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一巻 未知の始まり 第一章 始まりの時
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しおりを挟む「駄目だ。今、忙しい……出て行ってっ!」
飛華流の言う事をすんなりとは聞かず、真誠は黙々と手を動かす彼へ近寄る。漫画の創作作業に集中している飛華流の前へ、真誠は一枚の紙切れを出す。
「なあ、これ見ろよ! 俺、百点取ったんだ。すげーだろ?」
「はいはい、分かったから……どっか行って」
真誠の百点のテスト用紙を乱暴に投げ捨て、飛華流は深いため息をついた。
「なあ……あのピンク頭の変な奴さ、まだ家に居たぞ」
全く真誠を相手にしようとしない飛華流だったが、それを耳にし、彼の方へ顔を向けた。
「えっ……それ、本当に? ……真誠、あの子に会ったの?」
「……学校から帰ってきたら、思いっきり居たよ。静かにテレビ観てた」
訳の分からないまま、飛華流は真誠に質問を続ける。
「テ、テレビを? そっか……まだ家に?」
「風呂のドアが開いていて覗いてみたらさ……さっき、服着たまま勝手にシャワー浴びてたぞあいつ……絶対、ヤバい奴だ」
い、意味が分からない――なんか、怖いぞ。理解できない少女の行動に、飛華流は言葉を失った。
それと同時に、何を考えているか不明な少女に対する恐怖が膨らんだ。
「どうなってるんだって、ママに聞いたんだけど……後でゆっくり話すって言われてさ。あんなのが家に居たら、落ち着かねーよ」
気に入らなそうに、真誠は言った。
二人とも、少女が自分の家から出て行かない事が気になっていた。一体、パパとママは何を考えているのかと――
夕食の時間――子供達は、今までと違う光景に違和感を覚えた。それは、あの謎の少女が当たり前の顔をし、家族と一緒に食卓を囲んでいるからだ。
少女は飛華流の向かいの席に座っていて、彼をじっと見つめている。そんな、少女の視線を感じつつも、飛華流は彼女と目を合わせない様にしていた。
結局、どうなったんだよ。一晩、泊めるだけじゃないのか?
「……い、いただきます」
軽く手を合わせ、飛華流は目の前に置かれた熱々のカルボナーラをすすった。皆も次々にフォークを握り、夕食を味わう。
「二人とも、あのね……これから、この子と一緒に暮らす事になったの。だから、仲良くしてあげてね」
守莉の言葉に唖然とし、飛華流は真誠と顔を見合わせた。いや、嘘だろ? 突然、そんな事を言われても、すんなりと頷けやしない。
「えっ……どうして? 警察に渡すんじゃなかったの?」
飛華流に続き、真誠も反対の声を上げる。
「そうだそうだっ! 他人がずっと家に居るなんて、気持ち悪い」
不満を露わにする二人に、直志はこう言った。
「しばらく、ママと話し合って決めた事だ。まあ、驚くのも無理ないけど、歓迎してあげな」
「何でだよパパ……パパなら、もっと正しい判断が出来ると思ったのにさ」
不快そうに真誠が頬を膨らませると、直志が説明する。
「よく考えてみたんだ……人間嫌いな飛華流が、誘拐なんかする訳ないし……皆がそう思うのも無理は無いってね。もし、その子が普通の迷子だったら勿論、警察にお願いしてたけど……これは、かなり特殊な状況だからね」
直志の発言に、守莉は言葉を付け足す。
「それに……この子、きっと不安だと思うの。日本語も分からないみたいだし、このまま外へ出たら、きっと大変な思いをする事になるよ。とても、心細いと思う」
小学二年生にしては、真誠はかなりしっかりとした思考を持っており、こう発言する。
「……確かにそうかもしれないけど、この子がどうなろうが、俺達には関係ないだろ。ママは、優しすぎるんだ! 警察に言えば、何とかなるって」
それを聞き、飛華流も真誠の言う通りだと思った。
皆が何を話し合っているのかも知らず、少女は自分に用意された食事を眺めていた。
まるで、物珍しい物でも見るかの様に――そして、皆がそれを口へ運んでいるのを、彼女は真剣な眼差しで観察していた。
プイッとそっぽを向く真誠に呆れながら、守莉は再び口を開く。
「警察だってどうしようもなくなれば、この子を施設に入れるよ。そんなの可哀想だし、この子の帰る所か住む場所が見つかるまでは、私達で面倒を見るのよ」
「へー、あっそう。俺は、どうなっても知らないから。じゃあ、ごちそう様」
真誠は皿を空にすると、そのまま部屋を去ってしまった。そうして、しばらくの沈黙が続いた後、少女の方から「ガキガキ」と音が聞こえてくる事に皆は気がつく。
飛華流は少女の立てる音に顔を上げ、皆の視線が彼女に集中する。なんと、少女は一生懸命、フォークにかじりついていた。
フォークを食べようとしている様にしか見えず、その使い方も分かっていない様子だった。
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