恋の締め切りには注意しましょう

石里 唯

文字の大きさ
68 / 74
第3章

前夜3

しおりを挟む
石鹸とお日様の匂いのするシーツの心地よさを感じながらも、私は眠ることが出来ませんでした。
思いが、願いが消せないのです。
やはり明日に心残りを持ち越したくはありません。
私は印を通してセディの位置を確かめました。近くですのですぐ分かります。
さらに私の魔力を通してセディがまだ起きて動いていることも分かりました。
寝ていないのなら、やはり会いたいです。
転移しました。

印を頼りにした転移は初めてでしたが、目標に自分の魔力があるため隣の部屋に行くような感覚です。
セディはちょうどお風呂上がりだったようで、髪をタオルで拭いている形で固まっていました。腕輪がぼんやりとした光を放っています。
私は慌てて背中を向けました。思念で先に知らせておけば良かったです。

「ごめんなさい。どうしても、少しだけでも、顔を見たかったの」

「ありがとう。少しだけ待ってくれるかな」
掠れた声で返事をされました。風邪でしょうか。
後で治癒の魔力を送り込むことを心に決めました。
背後で慌ただしく衣擦れの音がします。クローゼットを開けている音もします。
何やら申し訳なくて、もうこのまま話を始めました。

「セディ、後4日で誕生日ね」
「覚えていてくれたんだ。もう自分でも明日までのことしか考えられなかったよ」

苦笑いを含んだ今のセディの声は掠れていませんでした。
慌ただしい気配は止みました。
ふわりと私の肩に布がかけられました。ガウンです。

「あの、ありがとう」
私は頬が熱くなったのを感じました。寝間着のままで転移していたのです。
慌ててガウンを羽織り、息を整えてからセディに振り向きました。
艶やかな茶色の髪は、もう乾いていました。
ですが、私の視線はセディの薄っすら染まった頬に行ってしまいます。
私は恥ずかしさのあまり飛びそうになる思考を取り戻して、話を続けました。
「あの、パーティは開かないと聞いたのだけど、誕生日にはお祝いに行ってもいい?」
「こんな時期だから、パーティはしないことにしたんだ。もちろんシルヴィにお祝いしてもらえるなら、うれしいよ」
セディは整った顔にわずかに明るい表情を浮かべます。

「セディもパーティはしないのね。それなら、ぜひとも、セディのように私もプレゼントを部屋に持って行ってお祝いしたいわ」

私の誕生日に、疲れを圧してセディが部屋に来てくれたことは、思い出すだけでもうれしいものでした。
…あら? あのときも寝間着だけでしたが、セディは特に何も…
セディのよく透る声が私を今に引き戻しました。

「ありがとう。でも、シルヴィはアリスの結婚披露宴に出発するのではなかったかい?」
「転移で行く予定だから、大丈夫です。セディのお祝いは絶対にしたいのです」

そうです。転移した理由はこれを伝えたかったからです。
私はセディに抱き着きました。
セディの身体が強張り、鼓動が速まるのを感じました。
それでも私は腕を緩めませんでした。

「セディ、明日は絶対に生き延びて」

セディの息を呑む音が聞こえました。
私は印を通して魔力を送り込みながら、伝えました。

「セディ、絶対に誕生日のお祝いをしましょう」
セディは額を私の額に合わせて、囁きました。
「そうだね。絶対に二人でお祝いをしよう」

どうしても欲しかった約束をもらえました。
これで、明日を迎えられます。
私はゆっくりと笑みが顔に広がるのを感じました。

「遅くにごめんなさい。それではまた明日」

セディは、見惚れてしまうほどの綺麗な笑顔を返してくれました。
私の大好きなその笑顔に思わず転移を止めてしまうと、セディの瞳がいたずらを秘めた、そして熱いものを秘めたものに変わりました。

「シルヴィ、今度、夜に僕の部屋に来たときは、以前とは違う意味で離さないよ。
覚悟しておくれ」

真っ赤になった私は慌てて転移しました。転移の間際、クスリと笑うセディの声が聞こえた気がしました。

シーツに横になっても私の鼓動は収まらず、またもや眠りから遠ざかってしまいました。
諦めた私は、自分に暗示をかけて眠りに落ちました。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

これ以上私の心をかき乱さないで下さい

Karamimi
恋愛
伯爵令嬢のユーリは、幼馴染のアレックスの事が、子供の頃から大好きだった。アレックスに振り向いてもらえるよう、日々努力を重ねているが、中々うまく行かない。 そんな中、アレックスが伯爵令嬢のセレナと、楽しそうにお茶をしている姿を目撃したユーリ。既に5度も婚約の申し込みを断られているユーリは、もう一度真剣にアレックスに気持ちを伝え、断られたら諦めよう。 そう決意し、アレックスに気持ちを伝えるが、いつも通りはぐらかされてしまった。それでも諦めきれないユーリは、アレックスに詰め寄るが “君を令嬢として受け入れられない、この気持ちは一生変わらない” そうはっきりと言われてしまう。アレックスの本心を聞き、酷く傷ついたユーリは、半期休みを利用し、兄夫婦が暮らす領地に向かう事にしたのだが。 そこでユーリを待っていたのは…

