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竜狩り入門
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レイヤは、生まれてはじめて天使を怖いと思った。突如として彼を襲った黒い竜の天使。天使を喰らう異能の天使。いや、あれはもはや天使ではない。天使でなければ一体なんだというんだ。
恐怖だった。この頃のレイヤは、ずっと塞ぎ込んでいた。元気がない。いつも浮かない顔をしている。マリアは、いつだって心配していた。
「レイヤくん。無理しなくてもいいのよ?」
レイヤは暇さえあれば屋敷にこもって大天使型火天使を調律していた。もっとも既に万全なのだが、それでもレイヤは部品をいじくりまわすことをやめない。
「音が…。アイツからは音がしなかった…。声が…聞こえなかったんだ」
「あれは普通の天使じゃないのよ。大天使型と同じなのよ」
レイヤには使命があった。この街から調律師の争いをなくす。しかし、彼ひとりの力だけでは決して解決できない。そうマリアは結論付けていた。確かに大天使型は強力だが、それだけでは敵を打ち滅ぼすことはできない。大天使型に匹敵する天使が、脅威が、この街を覆い尽くそうとしているのだから。
マリアは待ちわびていた。レイヤの力になってくれる人たちの到来を。ところが、駆けつけてきてくれたのは、たったひとり。マリアの親友、サイハだけだった。
「なぁんだ!随分へこんでるじゃん、レイヤ!」
サイハはレイヤを励ますつもりだった。けれど、大天使型を一目見るなり、目の色を変えた。
「あ、大天使型!!」
ずっと念願だったのだ。もはやレイヤは二の次。大天使型を四方八方から眺めることに夢中になった。その瞳はきらきらと輝いている。そのうち大天使型を抱きしめて離さなくなった。あまりにも興奮している。マリアは、どうにか落ち着かせようとした。
「ダメよ、サイハちゃん…!これから大事なお話をするんだから…」
「スゴイんだよ、コレ~!炎をバァ~ンって吹かしてさ!」
「そうねぇ、すごいわねぇ。だからって、抱き枕にしちゃ駄目なのよ?」
サイハは一体何をしにきたのだろうか。レイヤは呆気にとられた。でも、別に悪い気はしない。むしろ心が軽くなった気分だ。今まで塞ぎ込んでいたのが馬鹿らしくなった。
「おし!いつまでもグズグズしてられないぜ!」
その言葉にマリアはほほえんだ。
「あらあら!やっとレイヤくんらしくなってきたわねぇ!じゃあ、今度またアレと戦っても大丈夫ね?」
「あれは天使じゃない…。一体なんなんだ?」
「すべての天使を滅ぼす存在。“恐竜型・撃滅竜”!」
天使の創造者であるゼンノウ。彼でさえ、天使に秘められた底知れぬ可能性を推し量ることはできなかった。良くも悪くも未知数だったのだ。だからこそ、いつか人間を脅かす存在になるのではないかと恐れた。その最悪の事態に備え、天使を喰らうことのできる恐竜型を生み出したと言われている。
大天使型と同じく、恐竜型も複数存在する。そのうちの一体である撃滅竜は、お嬢さまによって所有されている。その素性をレイヤは知りたがった。
「じゃあ、あの子は!?」
「すべての元凶だよ!!」
サイハは怒りに燃え立っていた。大天使型への興味は、すっかり薄れている。マリアが驚いている隙に続けて
「聖銀河テクニカ。聞いたことあるでしょ?」
「確か…大手AIメーカーだっけ。かなりの大企業だって聞いたけど」
「天使が発明されるまではね。ゼンノウの生み出した天使は、これまでの技術を残らず過去にした。そのせいで今では見る影もない。だから、聖銀河テクニカはゼンノウを恨んでる。天使を絶滅させようと企んでる。そのために恐竜型を利用してるんだよ」
「そんなの…逆恨みだぜ!?」
「関係ないよ。アイツらは本気なんだ。本気で天使を滅ぼそうとしてる」
「許せるわけねぇ!絶対に止めないと!他の調律師にもそのことを話してさ、協力してもらおうぜ!アラシとかコネクタとか!」
「無駄だって。この街のほとんどの調律師には聖銀河の息がかかってる。アラシもコネクタもアイツらの手下なんだ」
