恋の締め切りには注意しましょう

石里 唯

文字の大きさ
74 / 74
第3章

約束の日

馬車に白金の光が満ち、見事な転移でシルヴィが戻ってきた。
晴れやかな顔だ。殿下に長の印を贈って、気持ちの整理が付いたようだ。

「お帰り、シルヴィ」

彼女は輝くような笑顔を向けてくれた。

「ただいま、セディ」

僕たちは今や夫婦だ。同居はできていないけれど。
彼女と僕の双方の両親が、「シルヴィが成人してから」と条件を出してきたのだ。
だから、この会話はまだ日常のものではない。
後、242日も待たなければいけない。

けれども、今は時間を気にせずシルヴィといられるこの旅を存分に楽しもう。

「セディ、お誕生日おめでとう」

僕の好きな笑顔を見せて、澄んだ愛らしい声でお祝いを言ってくれる。
悶えそうな気持を抑えつけて、僕は返事をした。
「ありがとう」

何とか誕生日を二人で祝う約束を守ることが出来そうだ。
シルヴィの誕生日の約束は完全には果たすことができなかった。彼女を一人で泣かせてしまった。
何としても埋め合わせをしたい。
僕は思いに駆られて、即座に最初の埋め合わせをすることにした。
空間にしまっていたものを取り出す。
侍従長に勧められた赤いバラの花束だ。
彼女が驚きに目を瞠る。

「シルヴィ、印を交わした僕たちはもう夫婦だ。けれども、改めて申し込みたい」

彼女の瞳から綺麗な涙が零れた。

「シルヴィ、僕はこの魂が尽きるまで、君を幸せにするために生きる」
そう、何より君の笑顔を守りたい。
「僕と共に、僕の隣で、生涯を過ごしてくれますか」

シルヴィは涙をこぼしたまま、僕に抱き着いてくれた。
彼女の温もりと、僕の中に流れる彼女の魔力の高ぶりを感じた。言葉ではないが、確かな返事だ。
「セディ、一生、セディの隣に、セディの中に、いさせて下さい」

彼女は嗚咽を堪えながら、言葉もくれた。
僕は堪らず、花束を置いて、両手で彼女の頬を包み込んだ。
彼女の澄んだ薄い青の瞳が、涙に濡れている。

「この半年、僕が弱かったために、辛い思いをたくさんさせたね」

彼女は何度も首を横に振る。
「私が…、無謀なことを…」
僕は彼女の唇を指で抑えた。
「辛い思いをさせて、ごめん。やり直したいんだ。シルヴィが卒業したときから」

僕は彼女の額に口づけた。

「卒業おめでとう。素晴らしい魔法使いになったんだね」

彼女の目から幾筋も涙が流れた。僕は彼女の涙に口づけた。
そう、あの時、称えるべきだった。冷静に振り返れば、あの試合の時のシルヴィの技は見事だった。あんな技はハリーぐらいしかできないだろう。
本当に目が曇っていた。
そして、こう告げるべきだった。

『お帰り、シルヴィ。待っていたよ』

「セディ、ただいま。もう離れない…!」
彼女は僕にしがみついた。僕の中の彼女の魔力は、熱いぐらいに高まっていた。
背中をそっと撫でる。

「ずっと顔が見たかったの」
彼女はしがみつく力を強めながら、僕の胸の中であの時言えなかった5年間の思いを口にした。
頷きながら震える背中を撫でる。
「僕も見たかったよ」

彼女の思いはまだ続いた。
「ずっと声が聞きたかった」
僕は背中を摩りながら、頭に、額に、口づけを落とした。耳元に思いを囁いた。
「僕も聞きたかった」

彼女の魔力が息を呑むほど激しく駆け巡った。
「傍にいたかったの…!」

僕は貪るように彼女に口づけた。
魔力が彼女に駆け巡るのを感じた。彼女と僕の魔力は熱く溶けるようにお互いの身体を駆け巡る。
もう、離さない――
彼女を抱え込み、何度も口づけた。
彼女も僕の首に腕を回し、口づけを返す。
何度もお互いの魔力が溶けあい、一つになった。

やがてシルヴィの身体から力が抜け、ゆっくりと僕にもたれかかった。
彼女の魔力も穏やかなものなった。
僕は彼女の髪を撫でながら、まだ昂っている自分の魔力を抑え込んだ。

「ウォっホン」

下手な咳払いが耳に入った。
視線を向けると、首まで赤く染めたチャーリーと、目をキラキラさせて手を取り合っているシャーリーとブリジットがいた。

やれやれ、彼らが同席していることをすっかり忘れていた。
僕は彼らに微笑んだ。

「半年、いや5年分だ。大目に見ておくれ」

チャーリーの溜息と、シャーリーとブリジットの強い頷きが同時に起こった。
僕は笑い出した。
やがて、馬車の中は笑いに包まれていた。



第3章 完 
「恋の締め切りには注意しましょう」完結

この作品は感想を受け付けておりません。

あなたにおすすめの小説

これ以上私の心をかき乱さないで下さい

Karamimi
恋愛
伯爵令嬢のユーリは、幼馴染のアレックスの事が、子供の頃から大好きだった。アレックスに振り向いてもらえるよう、日々努力を重ねているが、中々うまく行かない。 そんな中、アレックスが伯爵令嬢のセレナと、楽しそうにお茶をしている姿を目撃したユーリ。既に5度も婚約の申し込みを断られているユーリは、もう一度真剣にアレックスに気持ちを伝え、断られたら諦めよう。 そう決意し、アレックスに気持ちを伝えるが、いつも通りはぐらかされてしまった。それでも諦めきれないユーリは、アレックスに詰め寄るが “君を令嬢として受け入れられない、この気持ちは一生変わらない” そうはっきりと言われてしまう。アレックスの本心を聞き、酷く傷ついたユーリは、半期休みを利用し、兄夫婦が暮らす領地に向かう事にしたのだが。 そこでユーリを待っていたのは…