【完結】優しいあなたに、さようなら。二人目の婚約者は、私を殺そうとしている冷血公爵様でした

ゆきのひ
恋愛
伯爵令嬢であるディアの婚約者は、整った容姿と優しい性格で評判だった。だが、いつからか彼は、婚約者であるディアを差し置き、最近知り合った男爵令嬢を優先するようになっていく。 彼と男爵令嬢の一線を越えた振る舞いに耐え切れなくなったディアは、婚約破棄を申し出る。 そして婚約破棄が成った後、新たな婚約者として紹介されたのは、魔物を残酷に狩ることで知られる冷血公爵。その名に恐れをなして何人もの令嬢が婚約を断ったと聞いたディアだが、ある理由からその婚約を承諾する。 しかし、公爵にもディアにも秘密があった。 その秘密のせいで、ディアは命の危機を感じることになったのだ……。 ※本作は「小説家になろう」さん、カクヨムさんにも投稿しています ※表紙画像はAIで作成したものです

寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。

にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。 父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。 恋に浮かれて、剣を捨た。 コールと結婚をして初夜を迎えた。 リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。 ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。 結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。 混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。 もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと…… お読みいただき、ありがとうございます。 エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。 それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。

殿下、毒殺はお断りいたします

石里 唯
恋愛
公爵令嬢エリザベスは、王太子エドワードから幼いころから熱烈に求婚され続けているが、頑なに断り続けている。 彼女には、前世、心から愛した相手と結ばれ、毒殺された記憶があり、今生の目標は、ただ穏やかな結婚と人生を全うすることなのだ。 容姿端麗、文武両道、加えて王太子という立場で国中の令嬢たちの憧れであるエドワードと結婚するなどとんでもない選択なのだ。 彼女の拒絶を全く意に介しない王太子、彼女を溺愛し生涯手元に置くと公言する兄を振り切って彼女は人生の目標を達成できるのだろうか。 「小説家になろう」サイトで完結済みです。大まかな流れに変更はありません。 「小説家になろう」サイトで番外編を投稿しています。

婚約破棄から始まる物語【完】

mako
恋愛
メープル王国王太子であるアレクセイの婚約者である公爵令嬢のステファニーは生まれた時から王太子妃になるべく育てられた淑女の中の淑女。 公爵家の一人娘であるステファニーが生まれた後は子どもができぬまま母親は亡くなってしまう。バーナディン公爵はすぐさま再婚をし新たな母親はルシャードという息子を連れて公爵家に入った。 このルシャードは非常に優秀であり文武両道で背の高い美男子でもあったが妹になったステファニーと関わる事はなかった。 バーナディン公爵家は、今ではメープル王国のエリート一家である。 そんな中王太子より、ステファニーへの婚約破棄が言い渡される事になった。

笑顔の花は孤高の断崖にこそ咲き誇る

はんぺん千代丸
恋愛
 私は侯爵家の令嬢リリエッタ。  皆様からは笑顔が素敵な『花の令嬢』リリエッタと呼ばれています。  私の笑顔は、婚約者である王太子サミュエル様に捧げるためのものです。 『貴族の娘はすべからく笑って男に付き従う『花』であるべし』  お父様のその教えのもと、私は『花の令嬢』として笑顔を磨き続けてきました。  でも、殿下が選んだ婚約者は、私ではなく妹のシルティアでした。  しかも、私を厳しく躾けてきたお父様も手のひらを返して、私を見捨てたのです。  全てを失った私は、第二王子のもとに嫁ぐよう命じられました。  第二王子ラングリフ様は、生来一度も笑ったことがないといわれる孤高の御方。  決して人を寄せ付けない雰囲気から、彼は『断崖の君』と呼ばれていました。  実は、彼には笑うことができない、とある理由があったのです。  作られた『笑顔』しか知らない令嬢が、笑顔なき王子と出会い、本当の愛を知る。

白詰草は一途に恋を秘め、朝露に濡れる

瀬月 ゆな
恋愛
ロゼリエッタは三歳年上の婚約者クロードに恋をしている。 だけど、その恋は決して叶わないものだと知っていた。 異性に対する愛情じゃないのだとしても、妹のような存在に対する感情なのだとしても、いつかは結婚して幸せな家庭を築ける。それだけを心の支えにしていたある日、クロードから一方的に婚約の解消を告げられてしまう。 失意に沈むロゼリエッタに、クロードが隣国で行方知れずになったと兄が告げる。 けれど賓客として訪れた隣国の王太子に付き従う仮面の騎士は過去も姿形も捨てて、別人として振る舞うクロードだった。 愛していると言えなかった騎士と、愛してくれているのか聞けなかった令嬢の、すれ違う初恋の物語。 他サイト様でも公開しております。 イラスト  灰梅 由雪(https://twitter.com/haiumeyoshiyuki)様

【完結】あなたのいない世界、うふふ。

やまぐちこはる
恋愛
17歳のヨヌク子爵家令嬢アニエラは栗毛に栗色の瞳の穏やかな令嬢だった。近衛騎士で伯爵家三男、かつ騎士爵を賜るトーソルド・ロイリーと幼少から婚約しており、成人とともに政略的な結婚をした。 しかしトーソルドには恋人がおり、結婚式のあと、初夜を迎える前に出たまま戻ることもなく、一人ロイリー騎士爵家を切り盛りするはめになる。 とはいえ、アニエラにはさほどの不満はない。結婚前だって殆ど会うこともなかったのだから。 =========== 感想は一件づつ個別のお返事ができなくなっておりますが、有り難く拝読しております。 4万文字ほどの作品で、最終話まで予約投稿済です。お楽しみいただけましたら幸いでございます。

処理中です...