37 / 41
第12章 上野の亡霊、文明の宴
3話
しおりを挟む
扉の向こうからは、万雷の拍手が聞こえた。
続けて、油の浮いたような男の声が響く。鈴木三樹三郎だ。
「……えー、皆様。本日は、元老院の永井尚志様、工部大学校の大鳥圭介校長の発起による『旧幕臣育英会』の発足式に、かくも多数お集まりいただき……」
相馬主計は、扉に耳を押し当てていた。
隣で、永倉新八が冷ややかな目で相馬を見る。
(育英会……。日野で見た招待状の通りか)
相馬の口元が、冷笑に歪んだ。
静岡で困窮する旧幕臣たちを救うための慈善事業。
それが表向きの理由だ。
だが、その美名の下で、奴らは自分たちが横領した汚い金を洗浄し、保身のための密談を行おうとしている。
かつての仲間を救うふりをして、かつての仲間を売った罪を隠す。
その欺瞞が、相馬の神経を逆撫でする。
「……聞こえるか、相馬。豚が崇高な御託を並べてやがる」
永倉が囁いた。
「ええ。……反吐が出ます」
「終わらせようぜ」
永倉の手が動いた。
蝶番は既に破壊されている。
永倉は、音もなく扉に隙間を作り、そこから闇のように滑り込んだ。
相馬も続く。
扉の向こうには、別世界が広がっていた。
豪奢な絨毯。磨き上げられた柱。
そして、中央の円卓を囲む三十人ほどの紳士淑女。
彼らは、壁際の影から現れた二人の男に気づかず、鈴木の演説に聞き入っている。
永倉は、天井を見上げた。
巨大な吊り硝子灯が、無数の蝋燭の光を反射して輝いている。
この場の「文明」を象徴する光。
「……眩しすぎるな」
永倉が低く呟いた。
次の瞬間、愛刀が一閃した。
ガシャーン!
硝子灯を吊るしていた太い鎖が断ち切られ、巨大な光源が床に落下した。
轟音と共に硝子が砕け散り、部屋が一気に暗転する。
光源は、壁際のわずかな瓦斯灯だけとなった。
深い陰影が生まれ、着飾った人々が青ざめた亡霊のように浮かび上がる。
「キャアアッ!」
「な、なんだ!? 」
悲鳴と怒号が飛び交う中、永倉の声が響いた。
決して大声ではない。だが、混乱する会場の空気を一瞬で支配する、ドスの効いた声だった。
「……騒ぐな。昔のツケを払いに来ただけだ」
その言葉に、上座にいた男たちの顔色が変わったのが見えた。
永倉は顔を手拭いで隠している。だが、その殺気だけで十分だった。
過去に後ろめたいことをした者だけが感じる、死神の足音。
「ひっ……」
演説をしていた鈴木三樹三郎が、手に持っていた葡萄酒の杯を取り落とした。
赤い液体が床に広がる。
鈴木は、薄暗がりの中に立つ相馬を見て、小刻みに震えだした。
口がパクパクと動いているが、声になっていない。
死んだはずの男を目にした恐怖が、言葉を奪ったようだった。
相馬は、鈴木の狼狽を無視し、真っ直ぐに歩み寄った。
その視線の先には、卓の中央に飾られた硝子の箱があった。
防腐水に漬けられた、干からびた生首。
「旧幕臣への見せしめ」あるいは「同情を買うための道具」として置かれたものだろう。
相馬は箱を覗き込み、鼻で笑った。
「……趣味が悪いな、鈴木」
相馬は兼定の鞘で、硝子を叩き割った。
パリン、という音と共に薬液がこぼれ出し、生首が床に転がる。
「それが副長だと? ……よくもぬけぬけと」
相馬は転がった首を一瞥もしなかった。
偽物だ。見る価値もない。
だが、土方の名を騙り、金集めの道具にした罪は万死に値する。
相馬は一足飛びに間合いを詰め、鈴木の胸ぐらを掴み上げた。
兼定の切っ先を、喉元の肉に食い込ませる。
「ひッ! た、助けてくれ! 金ならやる! いくらだ! 」
「黙れ」
相馬の冷徹な一言が、鈴木の命乞いを封じた。
その時。
部屋の奥、給仕用の扉が開いた。
黒服の男たちが雪崩れ込んでくる。
大鳥圭介が配置していた予備の護衛兵だ。
手には短筒が握られている。
「動くなッ! 」
十数個の銃口が、相馬と永倉に向けられた。
絶体絶命の包囲網。
だが、その中心にいる大鳥圭介だけは、奇妙なほど冷静に見えた。
彼は椅子から立ち上がりもせず、じっと相馬を見つめている。
その視線は、相馬の顔ではなく、懐のあたりに注がれていた。
探るような目。
相馬には、大鳥の思考が手に取るように分かった。
(刺客が戻ってこない。そして相馬がここに来た。……ということは、最悪の事態が起きたということだ)
大鳥の目が、そう語っている。
大鳥は、表情一つ変えずに護衛たちへ目配せをした。
冷酷な指揮官の目。
顎がわずかに動く。「撃て」の合図だ。
「撃てッ! 」
