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ハラッパバッカのコのセカイ
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外界を移動するためにシンバルが用意した乗り物は、鋼鉄の部品で構成された黒いオフロードバイクであった。戦車のように堅牢であり、それでいて戦闘機のように滑らかなフォルムをしていた。平坦なガゼットでは、あまり需要はないが、念のため少しばかりは備蓄されていたようだ。
原初を探し求めるウェザーと、彼の警護を務めるトロン、そして外界へ向かう理由すら聞かされていないスコアがバイクにまたがり、ガゼットの街中を縦一列に並んで駆け抜けた。ウェザー(と、肩から振り落とされないよう懸命にしがみついていた猿)が先導し、トロン、スコアの順で追走した。その最中、ヒートヘイズの影響を受け、がらりと様変わりした禁止区域が目に留まった。かつて隆盛を誇っていた新緑の森は、黒々とした木炭の柱と化し、さながら建物に絡みつく巨大な黒蛇のようであった。やがて、ガゼットと外界を繋ぐ巨大な正門が前方に見えてきた。当然、猛々しい容姿の門番が立ち塞がったが、先頭のウェザーは制止を無視するどころか、逆にエンジンを限界まで稼働させ、閉ざされた正門めがけて一直線に突撃していった。その暴挙とも受け取れる行動には、強面の門番も青ざめ、逃げるように道を譲った。その途端、正門までもがウェザーに恐れをなしたのか、おもむろに自らを開門し始めた。しかも、不思議な事に、扉の隙間からは、かすかな残火が漏れ出ており、あたかも地獄へと通ずる門のように恐ろしげな様相となっていた。門番が開けたのか、それとも他の要因によって開いたのか、その原因は不明であったが、我関せずと言わんばかりに三台のバイクは一切減速する事なく、緑広がる原っぱの中へと飛び出して行ったのである。
爽快な青空の下には、日の光によって艶やかに輝く黄緑色の原っぱが悠然と広がり、さらには涼しくもどこか懐かしい香りを漂わす風が、絶えず三人の五感を刺激した。少なくともトロンにとっては、全身で感じるそのすべてが久しい体験だった。まやかしの光に頼る事もなく、立ち込める蒸気に息苦しさを感じる事もない。いまだ未知多き外界は、陰鬱とした街とは打って変わって、果てしなき色鮮やかと新鮮味を兼ね備えた素晴らしき新世界であった。自然という名の敵に取り囲まれているにもかかわらず、景色を眺めているだけで心が明るくなるような、それこそ希望が滾々と湧き出てくるようであった。
原っぱを越えると、木々もまだらな森に突入した。サスペンションの備わったバイクは、岩の多い荒れた獣道をものともせず、森を吹き抜ける一陣の風と同化しつつ走った。その道中、自然が襲ってくる事もなかったので、トロンは自らの仕事を段々と忘れつつ、悠々自適な走行に夢中になった。ウェザーに導かれるままに森の奥を目指し、どこまでもどこまでも、ただひたすらにバイクを走らせているうちに、気が付けば日が傾き始めていた。正確ではないが、三時間は走っただろう。いよいよ疲労感が体に積もってきたが、それは皆同じだ、と休憩の二文字を頭の中から振り払って走った。
それからまもなくして、突然ウェザーがバイクを急停止させた。続いて、後続の二人も停止させると、スコアがウェザーにたずねた。
「すごい今更なんだけどさ、ボクらどこに向かってるの?」
「あれをごらんなさい」ウェザーは、おもむろに人差し指を前に突き出し、他の木々から頭一つ突き出た巨樹を指差した。「あれが我々の目的地です。あの木に原初があると推測されます」
「原初?」スコアは質問を重ねた。
「この先、自然が襲ってくる可能性があります」ウェザーは質問を無視し、トロンに目をやった。「きちんとした警護のほど、よろしくお願いしますよ。報酬分は、きちんとね」
