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第三章 イナズマ組
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しおりを挟む「いやいや……ワンダ、人間かどうか怪しいだろ。本来、人間に無いものを持ってるんだから」
飛華流にそう突っ込まれ、ワンダは頬をプクッと膨らませた。家の前に流れている、小さな川にかけられた橋を渡り、二人はグラウンド付きの広場へ足を踏み入れる。
「ここは、一宝町民グラウンドだよ。運動したい時には、最適な場所なんだ」
グラウンドで走り回る子供達を見つめているワンダに、飛華流は丁寧に教えた。その時、太陽の反射のせいか、ワンダが首から下げている独特なネックレスに付いた宝石が、キラリと輝いた。
黄色の縁取りで、ブルーの美しいひし形の宝石から放たれた、異質な光を飛華流はじっくりと覗き込む。その綺麗な光の中に、整った造形をした幼い少女の姿が映し出された。
羊の角を生やしているその美少女は、とても幸せそうに微笑んでいた。しかし、突然、少女の笑顔にひびが入り、ガラスの様にバリンと割れてしまった。
そして、闇が光を飲み込んでいき、その漆黒な空間に子供の人影が浮かぶ。それは、先程の美少女と同一人物だった。だが、少女のあの可愛らしい表情はガラリと変わっていた。
滝の様な涙を流し、少女は怒りに満ちた恐ろしい形相で立ち尽くしている。少女の顔に、飛華流はとても見覚えがあった。なんと、彼女はドウマル星の姫、ワンナだった。
どうして、僕の漫画のキャラクターがワンダの宝石に映し出されているのだろう。そう疑問に思っていると、恨めしそうなワンナと目が合い、飛華流はゾッとした。
果てしない殺意を宿した彼女の瞳は、それだけで飛華流を殺せてしまえそうな程に恐ろしいものだった。
恐怖から、飛華流は硬直していた。すると、ワンナの姿は次第にぼやけていき、別の人物へと変化する。
渦巻き模様の角と、ギザギザ尖った尻尾の生えた美少女――驚く事に、ワンナはワンダへと姿を変えたのだ。
彼女もまた、ワンナと同じく憎しみや恨みに支配されたオーラを醸し出していた。それから僅か数秒で、宝石は輝きを失い、そこから何も見えなくなった。
あれは、何だったのか――何故、ワンダはあんな表情をしていたのだろう。不思議に思えば、きりが無い事ばかりだ。
この謎の現象に、飛華流はますます頭を混乱させ、何が何だか訳が分からなくなってしまう。これで判明したのは、ワンダのネックレスが、ただのアクセサリーではないという事だけ。
ワンダの謎は、深まるばかりだ。彼女は記憶を失う前、どんな人物だったのだろう。
一宝町民グラウンドから出た後、二人は細い田んぼ道を歩いた。近くにある店を、飛華流はワンダに紹介して周った。
数十分が経過し、飛華流は漫画の創作やゲームがしたくなり、そろそろ家へ帰る事にした。しかし、飛華流が気を抜いていたその時、ハプニングが起きてしまう。
横断歩道が赤になり、飛華流は足を止めた。だが、ワンダは信号無視をし、そのまま進んでいってしまったのだ。彼女に向かって、トラックが走ってくる。
「ワンダー、危なーーいっ!」
飛華流の叫び声は、けたたましいクラクションの音に搔き消された。このままでは、猛スピードで接近してくるトラックに、ワンダが轢かれてしまう。どうする事も出来ず、飛華流は両手で顔を覆った。
「おい、危ないじゃないかーーっ! 気をつけろよっ!」
中年男性の怒鳴り声で、飛華流はまぶたを上げる。すると、トラックはワンダの真近で停止していた。もう少し、運転手がブレーキを踏むのが遅ければ、ワンダは助からなかっただろう。
怯える様子も無く、ワンダは怒り口調で中年男性を睨みつける。
「イライラッ! それ……こっち、セリフ。謝れっ!」
「な、何だとー! 舐めてんのかー。クソガキがーーっ!」
逆ギレするワンダに、中年男性は激怒し、トラックのドアを乱暴に開けた。これでは、中年男性に、いつ殴りかかられてもおかしくない。
危機を感じた飛華流は、ワンダの腕を引っ張ってその場から逃げ出した。
「ちょっと、ワンダ……素直に謝らないと駄目だよ。それに、交通ルールはしっかり守らないと」
「コウ、ウン……ルウル? はてな? 俺、歩くだけ。あいつ、悪い!」
飛華流が軽く叱ると、ワンダはまた機嫌を損ねてしまう。この強気な少女は、飛華流の手には負えなかった。
「な、何言ってるの? 赤信号を渡ると、交通違反になる事くらいは知ってるでしょ?」
「アカ、リンゴウ? ゴウ、トウ……イタン? それ、知らん」
予想外のワンダの発言に、飛華流は一瞬、自分の耳を疑った。この子には、人間界のそんな基本的知識すら無いなんて。そして、ため息交じりに飛華流は言う。
「もう、いいよ……早く帰ろう」
住宅の密集した川沿いを、二人は無言で進んでいく。そんな背の低く小柄な二人に、一人の少年が背後から声をかける。
「あっれー、飛華流君じゃん。やっほー」
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