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第三章 イナズマ組
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しおりを挟む聞き慣れたかすれた嫌な声に、飛華流は振り返った。そこには、クシャッとした笑みを浮かべた、悪そうな少年が立っている。
うっわ――どうして、勢安がこんな所に居るんだよ。早く、呪いにかかっちゃえばいいのに。飛華流の顔は、一気に青ざめていった。
「隣の可愛い子と、デート中ですかぁー?」
「えっと……その、この子は僕の妹」
勢安の問いかけに、飛華流は戸惑う。クラスで恋人がいるなんて広められたら、たまったものではない。
そこで、咄嗟に飛華流はそんな嘘をついたのだ。彼自身、ワンダに妹に近い感覚を抱いていた。
「へー、そっかー。……それよりさー飛華流君、邪魔だからどけよっ!」
勢安は態度をガラッと変え、潰れた様な小さな目で飛華流を睨みつける。そして、飛華流を乱暴に突き飛ばした。続いて、尻もちをついた彼の頭に唾を吐く。
「プンプンッ! ヒルに何するっ! 死ねーーっ!」
ワンダは両手を上にかざし、何かをしようとしている。そんな、彼女の瞳はギラギラとしていて、とても恐怖を感じる。普段の可愛く純な雰囲気とは、大きく違っていた。
「へぇー、弱くて女みたいな飛華流君の妹にしては、度胸があるな。……っていうか、尻尾と角のアクセサリーとかダサすぎるよー」
自分の方へ迫ってくる勢安に怯えもせず、ワンダはストレートに言い返した。
「イライラッ! 馬鹿……お前、ヒルよりブス。きもい」
「ぼろ雑巾にされてーみたいだね」
勢安は腹を立て、容赦なくワンダに殴りかかろうとする。それを見ていた飛華流は、垂れさがった目に涙を浮かべる。
駄目だワンダ――僕の為に、傷を負わないでよ。本当は、僕がワンダを守ってあげないといけないんだ。
恐怖で体が動かない自分に、飛華流が無力さを感じていた時――信じられない事に、ワンダの目の前まで迫ってきていた勢安が、いきなり宙へ浮き出した。彼は、徐々に地面から離れていく。
「はっ? 何だよこれ……や、やめろーーっ!」
パニック状態の勢安は、自分の意思で浮いている訳ではなさそうだ。だとしたら、ワンダの仕業だろうか。
「メッダーゾー、メッダーゾー」
ワンダは謎の言語を発しながら、両手を空へ伸ばし続けている。すると、勢安は空高く舞い上がっていった。
そして、彼の姿はどんどん小さくなる。屋根より高い位置まで勢安は飛んでいき、ワンダが手を下すと、彼はそこから落下した。地面へ勢いよく叩きつけられ、勢安はそのまま気絶する。
「アハハッ……ありがとうワンダ。スッキリしたよ」
間抜けな勢安を、飛華流は思い切り嘲笑った。いつも、彼らクラスメイトが飛華流にする様に。だが、まだまだこんな程度では、飛華流は満足していなかった。
これから、お前にはもっと苦しんでもらうからな。今度は、僕の手で呪ってやる。自分を馬鹿にしたらどうなるのかを、飛華流はたっぷりと勢安に分からせるつもりみたいだ。
しかし、ワンダは一体、何者なのだろうかと飛華流は疑問に思う。さっきの彼女の技は、人間には到底不可能なものだ。超能力者か魔法使いなのか、そういった特殊な人間なのかと飛華流は想像を膨らませていた。
赤い屋根の一軒家が近づいてきた頃、飛華流はふと、ずっと気になっていた事をワンダに聞く。
「ねえ、あのさ……ワンダって、どうして俺って言うの? ……女の子なのに」
「強い奴、俺、使う。俺、強い。ぴったり」
片言で分かりづらい、ワンダの発した日本語の意味を飛華流は理解した。彼女は、「俺」と言うのは強者だけが使うものだと思い込んでいるみたいだ。更に、ワンダは言葉を付け足す。
「家族、同じ……お前、僕。マトト、パパ……俺。俺、俺が良い」
「それって……弱い僕が僕って使っていて……強い二人が俺って使ってるから、そう思ったの? 失礼な話だよ」
不満そうな飛華流に、ワンダは深く頷いた。こんな短時間で、ここまで疲労が溜まると飛華流は思っていなかった。我が家へ入ると、飛華流は自室のベッドへぐったりと横たわった。
凍える様な寒さが、町を包んだある日――いつもなら、学校で授業を受けている時間帯に、飛華流はのんびりと目を覚まし、大きなあくびをする。
時計の針は午前十時を回っているから、ママとパパはとっくに会社で働いているだろう。冬休みは、なんて贅沢なのだろう。
学習机で漫画を描いた後、再びベッドへ転がり、飛華流は枕元に置いてあるゲーム機を手に取る。よし、カニコニ星の縄張りを広げ、宇宙最強になるんだ。
こうして、飛華流は宇宙ファイティングをプレイし、ゲームの世界へ入り込む。頼もしい仲間と共に、いろんな星を手に入れていく。それが、快感だった。
途中からワンダがやって来て、飛華流の隣にちょこんと座る。
「ヒル……それ、面白いか?」
ワンダの問いに、飛華流は頷く。飛華流と彼女との会話は、それで終わりだ。
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