「なんでだよ…?なんで調律師が天使を滅ぼそうとするんだよ!?天使あってこその調律師だろ!?」
レイヤは激昂したが、そのせいでハッカは気まずい思いをした。たまたま部屋の外にいて、話を盗み聞いてしまったのだ。
「あ…ごめんなさい…。私、レイヤさんに用があって…」
レイヤは、すぐに察した。風天使のことに違いない。けれど、そのことはマリアとサイハには内密にしておこう。
「お、ハッカ!迎えに来てくれてありがとな!」
「え?レイヤ、どこ行くの?」
「すぐ帰るって!」
サイハに不審がられたが、無理にやり過ごす。あのサイハのことだ。大天使型の一体がハッカの自宅にあると知ったら、きっと鼻血を出すだろう。
レイヤは先ほどと打って変わって気を良くした。とにかく風天使に出会えるのが嬉しいのだ。その足取りは実に軽やかだった。気付けばハッカの自宅に到着していた。
ハッカの自室に天使らしきものは見当たらなかった。彼女はクローゼットの中に隠れている。衣服に紛れて眠っていたのだ。その寝顔は紛れもなく大天使型・風天使。
「オマエ…!こんなところにいたのか!」
レイヤは思わず嬉しくなった。それを受けてハッカはこう申し出た。
「レイヤさん!この天使、レイヤさんが持っててください!」
「いいのか?」
「はい!私は調律師じゃないですから!」
「どうだろ。この街の調律師は、普通じゃない。ハッカの方がよっぽど調律師らしいよ」
「レイヤさん…」
「オレのじいさんが築いた、天使だけが暮らす楽園。散り散りになった天使たちをその楽園に帰してやるために、オレたち調律師がいるはずなのに…」
ふと人の気配がした。扉の隙間からこちらをうかがう不審な人影。その視線にレイヤは警戒を強めた。
「誰だ、オマエ!?」
「遂に見つけた、大天使型…!最強の風天使、このアタシが貰い受ける!」
人の家に勝手に上がり込むとは、なんて図々しいんだ。そう思ったが、どうやらその少女とハッカには面識があるようだ。
「あっ!リカさん!」
「リカバリ!!二度と間違えないで!!」
いくらハッカの知り合いでも油断はできない。彼女は風天使を狙っている。レイヤは疑心暗鬼に囚われた。
「オマエ、もしかして聖銀河テクニカの手下か?」
「手下?チッチッチ!アタシはリカバリ!一流調律師にして、聖銀河テクニカの幹部候補生さ!」
「調律師なのに…!なんで聖銀河なんかに加担するんだよ!?」
「まっ、言いたいことは分かるけど!こっちにも色々と事情があるのよね~。とにかくさ、アタシに仕事させてよ!」
突然、窓を突き破って飛び出したのは、恐竜の頭。恐竜型天使だ。ぎらつく眼光は風天使を狙っている。
「それやっちゃいな!大火竜!」
大火竜はむやみやたらと頭を振って部屋を荒らした。まるで地震だ。たまったもんじゃない。
「逃げるぞ、ハッカ!」
レイヤは風天使を持ち出すつもりだ。絶対に聖銀河に渡すわけにはいかない。しっかり抱きかかえ、それからリカバリを突き飛ばしてハッカと共に部屋を飛び出した。
大火竜は、撃滅竜に負けず劣らず凶暴だった。車を蹴飛ばし、歩道を踏み荒らし、そうまでして風天使を追って突き進んだ。レイヤはひたすらに逃げた。ハッカと風天使を守って懸命に逃げた。しかし、追手は曲がりなりにも天使。翼がある。追いつかれるのは時間の問題だった。
逃げるにも限度がある。ある時、ハッカが勢い余って転んでしまった。
「ハッカ!?」
「いいから早く!私に構わず逃げてくださ~い!!」
そう言われても見捨てるわけにはいかない。レイヤが今一度恐竜型と戦おうと決意した、その矢先だ。一筋の光が大火竜の足元を駆け抜けた。その光はすべてをたちまち凍らせた。恐竜型といえども身動きできない。
光の駆け抜けた先、そこに立っていたのは、一匹の銀狼。そして、サイハの姿があった。
「せっかく大天使型が見つかったっていうのにさ!ワタシを仲間外れにしないでよ!」
「サイハ!?」
レイヤは、ひどく驚いた。せっかく秘密にしておいたのに、しっかりと風天使のにおいを嗅ぎつけている。幸いにして鼻血は出していないが、それでもやはり興奮気味だ。
