いを捧げていらっしゃるのでしょう。
「ご主人は、その印についてどうおっしゃったんですか」
ようやくむせたダメージから立ち直った先輩が尋ねました。
エレンさんは再び笑い出しました。
「青くなって、私に印を受け取ってくれと迫ってくれたよ」
「ふふふ、ご主人はのんびりなさり過ぎたのですね」
「ははは、確かにね。でもそれは私にも言えるかもね」
色々葛藤があったでしょうに、エレンさんは朗らかに笑っています。
本当に素敵な方です。私はもう一度ぎゅっとしがみつきました。
先輩が「なるほど、早い者勝ち、やった者勝ちか」と呟いているのが聞こえます。それは少し違うのではと思いましたが、黙っていました。
今から思えば、この一時はとても眩しく温かいものでした。
その後の見回りで、和やかな休憩を取ることは出来ませんでした。
結界の反応は驚くべき速度で王都へ近づいてきたのです。
東の国境近くの結界に反応があったという知らせでした。
とうとうこの知らせが届いたという思いです。
幸い地域の人々に被害はなかったそうですが、どこまで被害を出さないまま敵が進んでくるか油断はできません。
殿下のお披露目まで後二月を切っています。
もう二週間たてば、招かれた外国の要人が入国し始めるのです。
要人の方々が入国なさる際、国境から警護を付ける手はずにしているため、早くから入国が始まることになったのです。
セディはこの入国の準備でかなり時間を割かれていました。
入国の順序、護衛の手配、ルートの決定、殿下の出迎えの方法などを各所と詰め合わせていました。
誕生日を過ぎたころから、一緒に登城できる状態ではなくなってしまい、セディの過労が心配です。
シャーリーには「夜に忍んで会ってきては」と熱く勧められているのですが、一時でもセディの休息の時間を減らしたくはありません。
たまに、城で出会う度に腕輪に魔力を注いでいますが、治癒では追いつかないのでしょうか、セディの顔には疲労がはっきりと浮かんでいました。
実際に敵が侵入したことで、新たな調整が必要となるでしょう。ますます心配です。
もちろん、セディだけでなく魔法使いも新たな対応をすることになりました。
敵の侵入に合わせて、見回りも二人一組から三人一組へ変更し、警戒を強めつつ、頻度を上げています。
私は、ダニエル先輩とエレンさんとの組です。
今日のところは、王都には侵入がないようです。
私たちはお店で買った飲み物を飲んで、休憩をすることにしました。
広場の噴水に三人で腰かけます。
ふと、カップを握るエレンさんの手首に視線が行きました。
「エレンさん、教えていただきたいことがあるのです」
エレンさんは、くるりと私に振り向いて、美しい紫水晶の瞳に私を映してくれます。今日も格好いい美しさです。疲れた心身が癒される気がします。
続きを視線で促されました。恥ずかしくて続きがなかなか出てきません。
「あの、好きな人に…、」
エレンさんだけでなくダニエル先輩もジュースを飲みながらこちらを向いて続きを待っています。
「私に手を出してもらう方法を教えてください!」
恥ずかしさのあまり遠回しな言い方ができませんでした。
エレンさんの目がこぼれんばかりに見開き、ダニエル先輩はゴフリとむせています。
私はエレンのさんにしがみついて、訴えました。
「後先を考えられない程、み、魅力を感じてもらわないとだめなのです」
そうでなければセディを苦しめてしまいます。思い切るなら、毒を食わば皿まで、です。
とことん、何もかも忘れるほど魅力を感じてもらわなければいけません。
エレンさんは額に手を当て、目を閉じて、「疲労のあまりシルヴィアちゃんが壊れた?」としばらく呟いていましたが、再び私に向き直ってくれました。
先輩はむせ続けています。
「私に訊こうと思ったのは、これのせいかな?」
エレンさんは手首の「誓いの印」を指さしました。
その通りです。エレンさんは、滅多にないことですが、ご主人の方以外からも印を受けているのです。いつもその身に2種類の魔力が微かに流れています。
二人もの方から深く思われているエレンさんなら、と思ってしまったのですが、
「ごめん、シルヴィアちゃん。私は自分から迫ったことがないんだよ」
あ…
もてる方は違います。そうですね、確かに必要がないのでしょう。
私は納得しながらも、落胆を隠せませんでした。
申し訳なさそうに眉を下げたエレンさんを見て、私は慌てて別のことを訊いてみました。
「あの、どうして手首の方からの誓いを受け取ったのですか?」
苦笑いしながらもエレンさんは答えてくれます。
「まぁ、彼が誓いたいと言ってきたことも理由になるけれど…」
手首に視線を落としました。
「これは一時の気の迷いで相手につけられるものではないじゃない?
魔力を分け与える、――魔法使いにとっては命の一部を分け与えるものだ。
そこまで思ってくれるなら、
――答えることはできなくても、受け止めることはするべきだと思ったんだ」
ああ、やはり素敵な方です。「惚れてしまいそうです!」とエレンさんに抱き着きました。
エレンさんは笑って抱き留め、私の髪を撫でてくれます。
そして、ウインクしながら私の顔をのぞき込んで付け加えました。
「まぁ、他にも理由としては、彼は、ダニエル君ぐらい魔力の強い人でね、印を返してくれる相手に出会ったとしても、大丈夫だろうって気持ちもあったんだ」
なるほど、確かにそう思えば安心です。
ですが、可能性は限りなく低いでしょう。
叔父様ぐらいの魔力の持ち主なら、二つ、三つ、いえ四つぐらいでも余裕なことでしょうが、普通の魔法使いでは、長以外で二つの印をつけた人は聞いたことがありません。
それだけ印は負担のかかるものです。
長も、想いを交わした相手以外は、忠誠を誓う陛下へ職務上のいわば義務として付けるのです。
ですから、エレンさんの手首の方も、一生の想いを捧げていらっしゃるのでしょう。
「ご主人は、その印についてどうおっしゃったんですか」
ようやくむせたダメージから立ち直った先輩が尋ねました。
エレンさんは再び笑い出しました。
「青くなって、私に印を受け取ってくれと迫ってくれたよ」
「ふふふ、ご主人はのんびりなさり過ぎたのですね」
「ははは、確かにね。でもそれは私にも言えるかもね」
色々葛藤があったでしょうに、エレンさんは朗らかに笑っています。
本当に素敵な方です。私はもう一度ぎゅっとしがみつきました。
先輩が「なるほど、早い者勝ち、やった者勝ちか」と呟いているのが聞こえます。それは少し違うのではと思いましたが、黙っていました。
今から思えば、この一時はとても眩しく温かいものでした。
その後の見回りで、和やかな休憩を取ることは出来ませんでした。
結界の反応は驚くべき速度で王都へ近づいてきたのです。
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