トロンもまた無視を決め込んだ。いちいち言われるまでもない、と少し苛立ってしまった。
それから、またすぐにバイクを走らせると、何事もなく進み、巨樹からいくらか離れた位置に停車し、各々がバイクを降りていった。
トロンは、じろじろと巨樹を観察し始めた。近くで見ると、目測三十メートル近くはあるだろうか。その太く隆々とした幹が、相応の樹齢を重ねた事をうかがわせる。この巨樹も自然物の例に漏れず、自我を持ち、人に危害を加えるのだろう。ウェザーによると、この巨樹に原初があるらしいが、見当違いをしているのではないかと疑念を抱いてしまうほどに平凡な佇まいであり、ただの独活の大木といった印象を受けた。
「さて、ここからが本番ですよ」ウェザーは巨樹を仰いで言った。それから、ゆっくりと視線を落とした。「あの根元に大きな虚が見えるでしょう。あの中に原初があると私は睨んでいます」
確かに、洞窟のような虚が巨樹の根元にぽっかりと開いていた。吸い込まれそうなほどに真っ暗であり、地中の奥深くまで続いているように見えた。
「ねぇ、これから何するの?」スコアは、いまだ何も知らされない事に我慢ならなくなり、トロンにたずねた。
トロンは、スコアに事情を説明するよりかは、仕事を手早く終わらせてしまった方が手間が省けていい、と口より手足を動かす事を選び、巨樹に向かって単身進み出た。
その時、巨樹がひとりでに大きく揺れた。トロンが歩み寄って来るのを察知したのか、巨樹から伸びる無数の枝が触手のようにうねり出し、葉と葉がこすれる音が騒々しく耳をつんざいた。その光景は、怒りの烈火をたぎらせているかのごとく激しく、そして殺気立っているようでもあった。
トロンは剣を引き抜くと、片手で構えた。あの太枝と見比べてしまうと、鋭利な剣も爪楊枝にしか見えなかった。しかし、心だけは、虚勢を張ってでも強くあろうとした。
「ちょっと危ないんじゃない!?」スコアは、巨樹のおぞましい姿に目を見開いた。それからトロンの隣に走り寄ってくると、「ボクは、こう見えても結構やるんだ!」と自信ありげに言った。
トロンが、ふとスコアに目をやると、彼女の手にステッキが握られているのを目視した。光沢のある黒に染まった棒には、金細工の鷲をあしらった持ち手がついており、いかにも年老いた紳士の礼装といった一品であった。そんな少女が持つには似つかわしくないステッキを、スコアは鼻息を荒くして両手で構えている。まさかそんな武器で立ち向かおうというのか、と身の程知らずなその神経を疑ってしまった。
スコアがトロンの視線に気づくと、にっこりと微笑みかけて「あ!トロンさん、ボクがふざけてるって思ったでしょ!でも、真剣なんだよ!ボクは、いつもコレで自然をやっつけてるから!」
トロンは、視線を巨樹に戻した。彼女の言葉を今ひとつ信用できなかったが、れっきとしたアースガルの一員を侮るのも失礼かと思い、すぐに己の仕事に集中する事にした。
巨樹が幹を曲げたかと思うと、前のめりに倒れこんできた。トロンとスコアに覆いかぶさるようにして押しつぶそうとしていた。トロンは、一歩たりともその場から動かず、むしろ剣を振りかぶって枝葉が迫るのを待ち受け、目前に迫った所を一刀両断、渾身の力で剣を斬り上げた。すると、何本かの太枝が高々と斬り飛ばされた事によって、その分、人ひとり分の隙間が空き、トロンは難なく枝葉の束をやり過ごす事ができた。
青々と茂った枝葉の真っただ中、トロンは背後に気配を感じ、ほんの刹那の間に振り返ってみると、そこには人影で難を逃れたスコアが縮こまるように屈んでおり、こちらに向かって申し訳なさそうな照れ笑いをありありと見せつけていた。いつの間に後ろへ。トロンは、蠅に匹敵するほどの俊敏さに感嘆してしまった。