「もう!!レイヤのバカ!!怪しいと思って後をつけてみたらこれだよ!」
「バカはオマエだ!そんな狼型じゃ食われるだけだ!ここはオレに!」
「まったく!大天使型を持ってるからっていい気になっちゃってさ!やっぱり調律師としては半人前!素人は黙って見てて!」
実際の所、レイヤの出る幕はないのだ。調律師としての経験ならサイハがゆうに勝る。経験だけでなく、実績や実力も広く知れ渡っている。大火竜を従えるリカバリでさえ、サイハを警戒せざるを得ない。
「こりゃまいったね!Dr.サイハじゃないか!」
「もうすぐワタシの仲間たちがこの街に戻ってくるよ。観念して!」
「悪いね。出世がかかってるんだ。ここで大天使型を捕らえれば、アタシは聖銀河テクニカの幹部になれるってわけさ!」
「そのために天使を滅ぼすの?キミだって調律師なのに!」
「アンタには関係ないね!それやっちゃいな、大火竜!」
足元が凍り付いて身動きできない。けれど、大火竜の全身が見る間に熱を帯びて赤くなった。怒りに地団駄を踏み、それから銀狼を食らってやろうと襲いかかった。
ところが今一度、光が大火竜の足元を駆け抜けた。九匹もの銀狼が目にも止まらぬ速さで走り抜けた。銀狼は一匹だけではなかったのだ。大火竜は、たちどころに凍てついた。いくら全身に熱を帯びようとも冷気に勝ることはない。これにはリカバリも苦笑い。
「あら~!やるねぇ、おチビちゃん!さすがは天使改良の権威ってわけね!」
「恐竜型は冷気に弱い!悪いけど、キミじゃワタシの銀狼型には勝てないよ!」
狼型天使を改良した、サイハ専用の銀狼型。恐竜型に対抗するべく、サイハが特別に用意した天使だ。
大火竜は、すっかり白くなっていた。あまりの冷気に機能が停止している。けれどリカバリは、けろりとしていた。
「やっぱ分が悪いね!ま、いいか!失敗はしたけどちゃんと仕事はしたし、誰にも文句は言わせないよ!」
気付けば、一羽の鷹型天使が頭上を飛び回っている。そのうち大火竜の背に留まったかと思うと、まもなく爆弾を残して飛び立った。
冷気を吹き飛ばす爆風。大火竜は息を吹き返した。依然として気性は荒く、闘志もみなぎる。けれど、リカバリは退いた。実にあっけない。
彼女に手を貸した鷹型天使。その主はビルの上にいた。アラシだ。彼もまた、聖銀河テクニカに与する調律師。
恐怖だった。この頃のレイヤは、ずっと塞ぎ込んでいた。元気がない。いつも浮かない顔をしている。マリアは、いつだって心配していた。
「レイヤくん。無理しなくてもいいのよ?」
レイヤは暇さえあれば屋敷にこもって大天使型火天使を調律していた。もっとも既に万全なのだが、それでもレイヤは部品をいじくりまわすことをやめない。
「音が…。アイツからは音がしなかった…。声が…聞こえなかったんだ」
「あれは普通の天使じゃないのよ。大天使型と同じなのよ」
レイヤには使命があった。この街から調律師の争いをなくす。しかし、彼ひとりの力だけでは決して解決できない。そうマリアは結論付けていた。確かに大天使型は強力だが、それだけでは敵を打ち滅ぼすことはできない。大天使型に匹敵する天使が、脅威が、この街を覆い尽くそうとしているのだから。
マリアは待ちわびていた。レイヤの力になってくれる人たちの到来を。ところが、駆けつけてきてくれたのは、たったひとり。マリアの親友、サイハだけだった。
「なぁんだ!随分へこんでるじゃん、レイヤ!」
サイハはレイヤを励ますつもりだった。けれど、大天使型を一目見るなり、目の色を変えた。
「あ、大天使型!!」
ずっと念願だったのだ。もはやレイヤは二の次。大天使型を四方八方から眺めることに夢中になった。その瞳はきらきらと輝いている。そのうち大天使型を抱きしめて離さなくなった。あまりにも興奮している。マリアは、どうにか落ち着かせようとした。
「ダメよ、サイハちゃん…!これから大事なお話をするんだから…」
「スゴイんだよ、コレ~!炎をバァ~ンって吹かしてさ!」
「そうねぇ、すごいわねぇ。だからって、抱き枕にしちゃ駄目なのよ?」
サイハは一体何をしにきたのだろうか。レイヤは呆気にとられた。でも、別に悪い気はしない。むしろ心が軽くなった気分だ。今まで塞ぎ込んでいたのが馬鹿らしくなった。
