【R18】辺境に堕ちた赤髪の女騎士エリス ~その高潔な身体を魔女が狙う最強の『器』~

叡智な書斎の司馬艶

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第4話 銀髪の魔女

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使者の視線に促され、エリスが詰所の外へ出ると、そこには場違いな一台の馬車が停まっていた。
そして、その傍らに立つ人影を見て、エリスは警戒に眉をひそめた。
深いフードを目深に被り、身体の線が露骨にわかる、魔術的な装飾の施されたローブを纏った女。
フードの奥からは、艶やかな銀髪が月光のように覗いている。
その妖艶で肉感的な佇まいは、全身を分厚い鎧で覆い隠したエリスとはまさに対極にあった。

「……魔女、か…」

エリスにとって、「王国騎士」であることは、単なる職業ではない。それは彼女の存在意義そのものだった。
たとえ理不尽な左遷によって辺境の泥にまみれようとも、彼女は「女王陛下」という絶対の頂点が存在する「規律」の枠組みの中にいた。
忠義を捧げる対象があり、守るべき法がある。それこそが、世界を正しく保つ秩序だと信じていた。

だが、目の前の魔女は、その全てを嘲笑うかのように存在していた。

(どこの国にも属さず、誰にも忠義を誓わない…!)

モルガナからは、エリスが命を懸けて守ろうとする「秩序」の匂いが一切しない。 あるのは、自らの欲望や探究心といった、生々しく制御不能な「混沌」だけだ。

法や規律の外側で、予測不能な力(魔法)を振り回す存在。 それはエリスにとって、ゴブリンやモンスターといった「既知の脅威」とは比較にならない、世界そのものを歪めかねない「生理的な脅威」だった。

組織人であるエリスが、一個の「混沌」と対峙させられる。
それは、水と油以上に相容れない、強烈な嫌悪感だった。

使者が咳払いを一つして紹介した。

「こちらが、女王陛下より派遣された協力者、モルガナ様です」

女――モルガナが、ゆっくりと顔を上げる。その細められた瞳は、爬虫類のように妖しい光を宿していた。

「あら、怖い顔。そんなに私と組むのがお嫌かしら、騎士様?」
ねっとりとした、含みのある声。

(……この声)

エリスは眉を寄せる。初めて会うはずの女。
だが、その声はどこかで――それこそ毎夜のように――聞いているような、不快な既視感(既聴感)を伴っていた。思い出そうとしても、記憶には霞がかかったように掴めない。
ただ、本能が警鐘を鳴らしていた。この女は、危険だ、と。

「貴方が魔女モルガナ……」

エリスは剣の柄に手をかけ、露骨に敵意を向ける。

「騎士の任務に、魔女の助けなど不要です! 陛下は一体何を……!」
「エリス騎士」

使者が厳しい声で制する。

「これは、女王陛下直々のご命令です。……モルガナ様の知見が、今回の調査には不可欠である、と」
「くっ……!」
女王の命令。その一言が、エリスの反論を封じ込める。
たとえ本能が拒絶しようとも、女王の意向には逆らえない。

その間、モルガナはエリスを値踏みするように、頭の先から足の先まで、ねっとりと視線を這わせていた。
その視線は、まるでエリスが纏う分厚いプレイトメイルを透かし、その下に隠された豊満な肉体、そしてその奥にある秘密までも見通しているかのようだ。
やがてモルガナは、満足そうに唇を舐めずり、妖艶な笑みを浮かべた。

「ふふ、よろしくてよ」

モルガナはゆったりとエリスに歩み寄ると、その兜の耳元で、囁くように言った。

「ねぇ、騎士様。……貴方が抱える『夜の悩み』も、私なら治してあげられるかもしれないわよ?」
「――!?」

エリスの全身に、冷たい戦慄が走った。
なぜ、この女が。 毎夜、不可解な夢にうなされ、淫らな感覚と共に目覚めるという、誰にも知られるはずのない秘密を。

「昨夜はよくお眠りだったようだけれど。……随分と、『アセ』をかいていたみたいね?」

兜の下で、エリスの顔がかっと赤らむのが自分でも分かった。

(汗……だと?)

他の者が聞けば、ただの「寝汗」としか受け取らないだろう。
だが、モルガナのねっとりとした言い方と、「愛液」をわざと「汗」と言い換えたようなその響きは、それが何であるかを確信している者のそれだった。
まるで悪夢の張本人であるかのように笑うモルガナの瞳に、エリスは戦慄と、己の最も恥ずべき秘密を見透かされたことへの、底知れぬ屈辱を覚えるしかなかった。
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