天使調律師

しろくじちゅう

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神の名は@(アット)

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 スペーシアは、誰よりも天使を憎んだ。我が聖銀河の衰退は、天使の台頭によるものだと思い込んでいた。すべては天使の発明者であるゼンノウの責任。しかし、いくら憎んだところでゼンノウはとうの昔に死んでいる。だから、彼の遺産である天使を憎んだ。奴らはいまだに生き残っている。一刻も早く絶滅させなければ。スペーシアはそう改めて決意した。しかし、障害は多い。
「レイヤ…!竜調ギルド…!なんて憎たらしいのかしら!」
 聖銀河テクニカ階都支社。スペーシアは腹を立てていた。幹部候補となる調律師を集め、叱りつけることに夢中だ。
「本当に使えないしもべたちだこと!!あなたたちのせいでわたくしの撃滅竜が灰になってしまいましたわ!!」
「やだねぇ。一対一の勝負で負けたんだろ?素直に負けを認めな、お嬢さま」
 リカバリが愚痴をこぼしたのをスペーシアは聞き逃さない。
「あら、生意気ね。ミハルを足止めできなかったくせに」
「過ぎたことさ。とにかく仕事はしたんだから別にいいだろ?」
「いいえ。罰として大火竜は没収」
「はぁ~!じゃあ、アタシはこれからどうすればいいのさ!?」
「さぁ?調律師なんだから天使くらい自力で調達しなさいな」
 ずっとこの調子だ。延々と叱責が続いている。それでもスペーシアの怒りは一向に収まらない。どうにか機嫌を直してほしいところだ。コネクタがほほえんで進み出た。
「スペーシア。僕をごらん」
「おもしろい顔ね」
「そう思うなら笑ってくれよ。君のステキな笑顔はどこへ消えてしまったんだい?」
「……ほんと、気取ってばかりでちっとも役に立たない男。そろそろ潮時かしら」
「ま、まさか…!僕を幹部候補から外すって言うんじゃないだろうね!?これまで君に尽くしてきたこの僕を!」
「これが最後のチャンスよ。今すぐレイヤから二体の大天使型を奪ってきなさい!」
 コネクタは困り果ててしまった。やはり彼ひとりの力では心もとない。返り討ちに遭うのは目に見えている。だから、スペーシアは続けて命じた。
「アラシ。コネクタに手を貸してあげなさい」
「やるならオレひとりでやる。コネクタなんざただの足手まといだ。必要ねぇ」
 アラシには自信があった。不敵な笑みだ。大天使を狩りに出かけたくてうずうずしている。しかし、スペーシアからすれば彼もコネクタと大差ない。
「聞こえなかったかしら?コネクタに手を貸せ。わたくしはそう命じていてよ」
「テメェの指図は受けねぇ!オレはオレのやり方でやる!」
「彼女がどうなってもいいの?」
「………チッ。ふたりで行きゃあいいんだろ」
「そう、あなたはわたくしに逆らえない。水天使みずてんしが聖銀河の手中にある限り、ね」
 大天使は確かに手ごわい。しかし、こちらには恐竜型・聖銀河式がある。性能では見劣りする量産型であるが、数を束ねればたちまち強大な力となる。それこそ大天使を上回るほどに。
 スペーシアには確かな勝算があった。調律師を滅ぼし、天使を滅ぼし、そしてゼンノウの一族をも滅ぼすためにこれまで準備を整えてきた。決して抜かりはない。竜の軍団でもって大天使を制してみせる。ところがだ。
「少し待ってもらえませんか」
 現れたのは、ひとりの少年。実にみずほらしい格好をしている。彼もまた、幹部候補の調律師である。随分と遅刻をしてきたが、慌てる素振りも謝る様子もない。
「スペーシア。大天使強奪の件、ボクひとりに任せてもらえませんか」
 スペーシアは静かにうなずいた。

 レイヤは自然公園に呼び出されていた。気が進まないながらも向かってみると、竜調ギルドの団長ミハルが待ちかねていた。深刻な面持ちでいたから、きっとただならぬ用事なのだ。レイヤは呼び出しに応じたことを少しだけ後悔した。
「なんだよ、わざわざこんなところで」
