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第1話 辺境の赤髪騎士
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夜明け前の冷気が立ち込める辺境の詰所。その空気を、男たちの下卑た陰口が濁らせる。
「……チッ。今日も一番乗りかよ、あの女騎士様は」
「黙ってりゃあ可愛い顔してるのにな。あの鎧、風呂でも脱がねぇんじゃねえか?」
「女の癖に偉そうにしやがって。どうせ出世のために男と寝たんだろ」
同僚の騎士たちが投げる侮蔑の言葉。その中心にいるエリスは、燃えるような赤髪を兜に押し込め、分厚いプレートメイルに身を包み、彼らに一瞥もくれずに羊皮紙の任務報告書を手に取った。
「本日の任務。南の森におけるゴブリンの掃討。……私一人で十分です」
「あぁ? おい、エリス! 待てよ、勝手な行動は――」
制止を振り切り、エリスは一人、馬を駆った。
彼女の全身を覆う重々しい鎧は、鍛え上げられた肉体と、それ以上に豊満な胸の起伏を隠すためのものだ。
騎士としての実力とは無関係に浴びせられる性的な視線。
それが彼女のコンプレックスであり、彼女をより一層、生真面目で近寄りがたい雰囲気にさせていた。
(私は騎士エリス。女王陛下の剣として、民を守ると誓った者です)
馬上で己に言い聞かせる。彼女は、中央の騎士団から左遷されてきた身だ。
原因は、彼女の融通の利かない高潔さ。
戦場で軍規を破り、略奪と暴行に及んだのが女王の一族の男であったにもかかわらず、エリスは軍法会議を待たずにその場で彼を処刑した。
「あなたは間違ってない。でも正しくもない。ただ彼の話を聞くべきだった。どんな悪事にも理由があるはず」
辺境へ立つ日、女王陛下はそう告げた。
「見聞を広め、また戻ってきてほしい」
あれは罰ではない。女王の期待に応えるための試練だ。
(私の忠義だけは、何者にも汚させはしない)
森に入ると、腐臭と甲高い鳴き声が空気を震わせた。報告にあったゴブリンだ、数は三。
エリスは馬から飛び降りると同時に剣を抜く。
「問答無用! これ以上の蛮行は、私が許さない!」
一瞬の踏み込み。一閃。一匹目のゴブリンの首が宙を舞う。残りの二匹が棍棒を振り上げるより早く、エリスの身体は強化魔法の淡い光を纏い、回転しながら二匹の胴を薙ぎ払った。 返り血を兜のバイザーで受け止めながら、エリスは無感動に剣を振るう。
(任務に大小はない。目の前の脅威を排除するまでだ)
その日の任務をすべて終え、兵舎の自室に戻ったのは、日がとうに暮れてからだった。
重い鎧を一つずつ外していく。ガントレット、グリーヴ、そして胸当て。
解放された豊満な胸が、自らの重みで微かに揺れる。
「……不要なものだ」
忌々しげに呟き、入浴後に寝間着に着替えて冷え切った寝台に潜り込む。
疲労困憊のはずの身体は、しかし、安らかな眠りを拒んでいた。
じっとりとした湿り気が、不快に肌を打つ。 エリスは、はっと息を呑んで跳ね起きた。
心臓が嫌な音を立てて脈打っている。
また、あの「淫らな夢」だ。 内容はいつも通り、夜明けの光に溶けたかのように記憶から抜け落ちている。
だが、身体が火照っており、女の部分が熱く潤っているのが自分でも分かる。
そして身体に残る感覚だけが生々しかった。
シーツを握りしめた指先が、シーツがぐっしょりと湿っているのを感知する。
「……っ!」
それは汗ではない。
自分の意思とは無関係に、身体の奥から溢れ出たものだと、その粘り気と微かな匂いが告げていた。
「……なぜだ。私の身体は……淫らな気分に…おかしいのか……」
誰にも言えぬ屈辱と混乱が、エリスの胸を掻き乱す。
騎士として厳しく律してきたはずの肉体が、夜ごと制御を失う。