「ちょっと今のは危なかったかな…!」スコアは、おもむろに立ち上がると、きょろきょろと、せわしく周囲に目を配った。
ほどなくして枝葉の束がゆっくりと宙に浮いていくと、巨樹は幹をしゃんと伸ばし、本来あるべき元の姿勢へと立て直した。と、その瞬間、トロンは、背後から巨樹に向かって地面を駆ける一匹の猿を目撃した。その灰白色の猿は、ウェザーの飼い猿に違いなかった。巨樹は猿を跳ね除けてしまおうと枝葉を地面に降ろしてきたが、四本足の全力疾走にはまるで敵わず、あえなく巨樹の根元に駆け寄られたかと思うと、深々とした虚への侵入を許してしまった。その終始を見ていたトロンは、ウェザーに振り向いた。手を後ろに組んで何食わぬ顔で突っ立っていたので、語気を強めて問うた。
「あの猿はなんだ!」
「攻撃の合間を縫って解き放ったのですよ。原初の有無を調べさせるためにね」ウェザーは虚を見据えながら淡々と答えた。「勘違いしてほしくないのですが、今回の目的は、あくまで原初。あなたが勝手に戦う分には構いませんが、私にとっては大木など最初からどうでもいいのです」
トロンは、自分が囮としていいように使われた事に、ひどく腹を立てた。「だったら、最初から猿に警護を頼めばよかったんじゃないのか!」
「万が一、彼に何かあったら耐えられませんのでね」ウェザーはトロンに目もくれなかった。
人と猿の命を天秤にかけると猿の方が重い。そんな戯れ言を抜かすのは、世界広しといえどもウェザーくらいなものだろう。トロンは怒りを通り越して、再三呆れていた。
「なに!?あの穴になんかすごい物でもあるの!?」スコアが無邪気な好奇心を輝かせると、突然、虚めがけて一直線に走り出した。その誰もが目を見張るほどの速力は、巨樹はおろかトロンやウェザーですら目で追えないほどの、まさしく疾風と見紛うほどであり、あれよあれよという間にスコアは虚へと飛び込んでいった。
ウェザーは目を丸くすると、驚嘆のため息を吐いた。「やれやれ…。まさかあれほどまでに速く走れたとは…。人は見た目に寄らないですね」
トロンは剣を収めると、急いで巨樹から退いた。誰にも求められない以上、もはや戦う必要はない、と自ら仕事を放棄した。
原初を探し求めるウェザーと、彼の警護を務めるトロン、そして外界へ向かう理由すら聞かされていないスコアがバイクにまたがり、ガゼットの街中を縦一列に並んで駆け抜けた。ウェザー(と、肩から振り落とされないよう懸命にしがみついていた猿)が先導し、トロン、スコアの順で追走した。その最中、ヒートヘイズの影響を受け、がらりと様変わりした禁止区域が目に留まった。かつて隆盛を誇っていた新緑の森は、黒々とした木炭の柱と化し、さながら建物に絡みつく巨大な黒蛇のようであった。やがて、ガゼットと外界を繋ぐ巨大な正門が前方に見えてきた。当然、猛々しい容姿の門番が立ち塞がったが、先頭のウェザーは制止を無視するどころか、逆にエンジンを限界まで稼働させ、閉ざされた正門めがけて一直線に突撃していった。その暴挙とも受け取れる行動には、強面の門番も青ざめ、逃げるように道を譲った。その途端、正門までもがウェザーに恐れをなしたのか、おもむろに自らを開門し始めた。しかも、不思議な事に、扉の隙間からは、かすかな残火が漏れ出ており、あたかも地獄へと通ずる門のように恐ろしげな様相となっていた。門番が開けたのか、それとも他の要因によって開いたのか、その原因は不明であったが、我関せずと言わんばかりに三台のバイクは一切減速する事なく、緑広がる原っぱの中へと飛び出して行ったのである。