護衛隊長が叫ぶ。
「鈴木ごと撃ち殺せ!」
「なっ……大鳥さん!? 」
鈴木が絶叫する。
自分が使い捨ての駒であったことを、突きつけられた銃口で悟ったのだろう。
引鉄が引かれる寸前。
相馬の手が動いた。
懐から一通の書状を取り出し、兼定の切っ先に突き刺して高く掲げる。
「撃てるものなら撃ってみろ! 」
相馬の裂帛の気合いが、銃声を止めた。
「これは永井尚志が書き、大鳥圭介が実行した、友軍殺しの命令書だ!」
広間が静まり返った。
大鳥の眉が、ピクリと跳ねた。
図星だったのだ。
相馬は、銃口の列を睨みつけながら言葉を続けた。
「あんたたちは『徳川を守るため』と言って、土方副長を背後から撃った。……だが、これを見ろ。仲間を騙し討ちにし、保身のために歴史を偽ることが、あんたたちの守りたかった『誇り』なのか! 」
相馬は書状を突きつけた。
「俺たちがここで死ねば、この書状は同志の手によって世間にばら撒かれる。……そうなれば、徳川の名は地に落ちるぞ。未来永劫、『卑劣な裏切り者の一族』としてな!」
それは、物理的な脅しではなかった。
彼らが命懸けで守ろうとした「大義」そのものを人質に取った、魂の脅迫だった。
護衛たちが動揺し、大鳥の方を見る。
大鳥の額に、脂汗が滲んでいるのが見えた。
ここで相馬を殺せば、秘密は漏れる。
かといって、生かしておけば……。大鳥の合理的な思考が、袋小路に入って軋んでいる。
「……待て」
沈黙を破ったのは、最奥の席に座っていた老人だった。
永井尚志。
騒ぎの中でもグラスを離さず、事の成り行きを静観していた黒幕。
永井は、ゆっくりと立ち上がった。
その顔には、怒りも焦りもなかった。
あるのは、諦観に似た静けさだけ。
「……そこまでだ、大鳥君」
永井の声が、会場の空気を鎮めた。
「永井様……ですが!」
「勝負あった、ということだ」
永井は相馬を見た。
かつて自分が切り捨てた若者が、地獄の底から這い上がり、自分の喉元に刃を突きつけている。
その事実を、永井は噛み締めているように見えた。
「……私の負けだ、相馬君。その書状を収めてくれ」
永井が両手を挙げた。
それを見た護衛たちが、戸惑いながら銃を下ろす。
張り詰めていた糸が切れた。
鈴木が腰を抜かしてへたり込む。
だが、護衛たちはまだ銃を捨てていなかった。
彼らの目は泳いでいる。
トップが降伏しても、自分たちは罪に問われるかもしれない。ならば、隙を見て発砲し、逃げ出そうか――そんな殺気立った迷いが、指先に残っている。
彼らの背後にある扉は、唯一の逃走経路だ。
その時だ。
「うわぁッ!? 」
最後尾にいた護衛の一人が、突然、悲鳴を上げて背後の闇へ引きずり込まれた。
まるで、見えない巨人に捕まれたかのように。
「な、なんだ!? 」
他の護衛たちが驚愕して振り返る。
廊下の奥から、重い足音が響いてくる。
ズシン、ズシン。
床板を軋ませる、地響きのような音。
「邪魔だッ! 」
野太い怒号と共に、何かが部屋の中へ投げ込まれた。
人だ。
先ほど引きずり込まれた護衛が、ボロ雑巾のように放り投げられ、仲間の列に突っ込んだ。
護衛たちが将棋倒しになる。
「ひッ……」
開け放たれた扉の向こう。
砂煙と血の匂いを纏って、一人の巨漢が姿を現した。
島田魁だ。
着物は破れ、全身が返り血で真っ赤に染まっている。
だが、その表情は仁王のように猛々しい。
手には刃こぼれした野太刀。
そして、その足元には、廊下で待ち伏せていたはずの増援部隊が、累々と屍のように転がっていた。
島田は、表の敵を壊滅させた後、館内へ突入し、下から上がってくる敵を背後から食い荒らしてここまで辿り着いたのだ。
「……遅かったな、島田」
永倉が呆れたように笑う。
「悪かったな。……一階の掃除に手間取ったわ」
島田は血を拭い、野太刀を肩に担いだ。
その巨大な体が、唯一の逃げ道である扉を完全に塞いでいる。
前には、相馬と永倉。
後ろには、島田。
敵は完全に袋の鼠となった。
武力による抵抗も、逃走も、すべて封じられた。
永倉新八が、刀についた油を振るい、鞘に納めた。
カチリ、という音が静寂に響く。
永倉は、青ざめる大鳥と、観念した永井、そして恐怖に震える私兵たちを見渡し、短く告げた。
「……これで、詰みだ」
上野精養軒。
文明開化の宴は、古き狼たちの牙によって終わりを告げた。
硝煙の匂いではなく、真実という名の風が、会場を吹き抜けていった。
続けて、油の浮いたような男の声が響く。鈴木三樹三郎だ。