高潔な騎士であろうと誓う心とは裏腹に、身体は不可解な反応を続けている。
この辺境の地で、エリスは誰にも知られず、己の内なる異変に怯えていた。
「……チッ。今日も一番乗りかよ、あの女騎士様は」
「黙ってりゃあ可愛い顔してるのにな。あの鎧、風呂でも脱がねぇんじゃねえか?」
「女の癖に偉そうにしやがって。どうせ出世のために男と寝たんだろ」
同僚の騎士たちが投げる侮蔑の言葉。その中心にいるエリスは、燃えるような赤髪を兜に押し込め、分厚いプレートメイルに身を包み、彼らに一瞥もくれずに羊皮紙の任務報告書を手に取った。
「本日の任務。南の森におけるゴブリンの掃討。……私一人で十分です」
「あぁ? おい、エリス! 待てよ、勝手な行動は――」
制止を振り切り、エリスは一人、馬を駆った。
彼女の全身を覆う重々しい鎧は、鍛え上げられた肉体と、それ以上に豊満な胸の起伏を隠すためのものだ。
騎士としての実力とは無関係に浴びせられる性的な視線。
それが彼女のコンプレックスであり、彼女をより一層、生真面目で近寄りがたい雰囲気にさせていた。
(私は騎士エリス。女王陛下の剣として、民を守ると誓った者です)
馬上で己に言い聞かせる。彼女は、中央の騎士団から左遷されてきた身だ。
原因は、彼女の融通の利かない高潔さ。
戦場で軍規を破り、略奪と暴行に及んだのが女王の一族の男であったにもかかわらず、エリスは軍法会議を待たずにその場で彼を処刑した。
「あなたは間違ってない。でも正しくもない。ただ彼の話を聞くべきだった。どんな悪事にも理由があるはず」
辺境へ立つ日、女王陛下はそう告げた。
「見聞を広め、また戻ってきてほしい」
あれは罰ではない。女王の期待に応えるための試練だ。
(私の忠義だけは、何者にも汚させはしない)
森に入ると、腐臭と甲高い鳴き声が空気を震わせた。報告にあったゴブリンだ、数は三。
エリスは馬から飛び降りると同時に剣を抜く。
「問答無用! これ以上の蛮行は、私が許さない!」
一瞬の踏み込み。一閃。一匹目のゴブリンの首が宙を舞う。残りの二匹が棍棒を振り上げるより早く、エリスの身体は強化魔法の淡い光を纏い、回転しながら二匹の胴を薙ぎ払った。 返り血を兜のバイザーで受け止めながら、エリスは無感動に剣を振るう。
(任務に大小はない。目の前の脅威を排除するまでだ)
その日の任務をすべて終え、兵舎の自室に戻ったのは、日がとうに暮れてからだった。
重い鎧を一つずつ外していく。ガントレット、グリーヴ、そして胸当て。
解放された豊満な胸が、自らの重みで微かに揺れる。
「……不要なものだ」
忌々しげに呟き、入浴後に寝間着に着替えて冷え切った寝台に潜り込む。
疲労困憊のはずの身体は、しかし、安らかな眠りを拒んでいた。
じっとりとした湿り気が、不快に肌を打つ。 エリスは、はっと息を呑んで跳ね起きた。
心臓が嫌な音を立てて脈打っている。
また、あの「淫らな夢」だ。 内容はいつも通り、夜明けの光に溶けたかのように記憶から抜け落ちている。
だが、身体が火照っており、女の部分が熱く潤っているのが自分でも分かる。
そして身体に残る感覚だけが生々しかった。
シーツを握りしめた指先が、シーツがぐっしょりと湿っているのを感知する。
「……っ!」
それは汗ではない。
自分の意思とは無関係に、身体の奥から溢れ出たものだと、その粘り気と微かな匂いが告げていた。
「……なぜだ。私の身体は……淫らな気分に…おかしいのか……」
誰にも言えぬ屈辱と混乱が、エリスの胸を掻き乱す。
騎士として厳しく律してきたはずの肉体が、夜ごと制御を失う。
高潔な騎士であろうと誓う心とは裏腹に、身体は不可解な反応を続けている。
この辺境の地で、エリスは誰にも知られず、己の内なる異変に怯えていた。
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