「おし!いつまでもグズグズしてられないぜ!」
その言葉にマリアはほほえんだ。
「あらあら!やっとレイヤくんらしくなってきたわねぇ!じゃあ、今度またアレと戦っても大丈夫ね?」
「あれは天使じゃない…。一体なんなんだ?」
「すべての天使を滅ぼす存在。“恐竜型・撃滅竜”!」
天使の創造者であるゼンノウ。彼でさえ、天使に秘められた底知れぬ可能性を推し量ることはできなかった。良くも悪くも未知数だったのだ。だからこそ、いつか人間を脅かす存在になるのではないかと恐れた。その最悪の事態に備え、天使を喰らうことのできる恐竜型を生み出したと言われている。
大天使型と同じく、恐竜型も複数存在する。そのうちの一体である撃滅竜は、お嬢さまによって所有されている。その素性をレイヤは知りたがった。
「じゃあ、あの子は!?」
「すべての元凶だよ!!」
サイハは怒りに燃え立っていた。大天使型への興味は、すっかり薄れている。マリアが驚いている隙に続けて
「聖銀河テクニカ。聞いたことあるでしょ?」
「確か…大手AIメーカーだっけ。かなりの大企業だって聞いたけど」
「天使が発明されるまではね。ゼンノウの生み出した天使は、これまでの技術を残らず過去にした。そのせいで今では見る影もない。だから、聖銀河テクニカはゼンノウを恨んでる。天使を絶滅させようと企んでる。そのために恐竜型を利用してるんだよ」
「そんなの…逆恨みだぜ!?」
「関係ないよ。アイツらは本気なんだ。本気で天使を滅ぼそうとしてる」
「許せるわけねぇ!絶対に止めないと!他の調律師にもそのことを話してさ、協力してもらおうぜ!アラシとかコネクタとか!」
「無駄だって。この街のほとんどの調律師には聖銀河の息がかかってる。アラシもコネクタもアイツらの手下なんだ」
「なんでだよ…?なんで調律師が天使を滅ぼそうとするんだよ!?天使あってこその調律師だろ!?」
レイヤは激昂したが、そのせいでハッカは気まずい思いをした。たまたま部屋の外にいて、話を盗み聞いてしまったのだ。
「あ…ごめんなさい…。私、レイヤさんに用があって…」
レイヤは、すぐに察した。風天使のことに違いない。けれど、そのことはマリアとサイハには内密にしておこう。
「お、ハッカ!迎えに来てくれてありがとな!」
「え?レイヤ、どこ行くの?」
「すぐ帰るって!」
サイハに不審がられたが、無理にやり過ごす。あのサイハのことだ。大天使型の一体がハッカの自宅にあると知ったら、きっと鼻血を出すだろう。
レイヤは先ほどと打って変わって気を良くした。とにかく風天使に出会えるのが嬉しいのだ。その足取りは実に軽やかだった。気付けばハッカの自宅に到着していた。
ハッカの自室に天使らしきものは見当たらなかった。彼女はクローゼットの中に隠れている。衣服に紛れて眠っていたのだ。その寝顔は紛れもなく大天使型・風天使。
「オマエ…!こんなところにいたのか!」
レイヤは思わず嬉しくなった。それを受けてハッカはこう申し出た。
「レイヤさん!この天使、レイヤさんが持っててください!」
「いいのか?」
「はい!私は調律師じゃないですから!」
「どうだろ。この街の調律師は、普通じゃない。ハッカの方がよっぽど調律師らしいよ」
「レイヤさん…」
「オレのじいさんが築いた、天使だけが暮らす楽園。散り散りになった天使たちをその楽園に帰してやるために、オレたち調律師がいるはずなのに…」
ふと人の気配がした。扉の隙間からこちらをうかがう不審な人影。その視線にレイヤは警戒を強めた。
「誰だ、オマエ!?」
「遂に見つけた、大天使型…!最強の風天使、このアタシが貰い受ける!」
人の家に勝手に上がり込むとは、なんて図々しいんだ。そう思ったが、どうやらその少女とハッカには面識があるようだ。
「あっ!リカさん!」
「リカバリ!!二度と間違えないで!!」
いくらハッカの知り合いでも油断はできない。彼女は風天使を狙っている。レイヤは疑心暗鬼に囚われた。
「オマエ、もしかして聖銀河テクニカの手下か?」
「手下?チッチッチ!アタシはリカバリ!一流調律師にして、聖銀河テクニカの幹部候補生さ!」