「……えー、皆様。本日は、元老院の永井尚志様、工部大学校の大鳥圭介校長の発起による『旧幕臣育英会』の発足式に、かくも多数お集まりいただき……」
相馬主計は、扉に耳を押し当てていた。
隣で、永倉新八が冷ややかな目で相馬を見る。
(育英会……。日野で見た招待状の通りか)
相馬の口元が、冷笑に歪んだ。
静岡で困窮する旧幕臣たちを救うための慈善事業。
それが表向きの理由だ。
だが、その美名の下で、奴らは自分たちが横領した汚い金を洗浄し、保身のための密談を行おうとしている。
かつての仲間を救うふりをして、かつての仲間を売った罪を隠す。
その欺瞞が、相馬の神経を逆撫でする。
「……聞こえるか、相馬。豚が崇高な御託を並べてやがる」
永倉が囁いた。
「ええ。……反吐が出ます」
「終わらせようぜ」
永倉の手が動いた。
蝶番は既に破壊されている。
永倉は、音もなく扉に隙間を作り、そこから闇のように滑り込んだ。
相馬も続く。
扉の向こうには、別世界が広がっていた。
豪奢な絨毯。磨き上げられた柱。
そして、中央の円卓を囲む三十人ほどの紳士淑女。
彼らは、壁際の影から現れた二人の男に気づかず、鈴木の演説に聞き入っている。
永倉は、天井を見上げた。
巨大な吊り硝子灯が、無数の蝋燭の光を反射して輝いている。
この場の「文明」を象徴する光。
「……眩しすぎるな」
永倉が低く呟いた。
次の瞬間、愛刀が一閃した。
ガシャーン!
硝子灯を吊るしていた太い鎖が断ち切られ、巨大な光源が床に落下した。
轟音と共に硝子が砕け散り、部屋が一気に暗転する。
光源は、壁際のわずかな瓦斯灯だけとなった。
深い陰影が生まれ、着飾った人々が青ざめた亡霊のように浮かび上がる。
「キャアアッ!」
「な、なんだ!? 」
悲鳴と怒号が飛び交う中、永倉の声が響いた。
決して大声ではない。だが、混乱する会場の空気を一瞬で支配する、ドスの効いた声だった。
「……騒ぐな。昔のツケを払いに来ただけだ」
その言葉に、上座にいた男たちの顔色が変わったのが見えた。
永倉は顔を手拭いで隠している。だが、その殺気だけで十分だった。
過去に後ろめたいことをした者だけが感じる、死神の足音。
「ひっ……」
演説をしていた鈴木三樹三郎が、手に持っていた葡萄酒の杯を取り落とした。
赤い液体が床に広がる。
鈴木は、薄暗がりの中に立つ相馬を見て、小刻みに震えだした。
口がパクパクと動いているが、声になっていない。
死んだはずの男を目にした恐怖が、言葉を奪ったようだった。
相馬は、鈴木の狼狽を無視し、真っ直ぐに歩み寄った。
その視線の先には、卓の中央に飾られた硝子の箱があった。
防腐水に漬けられた、干からびた生首。
「旧幕臣への見せしめ」あるいは「同情を買うための道具」として置かれたものだろう。
相馬は箱を覗き込み、鼻で笑った。
「……趣味が悪いな、鈴木」
相馬は兼定の鞘で、硝子を叩き割った。
パリン、という音と共に薬液がこぼれ出し、生首が床に転がる。
「それが副長だと? ……よくもぬけぬけと」
相馬は転がった首を一瞥もしなかった。
偽物だ。見る価値もない。
だが、土方の名を騙り、金集めの道具にした罪は万死に値する。
相馬は一足飛びに間合いを詰め、鈴木の胸ぐらを掴み上げた。
兼定の切っ先を、喉元の肉に食い込ませる。
「ひッ! た、助けてくれ! 金ならやる! いくらだ! 」
「黙れ」
相馬の冷徹な一言が、鈴木の命乞いを封じた。
その時。
部屋の奥、給仕用の扉が開いた。
黒服の男たちが雪崩れ込んでくる。
大鳥圭介が配置していた予備の護衛兵だ。
手には短筒が握られている。
「動くなッ! 」
十数個の銃口が、相馬と永倉に向けられた。
絶体絶命の包囲網。
だが、その中心にいる大鳥圭介だけは、奇妙なほど冷静に見えた。
彼は椅子から立ち上がりもせず、じっと相馬を見つめている。
その視線は、相馬の顔ではなく、懐のあたりに注がれていた。
探るような目。
相馬には、大鳥の思考が手に取るように分かった。
(刺客が戻ってこない。そして相馬がここに来た。……ということは、最悪の事態が起きたということだ)
大鳥の目が、そう語っている。
大鳥は、表情一つ変えずに護衛たちへ目配せをした。
冷酷な指揮官の目。
顎がわずかに動く。「撃て」の合図だ。
「撃てッ! 」
護衛隊長が叫ぶ。
「鈴木ごと撃ち殺せ!」
「なっ……大鳥さん!? 」
鈴木が絶叫する。
自分が使い捨ての駒であったことを、突きつけられた銃口で悟ったのだろう。
