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九章 名医か錬金術師
54、抱えた秘密のほんの一片
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ノノバラは、抱えた秘密のほんの一片でもリストに打ち明けられなかった事を、後ろめたく思っていた。要らぬ心労を募らせてしまうだけなら、自分一人で抱え込んでいた方が幾分か楽に思えた。それだけでも親孝行に思えたけれど、どうせなら従順でいた方が、彼も快くいてくれると思ったからこそ、こうしてミキキを探し始めたのであった。
思いの外ミキキを見つけられず、些細な苛立ちを覚えた頃、ノノバラは、一人の男をふと目に留めた。自然公園に連なって植えられた木々の一本、その根方に一頭の鹿と寄り添うように腰かけて、やけに仰々しく咀嚼を繰り返しながら煎餅を食する男であった。その様は滑稽であった反面、男は堅苦しく、それでいて厳格な面持ちであったため、いささか奇矯に思えた。なによりノノバラの目を引いたのは、男の胸元に薔薇のブローチが飾られていた事であり、それは遠目に見ても、自らが愛用していたものに酷似していた。疑念が芽生えたからには素通りできず、ノノバラは、男に歩み寄って尋ねた。
「ちょっと聞きたい事がある。そのブローチ、どこで手に入れた?」
男は、ぴたりと咀嚼を止めた。「残念ながら、これは君とは何の所縁もありません。君の身に着けていたブローチを真似て、私が自作したものですから」
ノノバラは、男を不気味に思った。芝居がかった口調も然る事ながら、何の脈絡もなく薔薇のブローチを手に取って、木っ端微塵に握りつぶしてみせたので、なおさら得体が知れなかった。
男は、鹿の尻を軽く叩いて追い払い、それから立ち上がった。「私の事は、名医、とでも呼んでください。それでは行きましょうか」
「さっきから何を言ってる!?」ノノバラは、強い語勢で問いただした。
「恐れずとも、私は君の味方です。どちらかと言えばですが。君の右腕に個人的な興味を抱きまして、我慢しきれず参上した次第です」
「やたらと僕の事に詳しいのは、なぜだ!?」
「とりあえず、私の家に招待しますので、話は歩きながらでも」
「冗談も大概にしろ!」
「残念です。あの老婆、キミシロミを引き取っていただこうと思ったのですが」
思いの外ミキキを見つけられず、些細な苛立ちを覚えた頃、ノノバラは、一人の男をふと目に留めた。自然公園に連なって植えられた木々の一本、その根方に一頭の鹿と寄り添うように腰かけて、やけに仰々しく咀嚼を繰り返しながら煎餅を食する男であった。その様は滑稽であった反面、男は堅苦しく、それでいて厳格な面持ちであったため、いささか奇矯に思えた。なによりノノバラの目を引いたのは、男の胸元に薔薇のブローチが飾られていた事であり、それは遠目に見ても、自らが愛用していたものに酷似していた。疑念が芽生えたからには素通りできず、ノノバラは、男に歩み寄って尋ねた。
「ちょっと聞きたい事がある。そのブローチ、どこで手に入れた?」
男は、ぴたりと咀嚼を止めた。「残念ながら、これは君とは何の所縁もありません。君の身に着けていたブローチを真似て、私が自作したものですから」
ノノバラは、男を不気味に思った。芝居がかった口調も然る事ながら、何の脈絡もなく薔薇のブローチを手に取って、木っ端微塵に握りつぶしてみせたので、なおさら得体が知れなかった。
男は、鹿の尻を軽く叩いて追い払い、それから立ち上がった。「私の事は、名医、とでも呼んでください。それでは行きましょうか」
「さっきから何を言ってる!?」ノノバラは、強い語勢で問いただした。
「恐れずとも、私は君の味方です。どちらかと言えばですが。君の右腕に個人的な興味を抱きまして、我慢しきれず参上した次第です」
「やたらと僕の事に詳しいのは、なぜだ!?」
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