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第3章
殿下2
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波打つ白金の髪、透き通るような白い肌。可愛らしさを際立たせる大き目な薄い青の瞳、思わず目が行ってしまう鮮やかな赤い唇。
ハリーを思い起こさせる人とは思えない美しさにも驚かされたが、何より立ち上る白金の魔力に目を奪われた。
温かく包み込まれるような魔力だった。
死の淵にいながら、一瞬、何もかもが消え去った。
神の存在など欠片も信じていなかったが、天使が現れたと感じた。
私の全ては天使に奪われた。
最期が天使に見送られての旅立ちとは、思いがけない僥倖だ。
天使は隣のセディと強い想いを込めて見交わした。彼女が誰なのか分かった。
シルヴィア・ルシル・ハルベリー、セディが思いを寄せる侯爵令嬢だ。
彼女の治癒は体を作り変えられるような感覚を引き起こし、私の苦しみを終わらせてくれた。
身体だけが癒されたのではなかった。彼女の魔力が私の身体に駆け巡ったとき、私を生まれ変わらせるような浄福な心地がした。
浄福に満ち足りた私は、改めて自分の穢れを感じずにはいられなかった。
心の底から父と母を恨み、自分が生き延びるために他者を死なせた存在。
国に対して何も夢を抱かず、自分の周りで自分のために死ぬものが出ないことのみを乞い願う卑小な存在。
満ち足りて、その分、次代の王として空っぽな自分を突き付けられた。
気が付けばセディにそんな自分を見せていた。
自分の後継者に、理想の自分に責めてほしかったのかもしれない。理想の夢を見せてほしかったのかもしれない。
だが、セディは予想を裏切った。
私の小さな夢を高みへと導いてくれた。
国の平穏、それは私に初めて芽生えた誇れる夢となった。
そう、だから、8歳の占いの日、私は迷いとは無縁だった。
最高の宰相、共に私の夢を叶える存在を選び取らないはずがなかった。
だが、動揺が私に走ったことは確かだった。
私が意識から締め出した思いを見透かされ、掘り起こされた気がしたのだ。
それは、決して表に出してはならない思いだった。
そもそも私に愛する女性を王妃に迎える幸せなど、いや、どんな幸せも許されるものではなかった。
ライザの毒から生還した後の4年間、私は初めて生きていることを感じる日々だった。
セディと天使に囲まれ、勉学に励み、知ること、できることが増えていくのが楽しかった。
だが、ふとライザのことを思い出す。
彼女を救う方法がなかったのかと。
諦めず彼女に向き合えば、脅しに屈さず穏便に対処できなかったのかと、湧き上がる思いに胸を掴まれる心地がした。
あのお茶のときにハリーに縋り、動き出せば、少なくともライザの子どもはまだ生きていたのではなかったのかと、ライザの墓の前で何度も涙した。
――いや、墓さえ私は作れていないのだ。
白いチューリップのあの静かな場所は、幼かったセディが必死に城内外の温情に縋り、法の目をかいくぐり、宰相を動かし手に入れた場所だった。
私は何一つ知らずに、何も動かなかった。
こんな私は幸せになる資格などなかった。
まして、セディの大切な者に思いを寄せるなどあってはならなかった。
いつもそのことを思い出していた。
天使がセディと微笑みを交わした後、私にもそのまま微笑みを向けてくれた時、
新しい魔法の技に成功して目を輝かせ、天使が私とセディに抱き着いたとき
そして学園にいる彼女から手紙の返事をもらえたとき
いつも湧き上がる思いを締め出していた。
このまま、締め出した思いは消え去るはずだった。
天使と私の後継者は結ばれ、私の思いは消え去るはずだった。
実際、セディはシルヴィアが卒業したら求婚するつもりだった。頬を真っ赤に染めながら、侍従長に求婚のときに相応しい贈り物の助言を求めていた。
それなのに、シルヴィアがいよいよ学園を卒業する目前、セディが壊れたのだ。
天使が学園に行ってから、憑りつかれたように努力を重ね、一層理想の後継者へ近づいていたセディは、抜け殻になった。
私はハリーに詰め寄り、事の次第を直接頭に送り込まれた。
そして、初めて、ライザの毒の瞬間、セディにどれほどの衝撃を与えたのかを知った。
私は過去の自分の過ちの報いを受けることになったのだ。
あのとき諦めず向き合えば、セディが何の心の準備もなくライザの死を見ることにはならなかった。
こんなはずではなかった、どちらも手に入らないはずはなかった。
ハリーは静かに囁いた。
「選択の時は訪れた。結論は出せたのか」
結論はもちろん出ていた。
セディを、私の肩腕を、理想を取り戻さなければならない。
シルヴィアの命の危険がきっかけなら、シルヴィアが生きていることを叩きこまなければいけない。
どうやって…?
侍従長に頬を染めて相談していたセディを思い出した。
そうだ、あの思いを実らせればいい。
シルヴィア、今度は君から動いてもらおう。
君に全力で動いてもらうにはどうしたらいい?
不意に過ったその方法に、私は拳を握りしめた。
締め出した思いがひたひたと忍び寄ってくる。
8.歳のときの占いの意味を知った。
できるのだろうか?
私は自分を見失わず、甘い誘惑を退け、理想を取り戻せるのだろうか?