「調律師なのに…!なんで聖銀河なんかに加担するんだよ!?」
「まっ、言いたいことは分かるけど!こっちにも色々と事情があるのよね~。とにかくさ、アタシに仕事させてよ!」
突然、窓を突き破って飛び出したのは、恐竜の頭。恐竜型天使だ。ぎらつく眼光は風天使を狙っている。
「それやっちゃいな!大火竜!」
大火竜はむやみやたらと頭を振って部屋を荒らした。まるで地震だ。たまったもんじゃない。
「逃げるぞ、ハッカ!」
レイヤは風天使を持ち出すつもりだ。絶対に聖銀河に渡すわけにはいかない。しっかり抱きかかえ、それからリカバリを突き飛ばしてハッカと共に部屋を飛び出した。
大火竜は、撃滅竜に負けず劣らず凶暴だった。車を蹴飛ばし、歩道を踏み荒らし、そうまでして風天使を追って突き進んだ。レイヤはひたすらに逃げた。ハッカと風天使を守って懸命に逃げた。しかし、追手は曲がりなりにも天使。翼がある。追いつかれるのは時間の問題だった。
逃げるにも限度がある。ある時、ハッカが勢い余って転んでしまった。
「ハッカ!?」
「いいから早く!私に構わず逃げてくださ~い!!」
そう言われても見捨てるわけにはいかない。レイヤが今一度恐竜型と戦おうと決意した、その矢先だ。一筋の光が大火竜の足元を駆け抜けた。その光はすべてをたちまち凍らせた。恐竜型といえども身動きできない。
光の駆け抜けた先、そこに立っていたのは、一匹の銀狼。そして、サイハの姿があった。
「せっかく大天使型が見つかったっていうのにさ!ワタシを仲間外れにしないでよ!」
「サイハ!?」
レイヤは、ひどく驚いた。せっかく秘密にしておいたのに、しっかりと風天使のにおいを嗅ぎつけている。幸いにして鼻血は出していないが、それでもやはり興奮気味だ。
「もう!!レイヤのバカ!!怪しいと思って後をつけてみたらこれだよ!」
「バカはオマエだ!そんな狼型じゃ食われるだけだ!ここはオレに!」
「まったく!大天使型を持ってるからっていい気になっちゃってさ!やっぱり調律師としては半人前!素人は黙って見てて!」
実際の所、レイヤの出る幕はないのだ。調律師としての経験ならサイハがゆうに勝る。経験だけでなく、実績や実力も広く知れ渡っている。大火竜を従えるリカバリでさえ、サイハを警戒せざるを得ない。
「こりゃまいったね!Dr.サイハじゃないか!」
「もうすぐワタシの仲間たちがこの街に戻ってくるよ。観念して!」
「悪いね。出世がかかってるんだ。ここで大天使型を捕らえれば、アタシは聖銀河テクニカの幹部になれるってわけさ!」
「そのために天使を滅ぼすの?キミだって調律師なのに!」
「アンタには関係ないね!それやっちゃいな、大火竜!」
足元が凍り付いて身動きできない。けれど、大火竜の全身が見る間に熱を帯びて赤くなった。怒りに地団駄を踏み、それから銀狼を食らってやろうと襲いかかった。
ところが今一度、光が大火竜の足元を駆け抜けた。九匹もの銀狼が目にも止まらぬ速さで走り抜けた。銀狼は一匹だけではなかったのだ。大火竜は、たちどころに凍てついた。いくら全身に熱を帯びようとも冷気に勝ることはない。これにはリカバリも苦笑い。
「あら~!やるねぇ、おチビちゃん!さすがは天使改良の権威ってわけね!」
「恐竜型は冷気に弱い!悪いけど、キミじゃワタシの銀狼型には勝てないよ!」
狼型天使を改良した、サイハ専用の銀狼型。恐竜型に対抗するべく、サイハが特別に用意した天使だ。
大火竜は、すっかり白くなっていた。あまりの冷気に機能が停止している。けれどリカバリは、けろりとしていた。
「やっぱ分が悪いね!ま、いいか!失敗はしたけどちゃんと仕事はしたし、誰にも文句は言わせないよ!」
気付けば、一羽の鷹型天使が頭上を飛び回っている。そのうち大火竜の背に留まったかと思うと、まもなく爆弾を残して飛び立った。
冷気を吹き飛ばす爆風。大火竜は息を吹き返した。依然として気性は荒く、闘志もみなぎる。けれど、リカバリは退いた。実にあっけない。
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