爽快な青空の下には、日の光によって艶やかに輝く黄緑色の原っぱが悠然と広がり、さらには涼しくもどこか懐かしい香りを漂わす風が、絶えず三人の五感を刺激した。少なくともトロンにとっては、全身で感じるそのすべてが久しい体験だった。まやかしの光に頼る事もなく、立ち込める蒸気に息苦しさを感じる事もない。いまだ未知多き外界は、陰鬱とした街とは打って変わって、果てしなき色鮮やかと新鮮味を兼ね備えた素晴らしき新世界であった。自然という名の敵に取り囲まれているにもかかわらず、景色を眺めているだけで心が明るくなるような、それこそ希望が滾々と湧き出てくるようであった。
原っぱを越えると、木々もまだらな森に突入した。サスペンションの備わったバイクは、岩の多い荒れた獣道をものともせず、森を吹き抜ける一陣の風と同化しつつ走った。その道中、自然が襲ってくる事もなかったので、トロンは自らの仕事を段々と忘れつつ、悠々自適な走行に夢中になった。ウェザーに導かれるままに森の奥を目指し、どこまでもどこまでも、ただひたすらにバイクを走らせているうちに、気が付けば日が傾き始めていた。正確ではないが、三時間は走っただろう。いよいよ疲労感が体に積もってきたが、それは皆同じだ、と休憩の二文字を頭の中から振り払って走った。
それからまもなくして、突然ウェザーがバイクを急停止させた。続いて、後続の二人も停止させると、スコアがウェザーにたずねた。
「すごい今更なんだけどさ、ボクらどこに向かってるの?」
「あれをごらんなさい」ウェザーは、おもむろに人差し指を前に突き出し、他の木々から頭一つ突き出た巨樹を指差した。「あれが我々の目的地です。あの木に原初があると推測されます」
「原初?」スコアは質問を重ねた。
「この先、自然が襲ってくる可能性があります」ウェザーは質問を無視し、トロンに目をやった。「きちんとした警護のほど、よろしくお願いしますよ。報酬分は、きちんとね」
トロンもまた無視を決め込んだ。いちいち言われるまでもない、と少し苛立ってしまった。
それから、またすぐにバイクを走らせると、何事もなく進み、巨樹からいくらか離れた位置に停車し、各々がバイクを降りていった。
トロンは、じろじろと巨樹を観察し始めた。近くで見ると、目測三十メートル近くはあるだろうか。その太く隆々とした幹が、相応の樹齢を重ねた事をうかがわせる。この巨樹も自然物の例に漏れず、自我を持ち、人に危害を加えるのだろう。ウェザーによると、この巨樹に原初があるらしいが、見当違いをしているのではないかと疑念を抱いてしまうほどに平凡な佇まいであり、ただの独活の大木といった印象を受けた。
「さて、ここからが本番ですよ」ウェザーは巨樹を仰いで言った。それから、ゆっくりと視線を落とした。「あの根元に大きな虚が見えるでしょう。あの中に原初があると私は睨んでいます」
確かに、洞窟のような虚が巨樹の根元にぽっかりと開いていた。吸い込まれそうなほどに真っ暗であり、地中の奥深くまで続いているように見えた。
「ねぇ、これから何するの?」スコアは、いまだ何も知らされない事に我慢ならなくなり、トロンにたずねた。
トロンは、スコアに事情を説明するよりかは、仕事を手早く終わらせてしまった方が手間が省けていい、と口より手足を動かす事を選び、巨樹に向かって単身進み出た。
その時、巨樹がひとりでに大きく揺れた。トロンが歩み寄って来るのを察知したのか、巨樹から伸びる無数の枝が触手のようにうねり出し、葉と葉がこすれる音が騒々しく耳をつんざいた。その光景は、怒りの烈火をたぎらせているかのごとく激しく、そして殺気立っているようでもあった。
トロンは剣を引き抜くと、片手で構えた。あの太枝と見比べてしまうと、鋭利な剣も爪楊枝にしか見えなかった。しかし、心だけは、虚勢を張ってでも強くあろうとした。
「ちょっと危ないんじゃない!?」スコアは、巨樹のおぞましい姿に目を見開いた。それからトロンの隣に走り寄ってくると、「ボクは、こう見えても結構やるんだ!」と自信ありげに言った。