「単刀直入に言おう。お前の持つ大天使型を我々に引き渡してくれないか。撃滅竜を一撃で滅ぼしたあの力…危険すぎる」
「羽根のことか?心配するなよ。あれは一時的なパワーアップ。いざという時にだけ…」
「一時的だろうと危険なものは危険だ。破壊する必要がある」
「おい、ちょっと待てよ!誤解してるって!」
「誤解はない。大天使型はすべて危険。破壊すべき存在であると!」
 その時、巨人型天使が降り立った。先の戦いで撃滅竜から受けた傷は深く、いまだ片腕がないままだ。それでもミハルによって戦いに駆り出された。大天使を破壊すべくレイヤに襲いかかった。
 冗談じゃないぞ。レイヤは慌てた。ミハルとはまるで話が通じない。こうなればしかたない。力尽くに打って出るのなら受けて立つまで。
 突然、つむじ風に乗って火の粉が吹きすさんだ。それは大天使降臨の予兆。まもなくして火天使と風天使が天より舞い降りた。巨人型天使と戦うべく、レイヤの元につかわされたのだ。
 火天使は火を、風天使は風を武器とした。自然を意のままに操り、巨人型に立ち向かった。一方、巨人型は長大な剣を武器とした。しかし、片腕がないのでは不利は否めない。たちまち劣勢に追い込まれた。それでもミハルは意地になって戦いをやめようとしない。その頑なな姿勢にレイヤは疑念を抱いた。
「もうやめろ!このままじゃオマエの天使がかわいそうだ!」
「まだだ。たとえ片腕がなくともパワーでは優位に立っている。一撃で決める」
「聞こえないのかよ!?オマエの天使の悲鳴が!このままだと持たないぞ!」
 巨人型天使の駆動音は、ひどいものだった。錆びついてきしんだような音がする。重症だ。すぐにでも調律して整えてやる必要がある。なのに、ミハルは酷使することをやめない。
「それがどうした。戦いに悲鳴はつきものだ」
「天使は戦いの道具じゃない!耳をすませばわかることだろ!」
「黙れ!戦士に慈悲などいらん!」
 巨人型は傷だらけの身体に鞭打って奮い立った。戦って死ぬのなら本望だ。そう叫んでいるかのようだ。レイヤは、なんだか悲しくなった。そう感じたのは彼だけではない。
「あ、やっぱり!!バカ団長!!」
 血相を変えて駆けつけてきたのは、サイハだ。彼女は竜調ギルドの副団長。目下の立場にありながら団長であるミハルを叱り飛ばした。
「コラ~ッ!!巨人さんがかわいそうでしょ!?まだ修理も調律も終わってないのに!!無断で持ち出さないで!!」
「緊急事態だ。大天使破壊は急を要する」
「バカ!バカ、バカ!!大天使は破壊しちゃダメなんだってば!!世界で七体しかない貴重な天使なんだよ!?」
「貴重ではない。危険なのだ」
「レイヤが管理してる分には大丈夫!!ほら、こんな喧嘩おわりにして!」
 こうまで叱られては面目が丸つぶれだ。ミハルは渋々ながらも巨人型を退けた。いくら団長といえどもDr.サイハにだけは弱かった。
 巨人型は相当に傷ついている。片腕もない。こんな状態でよく戦えたものだ。サイハは巨人を労わった。
「よしよし、よくがんばったね~。すぐ治してあげるから!」
 銀狼の群れが、修理と調律に必要な物資を運んできた。工具や機器、真新しい巨人の片腕だ。サイハは、この場で治してやるつもりなのだ。なんとも仕事が早い。レイヤは感心させられた。
「おし!手伝うぜ、サイハ!」
「キミの腕じゃ無理!だって、巨人型はワタシが強化改良して作ったオリジナル天使なんだもん!」
「へぇ~、やっぱりかぁ。巨人型なんて地元でも見たことないからなぁ」
「ほら!ワタシの銀狼は、狼型を改良したものなんだよ!あとね、マリアちゃんの白鯨は鯨型をワタシが改良して作ったんだ!それと…」
「あ~、もういいから」
 ふと気付くと、いつの間にかマリアの姿があった。ミハルとなにやら話し込んでいる。何を話しているのだろう。気になった矢先、マリアはミハルのそばを離れてこちらにやって来た。
「ごめんなさい、レイヤくん。うちの団長が早とちりしてしまって。彼、まだ大天使型への理解が浅いのよ」
「いいって。大天使の羽根が危険なのは事実だ」
「ええ。そして、その羽根を聖銀河が持っていた」
「スペーシア…。アイツ…」
 皆してすっかり気を抜いていた。そのせいで忍び寄る不審な影に誰も気付けないでいた。人知れず放たれた一本の矢。それは弱りきった巨人型の胸を貫いた。
 まさに奇襲。巨人型にとっては致命傷だった。サイハは絶句し、マリアは息を呑んだ。愕然とするばかりだ。しかし、レイヤとミハルは、とうに敵の正体を捉えていた。
「オマエは!!」
 それは大天使型・地天使だった。弓矢を携え、角の立派な鹿型天使にまたがっている。すかさず矢をつがえ、今度はレイヤに向けて放とうとした。
「コイツ、スペーシアの差し金か!?」
 レイヤは迷わず応戦しようとした。ところが、地天使はそれよりも早く矢を放った。矢筒から矢を取り出して射るまでに一秒とかからない。目にも止まらぬ早業でレイヤを射止めようとしたのだ。
 まずい…。危機も束の間、風天使がレイヤを庇って代わりに矢を受けた。おかげで九死に一生を得た。ただし、風天使にとっては災難だった。地天使の矢は獲物を射止めると同時にその全身をいばらで覆い尽くしてしまった。
 風天使は荊に縛られた。巨人型も同様だ。もはや身動きできない。レイヤは呆気にとられた。
「まるで狩人みたいだ…!」
「ぼうっとするな!荊など焼き切ってしまえ!」
 ミハルにそう助言され、レイヤは我に返った。そうだ、慌てることもない。火天使に炎を吹かせれば荊など燃え尽きて無くなる。そうやって気を落ち着かせている間にも地天使は矢を放ち、火天使を射止めてしまった。これにはレイヤも歯ぎしりした。
「コ、コイツ…!オレに何もさせないつもりか!?」
「大天使型は一撃が強力だが、手数が少ない。奴はその短所を弓矢で補っている…」
 ミハルは悠長だったが、状況は悪くなる一方だ。風天使だけでなく、火天使さえも荊で縛られてしまったのだ。しかし、逆転は容易だ。レイヤは火天使の翼から羽根を一本引き抜いた。そのことに真っ先に気付いたのは、マリアだ。
「駄目よ、レイヤくん!!」
「大丈夫、うまくやる!!」
「その力は天使に負担がかかりすぎる!下手したら、火天使が木っ端微塵に壊れてしまうわ!」
 やはりレイヤはためらった。するとだ。
「使いなさい。そうしなければ、アナタに勝機は訪れない」
 みずほらしい格好の少年が木陰から出てきてレイヤの背中を押した。その少年こそ地天使の主。
「オマエは!?」
「すべての天使の支配者。つまり、神」
「ふざけるな!オマエも聖銀河に味方する調律師か!」
「ボクがここへ来たのは、天使を滅ぼすためじゃない。アナタの持つ大天使型を奪うため」
「させるか、そんなこと!」
 レイヤは覚悟を決めた。大天使を聖銀河に奪われてなるものか。羽根を天に向かって掲げたが、やはり地天使の方が早かった。火天使が覚醒する前に矢をつがえ、そこでレイヤは気付いた。その矢羽根には地天使の羽根が使われていることに。
 言うなれば大天使の矢。まもなくその威力を目の当たりにするだろう。矢は放たれた瞬間に光り輝いた。レイヤは頭が真っ白になった。
「立ち上がれ!!そして、すべてを守れ、しろがねの守護神よ!!」
 ミハルは叫んだ。巨人型は最後の力を振り絞った。荊を振りほどいて立ち上がり、そしてレイヤの盾となって矢を受けた。
 目もくらむ閃光。巨人は砕け散り、跡形もなく消えてしまった。わずかな残骸だけが残されたが、もはや修復は叶わない。銀の守護神は死んだのだ。
 大天使の矢の威力はすさまじかった。その余波に皆は倒れた。レイヤだけでなく、サイハもマリアもミハルも傷ついた。
 みずほらしい少年は、風天使に向かって言った。
「帰りなさい。アットの名のもとに」
 風天使は荊から解き放たれた。少年を新たな主として認め、付き従った。
 なにもできず、風天使を奪い去られてしまった…。レイヤは悔しさを噛みしめた。痛みを押して揺らぎ立ち、そして誓った。謎の少年@。彼から風天使を取り返すと。
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