【完結】王子妃候補をクビになった公爵令嬢は、拗らせた初恋の思い出だけで生きていく

たまこ
恋愛
 10年の間、王子妃教育を受けてきた公爵令嬢シャーロットは、政治的な背景から王子妃候補をクビになってしまう。  多額の慰謝料を貰ったものの、婚約者を見つけることは絶望的な状況であり、シャーロットは結婚は諦めて公爵家の仕事に打ち込む。  もう会えないであろう初恋の相手のことだけを想って、生涯を終えるのだと覚悟していたのだが…。

辺境伯夫人は領地を紡ぐ

やまだごんた
恋愛
王命によりヴァルデン辺境伯に嫁ぐことになった、前ベルンシュタイン公爵令嬢のマルグリット。 しかし、彼女を待っていたのは60年にも及ぶ戦争で荒廃し、冬を越す薪すら足りない現実だった。 物資も人手も足りない中、マルグリットは領地の立て直しに乗り出す。 戦しか知らなかったと自省する夫と向き合いながら、少しずつ築かれていく夫婦の距離。 これは、1人の女性が領地を紡ぎ、夫と共に未来を作る「内政×溺愛」の物語です。 全50話の予定です ※表紙はイメージです ※アルファポリス先行公開(なろうにも転載予定です)

【完結】愛してるなんて言うから

空原海
恋愛
「メアリー、俺はこの婚約を破棄したい」  婚約が決まって、三年が経とうかという頃に切り出された婚約破棄。  婚約の理由は、アラン様のお父様とわたしのお母様が、昔恋人同士だったから。 ――なんだそれ。ふざけてんのか。  わたし達は婚約解消を前提とした婚約を、互いに了承し合った。 第1部が恋物語。 第2部は裏事情の暴露大会。親世代の愛憎確執バトル、スタートッ! ※ 一話のみ挿絵があります。サブタイトルに(※挿絵あり)と表記しております。  苦手な方、ごめんなさい。挿絵の箇所は、するーっと流してくださると幸いです。

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

悪女役らしく離婚を迫ろうとしたのに、夫の反応がおかしい

廻り
恋愛
第18回恋愛小説大賞にて奨励賞をいただきました。応援してくださりありがとうございました! レジーナブックス様から書籍が4月下旬に発売されます!  王太子妃シャルロット20歳は、前世の記憶が蘇る。  ここは小説の世界で、シャルロットは王太子とヒロインの恋路を邪魔する『悪女役』。 『断罪される運命』から逃れたいが、夫は離婚に応じる気がない。  ならばと、シャルロットは別居を始める。 『夫が離婚に応じたくなる計画』を思いついたシャルロットは、それを実行することに。  夫がヒロインと出会うまで、タイムリミットは一年。  それまでに離婚に応じさせたいシャルロットと、なぜか様子がおかしい夫の話。

酔っぱらい令嬢の英雄譚 ~チョコレートを食べていたら、いつの間にか第三王子を救っていたようです!~

ゆずこしょう
恋愛
婚約者と共に参加するはずだった、 夜会当日── 婚約者は「馬車の予約ができなかった」という理由で、 迎えに来ることはなかった。 そして王宮で彼女が目にしたのは、 婚約者と、見知らぬ女性が寄り添う姿。 領地存続のために婿が必要だったエヴァンジェリンは、 感情に流されることもなく、 淡々と婚約破棄の算段を立て始める。 目の前にあった美味しいチョコレートをつまみながら、 頭の中で、今後の算段を考えていると 別の修羅場が始まって──!? その夜、ほんの少しお酒を口にしたことで、 エヴァンジェリンの評価と人生は、 思いもよらぬ方向へ転がり始める── 2月11日 第一章完結 2月15日 第二章スタート予定

一途な皇帝は心を閉ざした令嬢を望む

浅海 景
恋愛
幼い頃からの婚約者であった王太子より婚約解消を告げられたシャーロット。傷心の最中に心無い言葉を聞き、信じていたものが全て偽りだったと思い込み、絶望のあまり心を閉ざしてしまう。そんな中、帝国から皇帝との縁談がもたらされ、侯爵令嬢としての責任を果たすべく承諾する。 「もう誰も信じない。私はただ責務を果たすだけ」 一方、皇帝はシャーロットを愛していると告げると、言葉通りに溺愛してきてシャーロットの心を揺らす。 傷つくことに怯えて心を閉ざす令嬢と一途に想い続ける青年皇帝の物語