いや、やるしかない。
私は危険を承知で賭けに出た。
だが、想定外の事態が起きた。
敵は毒に頼るのをやめたらしい。
セディとシルヴィアは個人的なことを考える余裕はなくなってしまった。
特に、セディは各所の調整役となり、シルヴィアの腕輪がなければとうに倒れている状態だった。
加えて、賭けが賭けでなくなる気配が起きた。
私が参加していない会議で、世継ぎのために婚姻を求める声が出たのだ。
ハリーを思い起こさせる人とは思えない美しさにも驚かされたが、何より立ち上る白金の魔力に目を奪われた。
温かく包み込まれるような魔力だった。
死の淵にいながら、一瞬、何もかもが消え去った。
神の存在など欠片も信じていなかったが、天使が現れたと感じた。
私の全ては天使に奪われた。
最期が天使に見送られての旅立ちとは、思いがけない僥倖だ。
天使は隣のセディと強い想いを込めて見交わした。彼女が誰なのか分かった。
シルヴィア・ルシル・ハルベリー、セディが思いを寄せる侯爵令嬢だ。
彼女の治癒は体を作り変えられるような感覚を引き起こし、私の苦しみを終わらせてくれた。
身体だけが癒されたのではなかった。彼女の魔力が私の身体に駆け巡ったとき、私を生まれ変わらせるような浄福な心地がした。
浄福に満ち足りた私は、改めて自分の穢れを感じずにはいられなかった。
心の底から父と母を恨み、自分が生き延びるために他者を死なせた存在。
国に対して何も夢を抱かず、自分の周りで自分のために死ぬものが出ないことのみを乞い願う卑小な存在。
満ち足りて、その分、次代の王として空っぽな自分を突き付けられた。
気が付けばセディにそんな自分を見せていた。
自分の後継者に、理想の自分に責めてほしかったのかもしれない。理想の夢を見せてほしかったのかもしれない。
だが、セディは予想を裏切った。
私の小さな夢を高みへと導いてくれた。
国の平穏、それは私に初めて芽生えた誇れる夢となった。
そう、だから、8歳の占いの日、私は迷いとは無縁だった。
最高の宰相、共に私の夢を叶える存在を選び取らないはずがなかった。
だが、動揺が私に走ったことは確かだった。
私が意識から締め出した思いを見透かされ、掘り起こされた気がしたのだ。
それは、決して表に出してはならない思いだった。
そもそも私に愛する女性を王妃に迎える幸せなど、いや、どんな幸せも許されるものではなかった。
ライザの毒から生還した後の4年間、私は初めて生きていることを感じる日々だった。
セディと天使に囲まれ、勉学に励み、知ること、できることが増えていくのが楽しかった。
だが、ふとライザのことを思い出す。
彼女を救う方法がなかったのかと。
諦めず彼女に向き合えば、脅しに屈さず穏便に対処できなかったのかと、湧き上がる思いに胸を掴まれる心地がした。
あのお茶のときにハリーに縋り、動き出せば、少なくともライザの子どもはまだ生きていたのではなかったのかと、ライザの墓の前で何度も涙した。
――いや、墓さえ私は作れていないのだ。
白いチューリップのあの静かな場所は、幼かったセディが必死に城内外の温情に縋り、法の目をかいくぐり、宰相を動かし手に入れた場所だった。
私は何一つ知らずに、何も動かなかった。
こんな私は幸せになる資格などなかった。
まして、セディの大切な者に思いを寄せるなどあってはならなかった。
いつもそのことを思い出していた。
天使がセディと微笑みを交わした後、私にもそのまま微笑みを向けてくれた時、
新しい魔法の技に成功して目を輝かせ、天使が私とセディに抱き着いたとき
そして学園にいる彼女から手紙の返事をもらえたとき
いつも湧き上がる思いを締め出していた。
このまま、締め出した思いは消え去るはずだった。
天使と私の後継者は結ばれ、私の思いは消え去るはずだった。
実際、セディはシルヴィアが卒業したら求婚するつもりだった。頬を真っ赤に染めながら、侍従長に求婚のときに相応しい贈り物の助言を求めていた。
それなのに、シルヴィアがいよいよ学園を卒業する目前、セディが壊れたのだ。
天使が学園に行ってから、憑りつかれたように努力を重ね、一層理想の後継者へ近づいていたセディは、抜け殻になった。
私はハリーに詰め寄り、事の次第を直接頭に送り込まれた。
そして、初めて、ライザの毒の瞬間、セディにどれほどの衝撃を与えたのかを知った。
私は過去の自分の過ちの報いを受けることになったのだ。
あのとき諦めず向き合えば、セディが何の心の準備もなくライザの死を見ることにはならなかった。
こんなはずではなかった、どちらも手に入らないはずはなかった。
ハリーは静かに囁いた。
「選択の時は訪れた。結論は出せたのか」
結論はもちろん出ていた。
セディを、私の肩腕を、理想を取り戻さなければならない。
シルヴィアの命の危険がきっかけなら、シルヴィアが生きていることを叩きこまなければいけない。
どうやって…?
侍従長に頬を染めて相談していたセディを思い出した。
そうだ、あの思いを実らせればいい。
シルヴィア、今度は君から動いてもらおう。
君に全力で動いてもらうにはどうしたらいい?
不意に過ったその方法に、私は拳を握りしめた。
締め出した思いがひたひたと忍び寄ってくる。
8.歳のときの占いの意味を知った。
できるのだろうか?
私は自分を見失わず、甘い誘惑を退け、理想を取り戻せるのだろうか?
いや、やるしかない。
私は危険を承知で賭けに出た。
だが、想定外の事態が起きた。
敵は毒に頼るのをやめたらしい。
セディとシルヴィアは個人的なことを考える余裕はなくなってしまった。
特に、セディは各所の調整役となり、シルヴィアの腕輪がなければとうに倒れている状態だった。
加えて、賭けが賭けでなくなる気配が起きた。
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