トロンが、ふとスコアに目をやると、彼女の手にステッキが握られているのを目視した。光沢のある黒に染まった棒には、金細工の鷲をあしらった持ち手がついており、いかにも年老いた紳士の礼装といった一品であった。そんな少女が持つには似つかわしくないステッキを、スコアは鼻息を荒くして両手で構えている。まさかそんな武器で立ち向かおうというのか、と身の程知らずなその神経を疑ってしまった。
スコアがトロンの視線に気づくと、にっこりと微笑みかけて「あ!トロンさん、ボクがふざけてるって思ったでしょ!でも、真剣なんだよ!ボクは、いつもコレで自然をやっつけてるから!」
トロンは、視線を巨樹に戻した。彼女の言葉を今ひとつ信用できなかったが、れっきとしたアースガルの一員を侮るのも失礼かと思い、すぐに己の仕事に集中する事にした。
巨樹が幹を曲げたかと思うと、前のめりに倒れこんできた。トロンとスコアに覆いかぶさるようにして押しつぶそうとしていた。トロンは、一歩たりともその場から動かず、むしろ剣を振りかぶって枝葉が迫るのを待ち受け、目前に迫った所を一刀両断、渾身の力で剣を斬り上げた。すると、何本かの太枝が高々と斬り飛ばされた事によって、その分、人ひとり分の隙間が空き、トロンは難なく枝葉の束をやり過ごす事ができた。
青々と茂った枝葉の真っただ中、トロンは背後に気配を感じ、ほんの刹那の間に振り返ってみると、そこには人影で難を逃れたスコアが縮こまるように屈んでおり、こちらに向かって申し訳なさそうな照れ笑いをありありと見せつけていた。いつの間に後ろへ。トロンは、蠅に匹敵するほどの俊敏さに感嘆してしまった。
「ちょっと今のは危なかったかな…!」スコアは、おもむろに立ち上がると、きょろきょろと、せわしく周囲に目を配った。
ほどなくして枝葉の束がゆっくりと宙に浮いていくと、巨樹は幹をしゃんと伸ばし、本来あるべき元の姿勢へと立て直した。と、その瞬間、トロンは、背後から巨樹に向かって地面を駆ける一匹の猿を目撃した。その灰白色の猿は、ウェザーの飼い猿に違いなかった。巨樹は猿を跳ね除けてしまおうと枝葉を地面に降ろしてきたが、四本足の全力疾走にはまるで敵わず、あえなく巨樹の根元に駆け寄られたかと思うと、深々とした虚への侵入を許してしまった。その終始を見ていたトロンは、ウェザーに振り向いた。手を後ろに組んで何食わぬ顔で突っ立っていたので、語気を強めて問うた。
「あの猿はなんだ!」
「攻撃の合間を縫って解き放ったのですよ。原初の有無を調べさせるためにね」ウェザーは虚を見据えながら淡々と答えた。「勘違いしてほしくないのですが、今回の目的は、あくまで原初。あなたが勝手に戦う分には構いませんが、私にとっては大木など最初からどうでもいいのです」
トロンは、自分が囮としていいように使われた事に、ひどく腹を立てた。「だったら、最初から猿に警護を頼めばよかったんじゃないのか!」
「万が一、彼に何かあったら耐えられませんのでね」ウェザーはトロンに目もくれなかった。
人と猿の命を天秤にかけると猿の方が重い。そんな戯れ言を抜かすのは、世界広しといえどもウェザーくらいなものだろう。トロンは怒りを通り越して、再三呆れていた。
「なに!?あの穴になんかすごい物でもあるの!?」スコアが無邪気な好奇心を輝かせると、突然、虚めがけて一直線に走り出した。その誰もが目を見張るほどの速力は、巨樹はおろかトロンやウェザーですら目で追えないほどの、まさしく疾風と見紛うほどであり、あれよあれよという間にスコアは虚へと飛び込んでいった。
ウェザーは目を丸くすると、驚嘆のため息を吐いた。「やれやれ…。まさかあれほどまでに速く走れたとは…。人は見た目に寄らないですね」
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