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一巻 未知の始まり 第一章 始まりの時
08
しおりを挟む本当に、どこの国から来た子なのだろう。この意味不明な光景に、飛華流はそんな疑問を抱いていた。彼は、皆も自分と共通の事を不思議に感じているだろうと、思い込んでいた。
直接、少女に話しかける度胸は無かったものの、飛華流はお手本になって彼女に正しいフォークの使用法を教えようとする。
咳ばらいをすると、飛華流の狙い通り少女は自分を視界へ入れた。それを確認し、飛華流はフォークにクルクルとカルボナーラを巻きつけると、ゆっくり口へ運んだ。
モグモグとカルボナーラを食べる飛華流を、少女は目を逸らさず少しの間、静かに覗き込んでいた。そして、少女は持っているフォークに麺をちょろっと乗せ、口へ含む。
「ウウバワッ、ワマレズルイ……」
カルボナーラを体内へ流し込み、少女は不快そうな顔をした。きっと、食事が口に合わなかったのだろう。
「フモクウ、シュイウラスナルイ!」
少女は再び声を上げ、残した物全てを飛華流の方へ渡した。いやいや、人の食いかけなんて要らないよ。そのまま、飛華流は少女の皿を守莉の前へ置いた。
「少ししか食べてないけど、大丈夫? 口に合わなかったなら、ごめんね」
守莉は、申し訳なさそうに少女に謝った。
しかし、首を傾げる少女には、守莉の気持ちは一切伝わっていないみたいだ。心が通じ合わないのは、不便である。
食事を済ませ、飛華流は自室へ戻った。
ゲームで遊ぶ為、飛華流を待ってベッドでごろごろとしていた真誠は、彼とその奥に居る小さく細い人影を睨みつける。
「ちょっと、何でそいつも居るんだよっ!」
少女と手を繋いで真誠に近づき、飛華流は気まずそうに言った。
「ママとパパが、この子も入れてやれって煩くてさ……だから、仕方ないでしょ?」
「ちぇっ……何でそうなるんだよ……ママとパパ、こいつをすんなりと受け入れすぎじゃないか? なんか、怪しいぞ」
それは、真誠だけでなく、飛華流も感じていた事だった。あの二人は、子供達からとって
不自然に見えていた。
二人して、少女への対応がスムーズすぎるせいだ。それには、何か理由があるに違いない。子供達は、そう考えていた。
怠そうに、真誠はベッドから起き上がる。
「じゃあ、俺は自分の部屋行くからな」
「駄目だよ……この子と仲良くしないと、ママとパパに怒られちゃう」
飛華流に呼び止められ、真誠は怖い顔で振り返る。
「はぁっ? 何で俺達が、こいつの世話しねーといけないんだよ。こいつは、赤の他人だぞ」
「……この子と暮らすなら、意思疎通が出来ないといろいろ困るでしょ? でも、僕らがこの子の言語を理解するのは難しい。そこで、この子に日本語を教える事になったんだけど……それを、ママとパパが僕らに任せたんだよ」
一生懸命に飛華流が説明すると、真誠は怒りを通り越して呆れてしまう。
「ふっ……ムカつくどころか、逆に笑っちまうよ……こいつを育ててやる義理なんか、俺達にねーのに」
「まあね……けど、パパもママも仕事で忙しいから、そういう事をするのは僕らって話になっちゃったんだよ。勝手に決めるなよって二人に反抗したら、パパに怒られたからさ……もう、やるしかないよ」
飛華流の言葉を嫌々受け入れ、真誠はムスッとしながら少女に接近する。
「はあ……分かった。一緒に居てやれば良いんだろ?」
辺りをキョロキョロと見渡している少女の目の前に立ち、真誠は彼女に話しかける。
「俺は真誠。宜しく」
「……マ、トト?」
少女は真誠を指差し、首を傾げる。少し違うが、彼の名前を理解している様だ。
「……は、はっ? マトトって誰だよ。馬鹿じゃねーのお前」
きつい言葉を並べながらも、真誠は微かに頬を赤らめていた。
真誠に続き、飛華流が名乗り出す。
「え、えっと……僕は飛華流だよ」
「……ヒル?」
きょとんとして、少女は飛華流を指差した。何となくではあるが、やはり彼らの名前が少女に伝わっているみたいだ。
ヒルって……なんか、あの血を吸う小さい生物みたいで嫌だな。虫なのか、なんなのか微妙なあいつね。そんな事を思いながらも、飛華流は小さな奇跡が起きた事がちょっぴり嬉しかった。
その後は少女と会話する事もなく、二人はゲームをして遊んでいた。彼らがプレイしているのは、「宇宙ファイティング」と言う、現在大人気のバトルゲームだ。
このゲームは、自分の星を持ち、宇宙空間で縄張り争いを楽しむ事が出来る。今までにないタイプのゲームだ。
一時間――二時間と、二人は小さな画面の中で激しい戦いを繰り広げていた。
対戦を何度しても、勝つのは飛華流。これだけが、兄である彼が唯一、弟よりも優れている事だった。
調子に乗った飛華流は、珍しく自信に満ちた表情を浮かべている。
「僕に勝とうだなんて、百年早いよ真誠っ! 僕の、カニコニ星は最強なんだからね」
「くっそ……次は、ドレミ星が勝つからなっ!」
悔しそうにそう言い、真誠は息を吐いてふと顔を上げた。その途端、衝撃的なモノを目にし、彼は叫ぶ。
「うっ、うわーーーーっ! な、何だよこいつ……本当に人間か?」
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