引鉄が引かれる寸前。
相馬の手が動いた。
懐から一通の書状を取り出し、兼定の切っ先に突き刺して高く掲げる。
「撃てるものなら撃ってみろ! 」
相馬の裂帛の気合いが、銃声を止めた。
「これは永井尚志が書き、大鳥圭介が実行した、友軍殺しの命令書だ!」
広間が静まり返った。
大鳥の眉が、ピクリと跳ねた。
図星だったのだ。
相馬は、銃口の列を睨みつけながら言葉を続けた。
「あんたたちは『徳川を守るため』と言って、土方副長を背後から撃った。……だが、これを見ろ。仲間を騙し討ちにし、保身のために歴史を偽ることが、あんたたちの守りたかった『誇り』なのか! 」
相馬は書状を突きつけた。
「俺たちがここで死ねば、この書状は同志の手によって世間にばら撒かれる。……そうなれば、徳川の名は地に落ちるぞ。未来永劫、『卑劣な裏切り者の一族』としてな!」
それは、物理的な脅しではなかった。
彼らが命懸けで守ろうとした「大義」そのものを人質に取った、魂の脅迫だった。
護衛たちが動揺し、大鳥の方を見る。
大鳥の額に、脂汗が滲んでいるのが見えた。
ここで相馬を殺せば、秘密は漏れる。
かといって、生かしておけば……。大鳥の合理的な思考が、袋小路に入って軋んでいる。
「……待て」
沈黙を破ったのは、最奥の席に座っていた老人だった。
永井尚志。
騒ぎの中でもグラスを離さず、事の成り行きを静観していた黒幕。
永井は、ゆっくりと立ち上がった。
その顔には、怒りも焦りもなかった。
あるのは、諦観に似た静けさだけ。
「……そこまでだ、大鳥君」
永井の声が、会場の空気を鎮めた。
「永井様……ですが!」
「勝負あった、ということだ」
永井は相馬を見た。
かつて自分が切り捨てた若者が、地獄の底から這い上がり、自分の喉元に刃を突きつけている。
その事実を、永井は噛み締めているように見えた。
「……私の負けだ、相馬君。その書状を収めてくれ」
永井が両手を挙げた。
それを見た護衛たちが、戸惑いながら銃を下ろす。
張り詰めていた糸が切れた。
鈴木が腰を抜かしてへたり込む。
だが、護衛たちはまだ銃を捨てていなかった。
彼らの目は泳いでいる。
トップが降伏しても、自分たちは罪に問われるかもしれない。ならば、隙を見て発砲し、逃げ出そうか――そんな殺気立った迷いが、指先に残っている。
彼らの背後にある扉は、唯一の逃走経路だ。
その時だ。
「うわぁッ!? 」
最後尾にいた護衛の一人が、突然、悲鳴を上げて背後の闇へ引きずり込まれた。
まるで、見えない巨人に捕まれたかのように。
「な、なんだ!? 」
他の護衛たちが驚愕して振り返る。
廊下の奥から、重い足音が響いてくる。
ズシン、ズシン。
床板を軋ませる、地響きのような音。
「邪魔だッ! 」
野太い怒号と共に、何かが部屋の中へ投げ込まれた。
人だ。
先ほど引きずり込まれた護衛が、ボロ雑巾のように放り投げられ、仲間の列に突っ込んだ。
護衛たちが将棋倒しになる。
「ひッ……」
開け放たれた扉の向こう。
砂煙と血の匂いを纏って、一人の巨漢が姿を現した。
島田魁だ。
着物は破れ、全身が返り血で真っ赤に染まっている。
だが、その表情は仁王のように猛々しい。
手には刃こぼれした野太刀。
そして、その足元には、廊下で待ち伏せていたはずの増援部隊が、累々と屍のように転がっていた。
島田は、表の敵を壊滅させた後、館内へ突入し、下から上がってくる敵を背後から食い荒らしてここまで辿り着いたのだ。
「……遅かったな、島田」
永倉が呆れたように笑う。
「悪かったな。……一階の掃除に手間取ったわ」
島田は血を拭い、野太刀を肩に担いだ。
その巨大な体が、唯一の逃げ道である扉を完全に塞いでいる。
前には、相馬と永倉。
後ろには、島田。
敵は完全に袋の鼠となった。
武力による抵抗も、逃走も、すべて封じられた。
永倉新八が、刀についた油を振るい、鞘に納めた。
カチリ、という音が静寂に響く。
永倉は、青ざめる大鳥と、観念した永井、そして恐怖に震える私兵たちを見渡し、短く告げた。
「……これで、詰みだ」
上野精養軒。
文明開化の宴は、古き狼たちの牙によって終わりを告げた。
硝煙の匂いではなく、真実という名の風が、会場を吹き抜けていった。
0
あなたにおすすめの小説
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし
かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし
長屋シリーズ一作目。
第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。
十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。
頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。
一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。
狐侍こんこんちき
月芝
歴史・時代
母は出戻り幽霊。居候はしゃべる猫。
父は何の因果か輪廻の輪からはずされて、地獄の官吏についている。
そんな九坂家は由緒正しいおんぼろ道場を営んでいるが、
門弟なんぞはひとりもいやしない。
寄りつくのはもっぱら妙ちきりんな連中ばかり。
かような家を継いでしまった藤士郎は、狐面にていつも背を丸めている青瓢箪。
のんびりした性格にて、覇気に乏しく、およそ武士らしくない。
おかげでせっかくの剣の腕も宝の持ち腐れ。
もっぱら魚をさばいたり、薪を割るのに役立っているが、そんな暮らしも案外悪くない。
けれどもある日のこと。
自宅兼道場の前にて倒れている子どもを拾ったことから、奇妙な縁が動きだす。
脇差しの付喪神を助けたことから、世にも奇妙な仇討ち騒動に関わることになった藤士郎。
こんこんちきちき、こんちきちん。
家内安全、無病息災、心願成就にて妖縁奇縁が来来。
巻き起こる騒動の数々。
これを解決するために奔走する狐侍の奇々怪々なお江戸物語。
日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー
黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた!
あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。
さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。
この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。
さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
四代目 豊臣秀勝
克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。
読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。
史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。
秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。
小牧長久手で秀吉は勝てるのか?
朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか?
朝鮮征伐は行われるのか?
秀頼は生まれるのか。
秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?
もし石田三成が島津義弘の意見に耳を傾けていたら
俣彦
歴史・時代
慶長5年9月14日。
赤坂に到着した徳川家康を狙うべく夜襲を提案する宇喜多秀家と島津義弘。
史実では、これを退けた石田三成でありましたが……。
もしここで彼らの意見に耳を傾けていたら……。
セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち
ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。
クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。
それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。
そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決!
その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる